初稿置き場
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章
25
「俺、研究者になるよ」
レンの宣言を聞いて、ファルがどれほど安堵し、そして嬉しかったか。
目の前の親友はきっと知らないだろう。
自身の過去を吐露したことが影響しているのかもしれないという罪悪感だけではない。
ファルは、レンに彼のかねてからの夢を叶えてほしかった。
初めて会った時には酷く反発したものだが、あれだって――今思えば「憧れ」の裏返しだったのではないかと思う。
レンはいつも真っ直ぐだった。
真っ直ぐすぎて、眩しくて……、思わず目を背けてしまいそうになるほど。
彼のそういうところを、ファルは尊敬し――愛している。
苦しいほどの光は、いつしかファルにとって、無くてはならないものになっていたのだ。
「……父さん、母さん」
その光に導かれるように、ファルは頭を上げて両親の顔を見た。
「僕も、ずっと聞きたかったことがある。どうして……二人は人間を恨んだり、憎んだりせずにいられたんだ?」
ファルはレンと出会うまで、両親以外に心を開ける相手はいなかった。周囲は敵ばかりだと思っていた。自分たちの受けた苦しみに無理解な同級生たちが嫌いだった。蚊帳の外から憐れんでみせるだけの大人が腹立たしかった。
そんな、ファルから見れば苛立ちを覚えるだけの相手にも、両親は優しかった。いつも笑顏で、愚痴や不満など聞いたこともない。それは、研究所にいる時も――だ。
「――恨んで、憎んだわ。たくさん」
静かに答えたのは母ラァナだった。父オーランも、同意するように頷いている。
「でも、二人はいつも他人に優しかった……。どうして?」
ラァナはくすりと笑って答えた。
「それはね。たしかに許し難いことをした人もいたけれど、同じくらい……いいえ、それ以上に、わたしたちに優しくしてくれた人がいたからよ」
オーランが補足するように続ける。
「人の優しさが無ければ、私たちは今こうして暮らすことは出来ていなかっただろうね。研究所を出ることは叶わなかったし、こちらに着いてからも沢山の人に多くの恩を受けた」
「わたしたちはその『恩』を返しているの。直接伝えることが出来なくても、巡り巡って――いつか届く。……そう、信じてるのよ」
「巡り巡って……」
ファルの呟きに頷いたラァナは、オーランと微笑みあった。
ふとレンと視線が合えば、彼も同じように優しく微笑んでくれる。
その時、天啓のように閃いたものがあった。
ファルは、そうかと己の中で納得する。
レンに与えられた光――。それを今度は、自分が広めていく番なのだ。
2026/10/13 19:18:20
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「俺、研究者になるよ」
レンの宣言を聞いて、ファルがどれほど安堵し、そして嬉しかったか。
目の前の親友はきっと知らないだろう。
自身の過去を吐露したことが影響しているのかもしれないという罪悪感だけではない。
ファルは、レンに彼のかねてからの夢を叶えてほしかった。
初めて会った時には酷く反発したものだが、あれだって――今思えば「憧れ」の裏返しだったのではないかと思う。
レンはいつも真っ直ぐだった。
真っ直ぐすぎて、眩しくて……、思わず目を背けてしまいそうになるほど。
彼のそういうところを、ファルは尊敬し――愛している。
苦しいほどの光は、いつしかファルにとって、無くてはならないものになっていたのだ。
「……父さん、母さん」
その光に導かれるように、ファルは頭を上げて両親の顔を見た。
「僕も、ずっと聞きたかったことがある。どうして……二人は人間を恨んだり、憎んだりせずにいられたんだ?」
ファルはレンと出会うまで、両親以外に心を開ける相手はいなかった。周囲は敵ばかりだと思っていた。自分たちの受けた苦しみに無理解な同級生たちが嫌いだった。蚊帳の外から憐れんでみせるだけの大人が腹立たしかった。
そんな、ファルから見れば苛立ちを覚えるだけの相手にも、両親は優しかった。いつも笑顏で、愚痴や不満など聞いたこともない。それは、研究所にいる時も――だ。
「――恨んで、憎んだわ。たくさん」
静かに答えたのは母ラァナだった。父オーランも、同意するように頷いている。
「でも、二人はいつも他人に優しかった……。どうして?」
ラァナはくすりと笑って答えた。
「それはね。たしかに許し難いことをした人もいたけれど、同じくらい……いいえ、それ以上に、わたしたちに優しくしてくれた人がいたからよ」
オーランが補足するように続ける。
「人の優しさが無ければ、私たちは今こうして暮らすことは出来ていなかっただろうね。研究所を出ることは叶わなかったし、こちらに着いてからも沢山の人に多くの恩を受けた」
「わたしたちはその『恩』を返しているの。直接伝えることが出来なくても、巡り巡って――いつか届く。……そう、信じてるのよ」
「巡り巡って……」
ファルの呟きに頷いたラァナは、オーランと微笑みあった。
ふとレンと視線が合えば、彼も同じように優しく微笑んでくれる。
その時、天啓のように閃いたものがあった。
ファルは、そうかと己の中で納得する。
レンに与えられた光――。それを今度は、自分が広めていく番なのだ。