赦しを願う私たちは
「は……? なん、だこれは……」
十一年振りに足を踏み入れた父の執務室で、セレンがそれを見つけてしまったのは、本当に偶然だった。
日付はまさに十一年前。その日に書かれたと思しき、当時の大臣たちから連名で出されたらしい嘆願書には、こう記されていた。
――王家の血を引かぬ娘を、国王と仰ぐことはできない。正当なる世継ぎの召還を要望する。
「王家の血を、引かぬ娘……?」
十一年前、セレンは母を、そして王太子位を失った。
そうして一度も会ったこともなかった弟が、新たな王太子として立った瞬間のことは、昨日のことかのように鮮明に思い出される。
これは、この紙に書かれているのは、一体、誰の……。
「――ああ、見つけてしまったんですか、姉上」
突然聞こえた声に振り返ると、いつもは控えめに浮かべている笑みを消した異母弟が、無表情でこちらを見据えていた。
「アレイスト……」
彼は杖をつきながら、ゆっくりと近付いてくる。
「信じられませんか? でも本当のことです」
「何の、ことだ……」
セレンの目の前まで来たアレイストは嘲笑に口元を歪めた。彼のそんな表情を見るのは初めてのことで、困惑のあまりたじろいでしまう。
「貴女は、陛下の娘ではない。シエラ妃が情夫との間に作った子――。それが貴女です」
「――っ、そんなはず……!」
咄嗟に反駁するが、アレイストは急にセレンの頬に触れて、顔を覗き込んできた。その視線に言葉が途切れる。
「嘘つきですね。本当は薄々……察していたのでしょう?」
「っ……」
セレンは何も言い返すことが出来なかった。
母譲りの銀髪――。それ以外に、母にも、
アレイストの、父そっくりな顔と青い目に見つめられて、セレンは唇を噛んだ。
なら、自身の持つ菫色の瞳は、一体誰の――。
「……ねぇ、姉上。分かりますか。私たちは、血なんて一滴も繋がってないんですよ」
いやに優しい声でアレイストが呟く。
その次の瞬間には、頬に添えられていた手が顎を捕らえていた。
「いっ……」
爪が食い込むほど強く掴まれて、痛みに呻くがその力は一向に緩まない。
「アレイ…スト……?」
「……私は、ずっと……、貴女がこの事実を知る日を待っていたのでしょうね」
彼は独り言のように呟くと、掴んだままの顎を引き寄せた。
そして――
「え……」
唇が重なる。
「な、何をす――!」
「……さあ、なんなのでしょうね」
セレンは、何の温度もないアレイストの瞳に見つめられながら、口内に侵入する舌を、ただ受け入れるしかなかった。
「――あっ、あぁ……んぁっ!」
私は、何をしているんだろう。
薄暗い執務室。その床の上で、セレンは破瓜の痛みと無理やり引きずり出される快楽に喘いでいた。
子宮を突かれるたびに、声が、そして、心の奥底に封じ込めていたものが、暴かれていく気がする。
どうして、弟だったはずの男と身体を繋げているの。
頭の片隅に残る冷静な部分は、そう言っている。なのに、肉体は熱を求めて媚びるように男の腕を掴んだ。
「っ、は……」
アレイストの吐息がかかり、唇を重ね、舌を絡めあう。
身体が熱い。触れている場所全てが火傷しそうなほど。だが、彼の視線は凍えるほど冷たくて、恐怖すら感じる。
「――な、んで、こんなこと、するの……っ」
舌が糸を引いて離れた時、セレンは叫んでいた。
「わたしのこと、すきな…わけではない、じゃない……!」
下肢を穿っていた動きが止まる。
「……えぇ、そうですね」
どこか遠い目をして、アレイストが呟いた。そしてセレンの腰を掴み、言う。
「私は、貴女が憎い」
「――っ、あっ!?」
彼は一際強く中を突いた。足が痺れて、内部に収まったものを一層締め付けてしまったのが分かる。しかしアレイストは、それを構うことなく抽挿を再開しながら、どこか譫言のように続けた。
「憎くて堪らない。出逢った時から、ずっと。……ずっとだ! 貴女は、私に無いものを全て、持っているのに……!!」
「そ、な……、あっ! あぁっ!」
セレンが背中を弓なりに逸らして絶頂すると共に、中にじわりと熱が広がる感覚があった。
ああ……、もうこれで、取り返しがつかない。
ぼんやりそんなことを思う。
「…………セレン」
突然呼ばれた名前に、びくりと身体が跳ねた。アレイストに名を呼ばれるのは初めてだった。
彼はセレンの手を取ると、まるで心から愛おしむかのように、その手の平にキスをする。
「セレン……。どうか、私と一緒に……、死んでくれませんか」