初稿置き場

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 9


 結局、セレンはロウェルの同行を正式に許可した。
 一度は「勝手にしろ」と言ってしまったのもあるが、実際、怪我人の多い現状人手はあって困ることはないからだ。
 それに、あまりに頑迷なのも、子供っぽい意地のように思えてしまったというのもある。

 ロウェルを負傷した御者の補佐に当てて、旅路が続く。
 数日が経ち、いくつか山を超えはしたものの、あの時のような襲撃はなく、穏やかに時間が過ぎていった。
 はじめに抱いていたロウェルへの警戒が、日ごとに薄れていく、
 それと同時に、胸の奥で燻っていた「ある疑念」も、己の勘違いだったように思えてきていた。
「なあ、なんか気になることでもあるのか?」
 ある日の野営中、不意にロウェルから問いかけられたセレンは、驚いて顔を上げた。
「……私は、そんなに変な顔をしていたか?」
「いんや。ただ……、たまーに周りを見回しているだろ。――警戒するみたいに」
 セレンは思わぬ指摘に息を飲んだ。
 この男は、存外周囲をよく見ている。傭兵をやっていくには、この程度の抜け目のなさは必要なのだろうか。
 セレンはしばし考えたあと、素直に首を縦に振った。
「本当に、襲撃はあの一度きりの偶然だったのか、って」
「なにそれ。ただの物取りじゃなかったって言いたいのか?」
 彼の問いに首肯する。
「荷が目的には、見えなかったんだ」
 馬車の外へ飛び出した瞬間に感じた殺気を思い出す。
 もしも積荷や金が目的ならば、セレンをはじめとした女には、生きていてもらった方が都合が良いはずだ。護衛たちは目的の妨げになるため殺すとしても、それ以外は――、売るなり、犯すなり、使い道がある。
 ここウィレミニアでは、表向き人身売買は禁止されているものの、合法以外の方法ならばいくらでもあった。
 ずっと考えていた疑念を口にすると、ロウェルは腕を組んで首を捻る。
「うぅん……、言いたいことは分かるが、それだけじゃあなぁ……」
 セレンが押し黙っていると、ロウェルが顔を覗き込んできて、枝垂れていた前髪を耳にかけてくる。
「それだけが理由じゃなかったり?」
「…………ああ。お前は…奴らの武器を見たか?」
「武器?」
 ロウェルは目を瞬かせる。
「奴らの使っていた武器が……、お――私の家に仕える者たちに支給されているものに似ていた気がして」
 王宮、と言いかけて慌てて訂正する。
 ロウェルは不自然に途切れた言葉には気付かなかったらしく、ただ驚いた顔をする。
「――んだな」
「何?」
「いや、身内から狙われてるの思ってるのか、と驚いて」
「無い話じゃないさ」
 セレンは苦笑を浮かべた。
 己の存在は、躍起になって消すほどではないと思っていたが、彼らにとってはそうではなかったのかもしれない。
「弟は、……家督を継ぐのに私が邪魔だろうし、父だって、きっと――」
 アキュイラへの赴任も、自身を排除するための方便だったのだろうか。
 セレンが唇を噛んで俯くと、突然頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
「ちょっ、何をするんだ!」
「いや……。あんまさ、悲観するなよー、って思って」
 顔を上げると、軽い調子の言葉とは裏腹に、どこか思い詰めたような顔をするロウェルと目が合った。
 その表情に、ぎゅっと胸を掴まれた心地になる。
「……うるさい。悲観なんかしてないっ」
 セレンはぷいっと顔を背けると、彼の手を払って髪を整える。
「そ? ならいいけど」
 ちらっと視線だけ戻すと、もうロウェルはいつもどおりの顔をしていた。
 セレンはそのことに、密かな安堵を覚えたのだった。

2025/08/19 00:00:00

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