初稿置き場

#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 2


 十六歳になった国民が入学を義務付けられているアカデミー。
 だが、通学が義務化されているのは二年間の通常課程のみ。多くの学生はそこで学舎を卒業し、家業を継いだり、結婚して婚家に入ったりと別々の人生を歩んでゆく。
 しかしその二年間の後も、一部はアカデミーに残る道を選び、五年間の上級課程に進んでゆく。
 官僚や研究者など、いわゆるエリートコースを歩む者たちがそれだ。
「……うーん」
 レンもそのうちの一人となっていた。
 少し長い金茶の髪を後ろで一つに束ねた頭をガシガシと掻いて、目の前に置いたノートを指でトントンと叩く。
 昼食時を少し過ぎた食堂は、徐々に人もまばらになりつつある。レン自身、食事のためにこの場所へ訪れたはずなのだが、頭の中は講義のことでいっぱいで、傍らにおいたままの定食は湯気が消えて久しい。
「――悪い、待たせた?」
「うん?」
 聞こえた声に顔を上げると、視線の先には短い黒髪をさらりと流して首を傾げるファルがいる。
「あー……、いやぁ」
 彼の姿を見て、そういえば待ち合わせをしていたのだと思い出す。そして、その時間までに平らげてしまおうと思ってすっかり忘れていた昼食も。
 ファルは冷めた定食のプレートとレンの表情を見て、顛末を悟ったらしく肩を竦めて対面に座った。
「とりあえず、食べたら?」
「……そうする」
 レンはノートを脇にのけると、昼食を引き寄せた。
「――で、さっきのは? レポート?」
「そ。ほら、生物学の」
「生物学って……。まだ、出してなかったのか? 締切、明後日だろ?」
「一度書いたんだけど、なんか納得いかなくて」
 もぐもぐと口を動かしつつ答えると、ファルは半目になる。
「意外と真面目なんだよな」
「『意外と』はないだろー?」
 実際、他の友人たちにも「何故か」勉強できるだの、「思ってたより」頭がいいだの、と言われるレンだ。人を見た目で判断しちゃいけません、と真面目くさって言うと、ファルがふはと笑う。
「冗談だよ」
「まったく、お前までそんなこと言うんだから」
 くすくすと笑ったあと、レンはふとあることを思い出して、昼食のフライをかじったまま鞄を探った。
「ほーほー、ほへはんはへど」
「食べてから言ってくれ」
「ん、ごめん。これなんだけどさ」
 レンは取り出した一枚の紙をファルの方に向けて置いた。
 ファルが軽く目を瞠る。
「今度、これに参加しようと思うんだ」
 レンは真剣な目でファルを見つめながら言葉を続ける。
「もしよかったら、一緒に行かない?」
 その紙には「蝶の民研究所 体験入所案内」と書かれていた。

2025/08/31 00:00:00

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