初稿置き場
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玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
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ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
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#玉座の憧憬_本編 19
セレンはその夜、アキュイラを出奔した。
誰にも、何も告げず。ロウェルだけを連れて、まるで――逃げるかのように。
ほんの数ヶ月前に馬車に乗ってゆったりと進んだ道を、馬で駆ける。
人目を避けるように山道を辿り、夜になればそのまま山中でロウェルに寄り掛かるようにして眠った。
そうしなければ、眠れなかったのだ。
「セレンティーネ、もう王都はすぐだ。今日は街に泊まろう」
そんな暇は、と言いかけたセレンだが、このままの薄汚れた着衣のままで向かうこともできないと気付いて、言葉を引っ込める。
「そう……だな。わかった」
セレンは進んでいた道を逸れて、ロウェルの言う街の方へと方向を変えた。
街まで到着した後は、慣れた様子のロウェルに先導されて、中流階級――主に金持ちの平民向けの宿へと向かった。手続きも何もかもロウェルに任せきりで、彼の背後で所在なく佇むしかできない。店主と朗らかに会話をするロウェルの背中を見つめながら、セレンは小さく溜息をついた。
平民の中では目立ってしまうという銀髪を隠すフード付きの外套を、ぎゅっと握りしめる。
ここまで辿り着くことすら、ロウェルに頼りきりだ。自分の無力さを一層痛感して胸が苦しい。
「――セレンティーネ?」
その時、ロウェルが顔を覗き込んで、小声で名前を呼ばれる。驚いて顔を上げると、気遣わしげな表情をする彼と目が合った。
「な、なんだ?」
「いや。ぼーっとしてるから心配になっただけで。平気か?」
こくりとセレンが頷くと、ロウェルはセレンの手に鍵を握らせてきた。
「これ部屋の鍵な。俺はちょっと出てくるから……、一人で部屋まで行けるか?」
「ばっ、馬鹿にするな。それくらいできる」
苦笑するロウェルに背を向けて、階段を登った。鍵についた番号通りの部屋へ辿り着くと、扉を開けて中へと入る。既に荷物は運び込まれており、更に中にある三つの扉は、一つが浴室、後の二つがそれぞれ一人用の寝室となっているようだった。
一通り内部を確認したセレンは、共用部分に設えられたソファへと腰を降ろした。
しんと沈黙が身を包んで、急に手が震えた。
本当にこの選択は正しかったのだろうか。
こんな所まで来てしまって、何か自分が酷く愚かなことをしているのではないかと思えてしまう。
後悔、という言葉が浮かびそうになって、セレンは慌てて首を振った。
務めを放棄してアキュイラを出てしまったのだ。
もう、後戻りなんてできない。
手の震えを止めようと、両手を強く握りしめる。
こんなところで、怖気づいている場合ではないのだから。
――けど。
「ロウェル……」
彼は何故、自分と共に来てくれたのだろう。
何の関係もなかったはずなのに。
ただ、セレンが「付いて来て」と言ってしまったばかりに――。
それでも、彼には最期まで傍にいてほしいと願っていた。
この旅の終着点に辿り着くまでは。
セレンは立ち上がって、窓から外を眺めた。
思えば、アキュイラを出て以降、ロウェルがこんなにも傍を離れるのは初めてな気がする。
たったそれだけで、こんなに心細く感じるのかと自嘲した。
その時ふと、窓から見える路地にロウェルの姿が見えた。
そのそばには、フードを目深にかぶった人影がある。
彼らはしばし言葉を交わすと、それぞれ別方向に歩きはじめる。程なくして、ロウェルはセレンのいる部屋まで戻ってきた。
扉を開ける音に振り返って、室内に入ってきたロウェルを見る。
「今……、誰と話していたんだ?」
ロウェルは一瞬驚いた顔をした後、笑みを浮かべて事も無げに言った。
「……別に、道を聞かれただけだよ」
本当に?
セレンはそう思ったが、「もう話は終わった」とばかりに彼は背を向けてしまう。
その背中にもう一度声をかけることは、何故か出来なかった。