初稿置き場
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章
23
ファルの両親との邂逅から、日々は穏やかに過ぎていった。
なんでもない、だが都会育ちのレンには新鮮な田舎での暮らしはとても楽しく、レンは毎日を目一杯楽しんだ。
ファルの父オーランとは約束通り釣りをして、母ラァナとは彼女の家庭菜園の草むしりを手伝い――。もちろんファルとも毎日呆れるほど笑って過ごして、帰省期間最後の夜はあっという間に訪れていた。
「あ~……、ラァナおばさんの手料理も、今日で最後かぁ……」
「あら。また食べに来たらいいわ。レンくんならいつでも大歓迎だもの。ねぇ、あなた」
ラァナから話を振られたオーランも、満面の笑みで頷いている。
「もちろんだよ。今度は滝壺の方まで釣りに行こう。あっちはもう少し大振りの魚がいるんだ」
「ちょっと父さん。レンは山歩きには慣れてないんだ。怪我させないでくれよ?」
「わかってるわかってる」
あたたかな家族の会話に、レンはどこかほっとした気持ちで笑みを浮かべる。
ファルの過去を知らなければ、彼らが非道な研究の犠牲になっていたなど、とても考えられなかっただろう。
今、彼らはとても幸せそうだ。過去の傷など無かったかのように――。
「……オーランさん、ラァナさん」
レンはカトラリーを置いて、真剣な眼差しで二人を見た。
それまでと雰囲気の変わったレンに、ファルも含め三人は何事かと不思議そうにしている。
レンは一度深く深呼吸をする。
今更、蒸し返すべきではないのかもしれない。
だが――、レンは意を決して口を開いた。
「俺はずっと、『蝶の民の研究者』を志していました」
「レン!?」
突然何を言うのかと気色ばむファルに、視線だけで「言わせてほしい」と伝える。
その決意が伝わったのか、椅子から腰を浮かしかけていたファルは、姿勢を正してから両親に頭を下げた。
「父さん、母さん。レンには……、僕たちの昔のことを話した。勝手をして、ごめん」
レンの不意の発言とファルの謝罪に二人は何を思っているのか。黙したままの彼らに促され、レンに続きを口にする。
「でも……、最近になって、俺が――軽々しく踏み込んでいい世界ではないのではないか、と悩むようになったんです」
「レンくん」
オーランがそっと口を開く。
「『大切にしたいもの』は、分かったかい?」
彼はレンが初めて会った時に口にした「悩み」が、今話そうとしている内容なのだと察しがついたのだろう。優しい声でかけられた問いに、レンはこくりと頷いた。そして、オーランとラァナに笑みを向けた。
「おじさん、おばさん。俺、ここでの毎日がすっごく楽しかったんだ。だからさ、『蝶の民』の誰もがこうやって笑って生きられるようにしたい」
レンは心配そうな顔をしていたファルに視線を向けた。そして、宣言する。
「俺、研究者になるよ」
もう迷いはなかった。
2026/10/13 12:34:21
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ファルの両親との邂逅から、日々は穏やかに過ぎていった。
なんでもない、だが都会育ちのレンには新鮮な田舎での暮らしはとても楽しく、レンは毎日を目一杯楽しんだ。
ファルの父オーランとは約束通り釣りをして、母ラァナとは彼女の家庭菜園の草むしりを手伝い――。もちろんファルとも毎日呆れるほど笑って過ごして、帰省期間最後の夜はあっという間に訪れていた。
「あ~……、ラァナおばさんの手料理も、今日で最後かぁ……」
「あら。また食べに来たらいいわ。レンくんならいつでも大歓迎だもの。ねぇ、あなた」
ラァナから話を振られたオーランも、満面の笑みで頷いている。
「もちろんだよ。今度は滝壺の方まで釣りに行こう。あっちはもう少し大振りの魚がいるんだ」
「ちょっと父さん。レンは山歩きには慣れてないんだ。怪我させないでくれよ?」
「わかってるわかってる」
あたたかな家族の会話に、レンはどこかほっとした気持ちで笑みを浮かべる。
ファルの過去を知らなければ、彼らが非道な研究の犠牲になっていたなど、とても考えられなかっただろう。
今、彼らはとても幸せそうだ。過去の傷など無かったかのように――。
「……オーランさん、ラァナさん」
レンはカトラリーを置いて、真剣な眼差しで二人を見た。
それまでと雰囲気の変わったレンに、ファルも含め三人は何事かと不思議そうにしている。
レンは一度深く深呼吸をする。
今更、蒸し返すべきではないのかもしれない。
だが――、レンは意を決して口を開いた。
「俺はずっと、『蝶の民の研究者』を志していました」
「レン!?」
突然何を言うのかと気色ばむファルに、視線だけで「言わせてほしい」と伝える。
その決意が伝わったのか、椅子から腰を浮かしかけていたファルは、姿勢を正してから両親に頭を下げた。
「父さん、母さん。レンには……、僕たちの昔のことを話した。勝手をして、ごめん」
レンの不意の発言とファルの謝罪に二人は何を思っているのか。黙したままの彼らに促され、レンに続きを口にする。
「でも……、最近になって、俺が――軽々しく踏み込んでいい世界ではないのではないか、と悩むようになったんです」
「レンくん」
オーランがそっと口を開く。
「『大切にしたいもの』は、分かったかい?」
彼はレンが初めて会った時に口にした「悩み」が、今話そうとしている内容なのだと察しがついたのだろう。優しい声でかけられた問いに、レンはこくりと頷いた。そして、オーランとラァナに笑みを向けた。
「おじさん、おばさん。俺、ここでの毎日がすっごく楽しかったんだ。だからさ、『蝶の民』の誰もがこうやって笑って生きられるようにしたい」
レンは心配そうな顔をしていたファルに視線を向けた。そして、宣言する。
「俺、研究者になるよ」
もう迷いはなかった。