初稿置き場

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 13


 結局、ロウェルは何をしに来たのだろう。
 彼が持参した書状には、セレンのアキュイラ領主就任を言祝ぐ内容しか書かれていなかったし、それを届けに来ただけにしては、長期滞在する理由がない。
 だがその理由を訊ねてみても、「セレンティーネの傍にいたいから」という、本気なのか冗談なのか分からない言葉ではぐらかされていた。
 そう、はぐらかされた、と思っていたのだけれど――。
 セレンはミイスの淹れた甘い茶の香りに、ふと目を眇めた。
「今日はいつもと匂いが違うんだな」
「ふふ。ご明察です、姫様。ロウェルさんに頂いたんですよ。姫様のお疲れが取れるように、って」
「そ、そうか……」
 にまにまとするミイスから視線を逸らす。
 ロウェルがここに滞在しはじめてからしばしが経ったが、彼は二日と空けずこうして方々から贈り物をしてきていた。
 そんな姿を見ていれば、憎からず思われているのだろうと、どうしても考えてしまう。
 あの戯言のような言葉が、本気だったのではないか、と。
 だが、そんなことがあり得るのだろうか……。
 セレンは湯気の燻る明るいオレンジ色をした茶を、ほんの少し口に含んだ。
 少し甘すぎる気はしたが、鼻を抜ける柑橘のような香りは清涼感があり、気分を落ち着けてくれる。
 小さく息をつき、ふとミイスが茶器を二人分用意していることに気付く。
 それは誰の、とセレンが問うより早く、部屋の扉が叩かれる音がした。
 返事をして入ってきたのは、噂をすればというやつなのか、ロウェルだ。
 ハッとしてミイスの方を見ると、まるで「ごゆっくり」とでも言うように、一つウインクを飛ばして部屋を出ていった。
「ちょ、ミイス……」
 呼び止める間もなく彼女が去っていくと、苦笑するロウェルがセレンの手を取った。
「俺と二人きりは嫌?」
「そ……そういうわけじゃ」
 ごにょごにょと歯切れ悪く呟きながら、セレンは仕方なくソファを勧めた。彼は当然のように隣へ腰を下ろす。
 それに慣れつつある自分に、落ち着かないものを感じて、セレンは照れ隠しのように茶を飲み下した。
「セレンティーネ」
 目を眇めてその様子を見守っていたロウェルが、甘い声でセレンの名を呟く。
「これ、今日のプレゼント」
 そう言って差し出されたのは、白い花をリボンで纏めただけのブーケだ。
「あ、ありがとう。その、茶も……。ミイスから聞いた」
「……ああ」
 ロウェルは何故か困ったように淡く微笑む。
 その静かな、どこか悲しげな表情を、時折彼は滲ませる。
 セレンにはその理由が分からないまま、いつか知る時がくるのだろうか、と夢想する。
 この男が傍にいること。
 それが当たり前になればよいのに、とセレンは思いはじめていた。
 受け取った花束に顔を寄せる。
 冷たいと形容されがちなセレンとは、似ても似つかない可憐な花だ。
「よく似合うよ」
 そんなことを嘯きながら、こめかみに口付けるロウェルに、セレンは曖昧に頷いた。

2025/08/22 00:00:02

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