初稿置き場

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 5


 麓の町へ辿り着いた頃には、空はすっかり赤くなっていた。
 急遽襲われ、行程が遅れてしまっている。本来、この次にある街で宿泊予定だったのだが、どうにか一行が泊まれるだけの宿が空いていた。
 金持ちの平民向け、といった風情の場所で、セレンの目には些か貧相に見える部分や成金趣味のように感じるところもあったが、掃除は行き届いており、対応も丁寧なものだ。
 急な来訪である以上、文句があるわけではなかった。
「――姫様、聞きましたよ?」
 セレンに充てがわれた部屋へ現れたミイスは、どこか不満げな顔をしていた。
「何をだ……?」
 もう既に賊の中へ飛び出して行ったことについては、こんこんと説教をされた後だ。
 何かまだ怒らせることをしていただろうか、と首を傾げる。
「護衛のお申し出、お断りになったって。何故ですか?」
「ああ……」
 出発前に傭兵のようなことをやっているという男と交わした会話についてだった。
「何故、って。あんな急に現れた男をすぐに信用できるのか?」
「でも、姫様を助けてくださいましたわ」
「それは……、そうだが」
 セレンが命を救われたこともまた事実であるため、強く反論ができない。
 私が考えすぎなのだろうか。
 だが、あの男の現れたタイミングは、些か上手く出来過ぎではないかと思ってしまう。
「――とりあえず、駄目なものは駄目だ。ここまでは来てもらったが、明日にでも謝礼を渡して……。それで、終わりだ」
 彼女を説得できる言葉が浮かばず、突き放すように背を向けた。背中にじとりと視線を感じるが、それを無視して黙り込む。
 そして、暫く沈黙が続いた後、ミイスが溜息をついた。
「……仕方ないですね、もう! 姫様も頑固でらっしゃるんだから」
 どうやら折れてくれたらしいと察して、セレンはそろりと振り返った。
「どうしてそこまであの男のことを?」
 何か事情でもあるのだろうか、と尋ねると、ミイスは一瞬ぽかんとしたあと、ビシッとセレンを指差した。
「姫様が危険なことなさるからでしょう! もう!!」
 彼がいれば、止めてくれるかと思ったのにと、ミイスはぷりぷり怒っている。
「お断りになるんだったら、危ないことなさらないでくださいね?」
「…………善処する」
 善処? とミイスが睨んできたのは、言うまでもない。

2025/07/22 00:00:00

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