初稿置き場
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章
15
深夜。
碌に眠れぬまま目を覚ましたレンは、すやすやと寝息を立てるファルを横目に、部屋をそっと抜け出した。
あまりにも眠れないため、水でも飲もう――と思ったはずだったが、足は食堂の方ではなく外へと向かう。
通常課程の頃とは違い、門限も出入りの制限もあってないような上級課程の寮は、まだ人の気配がする。
建物の外まで出て上を見上げれば、一つ二つ、まだ明かりのついている部屋が見えた。
今のレンのように眠れない人がいるのか、それとも逆に寝落ちしてしまったまま、消灯していないだけだろうか。
そんなことを考えながら、寮の周囲をゆっくりと歩く。
今日は本当に色々なことがあった。
死にかけた繭を救い、解剖を見て――、
「っ……」
耳にファルの叫びが木霊する。
レンは無意識に足を止め、俯いて唇を噛んだ。
あの後、一通り吐き出せたからか随分すっきりした様子のファルと共に、所員への挨拶だけをしてすぐ帰宅した。
彼らは自分たちが解剖にショックを受けたのだろうと考えてか、あまり気にしないようにと声をかけてくれた。
たしかに、覚悟が足りていなかったとレンは感じている。
だがそれは、所員たちが懸念した点についてではない。
……エルジュだけは何か思うところがあったのか、そういった声かけをすることはなかったが。
レンは小さく溜息をつき、暗い空をぼんやりと見上げる。
番号で呼ばれる実験体。非人道的な行為が常態的に行われる環境で生きていたファル。その心に刻まれた傷は、レンが想像しているよりも、ずっとずっと深い。
そして、同じような傷を抱える人々は、ファル以外にもこの国に沢山生きて、生活をしている。
ファルと共に定期的に訪れるようになった、他国で犠牲となった蝶の民を弔う記念墓地の光景を思い出す。
あそこに刻まれる名前は、今もなお増えているのだ。
蝶の民の研究者になるということは、彼らと、今生きる人々の思いを受け止め、共に未来へ繋いでいくということ。
その、覚悟がなかった――。
レンには彼らの気持ちを真に理解できる日は来ない。ましてや、自分は「蝶の民」ですらない。
俺が軽々しく踏み込んでいい世界なのだろうか……。
憧れだけではままならない。
その現実がレンを深く思い悩ませていた。
2026/03/04 12:07:51
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深夜。
碌に眠れぬまま目を覚ましたレンは、すやすやと寝息を立てるファルを横目に、部屋をそっと抜け出した。
あまりにも眠れないため、水でも飲もう――と思ったはずだったが、足は食堂の方ではなく外へと向かう。
通常課程の頃とは違い、門限も出入りの制限もあってないような上級課程の寮は、まだ人の気配がする。
建物の外まで出て上を見上げれば、一つ二つ、まだ明かりのついている部屋が見えた。
今のレンのように眠れない人がいるのか、それとも逆に寝落ちしてしまったまま、消灯していないだけだろうか。
そんなことを考えながら、寮の周囲をゆっくりと歩く。
今日は本当に色々なことがあった。
死にかけた繭を救い、解剖を見て――、
「っ……」
耳にファルの叫びが木霊する。
レンは無意識に足を止め、俯いて唇を噛んだ。
あの後、一通り吐き出せたからか随分すっきりした様子のファルと共に、所員への挨拶だけをしてすぐ帰宅した。
彼らは自分たちが解剖にショックを受けたのだろうと考えてか、あまり気にしないようにと声をかけてくれた。
たしかに、覚悟が足りていなかったとレンは感じている。
だがそれは、所員たちが懸念した点についてではない。
……エルジュだけは何か思うところがあったのか、そういった声かけをすることはなかったが。
レンは小さく溜息をつき、暗い空をぼんやりと見上げる。
番号で呼ばれる実験体。非人道的な行為が常態的に行われる環境で生きていたファル。その心に刻まれた傷は、レンが想像しているよりも、ずっとずっと深い。
そして、同じような傷を抱える人々は、ファル以外にもこの国に沢山生きて、生活をしている。
ファルと共に定期的に訪れるようになった、他国で犠牲となった蝶の民を弔う記念墓地の光景を思い出す。
あそこに刻まれる名前は、今もなお増えているのだ。
蝶の民の研究者になるということは、彼らと、今生きる人々の思いを受け止め、共に未来へ繋いでいくということ。
その、覚悟がなかった――。
レンには彼らの気持ちを真に理解できる日は来ない。ましてや、自分は「蝶の民」ですらない。
俺が軽々しく踏み込んでいい世界なのだろうか……。
憧れだけではままならない。
その現実がレンを深く思い悩ませていた。