初稿置き場
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玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
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ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
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玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
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玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
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#玉座の憧憬_本編 8
外へ出ると薄い夜着を風が吹き抜けていく。
何か羽織って来るべきだった、と身を震わせつつ、宿の裏庭を当てもなく歩く。
ぼんやりと夜空を見上げながら建物の角を曲がると、ふと人の気配を感じてセレンは視線を戻した。
「あ……」
そこには昼間の男が木箱に腰掛けて、こちらを見ていた。
「よぉ。……寝れねぇの?」
不意打ちの邂逅に固まっていると、男は呑気な様子でひらひらと手を振った。
「何故ここに……」
「お嬢さんと同じだと思うけど?」
なんと答えてよいか分からず黙っていると、彼は気にした様子もなくへらりと笑って、隣に置いていた瓶を持ち上げた。
「飲む?」
「……酒か? 今はそんな気分じゃ……」
「いいから、いいから」
男はセレンの話など聞きもせず、小さなグラスに瓶の中身を注いで差し出してきた。
それを無視するのも決まりが悪く、セレンは仕方なくそれを受け取ると、彼が座っているのとは別の木箱に腰を降ろした。
「お、や~っと座ってくれたな」
にやにやと笑う男を無視して、セレンは薄赤色をした酒を一口飲む。ほのかに香る果物の匂いが強すぎない酒精と共に喉を滑り落ちていく。
「……酒なんて、久し振りだ」
王女として出席する会食などで飲むことはあったが、私的な時間で酒を口にしたことなどあっただろうか。
不思議と好みにあう甘めのそれをあっという間に飲み干すと、男はグラスに継ぎ足してくれながら言った。
「そうなのか。酒は悪くないぞ。……嫌なことも忘れさせてくれる」
彼も別のグラスに酒を注いで、それを飲む。
「嫌なこと……? 貴方――……、あ、と……」
名を呼ぼうとして、まだ聞いていなかったことを思い出す。いくら怪しんでいたとはいえ、命の恩人に名前さえ尋ねていなかったのかと恥ずかしくなった。
そわそわとするセレンに、彼はくっと笑って言った。
「俺はロウェル。お嬢さんは?」
「……セレン」
本名をそのまま答えるのはまずいと思い、略称を答える。
「へぇ、美人は名前まで綺麗なんだな」
さらっとそんなことを言われて、思いがけずセレンの頬は赤くなる。だが、それに気付かぬ振りをして、話を戻した。
「そ、それで。貴方も……忘れたいことがあるのか?」
「『も』ね……。お嬢さんはどうなんだ?」
ロウェルの問いに、冷たい母の声が甦った気がした。
だが、それを振り払うように小さく首を振る。
「別に大したことじゃない。少し……、夢見が悪かっただけだ」
「夢……ね。嫌な過去でも思い出した?」
やわらかな声音で続く問いに、セレンは素直に頷いていた。
酒が緊張も警戒すらも和らげていたのかもしれない。
「……貴方は?」
「俺は――」
ロウェルはグラスに口をつけながら、遠くにある細い月を見つめる。
「犯した罪と……贖罪について、かな」
出会って以降彼が纏っていた、どことなく軽薄な空気がフッと煙のように消えた。
「贖罪……?」
ちらりとロウェルがこちらを悔いて、セレンはその暗い瞳にびくりと肩を震わせた。
だが、その一瞬後には、彼は再び仮面を被り直すかのように、軽く笑う。
「なんてな。そんな重いもんじゃねぇさ」
誤魔化すような笑みにセレンは何も言えなくなる。
だが何故か、あの深い闇を思わせる目が、この男の本質な気がして、取り繕ったような言葉を信じる気にはなれなかった。
「……それで、何故…私達について来ようと?」
どうしてそんなことを改めて聞いたのか、セレンは自分でもよく分からなかった。
ただ、もう少し、この男の心の内に触れてみたかったのかもしれない。
だが、彼はもう表情を崩すことなく、軽薄な調子のまま言った。
「言ったろ? ここで会ったのも何かの縁だし、って。今は暇してるから仕事があるとありがたい、ってのもあるけど。でも第一は――」
ロウェルは、ジッとセレンの顔を見つめた。
「第一は、かわいい女がいるから?」
「――は?」
セレンは男の言葉にスッと目を細める。
かわいい女――。たしかに、この一行にはミイスをはじめとした侍女たちが幾人も同行している。
セレンは「この男……」と額に青筋を立てて、ロウェルを睨んだ。
「お前……、ミイスたちに色目を使うなら――」
「は!? 違う違う!」
「何が違うん――」
怒鳴ろうとしたところで、ロウェルが指を差してくる。
「なんだ、この指は」
「本気で言ってる? 俺の言ってる『かわいい女』って、あんたのことなんだけど」
「はあっ!?」
揶揄われてる。絶対に。
セレンはグラスを握る手にギリギリと力を込める。
だが、ロウェルは追い打ちをかけるように、へらへらと笑って言った。
「冗談だよ。あんたは『かわいい』じゃなくて……、綺麗なんだよな」
「っ!!」
いやに真剣な目で言われ、セレンは羞恥のあまりに残っていた酒を呷ると、すくっと立ち上がった。
「馬鹿なことを言うのもいい加減にしろ!」
セレンはグラスをロウェルに押し付けるように返すと、そのままくるりと背を向けてその場を後にしようとする。
だが、その背中に声がかけられる。
「それで? ついてってもいい?」
「~~っ、勝手にしろ!!」
やけっぱちに叫んで、セレンは足早にその場所を後にする。
なんだかんだ、あの男の思惑通りにされてしまったのでは――。と気付いたのは、ふて寝しようと布団をかぶったものの結局眠れずに、ベッドの上で朝日を拝んだ時のことだった。