初稿置き場

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 21


 朝になり、カーテン越しに差し込む朝日で、セレンはぼんやりと目を覚ました。
 こんなに穏やかな朝を迎えるのは、いつぶりだろう。
 自身の手の平を見つめて、昨夜の夢を思い起こした。
 いつものように母からの罵倒を受けていたはずだった。だが、昨夜はそれだけではなくて――。
「……いや、都合のいい妄想だな」
 自分には、あんな風に強く抱きしめてくれる存在なんていない。
 どれほど願っても、ついに得られなかった。
 セレンは手をぎゅっと握り締めて、ベッドから立ち上がった。
 それでも構わないじゃないか。今はロウェルが傍にいてくれる。それだけで。
 寝室の扉を開けると、朝食の盆を持って帰ってきたらしいロウェルと目が合った。
「あ、起きたんだな」
 こくりと頷いて、テーブルにつく。
 空腹は感じていなかったが、セレンは義務的にパンとスープを口に運ぶと、カトラリーを置いた。
「もういいのか?」
 テーブルには、肉や卵、野菜類が残っていたが、口をつける気にはならなかった。
 ロウェルは困った顔をしたが、肩を竦めるだけでそれ以上は何も言わずに、手にしていたスープ皿を一息に呷った。
「……セレン」
 器を置いたロウェルは、口元をナプキンで拭った後、ぽつりと呟く。
「アキュイラに、帰らないか」
「……は?」
 一瞬、彼が何を言ったのか理解できなかった。
 かえる……、帰る? ――今更?
「何故」
 短く問う。だが、ロウェルは視線を逸らした。
「理由は、言えない……」
 瞬間的に爆発しそうになった怒りを、どうにか堪える。手の平に爪が深く食い込むほどに拳を握りしめて、ギッとロウェルを睨んだ。
「言えない、だと?」
「ああ。……けど、駄目だ。やっぱり、こんなことは間違ってる!」
 間違い、という言葉に、一度は堪えた怒りがもう、抑えられなかった。
「――ッ、今更、怖気づいたのか!?」
 テーブルをバンッ、と叩いて立ち上がる。その衝撃で、食器が擦れて嫌な音が響いた。
 しかし、ロウェルはじっと黙ったまま、何も答えない。
「何とか言ったらどうなんだ!」
「……とにかく、駄目だ」
 彼の態度に、一層怒りが湧いた。
 今更――、何故、今更になって――!!
「セ――」
「もういい!」
 ロウェルの言葉を遮り、セレンは彼に背を向けた。
「お前がそんなに腑抜けだと思わなかった! ……帰りたいならば、一人で帰れ。私はもう行く」
 セレンはそのまま自分の荷物だけ掴んで、部屋を飛び出した。
 もう、引き返すことなんてできないのに。
 わたしはもう、とっくに――。
 滲みそうになった涙を、無理やり引っ込める。
 やはり私は、独り。
 そんな気持ちに押しつぶされそうになりながら。

2025/08/22 00:00:10

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