初稿置き場
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章
27
「――では、お互いの就職決定を祝してー」
「「かんぱい!」」
レンはファルとグラスを上げて、酒を呷った。
アカデミー卒業が間近となった日の夜。ファルの進路がようやく決まり、先んじて研究所からの正式な内定通知を貰っていたレンは、二人でお祝いをしようと飲みに誘ったのだ。
とはいえ、場所は寮の食堂。外で買ってきた酒とつまみを持ち込んだだけの、夕食の延長のようなそれだ。
「けど、まさかファルが官僚になるなんてなぁ……」
レンがしみじみ呟くと、ファルは肩を竦めた。
「夏季休暇からの急な方向転換だっただろ? 出願とか諸々、間に合うかすら分かんなかったんだよ」
「ああ。一般応募だったら、かなり厳しかったんだっけ」
「そのあたりは、アカデミー様々だな……」
官僚――つまり、王宮勤めの文官職なのだが、登用には各種の試験がある。学力試験やら小論文の提出やら面接やら……。レンは聞くだけでも「うへぇ」となってしまうが、ファルはそれらの殆どをしっかり突破して、その座を勝ち取ったのだ。
殆ど、というのは、アカデミーの上級課程在籍者の場合は、そこまでの成績に応じていくつかの試験を免除されるためだ。
もっとも、ファルの場合はその辺りの免除がなくとも、実力で突破しそうではあったのだが、問題は出願期限だった。アカデミー経由の出願の場合は、そういった免除制度があるため、比較的遅い時期まで受け付けている。十代後半に蛹期を迎える蝶の民への配慮、という理由もあるのだろうが、アカデミーの上級課程を卒業する成績優秀者を少しでも多く取り込みたいというのが本音だろう。
今回のファルは、それに救われた形だ。
ちなみにレンはというと、夏季休暇のあの日に研究所を訪れたところ、そのまま内定となった。正式な通知が届けられたのはもう少し後のことだったが、現在は週に一度ほど事前研修という形で顔を出している。
面接練習やらでへろへろになっていたファルに、散々ずるいと文句を言われたが、恵まれているのは本当のことなので、甘んじて受け入れたものだ。
「けど、ほんと……。やっと肩の力が抜けた……。通知書の封筒開ける時、心臓破裂するかと」
「えー? 『結構いい感じだった』、とか言ってたじゃん。なのに?」
「そりゃあ感触は良かったけどな……。結果来るまで安心なんかできないだろ」
「まあ、たしかに」
上級課程に上がる際の試験を思い出して、レンも肩を竦めた。難易度はあれと比べ物にならないが、「おそらく大丈夫」と思っていても不安なものは不安だ。
「なんにせよ、受かったんだしさ。今日は飲め飲め」
ファルのグラスに酒を注ぎ足してやりながら、お疲れと肩を叩く。
「そうする。お互いこれからが大変なんだし、今日くらいはな」
「ほんと、それな……」
研究所の方から出されている課題を思い出し、少し遠い目になる。楽しい――のは楽しいのだが、頭に詰めなければならない知識の量があまりに膨大で、気が遠くなるのだ。
ファルは無言でレンの肩を叩き返すと、労いの意味を込めてか、もう一度グラスを合わせたのだった。
2026/10/14 01:04:54
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レンはファルとグラスを上げて、酒を呷った。
アカデミー卒業が間近となった日の夜。ファルの進路がようやく決まり、先んじて研究所からの正式な内定通知を貰っていたレンは、二人でお祝いをしようと飲みに誘ったのだ。
とはいえ、場所は寮の食堂。外で買ってきた酒とつまみを持ち込んだだけの、夕食の延長のようなそれだ。
「けど、まさかファルが官僚になるなんてなぁ……」
レンがしみじみ呟くと、ファルは肩を竦めた。
「夏季休暇からの急な方向転換だっただろ? 出願とか諸々、間に合うかすら分かんなかったんだよ」
「ああ。一般応募だったら、かなり厳しかったんだっけ」
「そのあたりは、アカデミー様々だな……」
官僚――つまり、王宮勤めの文官職なのだが、登用には各種の試験がある。学力試験やら小論文の提出やら面接やら……。レンは聞くだけでも「うへぇ」となってしまうが、ファルはそれらの殆どをしっかり突破して、その座を勝ち取ったのだ。
殆ど、というのは、アカデミーの上級課程在籍者の場合は、そこまでの成績に応じていくつかの試験を免除されるためだ。
もっとも、ファルの場合はその辺りの免除がなくとも、実力で突破しそうではあったのだが、問題は出願期限だった。アカデミー経由の出願の場合は、そういった免除制度があるため、比較的遅い時期まで受け付けている。十代後半に蛹期を迎える蝶の民への配慮、という理由もあるのだろうが、アカデミーの上級課程を卒業する成績優秀者を少しでも多く取り込みたいというのが本音だろう。
今回のファルは、それに救われた形だ。
ちなみにレンはというと、夏季休暇のあの日に研究所を訪れたところ、そのまま内定となった。正式な通知が届けられたのはもう少し後のことだったが、現在は週に一度ほど事前研修という形で顔を出している。
面接練習やらでへろへろになっていたファルに、散々ずるいと文句を言われたが、恵まれているのは本当のことなので、甘んじて受け入れたものだ。
「けど、ほんと……。やっと肩の力が抜けた……。通知書の封筒開ける時、心臓破裂するかと」
「えー? 『結構いい感じだった』、とか言ってたじゃん。なのに?」
「そりゃあ感触は良かったけどな……。結果来るまで安心なんかできないだろ」
「まあ、たしかに」
上級課程に上がる際の試験を思い出して、レンも肩を竦めた。難易度はあれと比べ物にならないが、「おそらく大丈夫」と思っていても不安なものは不安だ。
「なんにせよ、受かったんだしさ。今日は飲め飲め」
ファルのグラスに酒を注ぎ足してやりながら、お疲れと肩を叩く。
「そうする。お互いこれからが大変なんだし、今日くらいはな」
「ほんと、それな……」
研究所の方から出されている課題を思い出し、少し遠い目になる。楽しい――のは楽しいのだが、頭に詰めなければならない知識の量があまりに膨大で、気が遠くなるのだ。
ファルは無言でレンの肩を叩き返すと、労いの意味を込めてか、もう一度グラスを合わせたのだった。