贖罪の献身序
「アレイスト!!」
悲鳴のような声が自分の喉から飛び出していく。
転落してゆく小さな手を掴もうと、必死に走って腕を伸ばした。
だが、その指先は空を切って――。
斜面を幼い少年が物のように転がっていく音、遥か下でようやく停止した彼は、ぴくりとも動かなかった。
身体がガタガタと震えだす。
自分はなんてことをしてしまったんだろう。
どうして手を離した。どうして、一瞬でも目を離したんだ。
おれが、この子を守らなければならなかったのに。
死んでしまっていたらどうしよう。こんな高さから落ちたのに、無事なはずがない。
どうしよう。どうしたら――
「――ッ!!」
ロウェルは、ハッと目を開いた。
辺りは暗い。まだ、真夜中だ。
どくんどくんと嫌な音を立てる心臓を、幾度かの深呼吸でなんとか宥め、ふと傍らへ視線を落とす。
「アレイスト……」
こちらに背を向け、身体を胎児のように小さく丸めて眠る青年の姿が、そこにはあった。
どうやら起こしてはいないらしいと安堵して、剥き出しの細い肩にシーツをかけながら、そっと髪にキスをする。
せめて、抱きしめることができたらいいのに。
いまだに夢に現れるほど強烈な記憶として残る十七年前のあの日から、自分たちの間には見えない壁が存在している。
こうして、何の因果か身体を繋げるようになった今も、それは変わらない。
そこまで考えて、ロウェルは静かに首を振った。
たしかに現状、二人の間に肉体関係があるのは事実だ。しかしこれは、愛や恋――、性欲に起因するものですらない。
アレイストはずっと確かめている。
ロウェルがどこまで自分の要求に応えられるのか。本当に、何があっても傍を離れないのか。
もう長い間、自分たちの関係は歪んでいた。
だがそれを更に暗い場所へ落としたのは、つい最近になってから。
数ヶ月前、アレイストの姉セレンティーネがこの城を発つことになったその日。全ては一変してしまったのだ――。