初稿置き場

#誓約の姫 分岐2-A
A:「じゃあ、部屋で刺繍でもしているわ」


//背景:主人公部屋・夕

マリアはオリヴィエの用意してくれた刺繍に取りかかった。
感嘆されるほど上手くもなければ、何を刺しているか分からないほど下手でもない、いたって普通の腕前だが、ぼんやり考え事をするには、丁度いい。
季節に合わせて、落ち葉でも刺そうかと、橙色の糸を手に取ったところで、エゼルが茶器を持って、部屋に入ってきた。

マリア「ありがとう、エゼル。昼間はほとんど残してしまってごめんなさいね」
エゼル「いえ。お嬢様の責任ではございませんので」

それきりエゼルは黙ってしまったが、今はその沈黙が妙に心地よかった。
茶を注ぐ音が止まり、そっとカップが傍に置かれる。
マリアは、退室しようとするエゼルの背中に声をかけた。

マリア「ねぇ、エゼル」
エゼル「はい」

彼が足を止めて振り返る。

マリア「私、王太子殿下と婚約したの」
エゼル「はい」
マリア「知ってた?」
エゼル「はい」

坦々とした返答に、マリアはどこか落ち着かないものを感じて、問いを重ねた。

マリア「皆、知っていたのかしら」
エゼル「『皆』が、どの範囲を示すのかは分かりませんが、おそらく」
マリア「……お父様も、以前から知っていらっしゃったのよね」
エゼル「家長である旦那様がご存じないとは考えられかねます」
マリア「そうよね……」
マリア「どうして、教えてくれなかったのだと思う……?」
エゼル「…………」

エゼル
「旦那様のご配慮かと。確定事項でないことをお耳に入れて、お嬢様を混乱させたくなかったのでは、と愚考いたします。旦那様は……、お嬢様のことを、大切に思っていらっしゃいますから


分岐2-1
A:「そうだと……、嬉しいわね」
B:「……そうかしら」


分岐2-1-A
A:「そうだと……、嬉しいわね」


エゼル「きっと、そうです」

マリア(今、エゼルが笑った……?)

//エゼル:通常

マリア(気のせい、かしら……?)

珍しい彼の表情に、呆然としていたマリアは、自分が針を持っていたことを忘れてしまっていた。

マリア「――――いっ!」

思い出したのは、指先に鋭い痛みが走った後だ。

エゼル「お嬢様!」
マリア「え……」

//スチル:執事ルート分岐前(血の滲んだマリアの指先に、ハンカチを当てるエゼル)

マリア「あ、あの、エゼル……」

彼があんな声を出したのを聞いたのは、初めてかもしれない。指先にぷくりと浮かぶ血よりも、そちらの方に驚いて、固まってしまう。

エゼル「失礼いたしました。すぐに手当てを」

エゼルはサッと立ち上がると、手当ての道具を持ってくると言って、部屋を立ち去った。

マリア「……今日は、珍しいことばかりだわ」

不思議なことをあるものだと、マリアはエゼルが戻ってくるまでの間、ぼんやりと彼が出て行った扉を見つめていた。


分岐2-1-B
B:「……そうかしら」


マリア「王太子妃なんていう荷の重いもの、私が嫌がるとでも思ったのではないかしら……」
エゼル「…………、質問は以上でしょうか」
マリア「え、ええ。ごめんなさい。呼び止めてしまって」
エゼル「いえ。それでは、失礼いたします」

立ち去っていくエゼルを見送り、マリアは小さく溜息をついた。

マリア「もう少し、打ち解けてほしい……。そう思うのは、我儘なのかしら」

マリアは一人になった部屋で、刺繍を再開した。

2026/02/01 15:26:00

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