初稿置き場
2026/02/01 14:21:53
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 15
家に戻るまで、アレイストたちは互いに無言だった。
歩調の遅い自分に合わせた歩みは、じれったくなるほど長く感じて、言い知れぬ焦燥が募る。
セレンティーネの見せた、穏やかな微笑みが、心に引っかかっていたのも原因かもしれない。
王族の軛、周囲の期待、諸々のものに囚われ藻掻いていたのに、彼女一人だけ抜け出して手の届かない所へいってしまったような気がして。
自分はまだ囚われたまま。
考えないように、見ないように、そう振る舞っていただけだ。
長い時間をかけて家まで辿り着き、玄関扉を締める。
すると、それまでまるで我慢していたかのように、涙が次々に零れ落ちる。
「ロウェル……」
涙を流れ落ちるままに、アレイストは振り返った彼を見上げた。
「……たすけて」
腕を伸ばせば抱き上げられる。
彼の首にぎゅっと抱きついて懇願する。
「もう……、なにもかんがえたくない」
ロウェルはアレイストが願えばなんでも叶えてくれる。
彼の罪悪感に付け込んで、依存することでしか生きられなくなった自分は、姉の目にはどんな風に映っていたのだろう。
そんなことを思いながら。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 15
家に戻るまで、アレイストたちは互いに無言だった。
歩調の遅い自分に合わせた歩みは、じれったくなるほど長く感じて、言い知れぬ焦燥が募る。
セレンティーネの見せた、穏やかな微笑みが、心に引っかかっていたのも原因かもしれない。
王族の軛、周囲の期待、諸々のものに囚われ藻掻いていたのに、彼女一人だけ抜け出して手の届かない所へいってしまったような気がして。
自分はまだ囚われたまま。
考えないように、見ないように、そう振る舞っていただけだ。
長い時間をかけて家まで辿り着き、玄関扉を締める。
すると、それまでまるで我慢していたかのように、涙が次々に零れ落ちる。
「ロウェル……」
涙を流れ落ちるままに、アレイストは振り返った彼を見上げた。
「……たすけて」
腕を伸ばせば抱き上げられる。
彼の首にぎゅっと抱きついて懇願する。
「もう……、なにもかんがえたくない」
ロウェルはアレイストが願えばなんでも叶えてくれる。
彼の罪悪感に付け込んで、依存することでしか生きられなくなった自分は、姉の目にはどんな風に映っていたのだろう。
そんなことを思いながら。
2026/02/01 14:20:50
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 14
もちろん、アレイストは反射的に逃げようとした。
だが、彼女から逃げ切れる足などあるはずもなく、足が縺れて転びそうになった所を助けられるという有り様だった。
そして、現在。
アレイストは街中にある茶店の個室で、セレンティーネと向かい合っていた。
「で。何故、誘拐された王太子殿下がこんなところにいるんだ」
人払いされた室内には、二人の他は誰もいない。
「姉上こそ……」
「私はお忍びで視察だ。アキュイラの治水事業の参考にしようと」
どうやら旅行名目で、仕事をしにきたらしい。まだこの街の領主とは会っておらず、普段の様子を見に来たようだ。どうりで周囲に彼女以外の誰もいないはずである。
それがひとまずはアレイストに幸いしているが、その幸運が続くかはこれからの交渉次第だ。
しかし、「誘拐」されたのも、それにもかかわらず他国のふらふらしていたのも事実であるため、上手い誤魔化し方がまったく浮かばない。
黙り込んでいると、セレンティーネが嘆息する。
「私は話したぞ。お前はどうなんだ」
「それは、その……」
セレンティーネは、答えられないでいるアレイストを、じっと見つめる。
「『誘拐』が狂言……、なわけはないな。実際お前はここにいるのだし。じゃあ、お前は納得して連れ去られた?」
「……っ」
アレイストは相変わらず何も答えられなかったが、その沈黙は肯定と同じだった。
セレンティーネの物言いたげな視線を感じながら、アレイストは思う。
国にいた頃なら、きっと彼女を煙に巻くようなことを言えたはずだ。
もう、「王太子」の仮面をつけることすらできないのか。
そう気付いて、少なくない衝撃を受ける。
「……恋人か?」
「っ、ちが……、あいつはそんなんじゃ……!」
反射的に言い返して、頬が赤らんだ。「恋人」などではないが、「誰か」がいると白状したようなものだ。
セレンティーネも、目を丸くしていた。
「……変わったな、アレイスト」
ぽかんとしたままセレンティーネが言う。驚いてはいるようだが、その声音に嫌悪は感じられない。
アレイストは彼女の視線から逃れるように目を逸らして言った。
「それは貴女もでしょう、姉上。昔の貴女なら、王族の責務を放り出していなくなった僕に、憤りを覚えていたはずです」
「……たしかに」
セレンティーネの目が、昔を思い出すように細められた。
「アキュイラに行ったばかりの頃の私なら、これ幸いと王都に戻っていたかもな」
「今は違うんですか」
「まあ……、次世代もいることだし。何より、アキュイラに置いていけないものが沢山できたから」
そういって、笑みを浮かべるセレンティーネは、アレイストが見たこともない顔をしていた。
穏やかで、満ち足りていて、城にいた頃のピリピリとした空気は微塵もない。
姉が、どこか遠くへ行ってしまったような、そんな気がした。
その時、外で店員と誰かが揉めるような声がして、アレイストは顔を上げる。
その瞬間、部屋の扉が開け放たれる。
「アレイスト!」
入ってきたのは、ロウェルだ。ハッとして時間を確認すると、昼などとっくに回ってしまっていた。
部屋の中へ入ってきたロウェルは、アレイストの腕を引いて、きつく抱き締める。
「ちょ……」
苦しい、と背中を叩くが、彼は腕を解いてはくれない。アレイストを腕の中に閉じ込めたまま、セレンティーネの方を見る。
「……セレンティーネ殿下」
殆ど睨むような目を向けられたはずのセレンティーネは、ぱちりと目を瞬かせると、アレイストとロウェルの顔を交互に見て、納得したように頷いた。
「なるほど。貴方が『あいつ』か」
そしてセレンティーネは、にっこり笑って立ち上がると、アレイストたちに背を向けて歩き出した。
部屋を出るところで立ち止まって、振り返る。
「今日は楽しい時間をありがとう。いなくなった弟と似た青年と話せて感無量だ。ではな」
それだけ言うと、ぽかんとする二人を置いて、彼女は去っていった。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 14
もちろん、アレイストは反射的に逃げようとした。
だが、彼女から逃げ切れる足などあるはずもなく、足が縺れて転びそうになった所を助けられるという有り様だった。
そして、現在。
アレイストは街中にある茶店の個室で、セレンティーネと向かい合っていた。
「で。何故、誘拐された王太子殿下がこんなところにいるんだ」
人払いされた室内には、二人の他は誰もいない。
「姉上こそ……」
「私はお忍びで視察だ。アキュイラの治水事業の参考にしようと」
どうやら旅行名目で、仕事をしにきたらしい。まだこの街の領主とは会っておらず、普段の様子を見に来たようだ。どうりで周囲に彼女以外の誰もいないはずである。
それがひとまずはアレイストに幸いしているが、その幸運が続くかはこれからの交渉次第だ。
しかし、「誘拐」されたのも、それにもかかわらず他国のふらふらしていたのも事実であるため、上手い誤魔化し方がまったく浮かばない。
黙り込んでいると、セレンティーネが嘆息する。
「私は話したぞ。お前はどうなんだ」
「それは、その……」
セレンティーネは、答えられないでいるアレイストを、じっと見つめる。
「『誘拐』が狂言……、なわけはないな。実際お前はここにいるのだし。じゃあ、お前は納得して連れ去られた?」
「……っ」
アレイストは相変わらず何も答えられなかったが、その沈黙は肯定と同じだった。
セレンティーネの物言いたげな視線を感じながら、アレイストは思う。
国にいた頃なら、きっと彼女を煙に巻くようなことを言えたはずだ。
もう、「王太子」の仮面をつけることすらできないのか。
そう気付いて、少なくない衝撃を受ける。
「……恋人か?」
「っ、ちが……、あいつはそんなんじゃ……!」
反射的に言い返して、頬が赤らんだ。「恋人」などではないが、「誰か」がいると白状したようなものだ。
セレンティーネも、目を丸くしていた。
「……変わったな、アレイスト」
ぽかんとしたままセレンティーネが言う。驚いてはいるようだが、その声音に嫌悪は感じられない。
アレイストは彼女の視線から逃れるように目を逸らして言った。
「それは貴女もでしょう、姉上。昔の貴女なら、王族の責務を放り出していなくなった僕に、憤りを覚えていたはずです」
「……たしかに」
セレンティーネの目が、昔を思い出すように細められた。
「アキュイラに行ったばかりの頃の私なら、これ幸いと王都に戻っていたかもな」
「今は違うんですか」
「まあ……、次世代もいることだし。何より、アキュイラに置いていけないものが沢山できたから」
そういって、笑みを浮かべるセレンティーネは、アレイストが見たこともない顔をしていた。
穏やかで、満ち足りていて、城にいた頃のピリピリとした空気は微塵もない。
姉が、どこか遠くへ行ってしまったような、そんな気がした。
その時、外で店員と誰かが揉めるような声がして、アレイストは顔を上げる。
その瞬間、部屋の扉が開け放たれる。
「アレイスト!」
入ってきたのは、ロウェルだ。ハッとして時間を確認すると、昼などとっくに回ってしまっていた。
部屋の中へ入ってきたロウェルは、アレイストの腕を引いて、きつく抱き締める。
「ちょ……」
苦しい、と背中を叩くが、彼は腕を解いてはくれない。アレイストを腕の中に閉じ込めたまま、セレンティーネの方を見る。
「……セレンティーネ殿下」
殆ど睨むような目を向けられたはずのセレンティーネは、ぱちりと目を瞬かせると、アレイストとロウェルの顔を交互に見て、納得したように頷いた。
「なるほど。貴方が『あいつ』か」
そしてセレンティーネは、にっこり笑って立ち上がると、アレイストたちに背を向けて歩き出した。
部屋を出るところで立ち止まって、振り返る。
「今日は楽しい時間をありがとう。いなくなった弟と似た青年と話せて感無量だ。ではな」
それだけ言うと、ぽかんとする二人を置いて、彼女は去っていった。
2026/02/01 14:20:00
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 13
ロウェルがアレイストの不在に気付くより少し前――。
アレイストは街中に張り巡らされた水路沿いを歩いていた。
市街地ほど人は多くないが、きちんと整備されていて治安も悪くないその場所は、アレイストにとって散策には都合が良かった。
難点を上げるとするならば、景色に代わり映えがないことくらいか。
少し前まで、体調を回復させるためにとベッドの住人となっていたアレイストは、今はその間に落ちてしまった筋力を回復させんと目下努力中だ。
ロウェルと二人、ぽつぽつと会話を交わしながら歩くのもいいが、たまには一人で気ままに過ごすのも悪くないな、なんて思う。
とはいえ、とアレイストは空を仰いだ。
太陽がかなり高い位置に差し掛かっている。ロウェルは昼頃には一度戻ると言っていたため、そろそろ帰宅しておかねば心配させてしまうだろう。
つい忘れてしまいそうになるが、自分たちは逃亡中の身だ。特に、アレイストの顔は追手となる王国兵に周知されているはずだ。自分があまりふらふらと出歩くのは良くない。
それを許してくれるロウェルは、かなり自分に甘い。
アレイストはふと周囲を見渡して、ここからどう帰るのが一番早いだろうかと計算して、そちらに方向を変えた。
一度大通りまで出ることに決めたアレイストは、徐々に耳に届きはじめた人のざわめきを、聞くともなく聞きながら歩調を速める。とはいっても、杖をつきながらなので限界はあるが。
だがその時、視界に印象的な銀髪が映って、思わず足を止めた。
輝く銀色の髪――。それは姉と同じ……。
「――姉、上?」
つい口からついて出た言葉に、その女が振り返って目を見開いた。
「アレイスト……?」
そこにいたのは、紛れもなく異母姉セレンティーネその人だった。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 13
ロウェルがアレイストの不在に気付くより少し前――。
アレイストは街中に張り巡らされた水路沿いを歩いていた。
市街地ほど人は多くないが、きちんと整備されていて治安も悪くないその場所は、アレイストにとって散策には都合が良かった。
難点を上げるとするならば、景色に代わり映えがないことくらいか。
少し前まで、体調を回復させるためにとベッドの住人となっていたアレイストは、今はその間に落ちてしまった筋力を回復させんと目下努力中だ。
ロウェルと二人、ぽつぽつと会話を交わしながら歩くのもいいが、たまには一人で気ままに過ごすのも悪くないな、なんて思う。
とはいえ、とアレイストは空を仰いだ。
太陽がかなり高い位置に差し掛かっている。ロウェルは昼頃には一度戻ると言っていたため、そろそろ帰宅しておかねば心配させてしまうだろう。
つい忘れてしまいそうになるが、自分たちは逃亡中の身だ。特に、アレイストの顔は追手となる王国兵に周知されているはずだ。自分があまりふらふらと出歩くのは良くない。
それを許してくれるロウェルは、かなり自分に甘い。
アレイストはふと周囲を見渡して、ここからどう帰るのが一番早いだろうかと計算して、そちらに方向を変えた。
一度大通りまで出ることに決めたアレイストは、徐々に耳に届きはじめた人のざわめきを、聞くともなく聞きながら歩調を速める。とはいっても、杖をつきながらなので限界はあるが。
だがその時、視界に印象的な銀髪が映って、思わず足を止めた。
輝く銀色の髪――。それは姉と同じ……。
「――姉、上?」
つい口からついて出た言葉に、その女が振り返って目を見開いた。
「アレイスト……?」
そこにいたのは、紛れもなく異母姉セレンティーネその人だった。
2026/02/01 14:18:31
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 12
とある国で起きた王太子殿下の誘拐事件。
城内から誰にも気取られぬまま成し遂げられたというそれは、半月ばかり経った今も、犯人の手がかりすら掴めていないらしい。
「……アミリア妃には感謝だなぁ」
ロウェルはウィレミニア国内に残してきた部下からの報告書を読みながら嘆息する。
もっとも、ロウェルがその「誘拐事件」の犯人だと知るのは極一部の人間であるため、この報告書も単なる王国の情勢に関する報告に過ぎない。
海を超えた別の国に居を移したロウェルの元に情報が届くまでには数日かかるが、今もアミリアがロウェルと遭遇したことを言っていないとなると、暫くは安心してよさそうだ。
その時、ふっと気配を感じてロウェルは振り返る。
「ロウェル……」
「おはよう、アレイスト」
シーツと左足を引き摺りながらこちらへ来るアレイストは、起きたばかりなのか、眠そうな目を擦っている。
海の見えるバルコニーから室内へと戻ると、アレイストが腰に巻き付いてきた。
「まだ眠いか? 朝食作るけど、食べられそ?」
「うぅん……」
ロウェルの肩に頭をぐりぐり押し付けつつ、アレイストは頷いた。ロウェルはそんな彼の身体を抱き上げて、ダイニングへと連れて行く。
椅子へ座らせて額に口付けると、ふにゃりと表情を緩める。
「うっ……」
そのままもう少しキスしていたいのをどうにか堪えて、キッチンへ向かう。
アレイストはここに来てから、とても甘えたになった。
ロウェルはそんな彼の変化に、いまだ慣れそうにもなかった。
「アレイスト、俺、今日は少し出かけるつもりなんだけど……。お前はどうする?」
あの夜、彼を連れ出した日から、アレイストも徐々に体調が回復している。ロウェルは彼の世話を主にしつつ、情報屋の国外拠点作りを細々とはじめていた。
夜もロウェルが傍にいればよく眠れるようで、彼を抱きしめて眠るのが日常となっていた。
――あの夜、アレイストが呟いた「抱いてほしい」という願いに関しては、お互い触れないまま、清い関係が続いている。
ロウェルとしては、アレイストが安心していられるならなんでもいい。
ただここは、海に面した街ということもあり、ウィレミニアからの来訪者も多い。彼の体力が回復し次第、居住地は移すつもりであったが――、概ね平和で穏やかな日々が続いていた。
「今日は……、少し散歩をしてくるよ」
アレイストの声に、ロウェルが振り返って首を傾げる。
「一緒じゃなくて平気か?」
足が悪い彼は、何かあった時走って逃げることもできない。目を離したところで何かあったら――、という不安は今も大きい。
だが、アレイストはくすりと笑って、肩を竦めた。
「過保護め。僕はもう子供じゃないぞ。ちょっと歩いてくるくらい平気だ。……お前が帰る頃には、ちゃんと家にいるから」
しかし、昼過ぎになってロウェルが戻った時、アレイストの姿はそこにはなかったのだ。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 12
とある国で起きた王太子殿下の誘拐事件。
城内から誰にも気取られぬまま成し遂げられたというそれは、半月ばかり経った今も、犯人の手がかりすら掴めていないらしい。
「……アミリア妃には感謝だなぁ」
ロウェルはウィレミニア国内に残してきた部下からの報告書を読みながら嘆息する。
もっとも、ロウェルがその「誘拐事件」の犯人だと知るのは極一部の人間であるため、この報告書も単なる王国の情勢に関する報告に過ぎない。
海を超えた別の国に居を移したロウェルの元に情報が届くまでには数日かかるが、今もアミリアがロウェルと遭遇したことを言っていないとなると、暫くは安心してよさそうだ。
その時、ふっと気配を感じてロウェルは振り返る。
「ロウェル……」
「おはよう、アレイスト」
シーツと左足を引き摺りながらこちらへ来るアレイストは、起きたばかりなのか、眠そうな目を擦っている。
海の見えるバルコニーから室内へと戻ると、アレイストが腰に巻き付いてきた。
「まだ眠いか? 朝食作るけど、食べられそ?」
「うぅん……」
ロウェルの肩に頭をぐりぐり押し付けつつ、アレイストは頷いた。ロウェルはそんな彼の身体を抱き上げて、ダイニングへと連れて行く。
椅子へ座らせて額に口付けると、ふにゃりと表情を緩める。
「うっ……」
そのままもう少しキスしていたいのをどうにか堪えて、キッチンへ向かう。
アレイストはここに来てから、とても甘えたになった。
ロウェルはそんな彼の変化に、いまだ慣れそうにもなかった。
「アレイスト、俺、今日は少し出かけるつもりなんだけど……。お前はどうする?」
あの夜、彼を連れ出した日から、アレイストも徐々に体調が回復している。ロウェルは彼の世話を主にしつつ、情報屋の国外拠点作りを細々とはじめていた。
夜もロウェルが傍にいればよく眠れるようで、彼を抱きしめて眠るのが日常となっていた。
――あの夜、アレイストが呟いた「抱いてほしい」という願いに関しては、お互い触れないまま、清い関係が続いている。
ロウェルとしては、アレイストが安心していられるならなんでもいい。
ただここは、海に面した街ということもあり、ウィレミニアからの来訪者も多い。彼の体力が回復し次第、居住地は移すつもりであったが――、概ね平和で穏やかな日々が続いていた。
「今日は……、少し散歩をしてくるよ」
アレイストの声に、ロウェルが振り返って首を傾げる。
「一緒じゃなくて平気か?」
足が悪い彼は、何かあった時走って逃げることもできない。目を離したところで何かあったら――、という不安は今も大きい。
だが、アレイストはくすりと笑って、肩を竦めた。
「過保護め。僕はもう子供じゃないぞ。ちょっと歩いてくるくらい平気だ。……お前が帰る頃には、ちゃんと家にいるから」
しかし、昼過ぎになってロウェルが戻った時、アレイストの姿はそこにはなかったのだ。
2026/02/01 14:17:46
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 11
ベッドに押さえつけられるように伸し掛かられて、唇を重ねる。
身体全体で感じる重みが心地いい。
「んっ……、ぁ、ロウェル……」
「なに?」
「さわって」
頭がふわふわとする。
アレイストはキスを繰り返しながら、服を捲りあげて腹を辿る彼の指に腰をくねらせる。
「あっ……!」
その指が胸まで到達して、そこにある尖りをきゅっと抓まれると、声が漏れた。
「ん、ぅ……」
ぞくぞくと背筋が震える。息が上がって、手が震えた。
でも、やめてほしくない。
首筋を辿る舌、胸をいじる指に腰が浮く。
身体が熱い。でも、もっとほしい。
アレイストは、ロウェルの手をそっと掴んで、下方へ導いた。何を求めているの察したその手は、するりとズボンの中へ滑り込む。
太腿を熱い手の平がすべる。そうしながら、アレイストの下肢の方へと移動したロウェルは、ズボンの縁を噛んで、ずらす。その隙間から勃ち上がった陰茎がまろび出た。
ロウェルはそれをじっと見た後、おもむろに口を開いた。
「っ――!」
何をする気なのか察して、反射的に腰を引こうとするが、がっしりと押さえられていて身動きが取れなかった。
「っ、あ!」
ロウェルの舌が裏筋をなぞる。くびれたところを辿って、ちゅっと先端を吸った。
「や、まっ……、ああっ……ん!」
手と舌とで翻弄される。唾液のぬるりとした感触と、肌が擦れる刺激に腰がビリビリと痺れる。
左足はロウェルの腕に抱えられ、右足は快感を逃がそうとしてシーツを掻いた。
「ふ、ぅ……、ん、っあ、ああ……っ」
ロウェルは何も言わない。ただ、太腿を撫でる手は、酷く優しかった。
「あっ、も、はなして……!」
そう口走るが、こんな時ばかりこちらの言葉を聞いてくれなかった。
むしろ射精を促すように、弱いところを舌で突いた。
「んんっ――!!」
成す術なくロウェルの口の中に精を放つ。
肩で息をしながら下方を見ると、残滓まで残さぬようにちゅっと吸いながら陰茎から口を離すロウェルが見えた。すぐ後には、それを嚥下する音も聞こえる。
「ロウェル……」
口元を手で拭った彼は、名を呼ばれたのに気付いていた目を瞬かせる。
「どした?」
頬に、まるでアレイストを愛おしむかのようにキスをされる。
きゅうっと胸が軋んで、彼の首に腕を回した。
「もっと……、キスして、……――抱いてほしい」
囁くように願いを呟くと、ロウェルは一瞬息を飲んだ気がした。
「もう少し、元気になったらな」
彼は幼子にするように、アレイストの頭を撫でて目蓋にキスを落とした。
やだ、今すぐに……。
そう口にしたつもりだったが、音にはならず、アレイストはあっという間に夢の世界へ落ちていった。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 11
ベッドに押さえつけられるように伸し掛かられて、唇を重ねる。
身体全体で感じる重みが心地いい。
「んっ……、ぁ、ロウェル……」
「なに?」
「さわって」
頭がふわふわとする。
アレイストはキスを繰り返しながら、服を捲りあげて腹を辿る彼の指に腰をくねらせる。
「あっ……!」
その指が胸まで到達して、そこにある尖りをきゅっと抓まれると、声が漏れた。
「ん、ぅ……」
ぞくぞくと背筋が震える。息が上がって、手が震えた。
でも、やめてほしくない。
首筋を辿る舌、胸をいじる指に腰が浮く。
身体が熱い。でも、もっとほしい。
アレイストは、ロウェルの手をそっと掴んで、下方へ導いた。何を求めているの察したその手は、するりとズボンの中へ滑り込む。
太腿を熱い手の平がすべる。そうしながら、アレイストの下肢の方へと移動したロウェルは、ズボンの縁を噛んで、ずらす。その隙間から勃ち上がった陰茎がまろび出た。
ロウェルはそれをじっと見た後、おもむろに口を開いた。
「っ――!」
何をする気なのか察して、反射的に腰を引こうとするが、がっしりと押さえられていて身動きが取れなかった。
「っ、あ!」
ロウェルの舌が裏筋をなぞる。くびれたところを辿って、ちゅっと先端を吸った。
「や、まっ……、ああっ……ん!」
手と舌とで翻弄される。唾液のぬるりとした感触と、肌が擦れる刺激に腰がビリビリと痺れる。
左足はロウェルの腕に抱えられ、右足は快感を逃がそうとしてシーツを掻いた。
「ふ、ぅ……、ん、っあ、ああ……っ」
ロウェルは何も言わない。ただ、太腿を撫でる手は、酷く優しかった。
「あっ、も、はなして……!」
そう口走るが、こんな時ばかりこちらの言葉を聞いてくれなかった。
むしろ射精を促すように、弱いところを舌で突いた。
「んんっ――!!」
成す術なくロウェルの口の中に精を放つ。
肩で息をしながら下方を見ると、残滓まで残さぬようにちゅっと吸いながら陰茎から口を離すロウェルが見えた。すぐ後には、それを嚥下する音も聞こえる。
「ロウェル……」
口元を手で拭った彼は、名を呼ばれたのに気付いていた目を瞬かせる。
「どした?」
頬に、まるでアレイストを愛おしむかのようにキスをされる。
きゅうっと胸が軋んで、彼の首に腕を回した。
「もっと……、キスして、……――抱いてほしい」
囁くように願いを呟くと、ロウェルは一瞬息を飲んだ気がした。
「もう少し、元気になったらな」
彼は幼子にするように、アレイストの頭を撫でて目蓋にキスを落とした。
やだ、今すぐに……。
そう口にしたつもりだったが、音にはならず、アレイストはあっという間に夢の世界へ落ちていった。
2026/02/01 14:16:13
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 10
顔に当たる風が冷たい。
ロウェルの腕に抱き上げられたまま見る夜の景色は、あっという間に通り過ぎていく。
アレイストは、彼の身体にしっかりと抱きつきながら目を閉じる。
八年前のあの日――、いや、もっと以前から、本当はこうしてほしかったのかもしれない。
置いていかないで。傍にいて。独りはさみしい。
素直に口にすることのできなかった言葉たちも、ようやく報われるのだろうか。
ロウェルはいつも優しく、大人だった。
それは、ずっと変わらない。
崖から滑落し――、今思えば彼も自分と変わらぬほど動揺していたのだと思う。
薄れる意識の中でロウェルの姿が遥か上方に見えて、すぐにいなくなった。
置いていかれたのだと思った時の絶望は、今も心にこびりついている。
たとえそれが、後で冷静になった時、単に大人を呼びに行ったのだと理解したとしても。
『申し訳ありませんでした』
気安い仲だと思っていた年長の少年から、そのような謝罪を受け……、酷く悲しかったというのも、無関係ではないはずだ。
あの日からボタンをかけ違ったまま、今日まで来てしまった。
当時は二人とも幼かったのだと、真に理解できたのは、近い年頃となった二人の息子を見たせいだ。
幼かった。そして精神が幼いまま、ロウェルに甘えた。
いつかまた、自分は「置いていかれる」のではないかと怖くて試した。
彼が何もかも受け入れてくれることに安心して、同時にこんな姿が見たかったわけじゃないと泣いて。それでも、世話を焼いて、隣にいてくれるから眠ることができた。
あの日、出ていけと、姿を見せるなと、そう言ったのは、彼から捨てられるのが怖かったからだ。
こちらを振り返ることなく去っていく背中に、本当は追い縋りたかった。
けれど、そうする資格がないことも分かっていたから、身体が動かなかった。
だって、彼はやっと「アレイスト」という重荷から解放されるんだから。
しかしそれと引き換えのように、あの夜以降、アレイストは満足に眠ることができなくなった――。
「……ロウェル」
「ん?」
ロウェルはとある建物の前で足を止めると、迷いなくその中に入っていく。
「どうして、来たんだ」
八年前、ロウェルを理不尽に突き放した後、もう彼に依存するのは止めようと決めたはずだった。
数年はそれで上手くいっていたのだ。妻アミリアのことは家族として愛していたし、息子たちも可愛かった。けれど、優しく温厚な人物像を演じ続け、自分自身でも元からそんな人間だったかのような錯覚を覚えはじめた頃には、心が疲弊しきっていたのだろう。
どこか自分がおかしくなっているのは気付いていたが、足を止めるわけにはいかなかったから。
そうして、身体が限界を迎えた。
会議の途中、立ち上がった瞬間に突然意識が遠のいて、気が付くと床の上だった。その後、アミリアに休むよう懇願され――、糸が切れてしまった。
心と身体に溜まった疲労をようやく自覚して、泥のように眠った。
そうして目が覚めた時、まるで八年前のあの日をやり直すかのように、ロウェルが窓から入ってきたのだ。
夢だと思った。
夢だと思っていたから、簡単に彼の言葉に頷いたのに。
アレイストを抱えたままのロウェルは、階段を上って、部屋の扉を開けた。そして、そのままベッドに腰掛けて息をつく。
「どうして来たのか、か……。どうしてだろうな」
ロウェルはアレイストの背中を撫でて、次の瞬間ぎゅっと強く抱き締める。
「ただ、一目……会いたかった」
「……なんで」
ロウェルの言葉が理解できない。
こんな我儘で面倒な相手、離れられて清々したのではないのか。いるだけで、彼の罪悪感につけ込むような存在など、いない方が。
ロウェルがアレイストの髪を梳く。本当は、このやわらかい手が、とても好きだった。
「前、言ったよな。俺の全てがお前のものだって」
アレイストは、ロウェルの肩に顔を押し付けて、服をぎゅっと握った。
もちろん覚えている。
自身の不注意で起こった出来事が、彼を縛り付けているのを象徴しているように聞こえて、嫌で堪らないのに、同時に安堵も覚える自分に心底失望した言葉だ。
だが、ロウェルの声には責めるような響きはなく、何故か少し照れたような声で続けた。
「だからさ、俺……お前がいなきゃ駄目だったんだよ。お前がいなきゃ、生きている意味を見出だせない」
アレイストは、驚きのあまり声も出せずに絶句した。
けれど、今度は「嫌」だったからではない。むしろ――
「――えっと、とりあえず今日はもう寝ろよ。これからのことはまた明日考えればいい」
アレイストの沈黙をどう受け取ったのか、ロウェルは早口でそう言うと、アレイストの身体をサッと抱き上げて、ベッドに寝かせた。
そして、距離を取ろうとする――が、アレイストは彼の服を掴んで引っ張った。
「お、おい、アレイスト……?」
「……ロウェル」
腕を掴み、肩を引き寄せる。戸惑った様子のロウェルを横目に見ながら、アレイストは彼の唇に自分のものを押し当てた。
「っ!?」
ロウェルが息を飲む。
だがアレイストはそれに構わず、彼の唇を食んで、舌でなぞった。
「ア、アレイスト……」
生唾を飲み込むロウェルの喉に移動して、首筋を強く吸った。
何故、こんなことをしているのかなど、自分でも分からない。ただ、浮かんでくる感情のままに言った。
「お前は私のものなんだろ?」
「あ、ああ……」
「なら、僕も……お前のものになりたい」
骨の髄まで、余す所なく、全てロウェルのものに。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 10
顔に当たる風が冷たい。
ロウェルの腕に抱き上げられたまま見る夜の景色は、あっという間に通り過ぎていく。
アレイストは、彼の身体にしっかりと抱きつきながら目を閉じる。
八年前のあの日――、いや、もっと以前から、本当はこうしてほしかったのかもしれない。
置いていかないで。傍にいて。独りはさみしい。
素直に口にすることのできなかった言葉たちも、ようやく報われるのだろうか。
ロウェルはいつも優しく、大人だった。
それは、ずっと変わらない。
崖から滑落し――、今思えば彼も自分と変わらぬほど動揺していたのだと思う。
薄れる意識の中でロウェルの姿が遥か上方に見えて、すぐにいなくなった。
置いていかれたのだと思った時の絶望は、今も心にこびりついている。
たとえそれが、後で冷静になった時、単に大人を呼びに行ったのだと理解したとしても。
『申し訳ありませんでした』
気安い仲だと思っていた年長の少年から、そのような謝罪を受け……、酷く悲しかったというのも、無関係ではないはずだ。
あの日からボタンをかけ違ったまま、今日まで来てしまった。
当時は二人とも幼かったのだと、真に理解できたのは、近い年頃となった二人の息子を見たせいだ。
幼かった。そして精神が幼いまま、ロウェルに甘えた。
いつかまた、自分は「置いていかれる」のではないかと怖くて試した。
彼が何もかも受け入れてくれることに安心して、同時にこんな姿が見たかったわけじゃないと泣いて。それでも、世話を焼いて、隣にいてくれるから眠ることができた。
あの日、出ていけと、姿を見せるなと、そう言ったのは、彼から捨てられるのが怖かったからだ。
こちらを振り返ることなく去っていく背中に、本当は追い縋りたかった。
けれど、そうする資格がないことも分かっていたから、身体が動かなかった。
だって、彼はやっと「アレイスト」という重荷から解放されるんだから。
しかしそれと引き換えのように、あの夜以降、アレイストは満足に眠ることができなくなった――。
「……ロウェル」
「ん?」
ロウェルはとある建物の前で足を止めると、迷いなくその中に入っていく。
「どうして、来たんだ」
八年前、ロウェルを理不尽に突き放した後、もう彼に依存するのは止めようと決めたはずだった。
数年はそれで上手くいっていたのだ。妻アミリアのことは家族として愛していたし、息子たちも可愛かった。けれど、優しく温厚な人物像を演じ続け、自分自身でも元からそんな人間だったかのような錯覚を覚えはじめた頃には、心が疲弊しきっていたのだろう。
どこか自分がおかしくなっているのは気付いていたが、足を止めるわけにはいかなかったから。
そうして、身体が限界を迎えた。
会議の途中、立ち上がった瞬間に突然意識が遠のいて、気が付くと床の上だった。その後、アミリアに休むよう懇願され――、糸が切れてしまった。
心と身体に溜まった疲労をようやく自覚して、泥のように眠った。
そうして目が覚めた時、まるで八年前のあの日をやり直すかのように、ロウェルが窓から入ってきたのだ。
夢だと思った。
夢だと思っていたから、簡単に彼の言葉に頷いたのに。
アレイストを抱えたままのロウェルは、階段を上って、部屋の扉を開けた。そして、そのままベッドに腰掛けて息をつく。
「どうして来たのか、か……。どうしてだろうな」
ロウェルはアレイストの背中を撫でて、次の瞬間ぎゅっと強く抱き締める。
「ただ、一目……会いたかった」
「……なんで」
ロウェルの言葉が理解できない。
こんな我儘で面倒な相手、離れられて清々したのではないのか。いるだけで、彼の罪悪感につけ込むような存在など、いない方が。
ロウェルがアレイストの髪を梳く。本当は、このやわらかい手が、とても好きだった。
「前、言ったよな。俺の全てがお前のものだって」
アレイストは、ロウェルの肩に顔を押し付けて、服をぎゅっと握った。
もちろん覚えている。
自身の不注意で起こった出来事が、彼を縛り付けているのを象徴しているように聞こえて、嫌で堪らないのに、同時に安堵も覚える自分に心底失望した言葉だ。
だが、ロウェルの声には責めるような響きはなく、何故か少し照れたような声で続けた。
「だからさ、俺……お前がいなきゃ駄目だったんだよ。お前がいなきゃ、生きている意味を見出だせない」
アレイストは、驚きのあまり声も出せずに絶句した。
けれど、今度は「嫌」だったからではない。むしろ――
「――えっと、とりあえず今日はもう寝ろよ。これからのことはまた明日考えればいい」
アレイストの沈黙をどう受け取ったのか、ロウェルは早口でそう言うと、アレイストの身体をサッと抱き上げて、ベッドに寝かせた。
そして、距離を取ろうとする――が、アレイストは彼の服を掴んで引っ張った。
「お、おい、アレイスト……?」
「……ロウェル」
腕を掴み、肩を引き寄せる。戸惑った様子のロウェルを横目に見ながら、アレイストは彼の唇に自分のものを押し当てた。
「っ!?」
ロウェルが息を飲む。
だがアレイストはそれに構わず、彼の唇を食んで、舌でなぞった。
「ア、アレイスト……」
生唾を飲み込むロウェルの喉に移動して、首筋を強く吸った。
何故、こんなことをしているのかなど、自分でも分からない。ただ、浮かんでくる感情のままに言った。
「お前は私のものなんだろ?」
「あ、ああ……」
「なら、僕も……お前のものになりたい」
骨の髄まで、余す所なく、全てロウェルのものに。
2026/02/01 14:15:21
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 9
その道程は、八年前と驚くほど同じだった。
城内へ忍び込み、アレイストの部屋の窓辺に辿り着く。
療養のためか、彼は夫婦の寝室ではなく、私室――彼と身体を重ね、そして決別したあの部屋にアレイストはいた。
音を立てぬように窓を開けて、身体を滑り込ませる。
こんな深夜だ。アレイストは眠っているだろう。気配を消して忍び込んだロウェルに気付くはずもない。
だから、顔だけ見て、生きていることに安心して、そして立ち去るつもりだったのだ。
しかし――、
「…………ロウェル……?」
記憶にあるより随分弱々しい声が聞こえた。
驚いて目を見開くと、そこにはベッドから身体を起こしたアレイストがいた。
細く、なった。
八年の歳月が流れ、相応に歳をとっているが、それ以上に痩せた身体が目立つ。
一目で病気だと思うほどでは、まだなかったが、それでもロウェルに衝撃を与えるには十分だった。
だが、ロウェルの驚きはそれだけで終わらなかった。
ロウェルと目が合ったアレイストは、唐突にその目に涙を浮かべて、ボロボロと泣き出したのだ。
「っ!?」
「お…そい……!」
しゃくり上げながら、いつかと同じ言葉をアレイストは叫んだ。
その言葉に押されるように、ロウェルは足を踏み出す。
「……ごめん」
八年前とまったく同じ言葉を返しながら、ロウェルは――今度は、アレイストを両腕で強く抱き締めた。
本当は、ずっとこうしたかったのだと気付く。
アレイストはひっくひっくと泣きながら、ロウェルの背中をぎゅっと掴む。肩口に顔を押し付け、そこを涙でべしょべしょに濡らしながらも、また叫んだ。
「っ――、ほん、とにおそい! ばか!! どこ、行ってたんだよっ!!」
「ああ、本当にそうだ。ごめんな、独りにして……」
「ゆるさない……、ぜったい…………」
ぐすぐす泣きながらも、アレイストはロウェルの身体から離れようとしない。むしろ、ロウェルの服を掴む手に、更に力を込めたくらいだ。
ロウェルは震えるほどの力でその手を離すまいとするアレイストの背を撫でる。
八年前のあの日、もしあそこで振り返っていれば、これほど泣かせることはなかったのだろうか。
「な、アレイスト」
返答の代わりに、ロウェルに回された腕の力が強くなる。それを感じて、まだ少し感じていた迷いが消えてしまった。
「……俺と来るか?」
そっと囁くように問うと、アレイストの身体がビクリと震えた。
彼は断るかもしれない。それでも良かった。
アレイストがどういう返事をしたとしても、もう今度こそ離れないと決めたからだ。
アレイストは、すんと鼻を啜ってから、言った。
「もう、僕を……置いていかないと、誓うなら」
顔は伏せられたまま、どんな表情をしているのかロウェルからは窺い知れない。だがその声には、怯えが潜んでいるような気がした。
「……誓うよ」
そっと返して、ロウェルはアレイストの身体を抱き上げた。八年前よりも軽くなったその身体は、あの時よりも強い力でロウェルの首にしがみついた。
その時、部屋の扉がそっと開いて、ロウェルはその先にいるアミリアと目が合った。
おそらく、アレイストの様子を見に来たのだろう。騒いだ声で、魘されていると思ったのかもしれない。
お互い、驚きで息を飲んだと思う。だが、アミリアは顔を上げようともせず、ただロウェルにしがみつくアレイストの姿を見て、悲鳴を飲み込んだようだった。
ロウェルは何も言わないまま、彼女に背を向けて窓から部屋を飛び出した。
遠ざかる窓辺で、アミリアが深く頭を下げていたような気がしたが、それが真実だったのかは定かではない。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 9
その道程は、八年前と驚くほど同じだった。
城内へ忍び込み、アレイストの部屋の窓辺に辿り着く。
療養のためか、彼は夫婦の寝室ではなく、私室――彼と身体を重ね、そして決別したあの部屋にアレイストはいた。
音を立てぬように窓を開けて、身体を滑り込ませる。
こんな深夜だ。アレイストは眠っているだろう。気配を消して忍び込んだロウェルに気付くはずもない。
だから、顔だけ見て、生きていることに安心して、そして立ち去るつもりだったのだ。
しかし――、
「…………ロウェル……?」
記憶にあるより随分弱々しい声が聞こえた。
驚いて目を見開くと、そこにはベッドから身体を起こしたアレイストがいた。
細く、なった。
八年の歳月が流れ、相応に歳をとっているが、それ以上に痩せた身体が目立つ。
一目で病気だと思うほどでは、まだなかったが、それでもロウェルに衝撃を与えるには十分だった。
だが、ロウェルの驚きはそれだけで終わらなかった。
ロウェルと目が合ったアレイストは、唐突にその目に涙を浮かべて、ボロボロと泣き出したのだ。
「っ!?」
「お…そい……!」
しゃくり上げながら、いつかと同じ言葉をアレイストは叫んだ。
その言葉に押されるように、ロウェルは足を踏み出す。
「……ごめん」
八年前とまったく同じ言葉を返しながら、ロウェルは――今度は、アレイストを両腕で強く抱き締めた。
本当は、ずっとこうしたかったのだと気付く。
アレイストはひっくひっくと泣きながら、ロウェルの背中をぎゅっと掴む。肩口に顔を押し付け、そこを涙でべしょべしょに濡らしながらも、また叫んだ。
「っ――、ほん、とにおそい! ばか!! どこ、行ってたんだよっ!!」
「ああ、本当にそうだ。ごめんな、独りにして……」
「ゆるさない……、ぜったい…………」
ぐすぐす泣きながらも、アレイストはロウェルの身体から離れようとしない。むしろ、ロウェルの服を掴む手に、更に力を込めたくらいだ。
ロウェルは震えるほどの力でその手を離すまいとするアレイストの背を撫でる。
八年前のあの日、もしあそこで振り返っていれば、これほど泣かせることはなかったのだろうか。
「な、アレイスト」
返答の代わりに、ロウェルに回された腕の力が強くなる。それを感じて、まだ少し感じていた迷いが消えてしまった。
「……俺と来るか?」
そっと囁くように問うと、アレイストの身体がビクリと震えた。
彼は断るかもしれない。それでも良かった。
アレイストがどういう返事をしたとしても、もう今度こそ離れないと決めたからだ。
アレイストは、すんと鼻を啜ってから、言った。
「もう、僕を……置いていかないと、誓うなら」
顔は伏せられたまま、どんな表情をしているのかロウェルからは窺い知れない。だがその声には、怯えが潜んでいるような気がした。
「……誓うよ」
そっと返して、ロウェルはアレイストの身体を抱き上げた。八年前よりも軽くなったその身体は、あの時よりも強い力でロウェルの首にしがみついた。
その時、部屋の扉がそっと開いて、ロウェルはその先にいるアミリアと目が合った。
おそらく、アレイストの様子を見に来たのだろう。騒いだ声で、魘されていると思ったのかもしれない。
お互い、驚きで息を飲んだと思う。だが、アミリアは顔を上げようともせず、ただロウェルにしがみつくアレイストの姿を見て、悲鳴を飲み込んだようだった。
ロウェルは何も言わないまま、彼女に背を向けて窓から部屋を飛び出した。
遠ざかる窓辺で、アミリアが深く頭を下げていたような気がしたが、それが真実だったのかは定かではない。
2026/02/01 14:14:13
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 8
知らせを聞いた時、ロウェルはそのまま部屋を飛び出しそうになった。
それを止めたのはレオだ。
まだ詳細は分かっていない。せめて、それを集めるまで待て、と。
その通りだと理性は納得したが、感情はそうもいかず、ただ時が過ぎるのを待つ時間は、永遠に続くほど長く思えた。
日が沈む頃になって、ようやく入ってきた情報はこうだった。
ある会議の最中、アレイスト殿下は突如気を失い倒れられた。
意識自体はすぐに回復されたが、医者により疲労の蓄積によるものだと診断され、静養を余儀なくされた。
本人は問題ないと言っているものの、アミリア妃の懇願によりご公務は休養となった。
だが、主治医の見解では、ここ数年徐々に食が細くなっておられ、何かご心労があるのだろう、とのこと。その根本原因を取り除かぬ限り、回復は難しいのではないか、とも。
以上が、ロウェルの配下たちが集めてきたものだった。
つまり、病気や毒などによるものではない、ということだった。
その事実がロウェルに少しばかり、余裕をもたらした。そのため、アレイストの動向により注意を払うよう指示をして、ひとまず様子を見ることにした。
だって、そうだろう。彼は、もう自分になど会いたくないはずなのだから。
原因が「心労」なのであれば、その原因を増やすわけにはいかない。そう思って、どうにかロウェルは自分を宥めたのだ。
だが、三日が経ち、五日が経ち、一週間が経っても、アレイストの病状は回復の兆しを見せていないようだった。
それどころか、ますます彼は窶れていっていると報告があった。
それを聞いて、もうただ黙っていることなどロウェルにはできなかった。
だからその日、夜の闇に紛れ、ロウェルは走った。
行ってどうするんだ、と思った。一層、悪化させるだけの結果になるかもしれないとも。
それでも、行かずにはいられなかった。
せめて、その顔だけでも一目、見たかったのだ。
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 8
知らせを聞いた時、ロウェルはそのまま部屋を飛び出しそうになった。
それを止めたのはレオだ。
まだ詳細は分かっていない。せめて、それを集めるまで待て、と。
その通りだと理性は納得したが、感情はそうもいかず、ただ時が過ぎるのを待つ時間は、永遠に続くほど長く思えた。
日が沈む頃になって、ようやく入ってきた情報はこうだった。
ある会議の最中、アレイスト殿下は突如気を失い倒れられた。
意識自体はすぐに回復されたが、医者により疲労の蓄積によるものだと診断され、静養を余儀なくされた。
本人は問題ないと言っているものの、アミリア妃の懇願によりご公務は休養となった。
だが、主治医の見解では、ここ数年徐々に食が細くなっておられ、何かご心労があるのだろう、とのこと。その根本原因を取り除かぬ限り、回復は難しいのではないか、とも。
以上が、ロウェルの配下たちが集めてきたものだった。
つまり、病気や毒などによるものではない、ということだった。
その事実がロウェルに少しばかり、余裕をもたらした。そのため、アレイストの動向により注意を払うよう指示をして、ひとまず様子を見ることにした。
だって、そうだろう。彼は、もう自分になど会いたくないはずなのだから。
原因が「心労」なのであれば、その原因を増やすわけにはいかない。そう思って、どうにかロウェルは自分を宥めたのだ。
だが、三日が経ち、五日が経ち、一週間が経っても、アレイストの病状は回復の兆しを見せていないようだった。
それどころか、ますます彼は窶れていっていると報告があった。
それを聞いて、もうただ黙っていることなどロウェルにはできなかった。
だからその日、夜の闇に紛れ、ロウェルは走った。
行ってどうするんだ、と思った。一層、悪化させるだけの結果になるかもしれないとも。
それでも、行かずにはいられなかった。
せめて、その顔だけでも一目、見たかったのだ。
2026/02/01 14:13:20
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 7
アレイストとの決別から、時間はあっという間に過ぎてゆく。
ロウェルは、アレイストの命令をこなす中でできた繋がりをそのまま組織化して、今は情報屋の長のような立場に収まっていた。
アレイストとはあれ以来一度も会っていないが、彼がどうしているのかくらい、意識して知ろうとせずとも耳に入ってくる。
王太子妃となったアミリアとの中は良好。二人の子宝に恵まれ、もうあと数年もしない内に、父王からその地位を譲られるだろうと噂されている。実際、今国を動かしているのは彼だ。
生まれた王子二人も、資質、性格、健康状態、どれも問題なく、まさに「順風満帆」という言葉が相応しい。
やはり、俺の存在は必要なかったのか。
そう見せつけられるような時間だった。
「八年、か……」
あの夜から、もう八年の月日が流れている。
きっとこのままもう、彼と会うことはないのだろうな、と思うことも増えた。
ロウェルが纏めている一団は、それなりに大きな組織となった。アレイストがその存在に気付いていないはずはない。
だが、今もって接触はない。
なら、それはきっと、そういうことなのだ。
「そろそろ、国外展開も考えるかな」
組織の長という立場ではあるが、彼らは既にロウェルの手を殆ど離れている。信頼できる仲間たちに任せておけば、この国での商売はもう大丈夫だろう。
これ以上組織を大きくするならば、国外に目を向けるべきだ。ロウェルの側近とも言える、大きな支部の長たちにも進言されていることだった。
それでも、のらりくらりとその言葉を躱し続けて、王都に留まり続けていたのは――、心のどこかで彼がまた頼ってきてくれるのを、期待していたからなのかもしれない。
だが、それもそろそろ潮時だろう。
もうアレイストは庇護の必要な子供ではない。
ならば、ロウェルも「次」に目を向けなければならないはずだ。
ロウェルは、はあ、と大きな溜息をついて、近々の日程を確認する。
次の会合はいつだったか。
それに合わせて、国外展開の計画を練っておかなければ……。
そんなことを考えていた時だった。
「……?」
俄に廊下が騒がしくなって、ロウェルは腰を上げる。
それと同時に、急くようなノックの音がした。入室の許可を与えると、部下の一人である男が入ってくる。
「何事だ、レオ?」
男――レオの表情に、何か良くないことが起こったのは察せられた。
「落ち着いて、聞いてください」
いつもはない妙な前置きに、心がざわざわとしながらもロウェルは頷いた。
そして、レオが静かに告げる。
「アレイスト王太子殿下が、倒れられました」
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 7
アレイストとの決別から、時間はあっという間に過ぎてゆく。
ロウェルは、アレイストの命令をこなす中でできた繋がりをそのまま組織化して、今は情報屋の長のような立場に収まっていた。
アレイストとはあれ以来一度も会っていないが、彼がどうしているのかくらい、意識して知ろうとせずとも耳に入ってくる。
王太子妃となったアミリアとの中は良好。二人の子宝に恵まれ、もうあと数年もしない内に、父王からその地位を譲られるだろうと噂されている。実際、今国を動かしているのは彼だ。
生まれた王子二人も、資質、性格、健康状態、どれも問題なく、まさに「順風満帆」という言葉が相応しい。
やはり、俺の存在は必要なかったのか。
そう見せつけられるような時間だった。
「八年、か……」
あの夜から、もう八年の月日が流れている。
きっとこのままもう、彼と会うことはないのだろうな、と思うことも増えた。
ロウェルが纏めている一団は、それなりに大きな組織となった。アレイストがその存在に気付いていないはずはない。
だが、今もって接触はない。
なら、それはきっと、そういうことなのだ。
「そろそろ、国外展開も考えるかな」
組織の長という立場ではあるが、彼らは既にロウェルの手を殆ど離れている。信頼できる仲間たちに任せておけば、この国での商売はもう大丈夫だろう。
これ以上組織を大きくするならば、国外に目を向けるべきだ。ロウェルの側近とも言える、大きな支部の長たちにも進言されていることだった。
それでも、のらりくらりとその言葉を躱し続けて、王都に留まり続けていたのは――、心のどこかで彼がまた頼ってきてくれるのを、期待していたからなのかもしれない。
だが、それもそろそろ潮時だろう。
もうアレイストは庇護の必要な子供ではない。
ならば、ロウェルも「次」に目を向けなければならないはずだ。
ロウェルは、はあ、と大きな溜息をついて、近々の日程を確認する。
次の会合はいつだったか。
それに合わせて、国外展開の計画を練っておかなければ……。
そんなことを考えていた時だった。
「……?」
俄に廊下が騒がしくなって、ロウェルは腰を上げる。
それと同時に、急くようなノックの音がした。入室の許可を与えると、部下の一人である男が入ってくる。
「何事だ、レオ?」
男――レオの表情に、何か良くないことが起こったのは察せられた。
「落ち着いて、聞いてください」
いつもはない妙な前置きに、心がざわざわとしながらもロウェルは頷いた。
そして、レオが静かに告げる。
「アレイスト王太子殿下が、倒れられました」
2026/02/01 14:12:29
作品一覧
改稿版更新中
玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
初稿更新終了
ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
玉座の憧憬 アレイスト×セレンIF:小説・男女恋愛・バッドエンド・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 アレイスト×セレンIF:小説・男女恋愛・バッドエンド・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
初稿更新中
改稿版完結
#玉座の憧憬_ロウェル×アレイストIF 16
「――っ!! や、あぁ……! もう、むり――っ」
後ろと前とを同時に指で刺激されて、身体が跳ねる。
「だいじょうぶだから。ほらゆっくり息して」
ロウェルの言葉に、アレイストは無言でぶんぶんと首を横に振った。
達きそうで達かせてもらえないまま、どのくらい時間が経っただろう。高い位置にあった陽が落ちて、部屋の中はいつの間にか薄暗くなっている。ベッドの上で裸に剥かれて喘ぐばかりのアレイストは、絶妙に動くロウェルの手に翻弄され続けている。
先走りと潤滑油でめちゃくちゃになっている下肢は、もうどこを触られても感じてしまう。
八年前、自分がロウェルを抱いていた時、どれほど雑なことをしていたのかということを、あらためて思い知らされるような気分だった。
そんなことを考えていることを目敏く見つけたロウェルは、目を眇めて、耳元で囁く。
「余計なこと考えてる?」
「あ、だって……、っ――!」
体内にあるしこりをぐりっと押し潰されて、声にならない叫びを上げる。目の前が真っ白になってチカチカした。だが、勃ち上がった陰茎の根本を押さえられていて、射精させてもらえない。頭がとろとろふわふわしたまま、もうずっと戻れないでいる。
きもちいい。気持ちよすぎて、苦しいほど。
まさしく、「何も考えられない」。
「ぁ、は……、あぁん……っ」
媚びた声が口から漏れる。それを恥ずかしいと思う暇もないほど、快感が押し寄せていた。
けれど、と生理的な涙で滲んだ視界で、下方を見る。
ロウェルはアレイストに快楽を与えるばかりで、シャツのボタンすら外していない。精々、袖を捲った程度だ。
ズボンは痛そうなほど張り詰めているのに。
「っ、なぁ……、挿れないのか……?」
右足を動かしてそれを足の甲で擦ると、びくりと彼の身体が震えた。
「アレイスト……」
ロウェルと視線が絡んだ。彼は何かに逡巡するように視線を彷徨わせた後、再びこちらを見て、呟く。
「良いのか?」
なんとなく「後悔しないか」と聞かれているような気がした。
ロウェルに抱かれれば、二人の仲は何か決定的なものになってしまう予感がある。
これまでの交わりには伴わなかった、心に触れ合うようなそれが、関係を変えてしまうような。
ここで頷けば、彼と二度と離れられなくなるのだろうな、と不意に思う。
だが、アレイストはふっと笑った。
そして、動いてくれない左足を、どうにか太腿を動かしてロウェルの前に持ってくる。
「今更だろ」
「…………そうだな」
もう二十年以上も前になるあの日から、きっと離れては生きられなかったのだろうから。
ロウェルは恭しくその左足に触れて、甲にキスをした。
感触は何も感じない。けれど、その仕草で彼の優しく労るような思いは伝わってくる。
ロウェルはそのまま左足のふくら脛にもキスをして、どんどん上へ上がってくる。
その唇が腿へと到達した時、ぴくんと足が震えた。その反応にロウェルは目を細めて、内腿を強く吸って跡を残す。その上を更に舌が擽った。
「ちょ、ロウェル……」
先程までよりゆるい刺激に、どこかじれったさを感じて彼の名を呼んだ。アレイストの焦燥を察したのか、ロウェルはくすりと笑って、頷いた。
そして、身体を少し起こすとズボンの留め金を外し、サッと服を全部脱ぎ去ってしまう。
そこに現れた太い屹立にアレイストは息を飲んだ。
少々怖気付いていると、ロウェルが苦笑しながらアレイストの腕を引く。
「あっ……」
胡座をかいたロウェルの膝の上に、向かい合うように乗せられて腰を掴まれる。
どうしたらいいのか戸惑っていると、ロウェルにぎゅっと抱きしめられて、背中を撫でられた。
「大丈夫」
その言葉でやっと身体の力が抜けて、アレイストは彼の首にしがみつくように腕を回した。
「っ!」
後孔にぴとりと熱が添えられる。そして、ゆっくりと腰が下ろされていって、くちゅりという水音共に後ろが押し開かれていく。
「あ、あぁ……っ」
事前に散々弄られたせいか、痛みはない。だが、指とは全く違う圧迫感に息が詰まった。
宥めるように背中をロウェルの手が撫でる。その刺激に右膝の力が抜けて、左側の腰を掴むロウェルの手に体重がかかる。その反動でじゅぷりという卑猥な音が耳を犯した。
「んっ、……っは、あ……」
そうしている間にもゆっくりと挿入は進んで、屹立の一番太いところが、中へと挿入った。
ビクンと背中が跳ねて、ロウェルにしがみつく腕にも力が籠もった。
その後は殆ど抵抗もなく、ずるずると腰を下ろしていく。
「あ、っ、……あぁ……ん、ふ……」
そして、最後の少しの所でロウェルの手が離れて、奥をくんっと突かれた。
「んあっ!」
ぴゅっと自身の陰茎から白濁が飛び、軽く達したのだと知る。
その白いものがロウェルの肌にも散っている。
その光景が、二人が本当に近い位置にいることを象徴しているように見えて、胸がいっぱいになった。
「……ロウェル」
「うん?」
「僕も……幸せになれるかな」
ふと、穏やかに微笑む姉の姿が浮かんだ。
いつか自分もあんな表情を浮かべられるようになれるだろうか。
ロウェルは少し悩むように沈黙した後、アレイストの髪を撫でた。
「分からない。……けどさ、二人でそうなれる努力をしてみたいと思う。アレイストはどうだ?」
ロウェルの言葉に、ふとアレイストも笑みを零した。
無闇に「幸せにする」などと言われるより、余程安心できる気がした。
「そうだな。ロウェルとなら、できる気がする」
アレイスト少し顔を上げて、ロウェルを見た。
そして、どちらからともなく口付けを交わす。
やっと心ごと抱き合えている。
そんな実感を覚えながら、アレイストはキスに溺れていった。