初稿置き場
2026/02/01 14:11:21
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 5
しかし、二人の間に変化があったように、周囲もそのままではいてくれない。
「……ま、そうだよな」
ぼそっと呟いたロウェルの独り言は、誰に聞かれることもなく消えていく。
身を潜めて様子を窺う先には、アレイストと――、彼よりいくつか年少の若い女がいた。
庭の東屋で菓子と茶を前に談笑する男女。
ロウェルのいる場所からは声こそ聞こえないが、唇の動きでなんとなくは何を言っているか分かる。
まあ、とはいっても、大した会話はしていないが。
未来の王太子夫妻に相応しい、誰に聞かれても困ることのない、それでいて仲睦まじいのが窺える内容だ。
ロウェルは沈みそうになっている自分の心に気付いて、それを紛らわすように頭を掻いた。
いつかこんな日が来ることは、はじめから分かりきっていた。
いや、アレイストの二十二歳という年齢を考えれば、遅すぎたくらいなのだ。
あの女性の名は、アミリア・キンドレー。近くアレイストと婚約し、間を開けずに輿入れすることが内定している人物だ。
前々から婚約者候補としてアレイストと面識はあったが、少し前から本格的に婚約の流れが加速し、二人は頻繁に顔を合わせるようになっている。
おそらく、セレンティーネ王女が王都を離れたことにより、国王の彼女への罪悪感が薄らいだせいで、話が進んだのだろう。
「…………」
優しい笑顔をアミリアに向けるアレイストの姿が映る。
このまま、二人は結婚するのだろう。
王族として、血を残すのはアレイストに課せられた責務だ。そこに異論はない。
だが、そうなった時、自分たちの関係はどうなるのだろう。
アレイストの愛人にでもなるのか? いや、あり得ない。自分たちは愛し合っているわけではないのだから。
ならば、以前の立ち位置に戻るのだろうか。
身体を重ねた事実などなかったかのように。
きっとそれが正しい。
そうロウェルは考えている。
だが、胸には一抹の不安が残っていた。
アミリアとの逢瀬が増える毎に、アレイストがロウェルを求める頻度も上がっていることだ。
そして何より、苦しそうな顔をする回数も明らかに増加している。
アミリアのことを厭っているわけではないようなのに、だ。
ここ暫く、アミリアの身辺調査をアレイストに命じられて彼女について調べ回っていたが、非の打ち所のない令嬢――、これに尽きる。アレイストが父王の判断を一切信用していないがための調査だったが、さすが王家と縁付く家の娘なだけはあった。
もっとも、個人の資質として少々気弱な面はあるようだが、問題になるほどではない。
「……そろそろ戻るか」
夜までに調査報告を纏めておこうと立ち上がる。
そろそろ部下に投げていたキンドレー家やその親類に関する調査も終わっている頃だろう。
纏めてアレイストに渡せばいい。
今夜もまた、彼に呼ばれているのだから。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 5
しかし、二人の間に変化があったように、周囲もそのままではいてくれない。
「……ま、そうだよな」
ぼそっと呟いたロウェルの独り言は、誰に聞かれることもなく消えていく。
身を潜めて様子を窺う先には、アレイストと――、彼よりいくつか年少の若い女がいた。
庭の東屋で菓子と茶を前に談笑する男女。
ロウェルのいる場所からは声こそ聞こえないが、唇の動きでなんとなくは何を言っているか分かる。
まあ、とはいっても、大した会話はしていないが。
未来の王太子夫妻に相応しい、誰に聞かれても困ることのない、それでいて仲睦まじいのが窺える内容だ。
ロウェルは沈みそうになっている自分の心に気付いて、それを紛らわすように頭を掻いた。
いつかこんな日が来ることは、はじめから分かりきっていた。
いや、アレイストの二十二歳という年齢を考えれば、遅すぎたくらいなのだ。
あの女性の名は、アミリア・キンドレー。近くアレイストと婚約し、間を開けずに輿入れすることが内定している人物だ。
前々から婚約者候補としてアレイストと面識はあったが、少し前から本格的に婚約の流れが加速し、二人は頻繁に顔を合わせるようになっている。
おそらく、セレンティーネ王女が王都を離れたことにより、国王の彼女への罪悪感が薄らいだせいで、話が進んだのだろう。
「…………」
優しい笑顔をアミリアに向けるアレイストの姿が映る。
このまま、二人は結婚するのだろう。
王族として、血を残すのはアレイストに課せられた責務だ。そこに異論はない。
だが、そうなった時、自分たちの関係はどうなるのだろう。
アレイストの愛人にでもなるのか? いや、あり得ない。自分たちは愛し合っているわけではないのだから。
ならば、以前の立ち位置に戻るのだろうか。
身体を重ねた事実などなかったかのように。
きっとそれが正しい。
そうロウェルは考えている。
だが、胸には一抹の不安が残っていた。
アミリアとの逢瀬が増える毎に、アレイストがロウェルを求める頻度も上がっていることだ。
そして何より、苦しそうな顔をする回数も明らかに増加している。
アミリアのことを厭っているわけではないようなのに、だ。
ここ暫く、アミリアの身辺調査をアレイストに命じられて彼女について調べ回っていたが、非の打ち所のない令嬢――、これに尽きる。アレイストが父王の判断を一切信用していないがための調査だったが、さすが王家と縁付く家の娘なだけはあった。
もっとも、個人の資質として少々気弱な面はあるようだが、問題になるほどではない。
「……そろそろ戻るか」
夜までに調査報告を纏めておこうと立ち上がる。
そろそろ部下に投げていたキンドレー家やその親類に関する調査も終わっている頃だろう。
纏めてアレイストに渡せばいい。
今夜もまた、彼に呼ばれているのだから。
2026/02/01 14:10:04
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 4
「っ、ぁ……!」
四つん這いの状態で、ロウェルは背中を弓なりに反らす。
勃ち上がった前からは白濁が散って、内腿が震えた。中をきつく締めてしまったせいか、背後のアレイストが呻く。
背中にぽたりと落ちた汗にも感じてしまって、シーツを握り締める手に力が籠もった。
肩で息をしながら、ずるりと陰茎が抜け出ていくのを待つ。達したばかりで敏感になっている身体は、その刺激にも感じてしまうが、それを無視して身体を起こす。
何度か深呼吸をして身体の熱さを鎮めると、隣でこちらに背を向けて丸くなるアレイストの方を見た。
「アレイスト、寝る前に身体を洗え」
頭を撫でるように彼の黒髪を梳くと、手で払い除けられる。
「お前がやれ」
「……はいはい。それなら、ほら。腕こっちに回して」
ロウェルは自身の首に腕を回させると、お姫様だっこをして扉一枚で繋がったところにある浴室へ連れて行く。
アレイストの身体を片腕で抱え直すと、水栓を捻り浴槽に湯を溜める。
上下水道完備なのは、さすが王の住まう城だなぁ、などと妙な感心をしながら、湯の温度を確かめてからそこにアレイストの身体を放り込んだ。
「熱くないか?」
何も言わないので、大丈夫なのだろうと判断して、石鹸を泡立てる。順に彼の身体を洗ってゆくのも、もう慣れたものでぼんやりと考え事をしながら、作業をする。
一体、幾度目だろうか。
身体を繋げ、こうして細々と世話をして、彼が眠るまで傍にいる夜は。
もう両の手で数え切れないほどの回数を重ねているのは確かだ。
酷い痛みを伴った接合は、最初の一回きり。その後は、受け入れる準備をするようになった。アレイストのしなやかな指が体内をまさぐるのは、いまだに慣れないが――、それでも身体は適応していくものなのか、内部で快感を拾えるようになっていた。
はじめに比べれば、お互いの負担は軽減した。だが、それだけとも言える。
口付けはおろか、抱き合ったこともない。
挿れて、出して……、終わりだ。
アレイストは、こうして抱き上げて移動する時や、身体を洗う時に触れることは許しても、それ以外は頑なだった。
愛撫どころか、眠る時に抱きしめることもできない。
商売女との行為の方が、情感があるのではないかとさえ思うほど、二人の間に流れる空気は冷たかった。
肉体は過去にないほど近いのに、心は以前よりもずっと離れている。
それはきっと、気のせいではない。
「――よし」
アレイストの身体を綺麗にしたロウェルは、自分の方はザッとおざなりに身体を流す。それから、彼をぬるい湯に残したまま寝室に戻りシーツを替えてから、またアレイストの元へ行く。今度はその身体を抱き上げて浴室を出ると、身体を拭いてやってからベッドに寝かせた。
じとりとした視線を感じて、ロウェルもその横に寝転ぶ。それを確認したアレイストは、やはりこちらに背を向けて、身体を丸めた。
決してこちらを見ない。触れさせることもない。だが、離れるのは許さない。
どこか矛盾したアレイストの態度は、ロウェルを少なからず混乱させている。
それでも、彼の傍からは離れられない。
――離れる気もない。
程なくして寝息が聞こえだしたのに気付いて、ロウェルは身体を起こした。
「俺はお前が望む限り傍にいる。……どうしたら、信じて……安心してくれるんだろうな」
ロウェルはアレイストのこめかみにキスをする。
この行為は、贖罪の延長などではないのだろうけれど。
今はそれについて、深く考えないようにしていた。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 4
「っ、ぁ……!」
四つん這いの状態で、ロウェルは背中を弓なりに反らす。
勃ち上がった前からは白濁が散って、内腿が震えた。中をきつく締めてしまったせいか、背後のアレイストが呻く。
背中にぽたりと落ちた汗にも感じてしまって、シーツを握り締める手に力が籠もった。
肩で息をしながら、ずるりと陰茎が抜け出ていくのを待つ。達したばかりで敏感になっている身体は、その刺激にも感じてしまうが、それを無視して身体を起こす。
何度か深呼吸をして身体の熱さを鎮めると、隣でこちらに背を向けて丸くなるアレイストの方を見た。
「アレイスト、寝る前に身体を洗え」
頭を撫でるように彼の黒髪を梳くと、手で払い除けられる。
「お前がやれ」
「……はいはい。それなら、ほら。腕こっちに回して」
ロウェルは自身の首に腕を回させると、お姫様だっこをして扉一枚で繋がったところにある浴室へ連れて行く。
アレイストの身体を片腕で抱え直すと、水栓を捻り浴槽に湯を溜める。
上下水道完備なのは、さすが王の住まう城だなぁ、などと妙な感心をしながら、湯の温度を確かめてからそこにアレイストの身体を放り込んだ。
「熱くないか?」
何も言わないので、大丈夫なのだろうと判断して、石鹸を泡立てる。順に彼の身体を洗ってゆくのも、もう慣れたものでぼんやりと考え事をしながら、作業をする。
一体、幾度目だろうか。
身体を繋げ、こうして細々と世話をして、彼が眠るまで傍にいる夜は。
もう両の手で数え切れないほどの回数を重ねているのは確かだ。
酷い痛みを伴った接合は、最初の一回きり。その後は、受け入れる準備をするようになった。アレイストのしなやかな指が体内をまさぐるのは、いまだに慣れないが――、それでも身体は適応していくものなのか、内部で快感を拾えるようになっていた。
はじめに比べれば、お互いの負担は軽減した。だが、それだけとも言える。
口付けはおろか、抱き合ったこともない。
挿れて、出して……、終わりだ。
アレイストは、こうして抱き上げて移動する時や、身体を洗う時に触れることは許しても、それ以外は頑なだった。
愛撫どころか、眠る時に抱きしめることもできない。
商売女との行為の方が、情感があるのではないかとさえ思うほど、二人の間に流れる空気は冷たかった。
肉体は過去にないほど近いのに、心は以前よりもずっと離れている。
それはきっと、気のせいではない。
「――よし」
アレイストの身体を綺麗にしたロウェルは、自分の方はザッとおざなりに身体を流す。それから、彼をぬるい湯に残したまま寝室に戻りシーツを替えてから、またアレイストの元へ行く。今度はその身体を抱き上げて浴室を出ると、身体を拭いてやってからベッドに寝かせた。
じとりとした視線を感じて、ロウェルもその横に寝転ぶ。それを確認したアレイストは、やはりこちらに背を向けて、身体を丸めた。
決してこちらを見ない。触れさせることもない。だが、離れるのは許さない。
どこか矛盾したアレイストの態度は、ロウェルを少なからず混乱させている。
それでも、彼の傍からは離れられない。
――離れる気もない。
程なくして寝息が聞こえだしたのに気付いて、ロウェルは身体を起こした。
「俺はお前が望む限り傍にいる。……どうしたら、信じて……安心してくれるんだろうな」
ロウェルはアレイストのこめかみにキスをする。
この行為は、贖罪の延長などではないのだろうけれど。
今はそれについて、深く考えないようにしていた。
2026/02/01 14:08:19
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 3
「っ、あ゛! ぅぐ……」
碌な前戯も無く、潤滑剤すらない状況で身体を開かれる。
その痛みは想像を絶する程で、ロウェルは叫び出さないようにするので精一杯だった。
痛み以外の何も感じない。
その拷問のような行為は、まさに「証明」にはうってつけだな、と頭の片隅で思う。
アレイストの命令をこなす中で、人を殺したことは何度もある。だが、身体を売るような真似は、さすがにしたことがなかった。
それを知っていたのかと思うほど、的確な証明法だ。
「っ――!!」
引き攣るような痛みと共に、アレイストの陰茎が中に埋められていく。身体が二つに裂けるのではないかと思うほど、痛くてたまらない。生理的な涙が滲み、痛みを逃がそうとシーツをきつく掴んだ腕はブルブルと震えている。
快楽などあろうはずもない。その事実が、これが肉欲や愛で繋がるものではなく、二人の繋がりを確認するただの作業なのだと物語っているようだった。
「ん゛ぐぅっ……!」
一番太いところが中に収まると、多少は楽になったが、今度はジンジンと痛みを感じはじめる。おそらくは、無理やりこじ開けたせいで皮膚が裂けたのだ。
痛みで呼吸もままならないが、挿入は続く。だが、程なくしてアレイストが荒い息をつきながら、動きを止めた。
ロウェルは無意識に瞑っていた目を開く。
眼前には脂汗を滲ませたアレイストがいた。それを見て、今更ながら相手にとっても、そう楽な行為ではなかったと気付く。誰も受け入れたことのない隘路に無理やり自身を押し込めるのだ。苦しくないはずがない。
アレイストは、一体何をそれほど恐れているのだろうか、とふと思う。
無理やり身体を繋げてまで、ロウェルの心を試したいと思うなんて、どう考えても異常だ。
もっとも、それを受け入れている自分も、決して普通ではないけれど。
「……アレイスト」
彼が動かずにいることで、多少痛みが引いてきたため、言葉を発する余裕が出てくる。
こちらを見た彼の顔は、後悔と絶望と――安堵が見え隠れしていた。
なんでそんな顔するんだよ。
そう言って笑いたくなった。
だって、今感じている痛みや原状は、ロウェル自身も拒否しなかったからこそのものだ。
それでも逃げないロウェルに、安堵もしているくせに。
ロウェルは、痛みのせいでぎこちないながらも笑った。
「どうした? 言っただろ、俺の全てがお前のものだって。気の済むまで確かめろ」
「っ……」
アレイストは、何も答えなかった。
だが、ゆっくりと抽挿をはじめ、それは精を中に吐き出すまで続いた。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 3
「っ、あ゛! ぅぐ……」
碌な前戯も無く、潤滑剤すらない状況で身体を開かれる。
その痛みは想像を絶する程で、ロウェルは叫び出さないようにするので精一杯だった。
痛み以外の何も感じない。
その拷問のような行為は、まさに「証明」にはうってつけだな、と頭の片隅で思う。
アレイストの命令をこなす中で、人を殺したことは何度もある。だが、身体を売るような真似は、さすがにしたことがなかった。
それを知っていたのかと思うほど、的確な証明法だ。
「っ――!!」
引き攣るような痛みと共に、アレイストの陰茎が中に埋められていく。身体が二つに裂けるのではないかと思うほど、痛くてたまらない。生理的な涙が滲み、痛みを逃がそうとシーツをきつく掴んだ腕はブルブルと震えている。
快楽などあろうはずもない。その事実が、これが肉欲や愛で繋がるものではなく、二人の繋がりを確認するただの作業なのだと物語っているようだった。
「ん゛ぐぅっ……!」
一番太いところが中に収まると、多少は楽になったが、今度はジンジンと痛みを感じはじめる。おそらくは、無理やりこじ開けたせいで皮膚が裂けたのだ。
痛みで呼吸もままならないが、挿入は続く。だが、程なくしてアレイストが荒い息をつきながら、動きを止めた。
ロウェルは無意識に瞑っていた目を開く。
眼前には脂汗を滲ませたアレイストがいた。それを見て、今更ながら相手にとっても、そう楽な行為ではなかったと気付く。誰も受け入れたことのない隘路に無理やり自身を押し込めるのだ。苦しくないはずがない。
アレイストは、一体何をそれほど恐れているのだろうか、とふと思う。
無理やり身体を繋げてまで、ロウェルの心を試したいと思うなんて、どう考えても異常だ。
もっとも、それを受け入れている自分も、決して普通ではないけれど。
「……アレイスト」
彼が動かずにいることで、多少痛みが引いてきたため、言葉を発する余裕が出てくる。
こちらを見た彼の顔は、後悔と絶望と――安堵が見え隠れしていた。
なんでそんな顔するんだよ。
そう言って笑いたくなった。
だって、今感じている痛みや原状は、ロウェル自身も拒否しなかったからこそのものだ。
それでも逃げないロウェルに、安堵もしているくせに。
ロウェルは、痛みのせいでぎこちないながらも笑った。
「どうした? 言っただろ、俺の全てがお前のものだって。気の済むまで確かめろ」
「っ……」
アレイストは、何も答えなかった。
だが、ゆっくりと抽挿をはじめ、それは精を中に吐き出すまで続いた。
2026/02/01 14:07:05
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 2
ロウェルとアレイストは、いわば「幼馴染」だった。
とはいっても、隣国の王と彼に正妃として嫁いだ公女との間に生まれた王子であるアレイストとは、身分の差というものは存在していた。
ロウェルが赤ん坊のアレイストに引き合わされた時も、「将来仕えるべき主君」だと説明されていた。
だが、当時ロムーリャ公国にいたロウェルが何故、そんな王子と出会えたのかというと、少々特殊な事情によるものだ。
アレイストの父には側妃が存在した。公国で蝶よ花よと育てられた公女リーティエは、国王からの寵が得られない現実に耐えられず、子を妊娠すると同時に宿下がりを名目に公国へと戻ってきた。
その後アレイストが生まれたあとも、リーティエが王国へ戻ることはなく、またあちらも寵妃とその間に生まれた娘にしか興味がないのか、放置されることとなった。
このままその娘が王位を継ぎ、アレイストは公国で生きるのだろうか。
そう思われていたが、変化があったのは、アレイストが九歳、ロウェルが十二歳の時だ。
寵妃シエラがこの世を去った。
その報が公国へともたらされると同時に、アレイストの召喚命令まで下されたのだ。
アレイストは――、母がこのまま公国で過ごせることを条件に、それを飲んだ。そうして、アレイストは会ったこともなかった父王の庇護の元、立太子されたのだった。
当然のように、ロウェルはアレイストと共に王国へ向かった。
しかし、彼の正式な臣下に加えられることはなく、ロウェルは微妙な立場に置かれ続けた。だが、ある意味では都合が良かったとも言える。身分の保証された人間では立ち回れないような、際どい仕事もこなすことができたからだ。
ロウェルは、アレイストの命令は何でも聞いた。
そうすることでしか、彼に贖えなかったからだ。十七年前のあの日、ロウェルの軽率さの代償を支払ったのはアレイストだった。命にこそ別状はなかったものの、左足の膝から下の自由を、彼は失った。
杖をつき歩く姿を見るたび、ロウェルは自身の罪を呪った。
その日から、ロウェルはアレイストへの贖罪に人生を捧げている。
その日も、呼び出されて向かったのは、アレイストの私室だった。
あまり大っぴらにできないような命令を下す時、彼はいつもそうするため、特に何の疑問もなく、そこへ向かう。
衛兵に見つからぬように窓から部屋に侵入すると、珍しくアレイストはその部屋にあるベッドに腰掛けてこちらを見ていた。いつもならば、その隣の部屋にあるソファに座っているのに。
余程内密な話なのだろうか、と少し緊張した。
「よう、今日はどうしたんだ?」
だが、内心で感じている緊張感は欠片も出さずに、至って普段通り声をかける。アレイストは不機嫌そうな顔を更に歪める。
品行方正で優しい王太子殿下、として通っているアレイストだが、ロウェルに対してはこの十七年間一度たりとも笑顔を見せたことがない。いつも険しい顔ばかりだ。
「アキュイラの件、聞いてるか」
冷たい声にもすっかり慣れっこで、もう寂しいとも思わなくなって久しい。
ロウェルは頭の中にある情報を引っ張り出しながら、軽い調子で答える。
「ああ、セレンティーネ殿下が領主に任命されたらしいな。それがどうした?」
「姉上を籠絡しろ」
「…………はい?」
意味が分からず首を傾げる。「籠絡」、もしや自分の知っている「ろうらく」ではないのかもしれない、と願望混じりに思うが、アレイストは苛立たしげに続けた。
「二度も言わせるな。姉上をお前の言いなりになるようにしろ」
「……えっと」
どうやら、知っている「籠絡」で合っていたらしいと悟る。が、意図がまるで分からない。
「何故……?」
「姉上に反逆を起こさせる」
「は!?」
穏やかではない言葉が飛び出して、目を剥く。
その後、アレイストが語ったあらましはこうだ。
セレンティーネは、今回の決定に不服を感じている。まあ、これは当然とも言える。そもそもアレイストの立太子に伴い、廃太子されたこと自体納得していないようなので、ますます玉座から遠ざかってしまうからだ。
アレイストは、いずれセレンティーネが王位を取り戻すべく、動くと考えている。それならば、手勢が揃わぬうちに、こちらに都合の良い時に、反乱を起こさせて処理すればよいと考えたようだった。
「…………なるほどな」
一応、筋は通っている。
ロウェルはセレンティーネの懐に潜り込み、彼女を誘導。出来うる限り少数で王位簒奪を目論ませる、という役回りだ。
だが、ロウェルはどことなく、腑に落ちないものを感じていた。
本当にセレンティーネ王女は、そのように動くのだろうか。
ロウェルに彼女との直接的な面識はないが、そのような強行に走る性格とはどうしても思えない。現状、アレイストに危害を加えようとするでも、引きずり下ろそうと策を弄するでもなく、何か国王の目に止まるような成果を出そうと愚直なまでの努力をしている人物だ。
そんな王女なら、もちろん不満は抱きつつも任地へ向かい、領地を盛り立てることに注力するのではないだろうか。
そしてそんなことは、アレイストもよく分かっているはずだ。
彼女の愚かなまでの真っ直ぐさに、アレイストは羨望を感じている。本人は認めずとも、ロウェルにはそれがよく分かっていた。
「……アレイスト、もしそれが上手くいったとして。その後、セレンティーネ殿下をどうする気なんだ」
「殺す」
端的な言葉に、ビクッと身体が震えた。
アレイストは温度のない目をしたまま続ける。
「当たり前だ。反逆者は死をもって罰せられる。そうだろう?」
「あ、ああ……」
彼の中でこの計画は決定事項なのだろう。立ち尽くすロウェルを、アレイストはただじっと見ていた。
ロウェルはこれまで、アレイストのどんな命令にも逆らったことはなかった。
だがこれは、頷いては駄目な気がする。
その迷いがロウェルの口を動かす。
「アレイストは、それでいいのか? 元王太子が反逆なんて、大きな騒ぎになる」
初めて食い下がったロウェルに、アレイストは目を眇めた。
「馬鹿を言うな。表向き、反逆など存在させない。姉上は、私がこの手で殺す」
つまり、内々に処理した上で後顧の憂いを断つということだ。
そこまで決めているのなら、ロウェルにもう言えることなどない。
分かった、と頷いてすぐ仕事に取り掛かるべきだ。
セレンティーネ王女はそう時間を開けずに城を発つだろう。準備も必要だ。懐に潜り込むなら、早く動いた方がいい。
了承の言葉を口にしようと顔を上げた時、アレイストと目が合った。
ロウェルは息を飲んで、発そうとしていた言葉が出なくなってしまう。
アレイストの人生から「姉」が消えた後、一体彼はどうなるのだろうか。
その時、ふと疑問が湧いた。
どうして、「今」なんだろう。
セレンティーネを籠絡し、反逆を起こさせるなどいつでもできたはずだ。むしろ、王都にいる間であれば、ロウェルを介して後ろ暗い貴族と繋がらせて一網打尽にすることで、国家の膿出しも終わらせてしまう方が、普段のアレイストらしい。
まるで、遠ざかろうとする姉を、手元に引き戻そうとするような――。
「っ……」
ロウェルは一歩、二歩とアレイストに近付く。
「――俺は、納得できない」
アレイストの目が見開かれるのを、嫌な音を立てる心臓を無視しながら見つめた。
この十七年間で、初めて口にした「反論」だった。
だが、一言発してしまえば、止めることなどできない。ロウェルは捲し立てるように続けた。
「王都から離れた王女に何ができる? たしかに不安の芽ではあるさ。けど、それが本当に脅威と成り得るのは一体何年後の話だ? その間、お前は一層ここで地盤を固めるのに? 今まで強行策に出なかった王女が、今更そんな手を取るとは俺には到底思えない。違うか?」
反証を並べ立てるが、アレイストは俯いたきり何も言わない。表情も窺えず、何を思っているのか全く分からなかった。
黙ったままの彼に勢いを削がれたロウェルは、そこで言葉を切って、弱々しく問いかける。
「……なあ、本当は…何が目的なんだ? 何がお前をそんなに――」
「うるさいっ!!」
突然激高したアレイストは、キッと顔を上げてロウェルを睨んだ。
「お前は私の言うことを聞いていれば良いんだ! どうして黙って従えない!?」
「アレイスト、でもこんなのは……!」
「黙れよっ!! 姉上もだ! どうしてそんな風に諦められる!? どうして、簡単に『陛下を支えろ』なんて……っ」
泣きそうな声で叫ぶアレイストに、ロウェルは思わず手を伸ばした。意図があったわけではない。ただ、無意識に抱きしめようとしたのかもしれない。
しかしそれより早く、アレイストの手がロウェルの胸倉を掴んだ。前屈みになっていたせいで、難なく体勢を崩されると、そのまま何故かベッドに仰向けで転がされた。
「ア、アレイスト……?」
暗い、沈んだ目と視線が絡む。
「お前は私の命令を拒むんだな?」
静かな問いにたじろぐ。
これは、解答を間違えれば取り返しがつかない気がした。
ロウェルは慎重に口を開く。
「拒みたい、わけじゃない。でも、俺は……、この選択をした後、お前が傷付くんじゃないかと思ってる。だから、違う方法でお前の気が済むなら、と言いたかったんだ」
「…………そんな方法、無ければ?」
「従う。お前の望み通りに動く」
間髪入れずに返したことが功を奏したのか、ロウェルの服を掴んでいたアレイストの手がほんの少し緩む。
だが、澱んだ目は変わらず、ロウェルを見つめていた。
「望み通りに、ね。どんな事でも?」
「ああ」
「今すぐ死ねと言えば死ぬのか?」
ロウェルは頷いて言った。
「俺の命は、全てお前のものだから」
「……なら」
何の感情も感じない目をしたまま、突然アレイストは、ロウェルのシャツの前ボタンを引き千切った。
唐突な行動に目を剥いていると、無感情にアレイストが腹の筋を指で辿った。
「死ぬ必要も、姉上のところに行く必要もない。その代わり――」
臍を撫で、ベルトに触れ、その下にあるものをズボン越しに掴んだ。
「私が何をしても、絶対に離れないと証明してみせろ」
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 2
ロウェルとアレイストは、いわば「幼馴染」だった。
とはいっても、隣国の王と彼に正妃として嫁いだ公女との間に生まれた王子であるアレイストとは、身分の差というものは存在していた。
ロウェルが赤ん坊のアレイストに引き合わされた時も、「将来仕えるべき主君」だと説明されていた。
だが、当時ロムーリャ公国にいたロウェルが何故、そんな王子と出会えたのかというと、少々特殊な事情によるものだ。
アレイストの父には側妃が存在した。公国で蝶よ花よと育てられた公女リーティエは、国王からの寵が得られない現実に耐えられず、子を妊娠すると同時に宿下がりを名目に公国へと戻ってきた。
その後アレイストが生まれたあとも、リーティエが王国へ戻ることはなく、またあちらも寵妃とその間に生まれた娘にしか興味がないのか、放置されることとなった。
このままその娘が王位を継ぎ、アレイストは公国で生きるのだろうか。
そう思われていたが、変化があったのは、アレイストが九歳、ロウェルが十二歳の時だ。
寵妃シエラがこの世を去った。
その報が公国へともたらされると同時に、アレイストの召喚命令まで下されたのだ。
アレイストは――、母がこのまま公国で過ごせることを条件に、それを飲んだ。そうして、アレイストは会ったこともなかった父王の庇護の元、立太子されたのだった。
当然のように、ロウェルはアレイストと共に王国へ向かった。
しかし、彼の正式な臣下に加えられることはなく、ロウェルは微妙な立場に置かれ続けた。だが、ある意味では都合が良かったとも言える。身分の保証された人間では立ち回れないような、際どい仕事もこなすことができたからだ。
ロウェルは、アレイストの命令は何でも聞いた。
そうすることでしか、彼に贖えなかったからだ。十七年前のあの日、ロウェルの軽率さの代償を支払ったのはアレイストだった。命にこそ別状はなかったものの、左足の膝から下の自由を、彼は失った。
杖をつき歩く姿を見るたび、ロウェルは自身の罪を呪った。
その日から、ロウェルはアレイストへの贖罪に人生を捧げている。
その日も、呼び出されて向かったのは、アレイストの私室だった。
あまり大っぴらにできないような命令を下す時、彼はいつもそうするため、特に何の疑問もなく、そこへ向かう。
衛兵に見つからぬように窓から部屋に侵入すると、珍しくアレイストはその部屋にあるベッドに腰掛けてこちらを見ていた。いつもならば、その隣の部屋にあるソファに座っているのに。
余程内密な話なのだろうか、と少し緊張した。
「よう、今日はどうしたんだ?」
だが、内心で感じている緊張感は欠片も出さずに、至って普段通り声をかける。アレイストは不機嫌そうな顔を更に歪める。
品行方正で優しい王太子殿下、として通っているアレイストだが、ロウェルに対してはこの十七年間一度たりとも笑顔を見せたことがない。いつも険しい顔ばかりだ。
「アキュイラの件、聞いてるか」
冷たい声にもすっかり慣れっこで、もう寂しいとも思わなくなって久しい。
ロウェルは頭の中にある情報を引っ張り出しながら、軽い調子で答える。
「ああ、セレンティーネ殿下が領主に任命されたらしいな。それがどうした?」
「姉上を籠絡しろ」
「…………はい?」
意味が分からず首を傾げる。「籠絡」、もしや自分の知っている「ろうらく」ではないのかもしれない、と願望混じりに思うが、アレイストは苛立たしげに続けた。
「二度も言わせるな。姉上をお前の言いなりになるようにしろ」
「……えっと」
どうやら、知っている「籠絡」で合っていたらしいと悟る。が、意図がまるで分からない。
「何故……?」
「姉上に反逆を起こさせる」
「は!?」
穏やかではない言葉が飛び出して、目を剥く。
その後、アレイストが語ったあらましはこうだ。
セレンティーネは、今回の決定に不服を感じている。まあ、これは当然とも言える。そもそもアレイストの立太子に伴い、廃太子されたこと自体納得していないようなので、ますます玉座から遠ざかってしまうからだ。
アレイストは、いずれセレンティーネが王位を取り戻すべく、動くと考えている。それならば、手勢が揃わぬうちに、こちらに都合の良い時に、反乱を起こさせて処理すればよいと考えたようだった。
「…………なるほどな」
一応、筋は通っている。
ロウェルはセレンティーネの懐に潜り込み、彼女を誘導。出来うる限り少数で王位簒奪を目論ませる、という役回りだ。
だが、ロウェルはどことなく、腑に落ちないものを感じていた。
本当にセレンティーネ王女は、そのように動くのだろうか。
ロウェルに彼女との直接的な面識はないが、そのような強行に走る性格とはどうしても思えない。現状、アレイストに危害を加えようとするでも、引きずり下ろそうと策を弄するでもなく、何か国王の目に止まるような成果を出そうと愚直なまでの努力をしている人物だ。
そんな王女なら、もちろん不満は抱きつつも任地へ向かい、領地を盛り立てることに注力するのではないだろうか。
そしてそんなことは、アレイストもよく分かっているはずだ。
彼女の愚かなまでの真っ直ぐさに、アレイストは羨望を感じている。本人は認めずとも、ロウェルにはそれがよく分かっていた。
「……アレイスト、もしそれが上手くいったとして。その後、セレンティーネ殿下をどうする気なんだ」
「殺す」
端的な言葉に、ビクッと身体が震えた。
アレイストは温度のない目をしたまま続ける。
「当たり前だ。反逆者は死をもって罰せられる。そうだろう?」
「あ、ああ……」
彼の中でこの計画は決定事項なのだろう。立ち尽くすロウェルを、アレイストはただじっと見ていた。
ロウェルはこれまで、アレイストのどんな命令にも逆らったことはなかった。
だがこれは、頷いては駄目な気がする。
その迷いがロウェルの口を動かす。
「アレイストは、それでいいのか? 元王太子が反逆なんて、大きな騒ぎになる」
初めて食い下がったロウェルに、アレイストは目を眇めた。
「馬鹿を言うな。表向き、反逆など存在させない。姉上は、私がこの手で殺す」
つまり、内々に処理した上で後顧の憂いを断つということだ。
そこまで決めているのなら、ロウェルにもう言えることなどない。
分かった、と頷いてすぐ仕事に取り掛かるべきだ。
セレンティーネ王女はそう時間を開けずに城を発つだろう。準備も必要だ。懐に潜り込むなら、早く動いた方がいい。
了承の言葉を口にしようと顔を上げた時、アレイストと目が合った。
ロウェルは息を飲んで、発そうとしていた言葉が出なくなってしまう。
アレイストの人生から「姉」が消えた後、一体彼はどうなるのだろうか。
その時、ふと疑問が湧いた。
どうして、「今」なんだろう。
セレンティーネを籠絡し、反逆を起こさせるなどいつでもできたはずだ。むしろ、王都にいる間であれば、ロウェルを介して後ろ暗い貴族と繋がらせて一網打尽にすることで、国家の膿出しも終わらせてしまう方が、普段のアレイストらしい。
まるで、遠ざかろうとする姉を、手元に引き戻そうとするような――。
「っ……」
ロウェルは一歩、二歩とアレイストに近付く。
「――俺は、納得できない」
アレイストの目が見開かれるのを、嫌な音を立てる心臓を無視しながら見つめた。
この十七年間で、初めて口にした「反論」だった。
だが、一言発してしまえば、止めることなどできない。ロウェルは捲し立てるように続けた。
「王都から離れた王女に何ができる? たしかに不安の芽ではあるさ。けど、それが本当に脅威と成り得るのは一体何年後の話だ? その間、お前は一層ここで地盤を固めるのに? 今まで強行策に出なかった王女が、今更そんな手を取るとは俺には到底思えない。違うか?」
反証を並べ立てるが、アレイストは俯いたきり何も言わない。表情も窺えず、何を思っているのか全く分からなかった。
黙ったままの彼に勢いを削がれたロウェルは、そこで言葉を切って、弱々しく問いかける。
「……なあ、本当は…何が目的なんだ? 何がお前をそんなに――」
「うるさいっ!!」
突然激高したアレイストは、キッと顔を上げてロウェルを睨んだ。
「お前は私の言うことを聞いていれば良いんだ! どうして黙って従えない!?」
「アレイスト、でもこんなのは……!」
「黙れよっ!! 姉上もだ! どうしてそんな風に諦められる!? どうして、簡単に『陛下を支えろ』なんて……っ」
泣きそうな声で叫ぶアレイストに、ロウェルは思わず手を伸ばした。意図があったわけではない。ただ、無意識に抱きしめようとしたのかもしれない。
しかしそれより早く、アレイストの手がロウェルの胸倉を掴んだ。前屈みになっていたせいで、難なく体勢を崩されると、そのまま何故かベッドに仰向けで転がされた。
「ア、アレイスト……?」
暗い、沈んだ目と視線が絡む。
「お前は私の命令を拒むんだな?」
静かな問いにたじろぐ。
これは、解答を間違えれば取り返しがつかない気がした。
ロウェルは慎重に口を開く。
「拒みたい、わけじゃない。でも、俺は……、この選択をした後、お前が傷付くんじゃないかと思ってる。だから、違う方法でお前の気が済むなら、と言いたかったんだ」
「…………そんな方法、無ければ?」
「従う。お前の望み通りに動く」
間髪入れずに返したことが功を奏したのか、ロウェルの服を掴んでいたアレイストの手がほんの少し緩む。
だが、澱んだ目は変わらず、ロウェルを見つめていた。
「望み通りに、ね。どんな事でも?」
「ああ」
「今すぐ死ねと言えば死ぬのか?」
ロウェルは頷いて言った。
「俺の命は、全てお前のものだから」
「……なら」
何の感情も感じない目をしたまま、突然アレイストは、ロウェルのシャツの前ボタンを引き千切った。
唐突な行動に目を剥いていると、無感情にアレイストが腹の筋を指で辿った。
「死ぬ必要も、姉上のところに行く必要もない。その代わり――」
臍を撫で、ベルトに触れ、その下にあるものをズボン越しに掴んだ。
「私が何をしても、絶対に離れないと証明してみせろ」
2026/02/01 14:05:13
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 1
「アレイスト!!」
悲鳴のような声が自分の喉から飛び出していく。
転落してゆく小さな手を掴もうと、必死に走って手を伸ばした。
だが、その手は空を切って――。
地面を幼い少年が物のように転がっていく音、遥か下でようやく停止したその身体は、ぴくりとも動かなかった。
身体がガタガタと震えだす。
自分はなんてことをしてしまったんだろう。
どうして手を離した。どうして、一瞬でも目を離したんだ。
おれが、この子を守らなければならなかったのに。
死んでしまっていたらどうしよう。こんな高さから落ちたのに、無事なはずがない。
どうしよう。どうしたら――
「――ッ!!」
ロウェルは、ハッと目を開いた。
辺りは暗い。まだ、真夜中だ。
どくんどくんと嫌な音を立てる心臓を、幾度かの深呼吸でなんとか宥めて、ふと傍らを見る。
「アレイスト……」
ロウェルに背を向け、身体を胎児のように小さく丸めて眠る青年の姿があった。
どうやら起こしはしなかったらしいと安堵する。
剥き出しの肩にシーツをかけて、そっと髪にキスを落とす。
せめて、彼を抱きしめられたらいいのに。
いまだに夢に見るほど強烈な記憶として残る十七年前のあの日から、自分たちの間には見えない壁が存在している。
こうして、何の因果か身体を繋げるようになった今も、それは変わらない。
そこまで考えて、ロウェルは静かに首を振った。
たしかに現状、二人の間に肉体関係があるのは事実だ。だがこれは、愛や恋、性欲に起因するものですらない。
アレイストはずっと確かめている。
ロウェルがどこまで自分の要求に応えられるのか。本当に、何があっても傍を離れないのか。
もうずっと、自分たちの関係は歪んでいた。
だがそれを更に暗い場所へ落としたのは、今から少し前のことだ。
数ヶ月前、アレイストの姉セレンティーネがこの城を発つことになったその日まで遡る――。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 1
「アレイスト!!」
悲鳴のような声が自分の喉から飛び出していく。
転落してゆく小さな手を掴もうと、必死に走って手を伸ばした。
だが、その手は空を切って――。
地面を幼い少年が物のように転がっていく音、遥か下でようやく停止したその身体は、ぴくりとも動かなかった。
身体がガタガタと震えだす。
自分はなんてことをしてしまったんだろう。
どうして手を離した。どうして、一瞬でも目を離したんだ。
おれが、この子を守らなければならなかったのに。
死んでしまっていたらどうしよう。こんな高さから落ちたのに、無事なはずがない。
どうしよう。どうしたら――
「――ッ!!」
ロウェルは、ハッと目を開いた。
辺りは暗い。まだ、真夜中だ。
どくんどくんと嫌な音を立てる心臓を、幾度かの深呼吸でなんとか宥めて、ふと傍らを見る。
「アレイスト……」
ロウェルに背を向け、身体を胎児のように小さく丸めて眠る青年の姿があった。
どうやら起こしはしなかったらしいと安堵する。
剥き出しの肩にシーツをかけて、そっと髪にキスを落とす。
せめて、彼を抱きしめられたらいいのに。
いまだに夢に見るほど強烈な記憶として残る十七年前のあの日から、自分たちの間には見えない壁が存在している。
こうして、何の因果か身体を繋げるようになった今も、それは変わらない。
そこまで考えて、ロウェルは静かに首を振った。
たしかに現状、二人の間に肉体関係があるのは事実だ。だがこれは、愛や恋、性欲に起因するものですらない。
アレイストはずっと確かめている。
ロウェルがどこまで自分の要求に応えられるのか。本当に、何があっても傍を離れないのか。
もうずっと、自分たちの関係は歪んでいた。
だがそれを更に暗い場所へ落としたのは、今から少し前のことだ。
数ヶ月前、アレイストの姉セレンティーネがこの城を発つことになったその日まで遡る――。
2026/02/01 14:01:06
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_アレイスト×セレンIF 2
「――あっ、あぁ……んぁっ!」
私は、何をしているんだろう。
薄暗い執務室の床の上で、セレンは破瓜の痛みと無理やり引きずり出される快楽に喘いでいた。
子宮を突かれるたびに、声が、そして、心の奥底に封じ込めていたものが、暴かれていく気がする。
どうして、弟だったはずの男と身体を繋げているの。
頭の片隅に残る冷静な部分は、そう言っているのに、身体は熱を求めて媚びるように男の腕を掴んだ。
「っ、は……」
アレイストの熱い吐息がかかり、唇を重ね、舌を絡めあう。
身体が熱い。触れている場所全てが火傷しそうなほどに。だが、彼の目は凍えるほど冷たくて、怖いほどだった。
「――な、んで、こんなこと、するの……っ」
舌が銀糸を引いて離れた時、セレンは叫んでいた。
「わたしのこと、すきな…わけではない、じゃない……!」
下肢を穿っていた動きが止まる。
「……えぇ、そうですね」
どこか遠い目をして、アレイストが呟いた。そして、セレンの腰を掴み、言った。
「私は、貴女が憎い」
「――っ、あっ!?」
アレイストは一際強く、セレンの中を突く。足が痺れて、中が収縮する。だが、それを構うことなく、アレイストは抽挿を再開しながら、続けた。
「憎くて堪らない。出逢った時から、ずっと。……ずっとだ! 貴女は、私に無いものを全て、持っているのに……!!」
「そ、な……、あっ! あぁっ!」
セレンが背中を弓なりに逸らして絶頂すると共に、中にじわりと熱が広がる感覚があった。
ああ……、もうこれで、取り返しがつかない。
ぼんやりそんなことを思う。
「…………セレン」
突然呼ばれた名前に、びくりと身体が跳ねた。アレイストに名を呼ばれるのは初めてだった。
アレイストはセレンの手を取ると、まるで心から愛おしむかのように、その手の平にキスをする。
「セレン……。どうか、私と一緒に……、死んでくれませんか」
#玉座の憧憬_アレイスト×セレンIF 2
「――あっ、あぁ……んぁっ!」
私は、何をしているんだろう。
薄暗い執務室の床の上で、セレンは破瓜の痛みと無理やり引きずり出される快楽に喘いでいた。
子宮を突かれるたびに、声が、そして、心の奥底に封じ込めていたものが、暴かれていく気がする。
どうして、弟だったはずの男と身体を繋げているの。
頭の片隅に残る冷静な部分は、そう言っているのに、身体は熱を求めて媚びるように男の腕を掴んだ。
「っ、は……」
アレイストの熱い吐息がかかり、唇を重ね、舌を絡めあう。
身体が熱い。触れている場所全てが火傷しそうなほどに。だが、彼の目は凍えるほど冷たくて、怖いほどだった。
「――な、んで、こんなこと、するの……っ」
舌が銀糸を引いて離れた時、セレンは叫んでいた。
「わたしのこと、すきな…わけではない、じゃない……!」
下肢を穿っていた動きが止まる。
「……えぇ、そうですね」
どこか遠い目をして、アレイストが呟いた。そして、セレンの腰を掴み、言った。
「私は、貴女が憎い」
「――っ、あっ!?」
アレイストは一際強く、セレンの中を突く。足が痺れて、中が収縮する。だが、それを構うことなく、アレイストは抽挿を再開しながら、続けた。
「憎くて堪らない。出逢った時から、ずっと。……ずっとだ! 貴女は、私に無いものを全て、持っているのに……!!」
「そ、な……、あっ! あぁっ!」
セレンが背中を弓なりに逸らして絶頂すると共に、中にじわりと熱が広がる感覚があった。
ああ……、もうこれで、取り返しがつかない。
ぼんやりそんなことを思う。
「…………セレン」
突然呼ばれた名前に、びくりと身体が跳ねた。アレイストに名を呼ばれるのは初めてだった。
アレイストはセレンの手を取ると、まるで心から愛おしむかのように、その手の平にキスをする。
「セレン……。どうか、私と一緒に……、死んでくれませんか」
2026/02/01 13:58:05
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_アレイスト×セレンIF 1
「は……? なん、だこれは……」
十一年振りに足を踏み入れた父の執務室で、セレンがそれを見つけてしまったのは、本当に偶然だった。
日付はまさに十一年前。その日に書かれたと思しき、当時の大臣たちから連名で出されたらしい嘆願書には、こう書かれていた。
――王家の血を引かぬ娘を、国王と仰ぐことはできない。正当なる世継ぎの召還を要望する。
「王家の血を、引かぬ娘……?」
十一年前、セレンは母を、そして王太子位を失った。
そうして、それまで会ったこともなかった弟が、新たな王太子として立った日のことは、昨日のように鮮明に思い出される。
これは、この紙に書かれているのは、一体、誰の……。
「――ああ、見つけてしまったんですか、姉上」
突然聞こえた声に振り返ると、いつもは控えめに浮かべている笑みを消した異母弟アレイストが、無表情でこちらを見ていた。
「アレイスト……」
彼は杖をつきながら、ゆっくりと近付いてきた。
「信じられませんか? でも本当のことです」
「何の、ことだ……」
彼はセレンの目の前まで来ると、嘲笑を浮かべる。彼のそんな顔を見るのは初めてのことで、セレンはたじろいだ。
「貴女は、陛下の娘ではない。シエラ妃が情夫との間に作った子――。それが貴女です」
「――っ、そんなはず……!」
咄嗟に反駁するが、アレイストが急にセレンの頬に触れ、顔を覗き込んできて、言葉が途切れる。
「嘘つきですね。本当は薄々知っていたのでしょう?」
「っ……」
アレイストの言葉に、セレンは何も言い返すことが出来なかった。
母譲りの銀髪――。それ以外に、母にも、父にも似ていない自分。
アレイストの父そっくりな顔と青い目に見つめられて、セレンは唇を噛んだ。
なら、自身の持つ菫色の瞳は、一体誰の――。
「……ねぇ、姉上。分かりますか。私たちは、血なんて一滴も繋がってないんですよ」
いやに優しい声でアレイストが呟く。
その次の瞬間には、頬に添えられていた手に力が籠って、顎を掴まれた。
「いっ……」
爪が食い込むほど強く掴まれて、痛みに呻くがアレイストの力は一向に緩まない。
「アレイ…スト……?」
「……私は、ずっと……、貴女がこの事実を知る日を待っていたのでしょうね」
彼は独り言のように呟くと、掴んだままの顎を引き寄せた。
そして――
「え……」
唇が重なる。
「な、何をす――!」
「……さあ、何でしょうね」
セレンは、何の温度もないアレイストの瞳に見つめられながら、口内に侵入する舌を、ただ受け入れるしかなかった。
#玉座の憧憬_アレイスト×セレンIF 1
「は……? なん、だこれは……」
十一年振りに足を踏み入れた父の執務室で、セレンがそれを見つけてしまったのは、本当に偶然だった。
日付はまさに十一年前。その日に書かれたと思しき、当時の大臣たちから連名で出されたらしい嘆願書には、こう書かれていた。
――王家の血を引かぬ娘を、国王と仰ぐことはできない。正当なる世継ぎの召還を要望する。
「王家の血を、引かぬ娘……?」
十一年前、セレンは母を、そして王太子位を失った。
そうして、それまで会ったこともなかった弟が、新たな王太子として立った日のことは、昨日のように鮮明に思い出される。
これは、この紙に書かれているのは、一体、誰の……。
「――ああ、見つけてしまったんですか、姉上」
突然聞こえた声に振り返ると、いつもは控えめに浮かべている笑みを消した異母弟アレイストが、無表情でこちらを見ていた。
「アレイスト……」
彼は杖をつきながら、ゆっくりと近付いてきた。
「信じられませんか? でも本当のことです」
「何の、ことだ……」
彼はセレンの目の前まで来ると、嘲笑を浮かべる。彼のそんな顔を見るのは初めてのことで、セレンはたじろいだ。
「貴女は、陛下の娘ではない。シエラ妃が情夫との間に作った子――。それが貴女です」
「――っ、そんなはず……!」
咄嗟に反駁するが、アレイストが急にセレンの頬に触れ、顔を覗き込んできて、言葉が途切れる。
「嘘つきですね。本当は薄々知っていたのでしょう?」
「っ……」
アレイストの言葉に、セレンは何も言い返すことが出来なかった。
母譲りの銀髪――。それ以外に、母にも、父にも似ていない自分。
アレイストの父そっくりな顔と青い目に見つめられて、セレンは唇を噛んだ。
なら、自身の持つ菫色の瞳は、一体誰の――。
「……ねぇ、姉上。分かりますか。私たちは、血なんて一滴も繋がってないんですよ」
いやに優しい声でアレイストが呟く。
その次の瞬間には、頬に添えられていた手に力が籠って、顎を掴まれた。
「いっ……」
爪が食い込むほど強く掴まれて、痛みに呻くがアレイストの力は一向に緩まない。
「アレイ…スト……?」
「……私は、ずっと……、貴女がこの事実を知る日を待っていたのでしょうね」
彼は独り言のように呟くと、掴んだままの顎を引き寄せた。
そして――
「え……」
唇が重なる。
「な、何をす――!」
「……さあ、何でしょうね」
セレンは、何の温度もないアレイストの瞳に見つめられながら、口内に侵入する舌を、ただ受け入れるしかなかった。
2026/02/01 13:51:42
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 7
座学の日程はあっという間に過ぎていき――、三日後。
レンとファルを含む参加者たちは、研究所の前に集められていた。
「では、これから被験者の方の元へ向かいます」
エルジュの言葉に、緊張と不安で顔が強張っている者も多い中、レンは内心「やっとこの日が来た!」とガッツポーズをしていた。
三日間の講義が終了し、今日はいよいよ研究の被験者たちの元へ行くことになっている。
現在蛹期に入っている協力者たちの経過観察に同行させてもらう形だ。
蝶の民たちは蛹化すると、まず髪が一瞬で脱色する。それを合図に安全な場所を探したあと、そこで繭を形成するのだ。その繭に包まれている期間が蛹期と呼ばれ、約三ヶ月から半年間を繭の中で過ごす。
繭の中では、一度肉体が重要な生命維持器官を残して液状に溶け、その後身体が再構築されることで、羽化をする。
一般的に羽化した蝶の民は、髪色が変化し、容姿が整う。まさに、芋虫が蝶に変化するかのごとく、だ。
また、魔法の才に目覚めたり、運動能力が向上したり、とこちらは個人差が大きいものの、総じて身体機能の改善が発生しやすい。
ともかく、蛹期の蝶の民は、かなりデリケートなのだ。下手な刺激は中の人間を殺しかねないため、研究は細心の注意を払われている。
他国での非人道的な研究は、蝶の民に起こる肉体の再構築を人為的に行い、より望む肉体へと変化することを目的としている――らしい。
レンから言わせれば、自身の肉体強化ごときのために、この美しい生態を持つ蝶の民たちを殺したのかと、全く理解に苦しむ話だった。
一方、蝶の国での研究は、むしろ医療行為に近いものがある。
自然界での蝶の羽化が失敗することもあるように、蝶の民も羽化に失敗して死んでしまうことが稀にある。蝶の民研究は、そういった羽化の失敗率を下げ、より安全に、より健やかに、蝶の民が生きていくことを目的としていた。
今回同行する被験者の定期観察も、そういった羽化の失敗を回避するためのものだ。
被験者は、事前に本人の許可を得て観察させてもらっている対象も多いが、中には蛹期の序盤に異変が起こり、家族から助けを求められて、という場合もあるのだそうだ。
ちなみに今回向かうのは、前者の被験者だ。
五人いる体験入所者を三組に分け、それぞれ被験者の元へ向かう研究員についていくことになる。
レンはファルと二人、エルジュの組に入ることとなった。
他二班が出発し、レンたちも目的地へ足を向ける――が、その前に、エルジュがこちらを振り返った。
「レン、貴方はくれぐれも出先で、はしゃがないように」
そう釘を刺すと、彼は踵を返してしまう。
ぽかんとしたままのレンは、その背中をしばし見つめて、次いで同じく呆気に取られるファルの方を見た。
「……なんで、俺だけぇ?」
まあ、ファルは基本大人しいので、分からないでもないのだが……。
レンはどこか納得いかない顔で首を捻りながらも、慌ててエルジュの後を追ったのだった。
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 7
座学の日程はあっという間に過ぎていき――、三日後。
レンとファルを含む参加者たちは、研究所の前に集められていた。
「では、これから被験者の方の元へ向かいます」
エルジュの言葉に、緊張と不安で顔が強張っている者も多い中、レンは内心「やっとこの日が来た!」とガッツポーズをしていた。
三日間の講義が終了し、今日はいよいよ研究の被験者たちの元へ行くことになっている。
現在蛹期に入っている協力者たちの経過観察に同行させてもらう形だ。
蝶の民たちは蛹化すると、まず髪が一瞬で脱色する。それを合図に安全な場所を探したあと、そこで繭を形成するのだ。その繭に包まれている期間が蛹期と呼ばれ、約三ヶ月から半年間を繭の中で過ごす。
繭の中では、一度肉体が重要な生命維持器官を残して液状に溶け、その後身体が再構築されることで、羽化をする。
一般的に羽化した蝶の民は、髪色が変化し、容姿が整う。まさに、芋虫が蝶に変化するかのごとく、だ。
また、魔法の才に目覚めたり、運動能力が向上したり、とこちらは個人差が大きいものの、総じて身体機能の改善が発生しやすい。
ともかく、蛹期の蝶の民は、かなりデリケートなのだ。下手な刺激は中の人間を殺しかねないため、研究は細心の注意を払われている。
他国での非人道的な研究は、蝶の民に起こる肉体の再構築を人為的に行い、より望む肉体へと変化することを目的としている――らしい。
レンから言わせれば、自身の肉体強化ごときのために、この美しい生態を持つ蝶の民たちを殺したのかと、全く理解に苦しむ話だった。
一方、蝶の国での研究は、むしろ医療行為に近いものがある。
自然界での蝶の羽化が失敗することもあるように、蝶の民も羽化に失敗して死んでしまうことが稀にある。蝶の民研究は、そういった羽化の失敗率を下げ、より安全に、より健やかに、蝶の民が生きていくことを目的としていた。
今回同行する被験者の定期観察も、そういった羽化の失敗を回避するためのものだ。
被験者は、事前に本人の許可を得て観察させてもらっている対象も多いが、中には蛹期の序盤に異変が起こり、家族から助けを求められて、という場合もあるのだそうだ。
ちなみに今回向かうのは、前者の被験者だ。
五人いる体験入所者を三組に分け、それぞれ被験者の元へ向かう研究員についていくことになる。
レンはファルと二人、エルジュの組に入ることとなった。
他二班が出発し、レンたちも目的地へ足を向ける――が、その前に、エルジュがこちらを振り返った。
「レン、貴方はくれぐれも出先で、はしゃがないように」
そう釘を刺すと、彼は踵を返してしまう。
ぽかんとしたままのレンは、その背中をしばし見つめて、次いで同じく呆気に取られるファルの方を見た。
「……なんで、俺だけぇ?」
まあ、ファルは基本大人しいので、分からないでもないのだが……。
レンはどこか納得いかない顔で首を捻りながらも、慌ててエルジュの後を追ったのだった。
2025/09/20 00:00:00
#誓約の姫 オープニング2
//背景:アシュフォード邸・廊下・昼
???「姉上? 今日は部屋で本を読んでお過ごしだったのでは?」
マリア「アレス……。それが、お父様に呼ばれてしまって」
アレス「父上に? そうですか……。もしかして、あの話かな……」
マリア「『あの話』……?」
アレス「……いえ、僕の口からは。違うかもしれませんし」
マリア(アレスもオリヴィエも、どうしてそんな顔をするのかしら……)
アレス「すみません。不安にさせましたね。大丈夫ですよ。父上が姉上を不幸せにするような選択をなさるはずがないでしょう?」
マリア「それは……、そうだけれど」
アレス「さあ、もう行ってください。父上をお待たせしているのでしょう?」
マリア「え、ええ……」
アレス「オリヴィエ、姉上を頼んだよ」
オリヴィエ「もちろんでございます、アレス様」
//アレス:消去
マリア「…………」
オリヴィエ「さあ、参りましょうか。お嬢様?」
マリア「……そうね」
//場転エフェクト
アレスと別れたマリアは、不安な気持ちのまま、ついに父ロベルトの書斎へと辿り着いた。
//SE:ノックの音
オリヴィエ「旦那様、マリアお嬢様をお連れいたしました」
ロベルト「うむ、入ってきなさい」
//アシュフォード邸・書斎・昼
オリヴィエに背を押されるように、マリアは書斎の中へと足を踏み入れた。
マリア(お父様のご様子は、普段と変わらないわ……)
普段と同じ優しい笑みを浮かべる父に安堵しつつ、マリアはおそるおそる問いかけた。
マリア「お父様、お話って? 急にどうなさいましたの?」
ロベルト「うん。実は、これから内々に王宮へ招かれていてね。お前もぜひ一緒に、とのことで、呼んでもらったんだ」
マリア「わ、私もですか?」
ロベルト「そうだよ。早く支度をしてくるといい。急な呼びたてだから、と服装は拘らないそうだから」
マリア「えっと、わかりました……」
マリアは困惑しつつも、支度のため部屋に戻ろうとする。
マリア(お父様……、とってもご機嫌でらっしゃるわ……)
父が嬉しそうなのは、決して悪いことではないはずなのに。
マリアは言い知れぬ不安が膨らむのを感じていた。
//背景:アシュフォード邸・廊下・昼
???「姉上? 今日は部屋で本を読んでお過ごしだったのでは?」
マリア「アレス……。それが、お父様に呼ばれてしまって」
アレス「父上に? そうですか……。もしかして、あの話かな……」
マリア「『あの話』……?」
アレス「……いえ、僕の口からは。違うかもしれませんし」
マリア(アレスもオリヴィエも、どうしてそんな顔をするのかしら……)
アレス「すみません。不安にさせましたね。大丈夫ですよ。父上が姉上を不幸せにするような選択をなさるはずがないでしょう?」
マリア「それは……、そうだけれど」
アレス「さあ、もう行ってください。父上をお待たせしているのでしょう?」
マリア「え、ええ……」
アレス「オリヴィエ、姉上を頼んだよ」
オリヴィエ「もちろんでございます、アレス様」
//アレス:消去
マリア「…………」
オリヴィエ「さあ、参りましょうか。お嬢様?」
マリア「……そうね」
//場転エフェクト
アレスと別れたマリアは、不安な気持ちのまま、ついに父ロベルトの書斎へと辿り着いた。
//SE:ノックの音
オリヴィエ「旦那様、マリアお嬢様をお連れいたしました」
ロベルト「うむ、入ってきなさい」
//アシュフォード邸・書斎・昼
オリヴィエに背を押されるように、マリアは書斎の中へと足を踏み入れた。
マリア(お父様のご様子は、普段と変わらないわ……)
普段と同じ優しい笑みを浮かべる父に安堵しつつ、マリアはおそるおそる問いかけた。
マリア「お父様、お話って? 急にどうなさいましたの?」
ロベルト「うん。実は、これから内々に王宮へ招かれていてね。お前もぜひ一緒に、とのことで、呼んでもらったんだ」
マリア「わ、私もですか?」
ロベルト「そうだよ。早く支度をしてくるといい。急な呼びたてだから、と服装は拘らないそうだから」
マリア「えっと、わかりました……」
マリアは困惑しつつも、支度のため部屋に戻ろうとする。
マリア(お父様……、とってもご機嫌でらっしゃるわ……)
父が嬉しそうなのは、決して悪いことではないはずなのに。
マリアは言い知れぬ不安が膨らむのを感じていた。
2025/09/16 00:00:00
作品一覧
改稿版更新中
玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
初稿更新終了
ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
玉座の憧憬 アレイスト×セレンIF:小説・男女恋愛・バッドエンド・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 アレイスト×セレンIF:小説・男女恋愛・バッドエンド・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
初稿更新中
改稿版完結
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 6
ロウェルの予想通り、アレイストの縁談はトントン拍子に進んだ。
アミリアの調査が終了した後、一ヶ月も経たないうちに婚約式が行われ、その半年後に婚礼が行われることも決まった。
今年十八歳となるアミリアは、貴族令嬢としてはそろそろ嫁き遅れの心配をされる年齢だ。そのことも考慮されてか、王族の結婚としては異例なほど様々なことが急速に進んでいる。
慌ただしく日々が過ぎる中で、アレイストとロウェルの関係だけが変わらない。
いつ、これで終わりだと言われるのか、毎夜覚悟をして行くのに、何もないまま時間だけが過ぎていた。
そうして、とうとう――婚礼を明日に控える夜となっていた。
いつものように窓から部屋へと身体を滑り込ませる。
アレイストが背を向けて横たわるベッドへ静かに腰掛けると、彼の手がロウェルのシャツを掴んだ。
「…………遅い」
「ごめん」
そのまま、二人とも動こうとする気配すらない。
いつもならアレイストが億劫そうに起き上がって、ロウェルは命じられる前に服を脱ぐ。
だが、今夜はただじっとして、互いの呼吸音だけがする。
俺は、この関係を終わらせたくないのだろうか――。
彼に妻が出来た後まで、二人の関係が秘密のままでいられるはずもない。
明日以降、アレイストはアミリアと床を共にする。彼が本心でどう感じているのかにかかわらず、それは決定事項だ。
ならば今夜、アレイストは選ばなければならない。
ロウェルと以前の関係に戻るのか、男の愛人がいることを公表するのか、それとも――
「アレイスト」
名を呼んでも、彼は顔を上げようとはしなかった。
「アミリア嬢はできた令嬢だな」
アレイストは顔だけ少しこちらに向けて、ロウェルを睨んだ。
お前に言われるまでもない、という顔だ。
ロウェルは苦笑してアレイストの髪を撫でる。いつもはすぐさま払い除けられる手は、何故か今日はそのままだ。
「妻となる女性を大事にすべきだ。お前も分かってるだろ」
「――ッ、」
アレイストが息を飲んで、急に身体を起こした。
頭に乗せていた手は、いつもよりきつく叩き落されて、爪が掠ったのか手の甲に赤い筋ができた。
ようやくロウェルを真正面から見たアレイストの目つきは鋭かった。
「説教はたくさんだ。何が言いたい」
「……夜、こうして会うのはやめよう」
きっと、彼もロウェルが何を言いたいのかなど分かっていたはずだ。それでも、はっきりと言葉に乗せる。
「そうやってまた、私から離れようとするのか」
暗い、憎しみさえ混じっているのでは思えるほど、絞り出すように落とされた声に、ロウェルもたじろいでしまう。
だが、これからのアレイストのためにも、この一線は引かねばならない。
「アレイスト、お前は王太子――未来の王だ。瑕疵のない王妃との円満な関係と、男の愛人を囲っているという醜聞……。どちらを取るかなんて、分かりきってるだろ?」
ロウェルは当たり前のことを、ただ口にしただけのつもりだった。
しかし、それを告げた次の瞬間、ほんの一瞬――見間違いかと思えるほど一瞬だけ、アレイストは酷く傷付いた顔をした。
「アレ――」
「ああ、そうだな」
自分が何かとても酷いことを言った気がして、かけようとした声を、俯いたアレイストが打ち消すように呟いた。
そして、突然、床に突き飛ばされ、更に枕を投げつけられる。
「な、にす……」
座った状態から押し出されただけで、当たった枕もやわらかい。怪我や痛みはないが、あまりに突然のことすぎて、心が追いつかない。
反射的に言い返そうとしてロウェルは振り返ったが、そこにいるアレイストの表情を見て、言葉が途切れた。
歯を食いしばり、怒りを抑えようとしてか肩で息をしていた。だがなによりも、その目が――今にも泣きそうで。
「お前はいつも正しい! いつも! でも、私は……っ」
アレイストはそこで言葉を詰まらせ、また枕を投げつけてきた。
そして、叫ぶ。
「もういい! お前なんていらない!! どこへでも行ってしまえっ!!」
「アレイスト……」
「出てけよ! もう、私の前に姿を見せるな!!」
「――っ、……」
ロウェルは口を閉じると、立ち上がって彼に背を向けた。
外へ出ると窓を閉める。
振り返りたい気持ちをどうにか堪えて、そのままその場を立ち去った。
それ以来、ロウェルはアレイストと顔を合わせることはなくなった。
彼の「でも、私は」の続きは何だったのだろう。
それだけが、心の片隅にひっかかり続けたまま。