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#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 13
レンたちは研究所の奥へ奥へと向かうエルジュの後をひたすら追っていた。
初日の案内では訪れなかった区画で、薬品のような何かの臭いがする。
渡されたマスクと髪を覆う帽子とを身に付け、そこに白衣を纏ったエルジュについて、ようやく解剖室へと辿り着く。
「戻りました」
そう声をかけて入室したエルジュに続き、レンはそろりと中へ足を踏み入れる。
「っ……」
マスク越しにも感じた臭気に息を飲む。腐臭にような、それでいて微かに甘みのある――嗅いだことのない臭いだった。
「これ……」
「羽化に失敗した繭の、中身の臭いです」
エルジュが囁き声で説明をする。彼に、こちらへと促されて、部屋の中央へと足を向けた。
そこには人ひとりが乗りそうな台と、それを囲むように三人の所員がいた。
「……? 他のみんなは……」
レンの疑問に所員の一人が首を振った。どうやら、立ち合いをせずに帰ったようだ。
だが、台に乗せられた人物を見た時、レンは彼らの選択が正しい、と思ってしまった。
「――っ!」
思わず口元を手で覆って、飛び出しかけた悲鳴を飲み込んだ。
頭と、胴体は、確かに人のそれだ。そこだけ見れば眠っているだけのようにも見える。
しかし、その手足は――、途中で溶けて消えてしまったかのように無くなっている。右腕は肘まであるが、その先は筋肉と骨が剥き出しで、手首から先がない。左腕は肩の付け根から存在せず、右足は膝まであるものの、中の骨や肉が未形成なのか、重力に従って半液状のように広がっている。左足は足首から先が無かった。
「繭の中では、生命維持器官以外が溶ます。そして、再び肉体が形成される際は、脳や内臓といった場所から再構築されるんです」
「ああ、だから手足が……」
人間の肉体にとって重要な器官から再構成され、その後に四肢が形成される。だから、その過程で死んでしまった蝶の民は、このような状態になるのだろう。
「――では、はじめましょうか」
所員の一人が口を開き、黙祷をはじめる。レンもそれに続いて、目を閉じた。
暫しの沈黙が過ぎレンが目を開くと、台の傍にいた人々もぱらぱらと動きはじめていた。
手術で使うようなメスと鉗子、それからハサミのようなものが主な道具のようだ。
レンは邪魔をしないように一歩離れて、解剖の様子を見守る。
体表の状態などの記録を取った後は、メスが胸部や頭蓋を通り、中身が露出していく。所員はそれらを観察し、何かの長さを測ったり、細々と何かを書き付けていた。
レンはもちろん、通常の人間の解剖も見たことはないので、どこが違っていて、どこが同じなのかもよく分からない。だが、ふと疑問を覚えて隣でついていてくれるエルジュに、声を潜めて問いかけた。
「あの……、骨とかってどうなってるんです?」
ただの小さな薄い刃物でしかないメスが頭蓋骨を割き、小さなハサミが肋骨を切断する様子は、素人目にも異様だ。
切れ味がすごくいい魔導具? いや、というよりも――
「なんか、すごく柔らかそうに見える、というか」
レンがそう言うと、エルジュが頷いて答える。
「その通りです。羽化前の肉体は、平常時より脆く壊れやすい。骨も羽化寸前まで、殆ど強度がないんですよ」
「へぇ……」
蝶の民はあらためて不思議な生態をしているな、と思う。
彼らの羽化を「生まれなおし」などとも表現することはあるが、母体の胎内で行われる肉体の形成とは、まるで違うもののようだ。
その時、鉗子の一本が所員の手から滑り落ち、カシャンッと耳障りな音を立てて床にぶつかった。
「っ!?」
その音と同時に、後ろから手を掴まれて、レンはビクッと肩を跳ねさせた。
「いっ、……ファル?」
強い力で掴まれ、小さく呻きながら背後を振り返る。
俯いた彼の顔を覗き込む。
「ファル……?」
顔色が先程よりも悪い。瞳孔が開いていて、焦点が合っていなかった。
なのに、手を掴む力だけは強く、まるで……助けを求めているようだと感じてしまう。
レンはきゅっと唇を噛むと、顔を上げた。
「すみません。俺たち、少し外の空気を吸ってきます」
ファルの手を引いて、部屋を出る。
どうしてここにファルを連れてきてしまったんだろう。
そんな後悔をしながら。