初稿置き場

#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 8


「わぁ……」
 レンは目の前の光景に感嘆の声を漏らした。
 そこには、輝くような白い色をした大きな繭がある。
 部屋の一角に、粘性の糸で天井と床が繋がれ、宙に浮くようにそれがあった。
 家族全員、ただの人――蝶の民ではないレンは、繭を見ること自体初めてだ。
「すっげぇ、綺麗……」
 本に載っている写真でしか見たことのなかったそれは、実際に見てみると迫力がまるで違う。
 人一人が入っているのだから当然だが、繭は思っていたよりも大きく、表面には艶めくような輝きがある。
 同級生たちが蛹期に入り、羽化して戻ってくるのを見るたび、その煌めきを纏うような変化に目を奪われたものだ。この繭があの変貌をもたらすのは、どこか納得だった。
 中にいるのは、今年十六になる少年だそうだ。蛹化してから約二ヶ月。肉体は溶けており、再構築がはじまるよりは前の、まさに生まれ変わる途中の時期である。
 つい手を伸ばしたくなって、ハッとして引っ込める。だが我慢できずに、背後で様子を見守る少年の母を見る。
「あ、あの、あの! さわっちゃ……、だめ、ですよね……?」
 彼女はぱちりと目を瞬かせると、エルジュの方を向いた。
 その視線を受けて、鞄から筆記具を取り出していたエルジュは、はあ、と大きな溜息をついた。
「絶対に、揺らさないなら……問題はないですよ」
 レンは彼の返答にぱあっと顔を輝かせて、もう一度少年の母を見る。
 彼女も苦笑して頷くのを確認すると、ぐっと拳を握った。
「ありがとうございます!!」
 深々と頭を下げたレンは、さっそく――と繭に向き直る。
 そおっと指を近付けて、指先で触れる。
 表面はサラサラとしていて、細い糸が幾重にも重なっているためか、遠目で見るよりもデコボコしている。
 少し緊張が解けて、今度は手の平を当てた。
「…………あったかい……」
 人の体温より少し低いが、同じ場所にずっと手の平を当てていると、じんわりとぬくもりが伝わってくる。
 本当に生きてるんだな、と改めて実感しながらそっと繭を撫でる。
「……ありがとな。元気に出てくるんだぞ」
 今彼が聞こえているのかは分からないが、少年に礼を言うと、レンはそっと手を離して、ゆっくりと数歩後退した。
 ふと視線を感じて顔を上げると、エルジュがこちらを見ている。
「なんですか?」
「……いえ」
 ふるりと首を振った彼は、眼鏡を押し上げて繭に向き直る。
 その口元がうっすらと弧を描いていたが、レンはますます不思議に思って首を傾げるのだった。

2026/02/01 14:49:51

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