初稿置き場

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 11


 ベッドに押さえつけられるように伸し掛かられて、唇を重ねる。
 身体全体で感じる重みが心地いい。
「んっ……、ぁ、ロウェル……」
「なに?」
「さわって」
 頭がふわふわとする。
 アレイストはキスを繰り返しながら、服を捲りあげて腹を辿る彼の指に腰をくねらせる。
「あっ……!」
 その指が胸まで到達して、そこにある尖りをきゅっと抓まれると、声が漏れた。
「ん、ぅ……」
 ぞくぞくと背筋が震える。息が上がって、手が震えた。
 でも、やめてほしくない。
 首筋を辿る舌、胸をいじる指に腰が浮く。
 身体が熱い。でも、もっとほしい。
 アレイストは、ロウェルの手をそっと掴んで、下方へ導いた。何を求めているの察したその手は、するりとズボンの中へ滑り込む。
 太腿を熱い手の平がすべる。そうしながら、アレイストの下肢の方へと移動したロウェルは、ズボンの縁を噛んで、ずらす。その隙間から勃ち上がった陰茎がまろび出た。
 ロウェルはそれをじっと見た後、おもむろに口を開いた。
「っ――!」
 何をする気なのか察して、反射的に腰を引こうとするが、がっしりと押さえられていて身動きが取れなかった。
「っ、あ!」
 ロウェルの舌が裏筋をなぞる。くびれたところを辿って、ちゅっと先端を吸った。
「や、まっ……、ああっ……ん!」
 手と舌とで翻弄される。唾液のぬるりとした感触と、肌が擦れる刺激に腰がビリビリと痺れる。
 左足はロウェルの腕に抱えられ、右足は快感を逃がそうとしてシーツを掻いた。
「ふ、ぅ……、ん、っあ、ああ……っ」
 ロウェルは何も言わない。ただ、太腿を撫でる手は、酷く優しかった。
「あっ、も、はなして……!」
 そう口走るが、こんな時ばかりこちらの言葉を聞いてくれなかった。
 むしろ射精を促すように、弱いところを舌で突いた。
「んんっ――!!」
 成す術なくロウェルの口の中に精を放つ。
 肩で息をしながら下方を見ると、残滓まで残さぬようにちゅっと吸いながら陰茎から口を離すロウェルが見えた。すぐ後には、それを嚥下する音も聞こえる。
「ロウェル……」
 口元を手で拭った彼は、名を呼ばれたのに気付いていた目を瞬かせる。
「どした?」
 頬に、まるでアレイストを愛おしむかのようにキスをされる。
 きゅうっと胸が軋んで、彼の首に腕を回した。
「もっと……、キスして、……――抱いてほしい」
 囁くように願いを呟くと、ロウェルは一瞬息を飲んだ気がした。
「もう少し、元気になったらな」
 彼は幼子にするように、アレイストの頭を撫でて目蓋にキスを落とした。
 やだ、今すぐに……。
 そう口にしたつもりだったが、音にはならず、アレイストはあっという間に夢の世界へ落ちていった。

2026/02/01 14:16:13

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 10


 顔に当たる風が冷たい。
 ロウェルの腕に抱き上げられたまま見る夜の景色は、あっという間に通り過ぎていく。
 アレイストは、彼の身体にしっかりと抱きつきながら目を閉じる。
 八年前のあの日――、いや、もっと以前から、本当はこうしてほしかったのかもしれない。
 置いていかないで。傍にいて。独りはさみしい。
 素直に口にすることのできなかった言葉たちも、ようやく報われるのだろうか。
 ロウェルはいつも優しく、大人だった。
 それは、ずっと変わらない。
 崖から滑落し――、今思えば彼も自分と変わらぬほど動揺していたのだと思う。
 薄れる意識の中でロウェルの姿が遥か上方に見えて、すぐにいなくなった。
 置いていかれたのだと思った時の絶望は、今も心にこびりついている。
 たとえそれが、後で冷静になった時、単に大人を呼びに行ったのだと理解したとしても。
『申し訳ありませんでした』
 気安い仲だと思っていた年長の少年から、そのような謝罪を受け……、酷く悲しかったというのも、無関係ではないはずだ。
 あの日からボタンをかけ違ったまま、今日まで来てしまった。
 当時は二人とも幼かったのだと、真に理解できたのは、近い年頃となった二人の息子を見たせいだ。
 幼かった。そして精神が幼いまま、ロウェルに甘えた。
 いつかまた、自分は「置いていかれる」のではないかと怖くて試した。
 彼が何もかも受け入れてくれることに安心して、同時にこんな姿が見たかったわけじゃないと泣いて。それでも、世話を焼いて、隣にいてくれるから眠ることができた。
 あの日、出ていけと、姿を見せるなと、そう言ったのは、彼から捨てられるのが怖かったからだ。
 こちらを振り返ることなく去っていく背中に、本当は追い縋りたかった。
 けれど、そうする資格がないことも分かっていたから、身体が動かなかった。
 だって、彼はやっと「アレイスト」という重荷から解放されるんだから。
 しかしそれと引き換えのように、あの夜以降、アレイストは満足に眠ることができなくなった――。
「……ロウェル」
「ん?」
 ロウェルはとある建物の前で足を止めると、迷いなくその中に入っていく。
「どうして、来たんだ」
 八年前、ロウェルを理不尽に突き放した後、もう彼に依存するのは止めようと決めたはずだった。
 数年はそれで上手くいっていたのだ。妻アミリアのことは家族として愛していたし、息子たちも可愛かった。けれど、優しく温厚な人物像を演じ続け、自分自身でも元からそんな人間だったかのような錯覚を覚えはじめた頃には、心が疲弊しきっていたのだろう。
 どこか自分がおかしくなっているのは気付いていたが、足を止めるわけにはいかなかったから。
 そうして、身体が限界を迎えた。
 会議の途中、立ち上がった瞬間に突然意識が遠のいて、気が付くと床の上だった。その後、アミリアに休むよう懇願され――、糸が切れてしまった。
 心と身体に溜まった疲労をようやく自覚して、泥のように眠った。
 そうして目が覚めた時、まるで八年前のあの日をやり直すかのように、ロウェルが窓から入ってきたのだ。
 夢だと思った。
 夢だと思っていたから、簡単に彼の言葉に頷いたのに。
 アレイストを抱えたままのロウェルは、階段を上って、部屋の扉を開けた。そして、そのままベッドに腰掛けて息をつく。
「どうして来たのか、か……。どうしてだろうな」
 ロウェルはアレイストの背中を撫でて、次の瞬間ぎゅっと強く抱き締める。
「ただ、一目……会いたかった」
「……なんで」
 ロウェルの言葉が理解できない。
 こんな我儘で面倒な相手、離れられて清々したのではないのか。いるだけで、彼の罪悪感につけ込むような存在など、いない方が。
 ロウェルがアレイストの髪を梳く。本当は、このやわらかい手が、とても好きだった。
「前、言ったよな。俺の全てがお前のものだって」
 アレイストは、ロウェルの肩に顔を押し付けて、服をぎゅっと握った。
 もちろん覚えている。
 自身の不注意で起こった出来事が、彼を縛り付けているのを象徴しているように聞こえて、嫌で堪らないのに、同時に安堵も覚える自分に心底失望した言葉だ。
 だが、ロウェルの声には責めるような響きはなく、何故か少し照れたような声で続けた。
「だからさ、俺……お前がいなきゃ駄目だったんだよ。お前がいなきゃ、生きている意味を見出だせない」
 アレイストは、驚きのあまり声も出せずに絶句した。
 けれど、今度は「嫌」だったからではない。むしろ――
「――えっと、とりあえず今日はもう寝ろよ。これからのことはまた明日考えればいい」
 アレイストの沈黙をどう受け取ったのか、ロウェルは早口でそう言うと、アレイストの身体をサッと抱き上げて、ベッドに寝かせた。
 そして、距離を取ろうとする――が、アレイストは彼の服を掴んで引っ張った。
「お、おい、アレイスト……?」
「……ロウェル」
 腕を掴み、肩を引き寄せる。戸惑った様子のロウェルを横目に見ながら、アレイストは彼の唇に自分のものを押し当てた。
「っ!?」
 ロウェルが息を飲む。
 だがアレイストはそれに構わず、彼の唇を食んで、舌でなぞった。
「ア、アレイスト……」
 生唾を飲み込むロウェルの喉に移動して、首筋を強く吸った。
 何故、こんなことをしているのかなど、自分でも分からない。ただ、浮かんでくる感情のままに言った。
「お前は私のものなんだろ?」
「あ、ああ……」
「なら、()も……お前のものになりたい」
 骨の髄まで、余す所なく、全てロウェルのものに。

2026/02/01 14:15:21

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 9


 その道程は、八年前と驚くほど同じだった。
 城内へ忍び込み、アレイストの部屋の窓辺に辿り着く。
 療養のためか、彼は夫婦の寝室ではなく、私室――彼と身体を重ね、そして決別したあの部屋にアレイストはいた。
 音を立てぬように窓を開けて、身体を滑り込ませる。
 こんな深夜だ。アレイストは眠っているだろう。気配を消して忍び込んだロウェルに気付くはずもない。
 だから、顔だけ見て、生きていることに安心して、そして立ち去るつもりだったのだ。
 しかし――、
「…………ロウェル……?」
 記憶にあるより随分弱々しい声が聞こえた。
 驚いて目を見開くと、そこにはベッドから身体を起こしたアレイストがいた。
 細く、なった。
 八年の歳月が流れ、相応に歳をとっているが、それ以上に痩せた身体が目立つ。
 一目で病気だと思うほどでは、まだなかったが、それでもロウェルに衝撃を与えるには十分だった。
 だが、ロウェルの驚きはそれだけで終わらなかった。
 ロウェルと目が合ったアレイストは、唐突にその目に涙を浮かべて、ボロボロと泣き出したのだ。
「っ!?」
「お…そい……!」
 しゃくり上げながら、いつかと同じ言葉をアレイストは叫んだ。
 その言葉に押されるように、ロウェルは足を踏み出す。
「……ごめん」
 八年前とまったく同じ言葉を返しながら、ロウェルは――今度は、アレイストを両腕で強く抱き締めた。
 本当は、ずっとこうしたかったのだと気付く。
 アレイストはひっくひっくと泣きながら、ロウェルの背中をぎゅっと掴む。肩口に顔を押し付け、そこを涙でべしょべしょに濡らしながらも、また叫んだ。
「っ――、ほん、とにおそい! ばか!! どこ、行ってたんだよっ!!」
「ああ、本当にそうだ。ごめんな、独りにして……」
「ゆるさない……、ぜったい…………」
 ぐすぐす泣きながらも、アレイストはロウェルの身体から離れようとしない。むしろ、ロウェルの服を掴む手に、更に力を込めたくらいだ。
 ロウェルは震えるほどの力でその手を離すまいとするアレイストの背を撫でる。
 八年前のあの日、もしあそこで振り返っていれば、これほど泣かせることはなかったのだろうか。
「な、アレイスト」
 返答の代わりに、ロウェルに回された腕の力が強くなる。それを感じて、まだ少し感じていた迷いが消えてしまった。
「……俺と来るか?」
 そっと囁くように問うと、アレイストの身体がビクリと震えた。
 彼は断るかもしれない。それでも良かった。
 アレイストがどういう返事をしたとしても、もう今度こそ離れないと決めたからだ。
 アレイストは、すんと鼻を啜ってから、言った。
「もう、僕を……置いていかないと、誓うなら」
 顔は伏せられたまま、どんな表情をしているのかロウェルからは窺い知れない。だがその声には、怯えが潜んでいるような気がした。
「……誓うよ」
 そっと返して、ロウェルはアレイストの身体を抱き上げた。八年前よりも軽くなったその身体は、あの時よりも強い力でロウェルの首にしがみついた。
 その時、部屋の扉がそっと開いて、ロウェルはその先にいるアミリアと目が合った。
 おそらく、アレイストの様子を見に来たのだろう。騒いだ声で、魘されていると思ったのかもしれない。
 お互い、驚きで息を飲んだと思う。だが、アミリアは顔を上げようともせず、ただロウェルにしがみつくアレイストの姿を見て、悲鳴を飲み込んだようだった。
 ロウェルは何も言わないまま、彼女に背を向けて窓から部屋を飛び出した。
 遠ざかる窓辺で、アミリアが深く頭を下げていたような気がしたが、それが真実だったのかは定かではない。

2026/02/01 14:14:13

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 8


 知らせを聞いた時、ロウェルはそのまま部屋を飛び出しそうになった。
 それを止めたのはレオだ。
 まだ詳細は分かっていない。せめて、それを集めるまで待て、と。
 その通りだと理性は納得したが、感情はそうもいかず、ただ時が過ぎるのを待つ時間は、永遠に続くほど長く思えた。
 日が沈む頃になって、ようやく入ってきた情報はこうだった。
 ある会議の最中、アレイスト殿下は突如気を失い倒れられた。
 意識自体はすぐに回復されたが、医者により疲労の蓄積によるものだと診断され、静養を余儀なくされた。
 本人は問題ないと言っているものの、アミリア妃の懇願によりご公務は休養となった。
 だが、主治医の見解では、ここ数年徐々に食が細くなっておられ、何かご心労があるのだろう、とのこと。その根本原因を取り除かぬ限り、回復は難しいのではないか、とも。
 以上が、ロウェルの配下たちが集めてきたものだった。
 つまり、病気や毒などによるものではない、ということだった。
 その事実がロウェルに少しばかり、余裕をもたらした。そのため、アレイストの動向により注意を払うよう指示をして、ひとまず様子を見ることにした。
 だって、そうだろう。彼は、もう自分になど会いたくないはずなのだから。
 原因が「心労」なのであれば、その原因を増やすわけにはいかない。そう思って、どうにかロウェルは自分を宥めたのだ。
 だが、三日が経ち、五日が経ち、一週間が経っても、アレイストの病状は回復の兆しを見せていないようだった。
 それどころか、ますます彼は窶れていっていると報告があった。
 それを聞いて、もうただ黙っていることなどロウェルにはできなかった。
 だからその日、夜の闇に紛れ、ロウェルは走った。
 行ってどうするんだ、と思った。一層、悪化させるだけの結果になるかもしれないとも。
 それでも、行かずにはいられなかった。
 せめて、その顔だけでも一目、見たかったのだ。

2026/02/01 14:13:20

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 7


 アレイストとの決別から、時間はあっという間に過ぎてゆく。
 ロウェルは、アレイストの命令をこなす中でできた繋がりをそのまま組織化して、今は情報屋の長のような立場に収まっていた。
 アレイストとはあれ以来一度も会っていないが、彼がどうしているのかくらい、意識して知ろうとせずとも耳に入ってくる。
 王太子妃となったアミリアとの中は良好。二人の子宝に恵まれ、もうあと数年もしない内に、父王からその地位を譲られるだろうと噂されている。実際、今国を動かしているのは彼だ。
 生まれた王子二人も、資質、性格、健康状態、どれも問題なく、まさに「順風満帆」という言葉が相応しい。
 やはり、俺の存在は必要なかったのか。
 そう見せつけられるような時間だった。
「八年、か……」
 あの夜から、もう八年の月日が流れている。
 きっとこのままもう、彼と会うことはないのだろうな、と思うことも増えた。
 ロウェルが纏めている一団は、それなりに大きな組織となった。アレイストがその存在に気付いていないはずはない。
 だが、今もって接触はない。
 なら、それはきっと、そういうことなのだ。
「そろそろ、国外展開も考えるかな」
 組織の長という立場ではあるが、彼らは既にロウェルの手を殆ど離れている。信頼できる仲間たちに任せておけば、この国での商売はもう大丈夫だろう。
 これ以上組織を大きくするならば、国外に目を向けるべきだ。ロウェルの側近とも言える、大きな支部の長たちにも進言されていることだった。
 それでも、のらりくらりとその言葉を躱し続けて、王都に留まり続けていたのは――、心のどこかで彼がまた頼ってきてくれるのを、期待していたからなのかもしれない。
 だが、それもそろそろ潮時だろう。
 もうアレイストは庇護の必要な子供ではない。
 ならば、ロウェルも「次」に目を向けなければならないはずだ。
 ロウェルは、はあ、と大きな溜息をついて、近々の日程を確認する。
 次の会合はいつだったか。
 それに合わせて、国外展開の計画を練っておかなければ……。
 そんなことを考えていた時だった。
「……?」
 俄に廊下が騒がしくなって、ロウェルは腰を上げる。
 それと同時に、急くようなノックの音がした。入室の許可を与えると、部下の一人である男が入ってくる。
「何事だ、レオ?」
 男――レオの表情に、何か良くないことが起こったのは察せられた。
「落ち着いて、聞いてください」
 いつもはない妙な前置きに、心がざわざわとしながらもロウェルは頷いた。
 そして、レオが静かに告げる。
「アレイスト王太子殿下が、倒れられました」

2026/02/01 14:12:29

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 6


 ロウェルの予想通り、アレイストの縁談はトントン拍子に進んだ。
 アミリアの調査が終了した後、一ヶ月も経たないうちに婚約式が行われ、その半年後に婚礼が行われることも決まった。
 今年十八歳となるアミリアは、貴族令嬢としてはそろそろ嫁き遅れの心配をされる年齢だ。そのことも考慮されてか、王族の結婚としては異例なほど様々なことが急速に進んでいる。
 慌ただしく日々が過ぎる中で、アレイストとロウェルの関係だけが変わらない。
 いつ、これで終わりだと言われるのか、毎夜覚悟をして行くのに、何もないまま時間だけが過ぎていた。
 そうして、とうとう――婚礼を明日に控える夜となっていた。
 いつものように窓から部屋へと身体を滑り込ませる。
 アレイストが背を向けて横たわるベッドへ静かに腰掛けると、彼の手がロウェルのシャツを掴んだ。
「…………遅い」
「ごめん」
 そのまま、二人とも動こうとする気配すらない。
 いつもならアレイストが億劫そうに起き上がって、ロウェルは命じられる前に服を脱ぐ。
 だが、今夜はただじっとして、互いの呼吸音だけがする。
 俺は、この関係を終わらせたくないのだろうか――。
 彼に妻が出来た後まで、二人の関係が秘密のままでいられるはずもない。
 明日以降、アレイストはアミリアと床を共にする。彼が本心でどう感じているのかにかかわらず、それは決定事項だ。
 ならば今夜、アレイストは選ばなければならない。
 ロウェルと以前の関係に戻るのか、男の愛人がいることを公表するのか、それとも――
「アレイスト」
 名を呼んでも、彼は顔を上げようとはしなかった。
「アミリア嬢はできた令嬢だな」
 アレイストは顔だけ少しこちらに向けて、ロウェルを睨んだ。
 お前に言われるまでもない、という顔だ。
 ロウェルは苦笑してアレイストの髪を撫でる。いつもはすぐさま払い除けられる手は、何故か今日はそのままだ。
「妻となる女性を大事にすべきだ。お前も分かってるだろ」
「――ッ、」
 アレイストが息を飲んで、急に身体を起こした。
 頭に乗せていた手は、いつもよりきつく叩き落されて、爪が掠ったのか手の甲に赤い筋ができた。
 ようやくロウェルを真正面から見たアレイストの目つきは鋭かった。
「説教はたくさんだ。何が言いたい」
「……夜、こうして会うのはやめよう」
 きっと、彼もロウェルが何を言いたいのかなど分かっていたはずだ。それでも、はっきりと言葉に乗せる。
「そうやってまた、私から離れようとするのか」
 暗い、憎しみさえ混じっているのでは思えるほど、絞り出すように落とされた声に、ロウェルもたじろいでしまう。
 だが、これからのアレイストのためにも、この一線は引かねばならない。
「アレイスト、お前は王太子――未来の王だ。瑕疵のない王妃との円満な関係と、男の愛人を囲っているという醜聞……。どちらを取るかなんて、分かりきってるだろ?」
 ロウェルは当たり前のことを、ただ口にしただけのつもりだった。
 しかし、それを告げた次の瞬間、ほんの一瞬――見間違いかと思えるほど一瞬だけ、アレイストは酷く傷付いた顔をした。
「アレ――」
「ああ、そうだな」
 自分が何かとても酷いことを言った気がして、かけようとした声を、俯いたアレイストが打ち消すように呟いた。
 そして、突然、床に突き飛ばされ、更に枕を投げつけられる。
「な、にす……」
 座った状態から押し出されただけで、当たった枕もやわらかい。怪我や痛みはないが、あまりに突然のことすぎて、心が追いつかない。
 反射的に言い返そうとしてロウェルは振り返ったが、そこにいるアレイストの表情を見て、言葉が途切れた。
 歯を食いしばり、怒りを抑えようとしてか肩で息をしていた。だがなによりも、その目が――今にも泣きそうで。
「お前はいつも正しい! いつも! でも、私は……っ」
 アレイストはそこで言葉を詰まらせ、また枕を投げつけてきた。
 そして、叫ぶ。
「もういい! お前なんていらない!! どこへでも行ってしまえっ!!」
「アレイスト……」
「出てけよ! もう、私の前に姿を見せるな!!」
「――っ、……」
 ロウェルは口を閉じると、立ち上がって彼に背を向けた。
 外へ出ると窓を閉める。
 振り返りたい気持ちをどうにか堪えて、そのままその場を立ち去った。

 それ以来、ロウェルはアレイストと顔を合わせることはなくなった。
 彼の「でも、私は」の続きは何だったのだろう。
 それだけが、心の片隅にひっかかり続けたまま。

2026/02/01 14:11:21

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 5


 しかし、二人の間に変化があったように、周囲もそのままではいてくれない。
「……ま、そうだよな」
 ぼそっと呟いたロウェルの独り言は、誰に聞かれることもなく消えていく。
 身を潜めて様子を窺う先には、アレイストと――、彼よりいくつか年少の若い女がいた。
 庭の東屋で菓子と茶を前に談笑する男女。
 ロウェルのいる場所からは声こそ聞こえないが、唇の動きでなんとなくは何を言っているか分かる。
 まあ、とはいっても、大した会話はしていないが。
 ()()()()()()()()に相応しい、誰に聞かれても困ることのない、それでいて仲睦まじいのが窺える内容だ。
 ロウェルは沈みそうになっている自分の心に気付いて、それを紛らわすように頭を掻いた。
 いつかこんな日が来ることは、はじめから分かりきっていた。
 いや、アレイストの二十二歳という年齢を考えれば、遅すぎたくらいなのだ。
 あの女性の名は、アミリア・キンドレー。近くアレイストと婚約し、間を開けずに輿入れすることが内定している人物だ。
 前々から婚約者候補としてアレイストと面識はあったが、少し前から本格的に婚約の流れが加速し、二人は頻繁に顔を合わせるようになっている。
 おそらく、セレンティーネ王女が王都を離れたことにより、国王の彼女への罪悪感が薄らいだせいで、話が進んだのだろう。
「…………」
 優しい笑顔をアミリアに向けるアレイストの姿が映る。
 このまま、二人は結婚するのだろう。
 王族として、血を残すのはアレイストに課せられた責務だ。そこに異論はない。
 だが、そうなった時、自分たちの関係はどうなるのだろう。
 アレイストの愛人にでもなるのか? いや、あり得ない。自分たちは愛し合っているわけではないのだから。
 ならば、以前の立ち位置に戻るのだろうか。
 身体を重ねた事実などなかったかのように。
 きっとそれが正しい。
 そうロウェルは考えている。
 だが、胸には一抹の不安が残っていた。
 アミリアとの逢瀬が増える毎に、アレイストがロウェルを求める頻度も上がっていることだ。
 そして何より、苦しそうな顔をする回数も明らかに増加している。
 アミリアのことを厭っているわけではないようなのに、だ。
 ここ暫く、アミリアの身辺調査をアレイストに命じられて彼女について調べ回っていたが、非の打ち所のない令嬢――、これに尽きる。アレイストが父王の判断を一切信用していないがための調査だったが、さすが王家と縁付く家の娘なだけはあった。
 もっとも、個人の資質として少々気弱な面はあるようだが、問題になるほどではない。
「……そろそろ戻るか」
 夜までに調査報告を纏めておこうと立ち上がる。
 そろそろ部下に投げていたキンドレー家やその親類に関する調査も終わっている頃だろう。
 纏めてアレイストに渡せばいい。
 今夜もまた、彼に呼ばれているのだから。

2026/02/01 14:10:04

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 4


「っ、ぁ……!」
 四つん這いの状態で、ロウェルは背中を弓なりに反らす。
 勃ち上がった前からは白濁が散って、内腿が震えた。中をきつく締めてしまったせいか、背後のアレイストが呻く。
 背中にぽたりと落ちた汗にも感じてしまって、シーツを握り締める手に力が籠もった。
 肩で息をしながら、ずるりと陰茎が抜け出ていくのを待つ。達したばかりで敏感になっている身体は、その刺激にも感じてしまうが、それを無視して身体を起こす。
 何度か深呼吸をして身体の熱さを鎮めると、隣でこちらに背を向けて丸くなるアレイストの方を見た。
「アレイスト、寝る前に身体を洗え」
 頭を撫でるように彼の黒髪を梳くと、手で払い除けられる。
「お前がやれ」
「……はいはい。それなら、ほら。腕こっちに回して」
 ロウェルは自身の首に腕を回させると、お姫様だっこをして扉一枚で繋がったところにある浴室へ連れて行く。
 アレイストの身体を片腕で抱え直すと、水栓を捻り浴槽に湯を溜める。
 上下水道完備なのは、さすが王の住まう城だなぁ、などと妙な感心をしながら、湯の温度を確かめてからそこにアレイストの身体を放り込んだ。
「熱くないか?」
 何も言わないので、大丈夫なのだろうと判断して、石鹸を泡立てる。順に彼の身体を洗ってゆくのも、もう慣れたものでぼんやりと考え事をしながら、作業をする。
 一体、幾度目だろうか。
 身体を繋げ、こうして細々と世話をして、彼が眠るまで傍にいる夜は。
 もう両の手で数え切れないほどの回数を重ねているのは確かだ。
 酷い痛みを伴った接合は、最初の一回きり。その後は、受け入れる準備をするようになった。アレイストのしなやかな指が体内をまさぐるのは、いまだに慣れないが――、それでも身体は適応していくものなのか、内部で快感を拾えるようになっていた。
 はじめに比べれば、お互いの負担は軽減した。だが、それだけとも言える。
 口付けはおろか、抱き合ったこともない。
 挿れて、出して……、終わりだ。
 アレイストは、こうして抱き上げて移動する時や、身体を洗う時に触れることは許しても、それ以外は頑なだった。
 愛撫どころか、眠る時に抱きしめることもできない。
 商売女との行為の方が、情感があるのではないかとさえ思うほど、二人の間に流れる空気は冷たかった。
 肉体は過去にないほど近いのに、心は以前よりもずっと離れている。
 それはきっと、気のせいではない。
「――よし」
 アレイストの身体を綺麗にしたロウェルは、自分の方はザッとおざなりに身体を流す。それから、彼をぬるい湯に残したまま寝室に戻りシーツを替えてから、またアレイストの元へ行く。今度はその身体を抱き上げて浴室を出ると、身体を拭いてやってからベッドに寝かせた。
 じとりとした視線を感じて、ロウェルもその横に寝転ぶ。それを確認したアレイストは、やはりこちらに背を向けて、身体を丸めた。
 決してこちらを見ない。触れさせることもない。だが、離れるのは許さない。
 どこか矛盾したアレイストの態度は、ロウェルを少なからず混乱させている。
 それでも、彼の傍からは離れられない。
 ――離れる気もない。
 程なくして寝息が聞こえだしたのに気付いて、ロウェルは身体を起こした。
「俺はお前が望む限り傍にいる。……どうしたら、信じて……安心してくれるんだろうな」
 ロウェルはアレイストのこめかみにキスをする。
 この行為は、贖罪の延長などではないのだろうけれど。
 今はそれについて、深く考えないようにしていた。

2026/02/01 14:08:19

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 3


「っ、あ゛! ぅぐ……」
 碌な前戯も無く、潤滑剤すらない状況で身体を開かれる。
 その痛みは想像を絶する程で、ロウェルは叫び出さないようにするので精一杯だった。
 痛み以外の何も感じない。
 その拷問のような行為は、まさに「証明」にはうってつけだな、と頭の片隅で思う。
 アレイストの命令をこなす中で、人を殺したことは何度もある。だが、身体を売るような真似は、さすがにしたことがなかった。
 それを知っていたのかと思うほど、的確な証明法だ。
「っ――!!」
 引き攣るような痛みと共に、アレイストの陰茎が中に埋められていく。身体が二つに裂けるのではないかと思うほど、痛くてたまらない。生理的な涙が滲み、痛みを逃がそうとシーツをきつく掴んだ腕はブルブルと震えている。
 快楽などあろうはずもない。その事実が、これが肉欲や愛で繋がるものではなく、二人の繋がりを確認するただの作業なのだと物語っているようだった。
「ん゛ぐぅっ……!」
 一番太いところが中に収まると、多少は楽になったが、今度はジンジンと痛みを感じはじめる。おそらくは、無理やりこじ開けたせいで皮膚が裂けたのだ。
 痛みで呼吸もままならないが、挿入は続く。だが、程なくしてアレイストが荒い息をつきながら、動きを止めた。
 ロウェルは無意識に瞑っていた目を開く。
 眼前には脂汗を滲ませたアレイストがいた。それを見て、今更ながら相手にとっても、そう楽な行為ではなかったと気付く。誰も受け入れたことのない隘路に無理やり自身を押し込めるのだ。苦しくないはずがない。
 アレイストは、一体何をそれほど恐れているのだろうか、とふと思う。
 無理やり身体を繋げてまで、ロウェルの心を試したいと思うなんて、どう考えても異常だ。
 もっとも、それを受け入れている自分も、決して普通ではないけれど。
「……アレイスト」
 彼が動かずにいることで、多少痛みが引いてきたため、言葉を発する余裕が出てくる。
 こちらを見た彼の顔は、後悔と絶望と――安堵が見え隠れしていた。
 なんでそんな顔するんだよ。
 そう言って笑いたくなった。
 だって、今感じている痛みや原状は、ロウェル自身も拒否しなかったからこそのものだ。
 それでも逃げないロウェルに、安堵もしているくせに。
 ロウェルは、痛みのせいでぎこちないながらも笑った。
「どうした? 言っただろ、俺の全てがお前のものだって。気の済むまで確かめろ」
「っ……」
 アレイストは、何も答えなかった。
 だが、ゆっくりと抽挿をはじめ、それは精を中に吐き出すまで続いた。

2026/02/01 14:07:05

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 2


 ロウェルとアレイストは、いわば「幼馴染」だった。
 とはいっても、隣国の王と彼に正妃として嫁いだ公女との間に生まれた王子であるアレイストとは、身分の差というものは存在していた。
 ロウェルが赤ん坊のアレイストに引き合わされた時も、「将来仕えるべき主君」だと説明されていた。
 だが、当時ロムーリャ公国にいたロウェルが何故、そんな王子と出会えたのかというと、少々特殊な事情によるものだ。
 アレイストの父には側妃が存在した。公国で蝶よ花よと育てられた公女リーティエは、国王からの寵が得られない現実に耐えられず、子を妊娠すると同時に宿下がりを名目に公国へと戻ってきた。
 その後アレイストが生まれたあとも、リーティエが王国へ戻ることはなく、またあちらも寵妃とその間に生まれた娘にしか興味がないのか、放置されることとなった。
 このままその娘が王位を継ぎ、アレイストは公国で生きるのだろうか。
 そう思われていたが、変化があったのは、アレイストが九歳、ロウェルが十二歳の時だ。
 寵妃シエラがこの世を去った。
 その報が公国へともたらされると同時に、アレイストの召喚命令まで下されたのだ。
 アレイストは――、母がこのまま公国で過ごせることを条件に、それを飲んだ。そうして、アレイストは会ったこともなかった父王の庇護の元、立太子されたのだった。
 当然のように、ロウェルはアレイストと共に王国へ向かった。
 しかし、彼の正式な臣下に加えられることはなく、ロウェルは微妙な立場に置かれ続けた。だが、ある意味では都合が良かったとも言える。身分の保証された人間では立ち回れないような、際どい仕事もこなすことができたからだ。
 ロウェルは、アレイストの命令は何でも聞いた。
 そうすることでしか、彼に贖えなかったからだ。十七年前のあの日、ロウェルの軽率さの代償を支払ったのはアレイストだった。命にこそ別状はなかったものの、左足の膝から下の自由を、彼は失った。
 杖をつき歩く姿を見るたび、ロウェルは自身の罪を呪った。
 その日から、ロウェルはアレイストへの贖罪に人生を捧げている。

 その日も、呼び出されて向かったのは、アレイストの私室だった。
 あまり大っぴらにできないような命令を下す時、彼はいつもそうするため、特に何の疑問もなく、そこへ向かう。
 衛兵に見つからぬように窓から部屋に侵入すると、珍しくアレイストはその部屋にあるベッドに腰掛けてこちらを見ていた。いつもならば、その隣の部屋にあるソファに座っているのに。
 余程内密な話なのだろうか、と少し緊張した。
「よう、今日はどうしたんだ?」
 だが、内心で感じている緊張感は欠片も出さずに、至って普段通り声をかける。アレイストは不機嫌そうな顔を更に歪める。
 品行方正で優しい王太子殿下、として通っているアレイストだが、ロウェルに対してはこの十七年間一度たりとも笑顔を見せたことがない。いつも険しい顔ばかりだ。
「アキュイラの件、聞いてるか」
 冷たい声にもすっかり慣れっこで、もう寂しいとも思わなくなって久しい。
 ロウェルは頭の中にある情報を引っ張り出しながら、軽い調子で答える。
「ああ、セレンティーネ殿下が領主に任命されたらしいな。それがどうした?」
「姉上を籠絡しろ」
「…………はい?」
 意味が分からず首を傾げる。「籠絡」、もしや自分の知っている「ろうらく」ではないのかもしれない、と願望混じりに思うが、アレイストは苛立たしげに続けた。
「二度も言わせるな。姉上をお前の言いなりになるようにしろ」
「……えっと」
 どうやら、知っている「籠絡」で合っていたらしいと悟る。が、意図がまるで分からない。
「何故……?」
「姉上に反逆を起こさせる」
「は!?」
 穏やかではない言葉が飛び出して、目を剥く。
 その後、アレイストが語ったあらましはこうだ。
 セレンティーネは、今回の決定に不服を感じている。まあ、これは当然とも言える。そもそもアレイストの立太子に伴い、廃太子されたこと自体納得していないようなので、ますます玉座から遠ざかってしまうからだ。
 アレイストは、いずれセレンティーネが王位を()()()()べく、動くと考えている。それならば、手勢が揃わぬうちに、こちらに都合の良い時に、反乱を起こさせて処理すればよいと考えたようだった。
「…………なるほどな」
 一応、筋は通っている。
 ロウェルはセレンティーネの懐に潜り込み、彼女を誘導。出来うる限り少数で王位簒奪を目論ませる、という役回りだ。
 だが、ロウェルはどことなく、腑に落ちないものを感じていた。
 本当にセレンティーネ王女は、そのように動くのだろうか。
 ロウェルに彼女との直接的な面識はないが、そのような強行に走る性格とはどうしても思えない。現状、アレイストに危害を加えようとするでも、引きずり下ろそうと策を弄するでもなく、何か国王の目に止まるような成果を出そうと愚直なまでの努力をしている人物だ。
 そんな王女なら、もちろん不満は抱きつつも任地へ向かい、領地を盛り立てることに注力するのではないだろうか。
 そしてそんなことは、アレイストもよく分かっているはずだ。
 彼女の愚かなまでの真っ直ぐさに、アレイストは羨望を感じている。本人は認めずとも、ロウェルにはそれがよく分かっていた。
「……アレイスト、もしそれが上手くいったとして。その後、セレンティーネ殿下をどうする気なんだ」
「殺す」
 端的な言葉に、ビクッと身体が震えた。
 アレイストは温度のない目をしたまま続ける。
「当たり前だ。反逆者は死をもって罰せられる。そうだろう?」
「あ、ああ……」
 彼の中でこの計画は決定事項なのだろう。立ち尽くすロウェルを、アレイストはただじっと見ていた。
 ロウェルはこれまで、アレイストのどんな命令にも逆らったことはなかった。
 だがこれは、頷いては駄目な気がする。
 その迷いがロウェルの口を動かす。
「アレイストは、それでいいのか? 元王太子が反逆なんて、大きな騒ぎになる」
 初めて食い下がったロウェルに、アレイストは目を眇めた。
「馬鹿を言うな。表向き、反逆など存在させない。姉上は、私がこの手で殺す」
 つまり、内々に処理した上で後顧の憂いを断つということだ。
 そこまで決めているのなら、ロウェルにもう言えることなどない。
 分かった、と頷いてすぐ仕事に取り掛かるべきだ。
 セレンティーネ王女はそう時間を開けずに城を発つだろう。準備も必要だ。懐に潜り込むなら、早く動いた方がいい。
 了承の言葉を口にしようと顔を上げた時、アレイストと目が合った。
 ロウェルは息を飲んで、発そうとしていた言葉が出なくなってしまう。
 アレイストの人生から「姉」が消えた後、一体彼はどうなるのだろうか。
 その時、ふと疑問が湧いた。
 どうして、「今」なんだろう。
 セレンティーネを籠絡し、反逆を起こさせるなどいつでもできたはずだ。むしろ、王都にいる間であれば、ロウェルを介して後ろ暗い貴族と繋がらせて一網打尽にすることで、国家の膿出しも終わらせてしまう方が、普段のアレイストらしい。
 まるで、遠ざかろうとする姉を、手元に引き戻そうとするような――。
「っ……」
 ロウェルは一歩、二歩とアレイストに近付く。
「――俺は、納得できない」
 アレイストの目が見開かれるのを、嫌な音を立てる心臓を無視しながら見つめた。
 この十七年間で、初めて口にした「反論」だった。
 だが、一言発してしまえば、止めることなどできない。ロウェルは捲し立てるように続けた。
「王都から離れた王女に何ができる? たしかに不安の芽ではあるさ。けど、それが本当に脅威と成り得るのは一体何年後の話だ? その間、お前は一層ここで地盤を固めるのに? 今まで強行策に出なかった王女が、今更そんな手を取るとは俺には到底思えない。違うか?」
 反証を並べ立てるが、アレイストは俯いたきり何も言わない。表情も窺えず、何を思っているのか全く分からなかった。
 黙ったままの彼に勢いを削がれたロウェルは、そこで言葉を切って、弱々しく問いかける。
「……なあ、本当は…何が目的なんだ? 何がお前をそんなに――」
「うるさいっ!!」
 突然激高したアレイストは、キッと顔を上げてロウェルを睨んだ。
「お前は私の言うことを聞いていれば良いんだ! どうして黙って従えない!?」
「アレイスト、でもこんなのは……!」
「黙れよっ!! 姉上もだ! どうしてそんな風に諦められる!? どうして、簡単に『陛下を支えろ』なんて……っ」
 泣きそうな声で叫ぶアレイストに、ロウェルは思わず手を伸ばした。意図があったわけではない。ただ、無意識に抱きしめようとしたのかもしれない。
 しかしそれより早く、アレイストの手がロウェルの胸倉を掴んだ。前屈みになっていたせいで、難なく体勢を崩されると、そのまま何故かベッドに仰向けで転がされた。
「ア、アレイスト……?」
 暗い、沈んだ目と視線が絡む。
「お前は私の命令を拒むんだな?」
 静かな問いにたじろぐ。
 これは、解答を間違えれば取り返しがつかない気がした。
 ロウェルは慎重に口を開く。
「拒みたい、わけじゃない。でも、俺は……、この選択をした後、お前が傷付くんじゃないかと思ってる。だから、違う方法でお前の気が済むなら、と言いたかったんだ」
「…………そんな方法、無ければ?」
「従う。お前の望み通りに動く」
 間髪入れずに返したことが功を奏したのか、ロウェルの服を掴んでいたアレイストの手がほんの少し緩む。
 だが、澱んだ目は変わらず、ロウェルを見つめていた。
「望み通りに、ね。どんな事でも?」
「ああ」
「今すぐ死ねと言えば死ぬのか?」
 ロウェルは頷いて言った。
「俺の命は、全てお前のものだから」
「……なら」
 何の感情も感じない目をしたまま、突然アレイストは、ロウェルのシャツの前ボタンを引き千切った。
 唐突な行動に目を剥いていると、無感情にアレイストが腹の筋を指で辿った。
「死ぬ必要も、姉上のところに行く必要もない。その代わり――」
 臍を撫で、ベルトに触れ、その下にあるものをズボン越しに掴んだ。
「私が何をしても、絶対に離れないと証明してみせろ」

2026/02/01 14:05:13

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初稿更新終了
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