初稿置き場
2026/02/01 14:42:52
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 17
「お加減はいかがですか」
「…………おかげさまで」
エルネストの元へ見舞いに訪れたユリスは、明らかに消沈した様子の彼に肩を竦めた。
エルネストは、案の定妊娠していた。
相手は、言うまでもなく婚約者だったアルファだ。項に噛み跡まであり、そういえば彼はいつも首の詰まった服を着ていたと思い出す。オメガが首元を隠すのはよくあることなので、気にも止めていなかったが。
ベッドの上に座り黙ったままのエルネストに、ユリスはとりあえず伝えるべき内容を口にする。
「そちらの国の方へ報告は入れています……が、妊娠初期の長距離移動は避けるべきですからね。暫くはこちらに滞在することとなるかと」
それでいいか、という意味で聞いたのだが、エルネストは自嘲するように嗤った。
「どうだか。この子がもし生まれれば、ややこしいことになる。それならいっそ、と流れることを期待して呼び戻されるかも」
投げやりな言葉にユリスは思わず眉をひそめた。
「それを許す鬼畜は、この国にはいません」
「……何故?」
「何故、って……」
「僕は他国の人間だ。それも、妊娠している可能性を黙って、この国の王太子に取り入ろうとしたような奴だぞ? 番にさせられて、避妊薬も飲ませてもらえなかった。その結果どうなるかなんて……、あんたなら分かるだろ」
「……そうですね。普通なら――」
普通なら、かなりの高確率で妊娠する。
「無理やり、だったんですか?」
エルネストはその問いに、虚を突かれたように押し黙った。そして、ぽつぽつと零すように言う。
「……『無理やり』……だったよ。でも…嬉しかった。あんなどうしようもないクズでも、僕は……彼を、愛していたから」
エルネストは玉を結んだ涙が零れ落ちる前に、それを袖で拭った。
それを黙って見つめながら、ユリスは自分とどこか似ているな、と思った。
愛しい人に触れられる喜びは、抗いがたいものだ。頭ではいけないと、駄目だと思っていても、彼が求めてくれるのならと受け入れてしまう。それが発情期なら、なおさらだ。
だが、同時にどうしようもないほど、羨望を感じる。
「――俺は、貴方が羨ましい」
思わず気持ちが口から零れ落ちると、エルネストはハッとしたように顔を上げた。
「愛する人の子供を産める、貴方が」
ユリスがそれを叶えるには、待たなければならない奇跡があまりにも多すぎるから。
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 17
「お加減はいかがですか」
「…………おかげさまで」
エルネストの元へ見舞いに訪れたユリスは、明らかに消沈した様子の彼に肩を竦めた。
エルネストは、案の定妊娠していた。
相手は、言うまでもなく婚約者だったアルファだ。項に噛み跡まであり、そういえば彼はいつも首の詰まった服を着ていたと思い出す。オメガが首元を隠すのはよくあることなので、気にも止めていなかったが。
ベッドの上に座り黙ったままのエルネストに、ユリスはとりあえず伝えるべき内容を口にする。
「そちらの国の方へ報告は入れています……が、妊娠初期の長距離移動は避けるべきですからね。暫くはこちらに滞在することとなるかと」
それでいいか、という意味で聞いたのだが、エルネストは自嘲するように嗤った。
「どうだか。この子がもし生まれれば、ややこしいことになる。それならいっそ、と流れることを期待して呼び戻されるかも」
投げやりな言葉にユリスは思わず眉をひそめた。
「それを許す鬼畜は、この国にはいません」
「……何故?」
「何故、って……」
「僕は他国の人間だ。それも、妊娠している可能性を黙って、この国の王太子に取り入ろうとしたような奴だぞ? 番にさせられて、避妊薬も飲ませてもらえなかった。その結果どうなるかなんて……、あんたなら分かるだろ」
「……そうですね。普通なら――」
普通なら、かなりの高確率で妊娠する。
「無理やり、だったんですか?」
エルネストはその問いに、虚を突かれたように押し黙った。そして、ぽつぽつと零すように言う。
「……『無理やり』……だったよ。でも…嬉しかった。あんなどうしようもないクズでも、僕は……彼を、愛していたから」
エルネストは玉を結んだ涙が零れ落ちる前に、それを袖で拭った。
それを黙って見つめながら、ユリスは自分とどこか似ているな、と思った。
愛しい人に触れられる喜びは、抗いがたいものだ。頭ではいけないと、駄目だと思っていても、彼が求めてくれるのならと受け入れてしまう。それが発情期なら、なおさらだ。
だが、同時にどうしようもないほど、羨望を感じる。
「――俺は、貴方が羨ましい」
思わず気持ちが口から零れ落ちると、エルネストはハッとしたように顔を上げた。
「愛する人の子供を産める、貴方が」
ユリスがそれを叶えるには、待たなければならない奇跡があまりにも多すぎるから。
2026/02/01 14:41:57
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 16
予期せぬ来訪者はあったものの、ユリスがすべきことは変わらない。
と、思っていた。
「はじめまして、ユリス・ローエンベルク殿、ですよね?」
「え、と……」
ユリスは件の子息エルネストに、待ち伏せされて捕まってしまったのだった。
場所を移し、ルベルトに許可をもらったユリスは、落ち着いた態度で茶を飲むエルネストの対面に座っていた。
「それで、人払いしてまで私にお話とは?」
「分かっておられるのでは?」
にっこりと微笑まれるが、ユリスには皆目見当がつかない。
なにせ、ユリスとエルネストは今日が初対面だ。もちろん、ルベルトの最側近であるユリスの存在自体は、彼が知っていても不思議はないが――。
「何を仰ってるのか」
ユリスの返答に肩を竦めたエルネストは、カップを置いて目を眇めた。
「この国で王太子の補佐官というのは、愛人を兼任するものなのでしょうか?」
「は?」
「隠さなくても結構ですよ。以前、執務室で口付けをなさってましたよね。窓から見えました」
「なっ……」
この前のキスが見られていたのか、と動揺しそうになるが、どうにか気持ちを落ち着けると、努めて冷静に返した。
「それは殿下への侮辱と受け取っても? あの方が愛人を補佐官に任命するような、公私も分けられぬ下劣な人間だと」
「まさか! そのような意図はありませんよ。ただ、不思議だなと思いまして」
「……不思議?」
「ええ。だってそうでしょう。貴方なら、なれるでしょう? 愛人ではなく、『妃』に」
今度こそ、ユリスは固まってしまった。エルネストの発言は、確信を持っているような口振りだった。
いや、でもまだ、何を言われたわけでもない。
ユリスはふぅ、とこれみよがしに溜息をついた。
「王太子殿下が妃にお選びになるのは『異性」です。お世継ぎをお産みになれることが最低条件なのは、貴方もご存知でしょう」
「ええ、もちろん。だから言ったではないですか。『不思議だ』と。貴方はその『異性』に当てはまっているのに」
「……私が女に見えますか?」
もう、エルネストが何を言いたいのかは分かっていたが、苦し紛れに問い返す。案の定、彼はぷはっと吹き出した。
「まさか。でも、分かりますよ。むしろ、周囲が何故気付かないのかのほうが疑問です」
それは、ユリスがルベルトと番になった後に会ったからかもしれない、とは思った。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。もう言い逃れが出来そうもない以上、どう口止めをするかだ。
「……フィロー殿の考えていらっしゃる通りだとして。とれをどうするおつもりで?」
「別にどうも。ただ私が知りたいのは、貴方が敵になるのか否か、だけです。貴方が王太子妃候補に名乗りを上げた場合、一番強力なライバルになりそうですし」
ユリスはエルネストをじっと観察して思う。
(……私が既に殿下の番であることは気付いていないのか?)
なら、やりようはあるとユリスは嘆息した。
「そういうことでしたら、ご心配には及ばないかと。私は『アルファの男』です。これまでも、これからも」
「…………そうですか」
オメガであることを公表する気はない。つまり、ルベルトの妻になることを望むこともない。
そういう意図を含ませた言葉を、エルネストは正確に読み取ってくれたらしい。
彼はにっこり笑って、ティーカップを摘んだ。
「どうやら、私の勘違いだったようで。安心しました」
彼も多少は緊張していたのだろうか。肩の力が抜けたように思える。
だが、カップを口元まで持っていった時、異変が起こった。
「っ、う゛……」
エルネストの手からカップが滑り落ち、大きな音を立てて割れる。
「フィロー殿!?」
彼は口元を抑え、青い顔をしていた。
「一体、どう――」
立ち上がったユリスはエルネストの傍まで回り込んで、はっと息を飲んだ。
単なる勘、としか言いようがない。
ユリスは周囲を見渡して、自身の副官の名を呼んだ。
「アストル!」
慌ててこちらへ駆け寄ってくる彼に、小声で指示をする。
「医者の手配……は、私がするから、彼をなるべく揺らさないように運んでやってくれ」
「は、はい。しかし……」
華奢なオメガとはいえ、エルネストは成人した男だ。運ぶだけなら衛兵など他に適任がいるだろう、という顔だ。
だが、ユリスは首を横に振った。
そして、一層蒼白な顔になっているエルネストを一瞥して、彼自身も同じ結論に至ったことを悟った。
「今は騒ぎにしたくないんだ。彼は、…………妊娠しているかもしれない」
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 16
予期せぬ来訪者はあったものの、ユリスがすべきことは変わらない。
と、思っていた。
「はじめまして、ユリス・ローエンベルク殿、ですよね?」
「え、と……」
ユリスは件の子息エルネストに、待ち伏せされて捕まってしまったのだった。
場所を移し、ルベルトに許可をもらったユリスは、落ち着いた態度で茶を飲むエルネストの対面に座っていた。
「それで、人払いしてまで私にお話とは?」
「分かっておられるのでは?」
にっこりと微笑まれるが、ユリスには皆目見当がつかない。
なにせ、ユリスとエルネストは今日が初対面だ。もちろん、ルベルトの最側近であるユリスの存在自体は、彼が知っていても不思議はないが――。
「何を仰ってるのか」
ユリスの返答に肩を竦めたエルネストは、カップを置いて目を眇めた。
「この国で王太子の補佐官というのは、愛人を兼任するものなのでしょうか?」
「は?」
「隠さなくても結構ですよ。以前、執務室で口付けをなさってましたよね。窓から見えました」
「なっ……」
この前のキスが見られていたのか、と動揺しそうになるが、どうにか気持ちを落ち着けると、努めて冷静に返した。
「それは殿下への侮辱と受け取っても? あの方が愛人を補佐官に任命するような、公私も分けられぬ下劣な人間だと」
「まさか! そのような意図はありませんよ。ただ、不思議だなと思いまして」
「……不思議?」
「ええ。だってそうでしょう。貴方なら、なれるでしょう? 愛人ではなく、『妃』に」
今度こそ、ユリスは固まってしまった。エルネストの発言は、確信を持っているような口振りだった。
いや、でもまだ、何を言われたわけでもない。
ユリスはふぅ、とこれみよがしに溜息をついた。
「王太子殿下が妃にお選びになるのは『異性」です。お世継ぎをお産みになれることが最低条件なのは、貴方もご存知でしょう」
「ええ、もちろん。だから言ったではないですか。『不思議だ』と。貴方はその『異性』に当てはまっているのに」
「……私が女に見えますか?」
もう、エルネストが何を言いたいのかは分かっていたが、苦し紛れに問い返す。案の定、彼はぷはっと吹き出した。
「まさか。でも、分かりますよ。むしろ、周囲が何故気付かないのかのほうが疑問です」
それは、ユリスがルベルトと番になった後に会ったからかもしれない、とは思った。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。もう言い逃れが出来そうもない以上、どう口止めをするかだ。
「……フィロー殿の考えていらっしゃる通りだとして。とれをどうするおつもりで?」
「別にどうも。ただ私が知りたいのは、貴方が敵になるのか否か、だけです。貴方が王太子妃候補に名乗りを上げた場合、一番強力なライバルになりそうですし」
ユリスはエルネストをじっと観察して思う。
(……私が既に殿下の番であることは気付いていないのか?)
なら、やりようはあるとユリスは嘆息した。
「そういうことでしたら、ご心配には及ばないかと。私は『アルファの男』です。これまでも、これからも」
「…………そうですか」
オメガであることを公表する気はない。つまり、ルベルトの妻になることを望むこともない。
そういう意図を含ませた言葉を、エルネストは正確に読み取ってくれたらしい。
彼はにっこり笑って、ティーカップを摘んだ。
「どうやら、私の勘違いだったようで。安心しました」
彼も多少は緊張していたのだろうか。肩の力が抜けたように思える。
だが、カップを口元まで持っていった時、異変が起こった。
「っ、う゛……」
エルネストの手からカップが滑り落ち、大きな音を立てて割れる。
「フィロー殿!?」
彼は口元を抑え、青い顔をしていた。
「一体、どう――」
立ち上がったユリスはエルネストの傍まで回り込んで、はっと息を飲んだ。
単なる勘、としか言いようがない。
ユリスは周囲を見渡して、自身の副官の名を呼んだ。
「アストル!」
慌ててこちらへ駆け寄ってくる彼に、小声で指示をする。
「医者の手配……は、私がするから、彼をなるべく揺らさないように運んでやってくれ」
「は、はい。しかし……」
華奢なオメガとはいえ、エルネストは成人した男だ。運ぶだけなら衛兵など他に適任がいるだろう、という顔だ。
だが、ユリスは首を横に振った。
そして、一層蒼白な顔になっているエルネストを一瞥して、彼自身も同じ結論に至ったことを悟った。
「今は騒ぎにしたくないんだ。彼は、…………妊娠しているかもしれない」
2026/02/01 14:40:15
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 15
ルベルトと共に都へ戻った翌々日。
ユリスは久し振りの出仕に少々緊張しながら、城内を歩いていた。
ちなみに昨日はルベルトから、休むよう厳命されていたため一日家にいた。発情期も明けて、身体の熱も引いており、時折己の痴態を思い出しては頭を抱えていたが、今日からは仕事で気も紛れることだろう。
「あ。アストル、ちょうど良かった」
前方に自身の副官の姿を発見して、片手を上げる。
ルベルトの番となってしまって以降、どうしてもアルファやオメガとの接触には神経質になっているユリスだが、彼はベータということもあり、あの事件以降も気軽に声をかけられる相手だった。
「ユリス様、おはようございます。……ああ、いえ。おかえりなさいませ、の方が適切でしたか?」
ユリスはくすと笑って、少し肩の力が抜けるのを感じた。
「ああ。私がいない間、ありがとう。変わったことはなかったか?」
不在にしていた一週間ばかりの期間にあったことを聞いていく。
予想通り、普段の業務上での問題はなかったようだが、話題は件のオメガ子息の話へと移る。
「それで、殿下のご様子は?」
「さあ……。私の目からは、特に変わったご様子はありませんでしたが……。ユリス様にお会いになりたいようでしたよ」
「一昨日まで毎日顔を合わせていたのに……?」
「それほど、ご信頼なさっているのでしょう」
ユリスはアストルの言葉に曖昧に微笑んだ。
その後、いくつか引き継ぎの話をしてから、ユリスはルベルトの執務室へと向かう。
「おはようございます、殿下……」
そろっと扉を開けると、ルベルトは椅子を蹴倒して立ち上がった。
「ユリス! ああ、よかった、会いたかった」
「!? ちょ、でん……」
つかつかと歩み寄ってきたルベルトに、ぎゅうっときつく抱き締められる。
愛しいアルファの匂いに満たされて、とろんと目を閉じそうになって、ハッとする。
「っ、ばか! 殿下!! 仕事!」
「んん……もう少し……」
「もう少し、じゃないっ……!」
項を指で擽られ、膝が崩折れそうになる。散々交わって馴染んだ肌がもっとと求めるが、どうにか意志の力を総動員して、ルベルトの胸を押し返した。
「も、もうこんな所で抱かれる気は無いですからね!?」
そう言うと、さすがのルベルトも手を離す。
「それは、私も無い……。これでも反省してるだ」
しょぼんと肩を落とすルベルトに、うっかり絆されそうになるが、ユリスはぶんぶんと首を振って気持ちを切り替えた。
「それより! 結局どうだったんですか。会ったんでしょう?」
「ん? ああ、フィロー子息のこと? まあ、挨拶しただけだしなぁ……」
手を引かれてルベルトの机の方まで連れて行かれると、調査資料らしき紙束を渡された。
「さすが、元王太子の婚約者というかな。身分、経歴、共に問題なし。頭脳明晰、品行方正。非の打ち所のないご子息みたいだな」
「まぁ、王族に入られる予定だったのですし、その辺りは当然ですね……」
「だな。むしろ、婚約者として不出来な王子の補佐もしていた、っていう経歴がある分、今いる候補たちより一歩抜きん出てるくらいかも」
「……随分、褒めるんですね」
さすがに面白くなくて、ついぼそりと文句を言うと、ルベルトはきょとんと目を瞬かせた。
それから、ぶはっと吹き出した。
「嫉妬してくれてる?」
「な、あ……、違います!」
「娶る気がないからこそ、気楽に評価もできるんだよ」
「そ…れは……、わかってます…………」
ルベルトはユリスの手を取って、そこにキスをする。
「私の一番はお前だよ。ほら、おいで」
「っ……」
手を広げて待ち構えられると、拒否することなどできない。
おずおずと近付くと、ぐいっと引っ張られて膝の上に乗せられてしまった。
「で、殿下……! こんなところ、見られたら……」
「大丈夫、誰も来ないよ」
「あっ……」
後頭部を掴まれて引き寄せられる。
そして、軽く触れるだけのキスをした。
それ以上触れてこようとしないのに気付いて、閉じていた目を開けると、目尻にも口付けられる。
「まぁ……、さすがにこれ以上はな。途中で止められる自信がない」
「っ~~」
じゃあ、最初からしないでください! とは、どうしても言えないユリスだった。
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 15
ルベルトと共に都へ戻った翌々日。
ユリスは久し振りの出仕に少々緊張しながら、城内を歩いていた。
ちなみに昨日はルベルトから、休むよう厳命されていたため一日家にいた。発情期も明けて、身体の熱も引いており、時折己の痴態を思い出しては頭を抱えていたが、今日からは仕事で気も紛れることだろう。
「あ。アストル、ちょうど良かった」
前方に自身の副官の姿を発見して、片手を上げる。
ルベルトの番となってしまって以降、どうしてもアルファやオメガとの接触には神経質になっているユリスだが、彼はベータということもあり、あの事件以降も気軽に声をかけられる相手だった。
「ユリス様、おはようございます。……ああ、いえ。おかえりなさいませ、の方が適切でしたか?」
ユリスはくすと笑って、少し肩の力が抜けるのを感じた。
「ああ。私がいない間、ありがとう。変わったことはなかったか?」
不在にしていた一週間ばかりの期間にあったことを聞いていく。
予想通り、普段の業務上での問題はなかったようだが、話題は件のオメガ子息の話へと移る。
「それで、殿下のご様子は?」
「さあ……。私の目からは、特に変わったご様子はありませんでしたが……。ユリス様にお会いになりたいようでしたよ」
「一昨日まで毎日顔を合わせていたのに……?」
「それほど、ご信頼なさっているのでしょう」
ユリスはアストルの言葉に曖昧に微笑んだ。
その後、いくつか引き継ぎの話をしてから、ユリスはルベルトの執務室へと向かう。
「おはようございます、殿下……」
そろっと扉を開けると、ルベルトは椅子を蹴倒して立ち上がった。
「ユリス! ああ、よかった、会いたかった」
「!? ちょ、でん……」
つかつかと歩み寄ってきたルベルトに、ぎゅうっときつく抱き締められる。
愛しいアルファの匂いに満たされて、とろんと目を閉じそうになって、ハッとする。
「っ、ばか! 殿下!! 仕事!」
「んん……もう少し……」
「もう少し、じゃないっ……!」
項を指で擽られ、膝が崩折れそうになる。散々交わって馴染んだ肌がもっとと求めるが、どうにか意志の力を総動員して、ルベルトの胸を押し返した。
「も、もうこんな所で抱かれる気は無いですからね!?」
そう言うと、さすがのルベルトも手を離す。
「それは、私も無い……。これでも反省してるだ」
しょぼんと肩を落とすルベルトに、うっかり絆されそうになるが、ユリスはぶんぶんと首を振って気持ちを切り替えた。
「それより! 結局どうだったんですか。会ったんでしょう?」
「ん? ああ、フィロー子息のこと? まあ、挨拶しただけだしなぁ……」
手を引かれてルベルトの机の方まで連れて行かれると、調査資料らしき紙束を渡された。
「さすが、元王太子の婚約者というかな。身分、経歴、共に問題なし。頭脳明晰、品行方正。非の打ち所のないご子息みたいだな」
「まぁ、王族に入られる予定だったのですし、その辺りは当然ですね……」
「だな。むしろ、婚約者として不出来な王子の補佐もしていた、っていう経歴がある分、今いる候補たちより一歩抜きん出てるくらいかも」
「……随分、褒めるんですね」
さすがに面白くなくて、ついぼそりと文句を言うと、ルベルトはきょとんと目を瞬かせた。
それから、ぶはっと吹き出した。
「嫉妬してくれてる?」
「な、あ……、違います!」
「娶る気がないからこそ、気楽に評価もできるんだよ」
「そ…れは……、わかってます…………」
ルベルトはユリスの手を取って、そこにキスをする。
「私の一番はお前だよ。ほら、おいで」
「っ……」
手を広げて待ち構えられると、拒否することなどできない。
おずおずと近付くと、ぐいっと引っ張られて膝の上に乗せられてしまった。
「で、殿下……! こんなところ、見られたら……」
「大丈夫、誰も来ないよ」
「あっ……」
後頭部を掴まれて引き寄せられる。
そして、軽く触れるだけのキスをした。
それ以上触れてこようとしないのに気付いて、閉じていた目を開けると、目尻にも口付けられる。
「まぁ……、さすがにこれ以上はな。途中で止められる自信がない」
「っ~~」
じゃあ、最初からしないでください! とは、どうしても言えないユリスだった。
2026/02/01 14:38:14
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 14
程なくして、ルベルトは症状の落ち着いたユリスと共に、離宮を後にした。
その後、一旦ユリスとは別れ、彼は自宅へ、自分はそのまま城へと戻ることとなった。
帰還の挨拶もそこそこに、軽く身支度を整えた後は、すぐに件のオメガ子息との面会をすることとなる。
その青年が待っているという部屋まで辿り着き、部屋の中へと入る。
そこで立ち上がった彼は、オメガらしい線の細さが目を引く美青年だった。
「お会いできまして光栄に存じます、殿下。私はエルンスト・フィローと申します。どうぞ、エルンストとお呼びください」
「はじめまして、フィロー殿。遠路からよく起こしくださいました」
ルベルトがさらりと躱して微笑むと、エルンストも笑みを返した。
腹の読めない男。それがエルンストの第一印象だった。
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 14
程なくして、ルベルトは症状の落ち着いたユリスと共に、離宮を後にした。
その後、一旦ユリスとは別れ、彼は自宅へ、自分はそのまま城へと戻ることとなった。
帰還の挨拶もそこそこに、軽く身支度を整えた後は、すぐに件のオメガ子息との面会をすることとなる。
その青年が待っているという部屋まで辿り着き、部屋の中へと入る。
そこで立ち上がった彼は、オメガらしい線の細さが目を引く美青年だった。
「お会いできまして光栄に存じます、殿下。私はエルンスト・フィローと申します。どうぞ、エルンストとお呼びください」
「はじめまして、フィロー殿。遠路からよく起こしくださいました」
ルベルトがさらりと躱して微笑むと、エルンストも笑みを返した。
腹の読めない男。それがエルンストの第一印象だった。
2026/02/01 14:37:14
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 13
「……はぁ」
ルベルトは小さく溜息をつきながら、寝室の扉を開けた。
部屋の中央に据え付けられたベッドの上で丸くなったまま、すよすよと眠るユリスの姿を見て安堵の息を漏らす。
「よかった。まだ寝てたか」
彼の傍に腰を下ろして、頬を撫でる。
発情期のはじまりから数日が経ち、ユリスも多少落ち着いてきたのか、よく眠るようになった。
そろそろ症状も治まってゆくのだろう。この数日で見せていた素直に可愛らしく甘えてくれる姿を、しばらく見れないのかと思うと、少し残念な気もしていた。
早く、ユリスを堂々と「私のオメガだ」と言いたい。
けれど、そのためにはするべきことが沢山あって、ユリス本人の説得もその一つだ。
今回の「旅行」は、その説得をじっくり二人きりでするためのものでもあった。
ユリスの発情期の間隔は、滅多に休みを取らない彼が決まって三、四ヶ月に一度数日間休暇を取ることを考えれば、予測は容易だった。
計画では、しっかりと話し合いをした後に、発情期に入る予定だったのだが、多少の誤差は付き物なので仕方がない。
理性を取り戻した後、何を言われるのか少しばかり怖くはあるが。
だが――。ルベルトは先程、城からやってきた使者の言葉を思い出して、また溜息をついた。
「ユリス、起きれるか?」
耳元で囁くと、ルベルトの残していったシャツに顔を埋めていたユリスが、ゆっくりと目蓋を押し上げた。
「……ルベルト、さま?」
舌っ足らずに呼ぶ声がかわいくて、もう少し寝かせておいてやりたくなる。
だが、そうできるのなら、そもそも起こしなどするはずもない。
「ユリス、悪いな」
「……? っ……」
寝ぼけ眼のユリスに苦笑しながら、持っていた小瓶の中身を口に含んで、彼に口移しで飲ませる。
こくん、と喉が鳴ったのを確認しながらも、ルベルトは唇を離し難くてキスを続ける。
とろけた表情で口付けを受け入れていたユリスだったが、次第に視点が定まって目を見開くと、ドンッとルベルトの胸を押した。
「っあ、な、なに……」
ユリスは急に明瞭になった思考の中で、口元を手で拭った。
一体、何を飲まされた?
急にはっきりした頭と、身体の奥に残っていた熱の引く感覚から察するに――
「よ、抑制剤……?」
ルベルトは困ったように笑って頷いた。
「ああ。一番弱い、発情期を軽くする薬だ」
「なんで、急に」
この数日のことを、ユリスはよく覚えていなかった。それでも、意識のある時間の殆どをルベルトと過ごしていたことは覚えている。
身体中にその痕が残っているのだから、発情期が見せた夢ということはないはずだ。
なのにどうして? やはり、オメガの相手など嫌になったのか――。
薬を摂取したとはいえ、まだ発情期の身体は感情の抑制が効きづらい。じわりと涙が浮かんで、慌ててそれを拭った。
「ユリス。実はついさっき、城から使者が来てな」
涙を拭った手をルベルトが包み込む。そして、腕を引かれてぎゅっと抱き締められ、目尻にキスをされる。
「使者……?」
「そう。急ぎ戻らねばならなくなった。だから薬を飲ませた。勝手をしてすまない……」
「そう…ですか……」
そういう理由なら納得だ。発情したままの身体で帰ることなどできない。
だが、一体どんな用件だと言うのだろう。
ルベルトのことだ、大抵の事態には対応できるように手を回していただろうに。なにせ、ユリスの受け持つ三週間分の仕事をユリス自身に気付かれぬまま、上手く回るように差配した男だ。それが、一週間程で切り上げて帰還せざるを得なくなった。
どことなく、嫌な予感がする。
「あの、どんな用件だったのですか」
聞きたくない、と本心では思っていたが、いずれ分かることだ。ユリスはおずおずと顔を上げてルベルトを見た。
ルベルトは、片手で顔を覆って溜息をつくと、言葉を選ぶように口を開いた。
「私の婚約者候補の件について、覚えているか?」
「……ええ。その……発情誘発剤の件で、一旦白紙に戻りました、よね」
ルベルトが頷いて同意する。
ユリスたちが番となってしまった契機でもある、発情誘発剤の事件以降、ルベルトと数人いた婚約者候補との定期面会は休止となっていた。
状況から考えて、ルベルトの婚約者選びが難航していることと無関係とは言い切れなかったからだ。
その結果、この「旅行」に赴く数日前、婚約者候補は全員一度候補から外され、改めて適齢期の女やオメガから再選定されることとなった。
「候補が決定したのですか?」
「いや、それはまだだ。ただ……、その候補に他国の人間が名乗りを上げてきた」
ユリスは目を見開く。
「ちょっと前、オメガの国王が誕生した、という話をしたよな? 覚えてるか?」
「は、はい。『オメガ保護法』の参考に、と法制度を調べた国ですよね」
「そう、その国だ。それで、その国の後継なんだが、元々は別のアルファだったんだ。だが彼は素行が悪く、問題を起こした末に廃嫡されて、今の国王が跡目を継いだそうだ」
ルベルトは眉間を揉んで続けた。
「その、問題を起こしたアルファの元婚約者が、今来ているらしい」
「つまり……」
「王妃教育を受けた、由緒正しき家柄のオメガ子息が、私の婚約者候補に名乗りを上げている」
きゅっと喉が詰まった気がした。
それは、今選定中の候補者達より余程適任なのではないだろうか。
ユリスは、何か言おうとして失敗する。
良いことじゃないか。自分は彼の番であり続けるつもりはない。ならば、別の妃を迎えるのは自然なことだ。
「……ルベルト様」
「『良かった』なんて言うなよ?」
先手を打つように、ルベルトが言った。
「でも」
「私たちの関係云々を置いておくとしても、だ。相手の思惑が読めない。なんでも、国に無断でこちらに来たらしいんだ。本人いわく、『廃嫡された王子の婚約者だったため国には居づらく、婚約者時代に培った能力を発揮させてくれる場所を求めて来た』とのことだが……。それがどこまで本当だか、こちらには確かめようがないんだぞ? 下手に受け入れれば、国の中枢に間者を招くことになる」
「それは……そうですが」
「あと、いい機会だから言っておくんだが」
「……?」
「私はお前以外と番になるつもりはない。一度交わした契約を無効にする気はないからな。それとも……お前は私を、発情期に苦しむ番を放置するような、責任感も何も持ち合わせない鬼畜にするつもりか?」
冗談交じりに問われて、ユリスは口を噤んだ。
責任、という言葉が重い。
彼はこれ以上ないほど、番となったユリスを尊重してくれている。あの日以降も、これまで通り仕事が出来ているのも、薬で封じ込めても奥から湧き上がる劣情を一人でやり過ごさずに済んだもの、彼のおかげだ。
でも、「責任」なんて言葉で縛り付けるのは嫌だった。彼にはもっと相応しい人がいるのだから。
「それでも、私は……」
ルベルトはそれ以上の言葉を言わせないようにするかのように、ユリスの頬にキスを落とした。
「本当はこの件について、ここでじっくり話し合いたかったんだ。私に譲る気はないが……、それはお前もだろう?」
「う……」
「でも今は戻らないと。相手の身分的に、雑に扱うこともできないし」
「……そうですね」
「けどな、ユリス。私の意思は固いぞ。それだけは覚えておいてくれ。私の妃になること、前向きに検討してくると嬉しい」
「っ……」
耳元で囁かれる優しい声に、頬が熱くなる。
このまま頷いて、受け入れられたらどんなに良かっただろう。
そんなことを思いながら、小さな声で「覚えておきます」と、呟いた。
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 13
「……はぁ」
ルベルトは小さく溜息をつきながら、寝室の扉を開けた。
部屋の中央に据え付けられたベッドの上で丸くなったまま、すよすよと眠るユリスの姿を見て安堵の息を漏らす。
「よかった。まだ寝てたか」
彼の傍に腰を下ろして、頬を撫でる。
発情期のはじまりから数日が経ち、ユリスも多少落ち着いてきたのか、よく眠るようになった。
そろそろ症状も治まってゆくのだろう。この数日で見せていた素直に可愛らしく甘えてくれる姿を、しばらく見れないのかと思うと、少し残念な気もしていた。
早く、ユリスを堂々と「私のオメガだ」と言いたい。
けれど、そのためにはするべきことが沢山あって、ユリス本人の説得もその一つだ。
今回の「旅行」は、その説得をじっくり二人きりでするためのものでもあった。
ユリスの発情期の間隔は、滅多に休みを取らない彼が決まって三、四ヶ月に一度数日間休暇を取ることを考えれば、予測は容易だった。
計画では、しっかりと話し合いをした後に、発情期に入る予定だったのだが、多少の誤差は付き物なので仕方がない。
理性を取り戻した後、何を言われるのか少しばかり怖くはあるが。
だが――。ルベルトは先程、城からやってきた使者の言葉を思い出して、また溜息をついた。
「ユリス、起きれるか?」
耳元で囁くと、ルベルトの残していったシャツに顔を埋めていたユリスが、ゆっくりと目蓋を押し上げた。
「……ルベルト、さま?」
舌っ足らずに呼ぶ声がかわいくて、もう少し寝かせておいてやりたくなる。
だが、そうできるのなら、そもそも起こしなどするはずもない。
「ユリス、悪いな」
「……? っ……」
寝ぼけ眼のユリスに苦笑しながら、持っていた小瓶の中身を口に含んで、彼に口移しで飲ませる。
こくん、と喉が鳴ったのを確認しながらも、ルベルトは唇を離し難くてキスを続ける。
とろけた表情で口付けを受け入れていたユリスだったが、次第に視点が定まって目を見開くと、ドンッとルベルトの胸を押した。
「っあ、な、なに……」
ユリスは急に明瞭になった思考の中で、口元を手で拭った。
一体、何を飲まされた?
急にはっきりした頭と、身体の奥に残っていた熱の引く感覚から察するに――
「よ、抑制剤……?」
ルベルトは困ったように笑って頷いた。
「ああ。一番弱い、発情期を軽くする薬だ」
「なんで、急に」
この数日のことを、ユリスはよく覚えていなかった。それでも、意識のある時間の殆どをルベルトと過ごしていたことは覚えている。
身体中にその痕が残っているのだから、発情期が見せた夢ということはないはずだ。
なのにどうして? やはり、オメガの相手など嫌になったのか――。
薬を摂取したとはいえ、まだ発情期の身体は感情の抑制が効きづらい。じわりと涙が浮かんで、慌ててそれを拭った。
「ユリス。実はついさっき、城から使者が来てな」
涙を拭った手をルベルトが包み込む。そして、腕を引かれてぎゅっと抱き締められ、目尻にキスをされる。
「使者……?」
「そう。急ぎ戻らねばならなくなった。だから薬を飲ませた。勝手をしてすまない……」
「そう…ですか……」
そういう理由なら納得だ。発情したままの身体で帰ることなどできない。
だが、一体どんな用件だと言うのだろう。
ルベルトのことだ、大抵の事態には対応できるように手を回していただろうに。なにせ、ユリスの受け持つ三週間分の仕事をユリス自身に気付かれぬまま、上手く回るように差配した男だ。それが、一週間程で切り上げて帰還せざるを得なくなった。
どことなく、嫌な予感がする。
「あの、どんな用件だったのですか」
聞きたくない、と本心では思っていたが、いずれ分かることだ。ユリスはおずおずと顔を上げてルベルトを見た。
ルベルトは、片手で顔を覆って溜息をつくと、言葉を選ぶように口を開いた。
「私の婚約者候補の件について、覚えているか?」
「……ええ。その……発情誘発剤の件で、一旦白紙に戻りました、よね」
ルベルトが頷いて同意する。
ユリスたちが番となってしまった契機でもある、発情誘発剤の事件以降、ルベルトと数人いた婚約者候補との定期面会は休止となっていた。
状況から考えて、ルベルトの婚約者選びが難航していることと無関係とは言い切れなかったからだ。
その結果、この「旅行」に赴く数日前、婚約者候補は全員一度候補から外され、改めて適齢期の女やオメガから再選定されることとなった。
「候補が決定したのですか?」
「いや、それはまだだ。ただ……、その候補に他国の人間が名乗りを上げてきた」
ユリスは目を見開く。
「ちょっと前、オメガの国王が誕生した、という話をしたよな? 覚えてるか?」
「は、はい。『オメガ保護法』の参考に、と法制度を調べた国ですよね」
「そう、その国だ。それで、その国の後継なんだが、元々は別のアルファだったんだ。だが彼は素行が悪く、問題を起こした末に廃嫡されて、今の国王が跡目を継いだそうだ」
ルベルトは眉間を揉んで続けた。
「その、問題を起こしたアルファの元婚約者が、今来ているらしい」
「つまり……」
「王妃教育を受けた、由緒正しき家柄のオメガ子息が、私の婚約者候補に名乗りを上げている」
きゅっと喉が詰まった気がした。
それは、今選定中の候補者達より余程適任なのではないだろうか。
ユリスは、何か言おうとして失敗する。
良いことじゃないか。自分は彼の番であり続けるつもりはない。ならば、別の妃を迎えるのは自然なことだ。
「……ルベルト様」
「『良かった』なんて言うなよ?」
先手を打つように、ルベルトが言った。
「でも」
「私たちの関係云々を置いておくとしても、だ。相手の思惑が読めない。なんでも、国に無断でこちらに来たらしいんだ。本人いわく、『廃嫡された王子の婚約者だったため国には居づらく、婚約者時代に培った能力を発揮させてくれる場所を求めて来た』とのことだが……。それがどこまで本当だか、こちらには確かめようがないんだぞ? 下手に受け入れれば、国の中枢に間者を招くことになる」
「それは……そうですが」
「あと、いい機会だから言っておくんだが」
「……?」
「私はお前以外と番になるつもりはない。一度交わした契約を無効にする気はないからな。それとも……お前は私を、発情期に苦しむ番を放置するような、責任感も何も持ち合わせない鬼畜にするつもりか?」
冗談交じりに問われて、ユリスは口を噤んだ。
責任、という言葉が重い。
彼はこれ以上ないほど、番となったユリスを尊重してくれている。あの日以降も、これまで通り仕事が出来ているのも、薬で封じ込めても奥から湧き上がる劣情を一人でやり過ごさずに済んだもの、彼のおかげだ。
でも、「責任」なんて言葉で縛り付けるのは嫌だった。彼にはもっと相応しい人がいるのだから。
「それでも、私は……」
ルベルトはそれ以上の言葉を言わせないようにするかのように、ユリスの頬にキスを落とした。
「本当はこの件について、ここでじっくり話し合いたかったんだ。私に譲る気はないが……、それはお前もだろう?」
「う……」
「でも今は戻らないと。相手の身分的に、雑に扱うこともできないし」
「……そうですね」
「けどな、ユリス。私の意思は固いぞ。それだけは覚えておいてくれ。私の妃になること、前向きに検討してくると嬉しい」
「っ……」
耳元で囁かれる優しい声に、頬が熱くなる。
このまま頷いて、受け入れられたらどんなに良かっただろう。
そんなことを思いながら、小さな声で「覚えておきます」と、呟いた。
2026/02/01 14:36:25
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 12
「っ、ふ……」
ルベルトの手がユリスの全身を撫でる。
心地よい温度の湯に浸かったまま、後ろから抱き竦められて、肩口を食まれ、指は胸の尖りを弄る。
ユリスの細い腰をすべった指先は、腹筋を辿り、更にその下へ。
「あっ! ル、ルベルト様、そこは……!」
ユリスの勃ち上がった屹立を、しなやかな指がつっとなぞった。
「この前は、こちらを可愛がってやれなかったからな」
そう言いながら、ルベルトの舌はユリスの項を辿る。
「ひ……っ」
番持ちの証であるその跡に触れられると、異様に感じてしまう。もう傷口自体は塞がっているのに、あの時の甘やかな痛みを思い出して、身体が期待に疼く。
そうしている間にも、ルベルトの手はユリスの陰茎をなぞり、浅ましくもそれに喜んでいるのが、水面越しにも見えた。
「あっ、ん……、っう――」
漏れ出る喘ぎを抑えようと口を閉じたいのに、ルベルトはそれを許そうとしないかのように手の動きを早めた。
「や……、ルベルトさまぁ!」
「お前の感じてる声、もっと聞きたい。駄目か……?」
「――っ!!」
ずるい。そんなことを言うなんて。
叶えてあげたくなってしまう……。
「――、ぁ、んっ……! んあっ、ああっ……!」
声を我慢することをやめれば、いっそう快感が強くなった気がした。
背中にルベルトの体温を感じながら喉を反らせば、上からキスが降ってきた。
「んっ、んぅぁ……ふ……ぅ……」
舌を吸われ、頭がぼぅっとする。
無意識に快感から逃げようとする腰を、ルベルトの手が抑え込む。腹に添えられるその手に、ユリスはいっそう、身体の奥が痺れるのを感じた。
「あっ、あぁん……っ、あ、ああぁ……」
後ろにも欲しい。熱い、大きいので中を満たして、めちゃくちゃに揺さぶられたい。
後孔に擦り付けるように腰を揺らすと、ルベルトのそれを熱く昂っているのを感じた。
「っ、は――」
ユリスは息を吸って、ルベルトを見上げた。
「いれて……」
ルベルトが目を見開いて、こちらを見た。
「も、いれて、ルベルトさま……」
「そんなかわいい顔でおねだりされたら、叶えてあげる他ないな……」
苦笑したルベルトは一度手を止めると、ユリスを風呂の縁に手をつかせて、腰を高く上げさせた。
「あっ、は、恥ずかし……」
全身にルベルトの視線を感じて、自分はなんてことを言ったのかと、一瞬我に返る。
「そんなことない。綺麗だ」
「っ……」
囁かれる睦言に体温が上昇する。崩れ落ちそうになる身体をルベルトが後ろから片手で支えられた。
そして、彼のもう一方の手が後孔の縁をなぞる。
「あっ……!」
すりすりと周囲をくすぐっていた指は、すぐに中へと侵入してくる。
「っ、ふ……っ」
びくんと背中が跳ねる。たった一度の情交で、ユリスの弱点を正確に見抜いた指は、そこばかり執拗に攻め立ててくる。
「あ、ああんっ、あっ、あ……!」
女のように濡れる後ろは、じゅぷじゅぷといやらしい音を立てながら、ルベルトの指を飲み込んでいる。
風呂の縁に必死でしがみつきながら、ユリスは背後を仰ぎ見た。
「もう、いれて……! はやくぅ……っ」
「ユリ――」
「やさしくなんて、しないで……!!」
そう叫ぶと共に、涙が零れ落ちた。
「――……ユリス、こっちを向いて」
後孔から指が抜けて、腕を引っ張られる。そして、壁に押さえつけられるように抱きかかえられると、ぽっかりと空いていたところに、ルベルトが挿入ってきた。
「あっ!! あああぁぁっ!!」
強烈な快感に、目の前には星が飛んだ。回したルベルトの背中に爪を立てて、必死に彼にしがみつく。
「あっ、ああんっ! ひぅ、ぁん……っ」
腰を掴まれて、奥を何度も強く貫かれる。その度に、軽く達しては、前からは白濁が溢れ落ちていた。足先が床につかない。ルベルトの身体へ完全に体重を預けて、ユリスはただ喘ぐ。
気持ちよくて、嬉しくて、愛おしくて――。堪え難いほど、哀しかった。
こんな、まるで本当に「愛されている」かのように、強く抱き締めないで。
愛しい人の肌の熱さを、力強い腕を、内側から満たされる欲を知ってしまって、俺はもう戻れなくなってしまうから。
「る……るべると、さま……っ」
ばちゅんと肌がぶつかる音がする。
「……ユリス、好きだよ」
「っ!? ぁ、あっ――!!」
ユリスはぎゅうっとルベルトに抱きついて、達してしまった。中もきつく締まって、彼の形を強く意識する。
今、この人は俺のものだ。……でも。
閨での戯れを本気の言葉なのだと、無邪気に思えれば良かったのに。
「……でんかも、イって」
そっと囁くと、一瞬ルベルトが息を飲んだ気がした。
そして、先ほどより些か乱暴な抽挿が再開される。
「っ、う……!」
そして、中に熱い精が吐き出されるまで、彼は一言も言葉を発することはなかった。
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 12
「っ、ふ……」
ルベルトの手がユリスの全身を撫でる。
心地よい温度の湯に浸かったまま、後ろから抱き竦められて、肩口を食まれ、指は胸の尖りを弄る。
ユリスの細い腰をすべった指先は、腹筋を辿り、更にその下へ。
「あっ! ル、ルベルト様、そこは……!」
ユリスの勃ち上がった屹立を、しなやかな指がつっとなぞった。
「この前は、こちらを可愛がってやれなかったからな」
そう言いながら、ルベルトの舌はユリスの項を辿る。
「ひ……っ」
番持ちの証であるその跡に触れられると、異様に感じてしまう。もう傷口自体は塞がっているのに、あの時の甘やかな痛みを思い出して、身体が期待に疼く。
そうしている間にも、ルベルトの手はユリスの陰茎をなぞり、浅ましくもそれに喜んでいるのが、水面越しにも見えた。
「あっ、ん……、っう――」
漏れ出る喘ぎを抑えようと口を閉じたいのに、ルベルトはそれを許そうとしないかのように手の動きを早めた。
「や……、ルベルトさまぁ!」
「お前の感じてる声、もっと聞きたい。駄目か……?」
「――っ!!」
ずるい。そんなことを言うなんて。
叶えてあげたくなってしまう……。
「――、ぁ、んっ……! んあっ、ああっ……!」
声を我慢することをやめれば、いっそう快感が強くなった気がした。
背中にルベルトの体温を感じながら喉を反らせば、上からキスが降ってきた。
「んっ、んぅぁ……ふ……ぅ……」
舌を吸われ、頭がぼぅっとする。
無意識に快感から逃げようとする腰を、ルベルトの手が抑え込む。腹に添えられるその手に、ユリスはいっそう、身体の奥が痺れるのを感じた。
「あっ、あぁん……っ、あ、ああぁ……」
後ろにも欲しい。熱い、大きいので中を満たして、めちゃくちゃに揺さぶられたい。
後孔に擦り付けるように腰を揺らすと、ルベルトのそれを熱く昂っているのを感じた。
「っ、は――」
ユリスは息を吸って、ルベルトを見上げた。
「いれて……」
ルベルトが目を見開いて、こちらを見た。
「も、いれて、ルベルトさま……」
「そんなかわいい顔でおねだりされたら、叶えてあげる他ないな……」
苦笑したルベルトは一度手を止めると、ユリスを風呂の縁に手をつかせて、腰を高く上げさせた。
「あっ、は、恥ずかし……」
全身にルベルトの視線を感じて、自分はなんてことを言ったのかと、一瞬我に返る。
「そんなことない。綺麗だ」
「っ……」
囁かれる睦言に体温が上昇する。崩れ落ちそうになる身体をルベルトが後ろから片手で支えられた。
そして、彼のもう一方の手が後孔の縁をなぞる。
「あっ……!」
すりすりと周囲をくすぐっていた指は、すぐに中へと侵入してくる。
「っ、ふ……っ」
びくんと背中が跳ねる。たった一度の情交で、ユリスの弱点を正確に見抜いた指は、そこばかり執拗に攻め立ててくる。
「あ、ああんっ、あっ、あ……!」
女のように濡れる後ろは、じゅぷじゅぷといやらしい音を立てながら、ルベルトの指を飲み込んでいる。
風呂の縁に必死でしがみつきながら、ユリスは背後を仰ぎ見た。
「もう、いれて……! はやくぅ……っ」
「ユリ――」
「やさしくなんて、しないで……!!」
そう叫ぶと共に、涙が零れ落ちた。
「――……ユリス、こっちを向いて」
後孔から指が抜けて、腕を引っ張られる。そして、壁に押さえつけられるように抱きかかえられると、ぽっかりと空いていたところに、ルベルトが挿入ってきた。
「あっ!! あああぁぁっ!!」
強烈な快感に、目の前には星が飛んだ。回したルベルトの背中に爪を立てて、必死に彼にしがみつく。
「あっ、ああんっ! ひぅ、ぁん……っ」
腰を掴まれて、奥を何度も強く貫かれる。その度に、軽く達しては、前からは白濁が溢れ落ちていた。足先が床につかない。ルベルトの身体へ完全に体重を預けて、ユリスはただ喘ぐ。
気持ちよくて、嬉しくて、愛おしくて――。堪え難いほど、哀しかった。
こんな、まるで本当に「愛されている」かのように、強く抱き締めないで。
愛しい人の肌の熱さを、力強い腕を、内側から満たされる欲を知ってしまって、俺はもう戻れなくなってしまうから。
「る……るべると、さま……っ」
ばちゅんと肌がぶつかる音がする。
「……ユリス、好きだよ」
「っ!? ぁ、あっ――!!」
ユリスはぎゅうっとルベルトに抱きついて、達してしまった。中もきつく締まって、彼の形を強く意識する。
今、この人は俺のものだ。……でも。
閨での戯れを本気の言葉なのだと、無邪気に思えれば良かったのに。
「……でんかも、イって」
そっと囁くと、一瞬ルベルトが息を飲んだ気がした。
そして、先ほどより些か乱暴な抽挿が再開される。
「っ、う……!」
そして、中に熱い精が吐き出されるまで、彼は一言も言葉を発することはなかった。
2026/02/01 14:34:51
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 11
そんなこんなで馬車旅が続き、二人は滞在先の離宮に辿り着いた。
ユリスにとっては初めて訪れる場所だが、ルベルトには幼少期に何度か訪れたことのある馴染みの場所らしい。
その離宮は、使用人の数も最低限で、更に離れのような宮まである。そちらは常駐の使用人すらいないらしく、二人の関係を徹底的に隠すつもりであることには、安堵した。
荷物を運び入れ、作業をしていた使用人たちも出て行くと、本当に二人きりになってしまった。
本館と繋がるのは一本の廊下のみで、そこの出入り口まで食事が運ばれるそうだが、それ以上に人が入ってくることは基本的にないという。
かつて、身分の低い愛妾を持った王が、彼女と二人で過ごすために作られた決まりらしい。
少々出来過ぎでは、と思うほどユリスにとって都合がよかった。
夕食を終え、部屋でちびちびと茶を飲んでいると、後ろに気配を感じた。しかし、振り返るより早く、ぎゅっと肩に腕が回される。
「でんっ……」
「ルベルト」
名前で呼べ、と暗に言われ、ユリスは仕方なく言い直す。
「……ルベルト様」
「ん」
嬉しそうに頷いた彼は、ユリスの顎に手を添えて、後ろを向かせると、唇を寄せてくる。
「あっ……」
「拒まないでくれ」
懇願するような声に、きゅうっと胎が疼いた気がした。
そして、そのまま抗い切れずにキスをする。
ちゅっ、ちゅと啄むように口付けられ、肌を舌がなぞった。
「ぁ……」
吐息の合間に、舌が侵入する。
だめだ、と頭の片隅では思ったが、それ以上の抵抗ができない。
甘くて、脳が痺れる。身体の奥が、この男を求めていた。
じわりと後ろが濡れて、身体の力が抜ける。
心臓がどくりと大きな音を立てて、肌がざわめいた。
これは――
「っ、ルベルト、様……、おれ……」
「ん?」
ユリスは、彼の服をぎゅっと掴んで、ぽつりと言った。
「発情期、きちゃった……」
抑制剤を飲まなければ。
ああ、でも……、「俺のアルファ」が目の前にいるのに。
うるんだ目で見上げると、ルベルトが微かに唸った。
「ユリス」
自分の名前が、信じられないほど甘く聞こえた。
いつもはもっと緩やかに熱が高まってゆくのに。これは、抑制剤を飲んでいないせいなのか、それとも番が目の前にいるからなのか。
「抱いて、いいか」
「…………っ」
ユリスは小さく頷いた。
その誘うような声に、欲を漲らせる目に、抗う術など持っているはずもなかったのだ。
「おいで」
ルベルトの声に誘われるまま、ふらつく足で立ち上がれば、すぐにルベルトに抱え上げられた。
そう身長も変わらないはずなのに、軽々と抱き上げられて羞恥に顔が赤らむ。
「あっ、ま……まって、くださ――」
「もう待たない」
首筋にキスをされて、息を飲む。
触れた場所が熱い。服越しに感じる体温ももどかしい。
早く素肌でこの男を感じたい。
でも、もう一度肌を重ねてしまえば、自分は――。
葛藤する内心と裏腹に、ユリスはぎゅっとルベルトの首に腕を回す。
ぴったりと抱きつけば、ルベルトが嬉しそうに笑みを漏らした。
「ルベルトさま……」
「まずは、風呂に入ろうか」
欲の孕んだ囁きに、ユリスは何も答えることができなかった。
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 11
そんなこんなで馬車旅が続き、二人は滞在先の離宮に辿り着いた。
ユリスにとっては初めて訪れる場所だが、ルベルトには幼少期に何度か訪れたことのある馴染みの場所らしい。
その離宮は、使用人の数も最低限で、更に離れのような宮まである。そちらは常駐の使用人すらいないらしく、二人の関係を徹底的に隠すつもりであることには、安堵した。
荷物を運び入れ、作業をしていた使用人たちも出て行くと、本当に二人きりになってしまった。
本館と繋がるのは一本の廊下のみで、そこの出入り口まで食事が運ばれるそうだが、それ以上に人が入ってくることは基本的にないという。
かつて、身分の低い愛妾を持った王が、彼女と二人で過ごすために作られた決まりらしい。
少々出来過ぎでは、と思うほどユリスにとって都合がよかった。
夕食を終え、部屋でちびちびと茶を飲んでいると、後ろに気配を感じた。しかし、振り返るより早く、ぎゅっと肩に腕が回される。
「でんっ……」
「ルベルト」
名前で呼べ、と暗に言われ、ユリスは仕方なく言い直す。
「……ルベルト様」
「ん」
嬉しそうに頷いた彼は、ユリスの顎に手を添えて、後ろを向かせると、唇を寄せてくる。
「あっ……」
「拒まないでくれ」
懇願するような声に、きゅうっと胎が疼いた気がした。
そして、そのまま抗い切れずにキスをする。
ちゅっ、ちゅと啄むように口付けられ、肌を舌がなぞった。
「ぁ……」
吐息の合間に、舌が侵入する。
だめだ、と頭の片隅では思ったが、それ以上の抵抗ができない。
甘くて、脳が痺れる。身体の奥が、この男を求めていた。
じわりと後ろが濡れて、身体の力が抜ける。
心臓がどくりと大きな音を立てて、肌がざわめいた。
これは――
「っ、ルベルト、様……、おれ……」
「ん?」
ユリスは、彼の服をぎゅっと掴んで、ぽつりと言った。
「発情期、きちゃった……」
抑制剤を飲まなければ。
ああ、でも……、「俺のアルファ」が目の前にいるのに。
うるんだ目で見上げると、ルベルトが微かに唸った。
「ユリス」
自分の名前が、信じられないほど甘く聞こえた。
いつもはもっと緩やかに熱が高まってゆくのに。これは、抑制剤を飲んでいないせいなのか、それとも番が目の前にいるからなのか。
「抱いて、いいか」
「…………っ」
ユリスは小さく頷いた。
その誘うような声に、欲を漲らせる目に、抗う術など持っているはずもなかったのだ。
「おいで」
ルベルトの声に誘われるまま、ふらつく足で立ち上がれば、すぐにルベルトに抱え上げられた。
そう身長も変わらないはずなのに、軽々と抱き上げられて羞恥に顔が赤らむ。
「あっ、ま……まって、くださ――」
「もう待たない」
首筋にキスをされて、息を飲む。
触れた場所が熱い。服越しに感じる体温ももどかしい。
早く素肌でこの男を感じたい。
でも、もう一度肌を重ねてしまえば、自分は――。
葛藤する内心と裏腹に、ユリスはぎゅっとルベルトの首に腕を回す。
ぴったりと抱きつけば、ルベルトが嬉しそうに笑みを漏らした。
「ルベルトさま……」
「まずは、風呂に入ろうか」
欲の孕んだ囁きに、ユリスは何も答えることができなかった。
2026/02/01 14:33:38
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 10
ルベルトの言った「旅行」というのは、なんのことはない。ただの視察で、ユリスにも彼の側近として付いて来てほしい、というだけの話――だと、聞かされていた。
それが――
「俺と貴方だけっで、どういうことですか……!?」
蓋を開けてみると、その「視察」というのは三日ではなく三週間。その上、行き帰りに帯同する護衛を除けば、殆ど二人きりで過ごす予定らしい。
「いやぁ、お前にバレないかとひやひやした甲斐があったな!」
悪びれもせず笑うルベルトに、怒りが湧く。
「それに、三週間なんて聞いてません! そんな長期だなんて……」
三日なら、と思ってい彼に付き添うことを了承したが、三週間となると、確実に発情期と重なってしまう。だが、そのことをはっきり言うことが躊躇われて口籠ると、ルベルトがぐっと近付いて、耳元で囁く。
「発情期に入ることを気にしてるんだろう?」
「……っ」
「だから、三週間にしたんだ。それに、『三日」とでも言っておかないと、お前は了承してくれなかったろ?」
「あっ、貴方という人は……! お――私は、貴方の番にはならない、と言って……」
「だが今は、私の番だ。違うか?」
「っ――」
ユリスは上がりそうになる体温を無視しながら、どうにか今からでも引き返せやしないかと、頭を巡らせる。
「ですがっ、公式には違うでしょう! 男二人……アルファの男二人きりで三週間も過ごすなんて、どう思われるか!」
「ああ、そこは抜かりないぞ。『突然、発情誘発剤なんてものをかけられて傷心の王太子殿下は、暫く女もオメガもいないところで過ごしたい。ゆえに、最も心を許している側近のみ連れて、しばらく王都をお離れになった』――という噂が広まってる頃だから」
「っ!? ~~こ、このっ、腹黒――っ!!」
「褒めてくれてありがとう」
「褒めてない!!」
いっそう近付いてくるルベルトの胸を押し返そうとするが、抵抗も空しく、ユリスは彼に手を取られて、優しく指にキスをされた。
「誰が何と言おうと、お前は私の大事な番だよ」
「っ――」
嬉しい。嬉しくて堪らないその言葉が、自身をそれほど傷付ける言葉になるなんて、ユリスははじめて思い知ったのだった。
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 10
ルベルトの言った「旅行」というのは、なんのことはない。ただの視察で、ユリスにも彼の側近として付いて来てほしい、というだけの話――だと、聞かされていた。
それが――
「俺と貴方だけっで、どういうことですか……!?」
蓋を開けてみると、その「視察」というのは三日ではなく三週間。その上、行き帰りに帯同する護衛を除けば、殆ど二人きりで過ごす予定らしい。
「いやぁ、お前にバレないかとひやひやした甲斐があったな!」
悪びれもせず笑うルベルトに、怒りが湧く。
「それに、三週間なんて聞いてません! そんな長期だなんて……」
三日なら、と思ってい彼に付き添うことを了承したが、三週間となると、確実に発情期と重なってしまう。だが、そのことをはっきり言うことが躊躇われて口籠ると、ルベルトがぐっと近付いて、耳元で囁く。
「発情期に入ることを気にしてるんだろう?」
「……っ」
「だから、三週間にしたんだ。それに、『三日」とでも言っておかないと、お前は了承してくれなかったろ?」
「あっ、貴方という人は……! お――私は、貴方の番にはならない、と言って……」
「だが今は、私の番だ。違うか?」
「っ――」
ユリスは上がりそうになる体温を無視しながら、どうにか今からでも引き返せやしないかと、頭を巡らせる。
「ですがっ、公式には違うでしょう! 男二人……アルファの男二人きりで三週間も過ごすなんて、どう思われるか!」
「ああ、そこは抜かりないぞ。『突然、発情誘発剤なんてものをかけられて傷心の王太子殿下は、暫く女もオメガもいないところで過ごしたい。ゆえに、最も心を許している側近のみ連れて、しばらく王都をお離れになった』――という噂が広まってる頃だから」
「っ!? ~~こ、このっ、腹黒――っ!!」
「褒めてくれてありがとう」
「褒めてない!!」
いっそう近付いてくるルベルトの胸を押し返そうとするが、抵抗も空しく、ユリスは彼に手を取られて、優しく指にキスをされた。
「誰が何と言おうと、お前は私の大事な番だよ」
「っ――」
嬉しい。嬉しくて堪らないその言葉が、自身をそれほど傷付ける言葉になるなんて、ユリスははじめて思い知ったのだった。
2026/02/01 14:31:28
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 9
ルベルトと番になってから、一週間余り。
ユリスの身の回りは、奇妙なほど落ち着いていた。
「――ほら。この間、殿下が薬を……」
「おいたわしいこと……」
もちろん、王太子が発情誘発剤をかけられたことは大問題になっており、ユリスにも彼を憐れむ人々の声が届いている。
だが、そんな噂話に興じる彼らも……、
「あら、ローエンベルク卿」
声をかけられたユリスは、足を止めて振り返った。たしか彼女は、ルベルトの婚約者候補の母だったはず、と思い返しながら笑みを浮かべる。
「お久し振りでございます、夫人」
いかがなさいましたか、と視線で問うと、彼女は頬に手を当てて、小首を傾げた。
「いえね。殿下のご状況が分からない、と娘が酷く心配しているものだから。殿下はご息災でいらっしゃるのかしら?」
「ええ。お身体の方はご健康そのものです。ただ、今回の事件は婚約者候補様との面通りの前に起きましたので……。次はご令嬢方に危害が加えられるのでは、とご心配なさっておいでなのです」
だから、面会が叶わないのだと伝えると、彼女は痛く感激した様子で、うんうんと何度も頷いた。
「まぁ、そうでしたのね……。そういうことなら。ローエンベルク卿も、くれぐれも殿下をよくお支え下さいましね」
それでは、と去っていく女を、ユリスは一礼して見送った後、再び歩き出す。
――このように、ユリスがオメガであることも、ルベルトの番になってしまったことも、周囲には知られぬまま、日々が過ぎている。
ルベルトも……言っては何だが不気味に沈黙したままで、本当に何事もなかったかのようだった。
(とはいえ。そろそろ、だろうな……)
ルベルトとも短くない付き合いだ。彼がそろそろ何かしらの行動を仕掛けてくる頃合いだと、ユリスは推測していた。
その上、「そろそろ」と言うならば、もう一つ。
(後……、一ヶ月もしない内に、発情期が来る。どうやったら殿下を躱せるだろう……)
ぐるぐると思考を巡らせている内に、ユリスはルベルトの執務室へと辿り着いた。
「失礼いたしま――」
「ユリス、来たか!」
挨拶も言い終わらない内に、ルベルトの声が響いて、ユリスは目を丸くする。
部屋に入ると、彼は満面の笑みを浮かべながら、つかつかとこちらに歩いてきて、こう言った。
「旅行に行こう、ユリス!」
「……はあ?」
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 9
ルベルトと番になってから、一週間余り。
ユリスの身の回りは、奇妙なほど落ち着いていた。
「――ほら。この間、殿下が薬を……」
「おいたわしいこと……」
もちろん、王太子が発情誘発剤をかけられたことは大問題になっており、ユリスにも彼を憐れむ人々の声が届いている。
だが、そんな噂話に興じる彼らも……、
「あら、ローエンベルク卿」
声をかけられたユリスは、足を止めて振り返った。たしか彼女は、ルベルトの婚約者候補の母だったはず、と思い返しながら笑みを浮かべる。
「お久し振りでございます、夫人」
いかがなさいましたか、と視線で問うと、彼女は頬に手を当てて、小首を傾げた。
「いえね。殿下のご状況が分からない、と娘が酷く心配しているものだから。殿下はご息災でいらっしゃるのかしら?」
「ええ。お身体の方はご健康そのものです。ただ、今回の事件は婚約者候補様との面通りの前に起きましたので……。次はご令嬢方に危害が加えられるのでは、とご心配なさっておいでなのです」
だから、面会が叶わないのだと伝えると、彼女は痛く感激した様子で、うんうんと何度も頷いた。
「まぁ、そうでしたのね……。そういうことなら。ローエンベルク卿も、くれぐれも殿下をよくお支え下さいましね」
それでは、と去っていく女を、ユリスは一礼して見送った後、再び歩き出す。
――このように、ユリスがオメガであることも、ルベルトの番になってしまったことも、周囲には知られぬまま、日々が過ぎている。
ルベルトも……言っては何だが不気味に沈黙したままで、本当に何事もなかったかのようだった。
(とはいえ。そろそろ、だろうな……)
ルベルトとも短くない付き合いだ。彼がそろそろ何かしらの行動を仕掛けてくる頃合いだと、ユリスは推測していた。
その上、「そろそろ」と言うならば、もう一つ。
(後……、一ヶ月もしない内に、発情期が来る。どうやったら殿下を躱せるだろう……)
ぐるぐると思考を巡らせている内に、ユリスはルベルトの執務室へと辿り着いた。
「失礼いたしま――」
「ユリス、来たか!」
挨拶も言い終わらない内に、ルベルトの声が響いて、ユリスは目を丸くする。
部屋に入ると、彼は満面の笑みを浮かべながら、つかつかとこちらに歩いてきて、こう言った。
「旅行に行こう、ユリス!」
「……はあ?」
2026/02/01 14:30:03
作品一覧
改稿版更新中
初稿更新終了
ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
玉座の憧憬 アレイスト×セレンIF:小説・男女恋愛・バッドエンド・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 アレイスト×セレンIF:小説・男女恋愛・バッドエンド・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
初稿更新中
改稿版完結
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 18
「――それでは、お大事に」
エルネストの病室に当てた部屋の扉が開き、聞こえたユリスの声にルベルトは顔を上げた。
「ユリス、フィロー殿の様子は……」
「で、殿下……」
ビクッと身体を震わせて、一瞬怯えたような表情を見せたユリスに、ルベルトは首を傾げる。
「どうしたんだ、ユリス?」
「……いえ、いらっしゃると思わず」
扉をゆっくりと後ろ手に締めたユリスは、ルベルトの質問を思い出してか、ちらりと背後に視線を投げる。
「少し、情緒不安定のようですが……。突然のことですから仕方ないでしょう。ひとまず、ベータ男性のアストルに任せることにしましたし、我々にこれ以上できることはないかと」
「そうだな……」
予期せぬ妊娠。その上、番だという元婚約者は牢の中。自分自身は慣れぬ異国の地となれば、平静でいる方が難しいだろう。
「それよりも、この騒動を収める方法を考える方が専決では?」
「たしかになぁ。ジジイ共が、『妊娠中にもかかわらず王太子妃に名乗りをあげるなんて、これだからオメガは』って、騒ぎ出してる」
「本人も自覚がなかったのですし、仕方ないでしょう」
「聞く耳ないよ、あいつらは……」
ルベルトは、はぁと大きな溜息をついて、ちらりとユリスを見る。
(どうにかユリスを説得して、オメガであることを公表した後、伴侶に選ぶつもりだったんだけどな……)
仮に説得できたところで、今は時期が悪すぎる。
だが、なんとしても次の発情期の時期までにはこの問題を片付けたい。
そう何度も同じ手口でユリスと過ごすことは難しいし――、それこそエルネストのように妊娠している可能性もある。
「――まぁ、なんにせよあれだな。妃選びはまた振り出しだな」
「嬉しそうですね……」
「そりゃそうだよ」
ルベルトはユリスの耳元に顔を寄せる。
「私の妃に相応しいのは、お前だ」
「っ……」
ユリスがルベルトから一歩離れる。
「ユリ……」
その泣きそうな表情を見て、自分が何かとてもまずいことを言ったのを悟る。
だが、ユリスは何も言わずに顔を背けた。
「……俺は、」
ユリスはふると首を振って言葉を切ると、スッと表情を引き締めて、ルベルトを見た。
「馬鹿なことを言ってないで行きますよ。やることは山積みなんですから」
「あ、ああ」
足早に歩きはじめたユリスの後を追う。
この時のユリスが何を思っていたのかは分からぬまま――。
この日から二週間程が経ったある日、ユリスはルベルトの前から姿を消したのだった。