初稿置き場

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 5


 ユリスが意識を失ったのは、そう長い時間ではなかった。
 目が覚めると、身体が清められ、おざなりにシャツとズボンだけ着せられた状態で、ソファに寝かされていた。ルベルトはというと、互いの精液やユリスの愛液で汚れた床を拭いているところだった。
 重だるい身体を引きずるように身を起こすと、ソファの軋む音に気付いたのか、ルベルトが顔を上げた。
「っ、ユリス。身体は大丈夫か?」
「……ええ」
 恥ずかしさといたたまれなさで、彼の顔が見られない。
 本当はまだまだ身体は痛いし、誘発された発情で、身体の芯がじくじくと甘く疼いている。
 だが、それをこの男に告げる気はなかった。
「申し訳ありませんが、今日はもう帰ってもよろしいでしょうか。後、しばらく出仕できないかもしれません」
「え、どうして……」
「……まだ、発情が続いてるので」
 呆然としているルベルトを避けるように、ふらつく身体で立ち上がる。
(緊急用の抑制剤を飲めば、帰るまでくらいは……)
 だが、それを阻むようにルベルトがユリスの手首を掴んだ。
「待て。それなら帰すわけにはいかないだろ」
「…………何故」
 肌に触れるルベルトの指を、身体が喜んでいるのが分かる。だが、ユリスはそれを無視してルベルトを睨んだ。
「な、何故って……。私に『番』の発情を放置しろと?」
 番、という言葉に、子宮が疼いた気がした。
 だが同時に、それがユリスに冷静さを戻してくれる。
 俺は、この人の番にはなれない。
 だからこそ、ユリスはルベルトを馬鹿にするように、冷笑を浮かべた。
「ハッ、『番』? だからなんですか。私は『アルファの男』です。貴方だって、つい先刻までそう信じていたでしょう」
「それは――」
「『アルファの男』は、貴方の番になんかなれません」
 ユリスはルベルトの手を振り払うと、自身の机の引き出しから、液体の入った小瓶を取り出して呷る。
「ユリス、何を……!」
「抑制剤ですよ。なんですか、ここからの道中、ありとあらゆる人間を誘ってまわれとでも?」
「っ――」
 即効性の抑制剤は、身体の熱を多少和らげてくれた。
「……これは事故ですよ、殿下。幸い、時間が経てば番契約は自然消滅しますし、妃がオメガでも問題ないでしょう」
「自然消滅、って……。発情期を三、四回、私無しで乗り切る必要があるのにか……」
「今までだって、独りでしたから。……では、失礼します」
「あっ、ユリス!」
 自身を呼ぶ声を無視して、扉を閉めると、ふらつく身体を叱咤して早足で帰路を辿る。
 普段の帰宅時間よりかなり早いせいか、毎日ユリスを送り迎えしている御者は驚いた顔をしたが、まだ顔が赤らんでいるからなのか、「体調が悪い」と言えばそれ以上に追及してくることもなかった。
 馬車に乗り込み、ユリスはようやくほっと息をつく。
 気が抜けたからなのか、じわりと涙が浮かんで、それを袖で拭った。
「『番』、に……、なってしまった……」
 項を指で辿ると、噛み跡がちりちりと痛んで、その存在を主張してくる。
 ずっと、心のどこかで臨んでいたことだった。
 だが実際、「その時」が訪れてしまった今は、ただただ恐ろしかった。
 これまでの日常が変わってしまう。
 ルベルトは――、「これまで通り」でいてくれるのだろうか。
 自分だって、何も変わらないでいられるはずはない。
 番を得たオメガは、肉体――主にフェロモンに変化が起こる。
 ……きっと、隠し通せはしない。
 ユリスはぎゅっと目を瞑って瞑目した。
「――ああ、そうか。『人を誘って回る』なんて、できないのか」
 番持ちのオメガが発するフェロモンは、番のアルファにしか効かなくなるのだから。
 それでも、ユリスは「このまま」でいたかった。
 変化が怖い。どうせ、「王太子の番」としては不適格なのに。
 関係を続ければいずれ分かることだ。
 そうなった時――、捨てられた時、自分はどう生きていけばいい。
 愛した人も、その隣にいたくて掴んだ立場も、全て消えてなくなった後、どうやって。

2025/09/09 00:00:00

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