初稿置き場

#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 14


 建物の外に出たレンは、座れる場所を探して視線を巡らせた。
 丁度、裏手の方にベンチを発見して、ファルを座らせると自分も隣に座る。
 黙って俯いたままのファルの背を、空いた手でそっと撫でる。
 そうしていると、少しずつ握り締める力が緩んでくるのが分かった。
「……大丈夫か?」
 そっと声をかけると、ようやく彼の顔がゆっくりと上げられて、こちらを向く。先程の虚ろな目で派なくなっていることにほっとしながら、レンは背を撫で続けた。
 ファルはレンの言葉には答えず、すっと遠くの空を見る。
「――同じ、牢にいたおじさんだった」
 唐突に話しはじめたファルの言葉を、レンは黙ったまま頷いて続きを促す。
「名前は知らない。あそこじゃ、番号で呼ばれるのが普通で……八十六って呼ばれてた人だった」
「……うん」
「優しい人でさ。僕も、大好きだった。でもある日、帰ってこなくなった」
 ファルは坦々と続ける。
「一週間経って、二週間経って……。きっと殺されてしまったんだ、って諦めた。急に人が消えるのも、普通のことだったから」
 言葉を切ったファルは、上げていた顔を伏せて続けた。
「その日、連れていかれた部屋で……、()()()()がしたんだ」
 レンは、背を撫でる手を思わず止めてしまった。
「そこには筋肉と骨が露出した『何か』があった。かろうじて大人の人間なのはわかったけど、表皮は全部溶けてて、誰かなんて分かったもんじゃない。――分からない方が、よかった……っ」
 握られた手に、再度力が籠る。
 レンはかける言葉が見つからないまま、ファルの叫びを聞くしかなかった。
「あの『肉塊』を、奴らは八十六番って呼んだんだ……!!」
 指の骨が砕けるんじゃないか、と思うほど強い力で手が握り締められる。
 痛かった。けれど、ファルの心を襲っているであろう痛みに比べれば、どれほどのものだろうかとも思う。
「……ファル」
 背に回した手で彼の肩を引き寄せ抱きしめる。
「ごめんな」
 軽い気持ちで彼の傷を抉るような場所に誘ってしまったことへの謝罪だった。
 自身の肩に彼の頭を引き寄せて、そのまま髪を撫でる。
 今できることが、これくらいしか思い浮かばなかったからだ。
 ファルは空いた手をレンの背に回して、ぎゅっと縋りつくように服を掴んだ。
 そして、ぽつりと言う。
「レンが謝ることじゃないだろ……」
「……そーだな」
 それでも握り締められた手も、抱擁も、解かれることはなかった。

2026/02/03 00:10:59

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