初稿置き場
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玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
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ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
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#玉座の憧憬_本編 17
「姫様……、少しお休みになってください」
傍らにそっと置かれたティーカップに、セレンは顔を上げた。
そこにはミイスの心配げな表情がある。だが、その物言いたげな目に苛立ちを覚えて、セレンは手元の書類に視線を戻した。
「問題ない」
「ですが、お顔の色が悪いです。夜もあまり眠れてらっしゃらないのでしょう?」
「……問題ない」
彼女の言う通り、ここ何日もセレンは碌に眠れていない。
毎晩のように――、母の囁き声が聞こえるからだ。
いや、最近では日中の今もすぐ傍らに立っているような気さえする。
夢も見ずに深く眠れるのは、ロウェルが傍にいる少しの間だけ。ほんのひととき眠りに落ちて――、人々が寝静まる夜は、母の声と共に夜を明かしていた。
だが、それで問題があるわけではない。
身体は動くし、休息を取っていないわけでもなかった。
セレンにはどうしてこう、彼女が口を出してくるのか分からなかった。
分からない。分からなくて、腹が立つ。
私は平気なのに。
仕事に意識を戻すセレンの前で、ミイスはくっと息を飲んだ。
いつもなら、「冷めないうちに飲んでくださいね」と茶を残して去っていくのに、今日の彼女は中々動こうとしない。
何か言いたげな空気を肌で感じ、セレンは握っていたペンにきゅっと力を込めた。
それと同時にミイスがついに口を開く。
「姫様、いい加減になさってください! ご自身の今のお顔を、きちんと鏡でご覧になったことがありますか!? そんなにご無理をなさるほど、アキュイラの地は逼迫してはおりません! わかってらっしゃるでしょう!?」
いつの間にか止まっていたペンから、ぽたりと真っ黒なインクが落ちた。
それはまるで、セレンの心を蝕むように広がっていく。
「――ッ、うるさいっ!!」
バンッ、とペンを机に叩きつける。
ミイスの肩がびくりと跳ねたが、今のセレンにはそのことに構っていられるほどの余裕が消え失せていた。
怒りのままに捲し立てる。
「お前に何が分かる!? 父上に見限られ、『こんな辺境』に棄てられた私の何が……!!」
ミイスが息を飲んで呆然と言った。
「『こんな辺境』……? それ、本気で仰っているんですか?」
その問いに言葉が詰まる。
違う……。ちがう。わたしは、そんなこと――。
でも。
セレンは込み上げる激情のままに、机の上にあったものを床に叩きつけるように手で払い落とした。
仄かな湯気をたてていた茶器が、派手な音と共に砕け散った。
「出ていけ!!」
「姫さ……」
「ひとりに、してくれ……」
ミイスは黙って深く一礼すると、部屋を出ていった。
扉が閉まり、しんと沈黙が降りると、途端に身体の力が抜けてしまった。
どさりと椅子に身を沈めて、顔を両手で覆った。
きっと今のでミイスにも見限られてしまっただろう。
世界に独りきりにされてしまったような虚無感が襲う。
だが――。
『そんなもの、王たるお前には関係がないわ。そうでしょう?』
「――はい、母上……」
こんな時でも、母の声が消えることはない。