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#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 11
あの後、ファルと再び込み入った話をする間もないまま、夜が明ける。
この日も、前日とは別の被験者の元へ行くことになっており、ファルと二人エルジュの後を追って、現場へと向かった。
昨日はかなり安定している被験者だったが、今日訪ねるのは経過観察に注意を払わねばならない対象だそうだった。
とはいっても、研究所の所員でもない部外者を連れていけるくらいなので、差し迫った何かは無い――と、聞かされていた。
しかし。
被験者宅に辿り着いた時、エルジュがドアベルを押すよりも早く、その扉が内側から開いた。
「――エルジュさん! 丁度良かった、今研究所に連絡しようと……!」
開け放たれた玄関から現れた男性は、エルジュの姿に余程安堵したのか、涙目になっている。
そんな男の様子に、表情を引き締めたのはエルジュだ。
「何がありました」
「繭が……、息子の繭が、黒く――!」
息を飲んだエルジュは、慌てて家の中へと駆けていく。
レンたちも逡巡したものの、玄関先に突っ立っていても仕方がないと、彼の後を追った。
廊下を幾度か曲がり、部屋へ入る。
そこには、立ち竦むエルジュと――繭があった。
だが、昨日見たものとはまるで違う。
輝くほど真っ白だった繭とは似ても似つかぬほど、そこにあるのは、ダークグレーに黒ずんでいる。心なしか表面もごわついて見えた。
「こんな、急に……」
呆然とエルジュが呟く。
「――っ、レン、ファル」
振り向いたエルジュが、レンたちの名を呼んだ。
「貴方たち、魔法は?」
「つ、使えます」
レンが答え、ファルも隣で頷いている。
「ならば魔素の操作もできますね。来てください、彼を羽化させます」
「えっ!?」
思わず声を上げたのはレンだけだったが、ファルも驚愕に目を見開いていた。
「で、でも、外から強制的に羽化させるなんて……」
繭に近付くエルジュの背に問いかけると、彼は立ち止まって振り返る。そして、シャツのカフスボタンを外し、袖を捲った。
「やらねば、彼がそのまま死ぬだけです」
それだけ言うと、またレンたちに背を向けて、繭の方へ向かった。
蛹期の蝶の民は非常に繊細――。それを承知の上で外圧をかけるなど、普通ならあり得ない。
だがエルジュが言うのだから、このまま放置しても中の人間が死んでしまうだけなのだろう。
それを分かっていても、足が竦んで動かない。
その時、隣からぽんと肩に手が乗せられる。
「……ファル」
「やろう。僕たちしかいないんだ」
そんなことを言うファルの手は、小刻みに震えていた。
当然だ。彼は助けるためでない繭へ手を加える様を、間近で見ている。
自分よりも余程、怖いはずだ。
「――そうだな。俺たちがやらなきゃな」
レンはファルの震える手に、自分のそれを重ねて笑った。
「何をすればいいですか!」
二人で繭に近付きながら、エルジュに問いかける。
彼は少しほっとしたように表情を緩めて、繭を指差した。
「まず、揺らさないように手を当てて。それから、魔法を使う時の要領で、中に魔素を流してください」
頷いて指示に従い、黒ずんだ繭に手を当てる。
やはり、昨日のものよりごわごわとしていて、生気が薄い気がした。
「――その後はどうすれば?」
おそるおそる魔素を流しはじめながら問いかける。
「暫くそのままで。これは蛹期の経過を強制的に早める行為です。一定程度魔素を吸収すれば羽化が――、はじまりましたね」
エルジュが手を離したのに合わせて、レンとファルも繭から手を離す。
程なくして、パリパリという小さな音と共に、繭にヒビが入る。そして、繭が裂けはじめると同時に、天井に張り付いていた糸が少しずつ剥がれて繭が床にゆっくり着地する。
そこまで見届けたエルジュは、安堵の息をついてレンたちに手を振った。
「もう大丈夫です。少し離れてあげて」
「は、はい」
繭の裂け目が大きくなる。
そして、中からのそりと一人の青年が身体を起こした。
彼が不思議そうに目を瞬かせると、エルジュがゆっくりと近付いて片膝をついた。
「羽化おめでとう。身体の調子はいかがですか?」
「……えっと」
ポツポツと青年がエルジュの質問に答えるのを横目に、レンは隣に立つファルの様子を窺った。
「――ファル」
「あ……」
青白い顔をした彼の手を、暖めるように両手で握りしめる。
「もう終わった。あの子も元気だよ」
「…………うん」
ファルは力が抜けたように、レンの肩に頭を預けて息をついた。
そんな彼の頭をよしよしと撫でて、レンもようやく一息ついたのだった。