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カテゴリ「夢見る少年と未羽化の蝶 二章」
小説・BL2026/10/04 14:07:46
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 21
「なあなあ。やっぱ俺、もうちょい探検してきていい?」
二人でしばし自然を散策し、休憩と川近くの木陰に腰を下ろしたファルを尻目に、レンは上流を指差してそう言った。
「いいけど……、あんまり遠くまでは行くなよ? 僕もそこまで土地勘ないし、見つけられなくなる」
「だーいじょうぶだって。ちょっと川沿いに歩いてくるだけだし」
それなら、と頷いたファルに手を振って、レンは小川の流れを辿って歩き出す。
途中で拾った木の枝を軽く振り回しながら、ゆっくりと歩を進めた。
川のせせらぎと、鳥の声と、それから木々のざわめきが聞こえてくる。
街の喧騒とは全く違うが、森の中も想像よりずっと音であふれているのだと気付く。ファルと別れ、一人になったせいか、それらがより存在感を増して聞こえていた。
「……あ、人だ」
前方に人影が見えて、レンは一度足を止めた。
その人物は川岸に座り込み、竿らしきものを握っている。どうやら釣り人のようだ。
歩みを再開したレンは、その人物にひょこひょこと近付いて、声をかけた。
「こんにちは、おじさん。ここって何が釣れるの?」
顔を上げた男は突然現れたレンに警戒する様子もなく、朗らかに笑った。
「いや、これといって。小魚ばかりさ」
「ふぅん」
レンは彼が釣り糸を垂らす先を覗き込んでみる。だが確かに彼の言葉通り、川は澄んでいて大きな魚の姿はない。手の平にも満たない程度の小魚がすいっと泳いでいくのが見えた。
「君、ここいらじゃ見ない顔だね。旅行者かい?」
「うん。友達の帰省についてきたんだ」
返答しながらもじーっと川面を見つめていると、釣り人はおかしそうにくすくすと笑った。
「そんなに面白い?」
「面白いよ! こんなに綺麗な川……初めて見た」
レンはようやく顔を上げて、男の隣に腰を下ろす。
「俺、王都に住んでてさ。こんなに自然の多い所、初めてなんだ」
「そうか。……じゃあ、釣りもしたことない? やってみるか?」
「え! いいの――」
嬉々として頷こうとして、はたとファルのことを思い出す。
「……ごめん、今はやめとくよ。友達を待たせてるんだ。あ、でも。俺、何日かこの近くにいるんだ。だから、その間にもう一度会えたら……お願いしていいかな?」
笑顔で了承してくれた釣り人にお礼を言って、代わりに暫く彼の隣に腰を下ろし、釣り糸が水面を揺らすのを見つめる。
「さっき、友人の帰省に同行してきた、って言っていたね。仲が良いんだな」
「んー、まあね。アカデミーの一年からの付き合いで……。さすがに帰省先にまで付いてきたのは初めてだけどさ。今年で卒業だからって」
レンはそこで言葉を一度切り、苦笑して続けた。
「俺が……その、進路に悩んでるからさ。心配させたんだと思う。優しいやつなんだ。自分だって大変なのに」
急に持ちかけられた今回の旅行が、ファルの気遣いだとレンも勿論分かっていた。もしかすると、解剖の際に取り乱したことで負い目すら感じてるのかもしれない。
今レンが悩んでいるのは、確かにあの日のファルが契機ではあるが、彼には何の責任もないのに。
ちらりと釣り人の表情を窺う。彼の目はただ穏やかで凪いでいた。
今日会ったばかりの、名前すら知らない相手だ。――だからこそ、気兼ねなく聞けた。
「おじさんは……、何かに悩んだ時って、どうやって決めてる?」
「悩んだ時、か。そうだな……」
彼の目が眇められ、その視線はどこか遠くを透かし見るかのようだった。
「私は……、『最も大切にしたいものは何か』を、己に問いかけて決断したね」
「大切にしたいもの……」
彼はレンの方を向いて微笑んだ。
「そう。人でも物でも、信念でもいい。それを守る最善の方法を選ぶんだ。どうしても譲れない、たった一つのために」
「おじさんは、その『大切なもの』を守れた?」
頷いてくれるかと思ってレンは聞いた。だが予想に反して、彼は曖昧に微笑む。
「さあ、どうかな……。苦労も多かった。もっと良い道があったのではないか、と考える日もある。でも――」
「でも?」
「後悔はしてないんだ」
からりと笑った男に、レンは驚いて目を見開く。
「守れたか、わからなくても?」
その問いには、彼は迷わず頷いた。
「もちろん、『あの時もっとああしていれば』という後悔なら無数にあるさ。けれど、大切なものを『これだ』と決めた自分には、欠片も後悔していないんだ」
「……そっか」
何か胸の中に、ぽっと光が灯った気がした。
レンはそんなあたたかな気持ちにニッと笑って、立ち上がった。
「何か参考になったかな」
「うん。まだはっきりしたわけじゃないけど、少し掴めそうな気がする。後は自分で考えてみるよ」
「そうか」
彼はやわらかく微笑んで頷いた。
レンは心も身体も少し軽くなった気がして、男の座っていた石の上から、ぴょんと飛び降りる。
「ありがとう、おじさん! あ、また会ったら釣り教えてね!」
手を振りつつ元来た方向へ戻るレンに、彼も手を振り返してくれる。レンは意気揚々と川沿いを進んで、ファルのところへと戻った。
彼はレンの顔を見て、目を瞬かせる。
「何かあったのか?」
「え?」
「いや……、少し表情が明るい気がして」
一目で指摘されるほど分かりやすかったのか、と少々照れつつ、レンは笑みを返した。
「ああ、ちょっとな!」
どことなく照れくさくて、先程出会った親切なおじさんの話はそれとなく誤魔化しつつ、もうしばし森を散策したあと、漸くファルの実家へと向かった。
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 21
「なあなあ。やっぱ俺、もうちょい探検してきていい?」
二人でしばし自然を散策し、休憩と川近くの木陰に腰を下ろしたファルを尻目に、レンは上流を指差してそう言った。
「いいけど……、あんまり遠くまでは行くなよ? 僕もそこまで土地勘ないし、見つけられなくなる」
「だーいじょうぶだって。ちょっと川沿いに歩いてくるだけだし」
それなら、と頷いたファルに手を振って、レンは小川の流れを辿って歩き出す。
途中で拾った木の枝を軽く振り回しながら、ゆっくりと歩を進めた。
川のせせらぎと、鳥の声と、それから木々のざわめきが聞こえてくる。
街の喧騒とは全く違うが、森の中も想像よりずっと音であふれているのだと気付く。ファルと別れ、一人になったせいか、それらがより存在感を増して聞こえていた。
「……あ、人だ」
前方に人影が見えて、レンは一度足を止めた。
その人物は川岸に座り込み、竿らしきものを握っている。どうやら釣り人のようだ。
歩みを再開したレンは、その人物にひょこひょこと近付いて、声をかけた。
「こんにちは、おじさん。ここって何が釣れるの?」
顔を上げた男は突然現れたレンに警戒する様子もなく、朗らかに笑った。
「いや、これといって。小魚ばかりさ」
「ふぅん」
レンは彼が釣り糸を垂らす先を覗き込んでみる。だが確かに彼の言葉通り、川は澄んでいて大きな魚の姿はない。手の平にも満たない程度の小魚がすいっと泳いでいくのが見えた。
「君、ここいらじゃ見ない顔だね。旅行者かい?」
「うん。友達の帰省についてきたんだ」
返答しながらもじーっと川面を見つめていると、釣り人はおかしそうにくすくすと笑った。
「そんなに面白い?」
「面白いよ! こんなに綺麗な川……初めて見た」
レンはようやく顔を上げて、男の隣に腰を下ろす。
「俺、王都に住んでてさ。こんなに自然の多い所、初めてなんだ」
「そうか。……じゃあ、釣りもしたことない? やってみるか?」
「え! いいの――」
嬉々として頷こうとして、はたとファルのことを思い出す。
「……ごめん、今はやめとくよ。友達を待たせてるんだ。あ、でも。俺、何日かこの近くにいるんだ。だから、その間にもう一度会えたら……お願いしていいかな?」
笑顔で了承してくれた釣り人にお礼を言って、代わりに暫く彼の隣に腰を下ろし、釣り糸が水面を揺らすのを見つめる。
「さっき、友人の帰省に同行してきた、って言っていたね。仲が良いんだな」
「んー、まあね。アカデミーの一年からの付き合いで……。さすがに帰省先にまで付いてきたのは初めてだけどさ。今年で卒業だからって」
レンはそこで言葉を一度切り、苦笑して続けた。
「俺が……その、進路に悩んでるからさ。心配させたんだと思う。優しいやつなんだ。自分だって大変なのに」
急に持ちかけられた今回の旅行が、ファルの気遣いだとレンも勿論分かっていた。もしかすると、解剖の際に取り乱したことで負い目すら感じてるのかもしれない。
今レンが悩んでいるのは、確かにあの日のファルが契機ではあるが、彼には何の責任もないのに。
ちらりと釣り人の表情を窺う。彼の目はただ穏やかで凪いでいた。
今日会ったばかりの、名前すら知らない相手だ。――だからこそ、気兼ねなく聞けた。
「おじさんは……、何かに悩んだ時って、どうやって決めてる?」
「悩んだ時、か。そうだな……」
彼の目が眇められ、その視線はどこか遠くを透かし見るかのようだった。
「私は……、『最も大切にしたいものは何か』を、己に問いかけて決断したね」
「大切にしたいもの……」
彼はレンの方を向いて微笑んだ。
「そう。人でも物でも、信念でもいい。それを守る最善の方法を選ぶんだ。どうしても譲れない、たった一つのために」
「おじさんは、その『大切なもの』を守れた?」
頷いてくれるかと思ってレンは聞いた。だが予想に反して、彼は曖昧に微笑む。
「さあ、どうかな……。苦労も多かった。もっと良い道があったのではないか、と考える日もある。でも――」
「でも?」
「後悔はしてないんだ」
からりと笑った男に、レンは驚いて目を見開く。
「守れたか、わからなくても?」
その問いには、彼は迷わず頷いた。
「もちろん、『あの時もっとああしていれば』という後悔なら無数にあるさ。けれど、大切なものを『これだ』と決めた自分には、欠片も後悔していないんだ」
「……そっか」
何か胸の中に、ぽっと光が灯った気がした。
レンはそんなあたたかな気持ちにニッと笑って、立ち上がった。
「何か参考になったかな」
「うん。まだはっきりしたわけじゃないけど、少し掴めそうな気がする。後は自分で考えてみるよ」
「そうか」
彼はやわらかく微笑んで頷いた。
レンは心も身体も少し軽くなった気がして、男の座っていた石の上から、ぴょんと飛び降りる。
「ありがとう、おじさん! あ、また会ったら釣り教えてね!」
手を振りつつ元来た方向へ戻るレンに、彼も手を振り返してくれる。レンは意気揚々と川沿いを進んで、ファルのところへと戻った。
彼はレンの顔を見て、目を瞬かせる。
「何かあったのか?」
「え?」
「いや……、少し表情が明るい気がして」
一目で指摘されるほど分かりやすかったのか、と少々照れつつ、レンは笑みを返した。
「ああ、ちょっとな!」
どことなく照れくさくて、先程出会った親切なおじさんの話はそれとなく誤魔化しつつ、もうしばし森を散策したあと、漸くファルの実家へと向かった。
2026/10/04 14:06:18
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 20
王都から郊外の町へ乗合馬車で二日。
そこから更に徒歩で半日ほど歩いた場所に、目的地がある。
「長閑なとこだなー」
レンはファルの隣を歩きながら、田園風景の広がる辺りをきょろきょろと見渡した。
「綺麗だろ。でも、頻繁に来るにはちょっと遠い」
「たしかに」
肩を竦めるファルに、レンはくすと笑う。
ファルの両親は、息子のアカデミー入学に合わせて、町中からこの場所へ移り住んだという。ファル自身も数えるほどしか来たことがないようだが、現在両親が穏やかに暮らす場所を愛しているのが見て取れた。
「……ファルは、卒業したらこっちに行くのか?」
今は毎日顔を合わせているが、アカデミーを出てしまえばそうはいかないだろう。だが、住む場所までこれほど大幅に離れてしまえば、一層会うことは難しくなる。
その事実に寂しさを覚えて思わず訊ねると、ファルはきょとんとした顔をした。
「いや……。まだはっきりとは決めてないけど、多分王都を出ることはないよ」
「あ、そなの?」
「ああ。だって――」
「『だって』?」
続きを促すが、ファルは口を噤み首を振った。
「いや……、その。なんていうか、仕事も多いし?」
「まあ、そうだな」
王都はもちろん国一番に栄えた場所なので、村落に比べれば職種も求人も豊富なのは間違いない。
どことなく歯切れの悪い物言いを不思議に思いつつも、レンは納得して頷いた。
「俺としては、ファルが近くにいてくれんの嬉しいよ」
にぱっと笑ってそう言うと、ファルはきょとりと目を瞬かせた後、視線を逸らして溜息をついた。
「……レンのそういう所、ほんと」
「何?」
「…………なんでもない」
ファルは何故かもう一度溜息をつくと、顔を上げて今度は明るい調子で言った。
「それより、予定より少し早く着きそうなんだ。近くの川でも散策してから行かないか?」
「え、いいのか!? ほら、王都ってやっぱし緑が少ないじゃん? 俺、こういうとこで前から遊んでみたかったんだよなぁ」
うきうきの隠せないレンに、ファルもくすりと笑う。
「じゃあ決まりだな」
「おう!」
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 20
王都から郊外の町へ乗合馬車で二日。
そこから更に徒歩で半日ほど歩いた場所に、目的地がある。
「長閑なとこだなー」
レンはファルの隣を歩きながら、田園風景の広がる辺りをきょろきょろと見渡した。
「綺麗だろ。でも、頻繁に来るにはちょっと遠い」
「たしかに」
肩を竦めるファルに、レンはくすと笑う。
ファルの両親は、息子のアカデミー入学に合わせて、町中からこの場所へ移り住んだという。ファル自身も数えるほどしか来たことがないようだが、現在両親が穏やかに暮らす場所を愛しているのが見て取れた。
「……ファルは、卒業したらこっちに行くのか?」
今は毎日顔を合わせているが、アカデミーを出てしまえばそうはいかないだろう。だが、住む場所までこれほど大幅に離れてしまえば、一層会うことは難しくなる。
その事実に寂しさを覚えて思わず訊ねると、ファルはきょとんとした顔をした。
「いや……。まだはっきりとは決めてないけど、多分王都を出ることはないよ」
「あ、そなの?」
「ああ。だって――」
「『だって』?」
続きを促すが、ファルは口を噤み首を振った。
「いや……、その。なんていうか、仕事も多いし?」
「まあ、そうだな」
王都はもちろん国一番に栄えた場所なので、村落に比べれば職種も求人も豊富なのは間違いない。
どことなく歯切れの悪い物言いを不思議に思いつつも、レンは納得して頷いた。
「俺としては、ファルが近くにいてくれんの嬉しいよ」
にぱっと笑ってそう言うと、ファルはきょとりと目を瞬かせた後、視線を逸らして溜息をついた。
「……レンのそういう所、ほんと」
「何?」
「…………なんでもない」
ファルは何故かもう一度溜息をつくと、顔を上げて今度は明るい調子で言った。
「それより、予定より少し早く着きそうなんだ。近くの川でも散策してから行かないか?」
「え、いいのか!? ほら、王都ってやっぱし緑が少ないじゃん? 俺、こういうとこで前から遊んでみたかったんだよなぁ」
うきうきの隠せないレンに、ファルもくすりと笑う。
「じゃあ決まりだな」
「おう!」
2026/08/15 13:11:58
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 19
研究所を出て、寮までの帰り道を辿る。
ファルは、隣でじっと黙ったままのレンの横顔に目だけで視線を向けた。
鞄の肩紐をきつく掴み、俯き加減で歩を進める彼が何を考えているのか、全く分からない。
普段あっけらかんとして素直な人柄だからこそ、その何も読み取れない表情が、酷く心を落ち着かなくさせる。
ファルはレンから視線を外し、彼とエルジュの会話を反芻する。
所長からの伝言を聞いた時の強張った表情を見れば、レンが「研究者になること」へ迷いを感じているのは明らかだった。
ファルはきゅっと唇を噛んだ後、意を決して口を開いた。
「なあ、レン」
「……ん、あっ? なに?」
思考の海から急浮上したような表情に、ファルは気付かない振りをして、なんでもないように聞こえるよう軽い調子で続けた。
「夏季休暇、まだ暫く続くだろ? 今年はアカデミーも最終学年だし、近々帰省してこようと思うんだ」
「あー、たしかファルのご両親って、今王都を離れて郊外に住んでるんだっけ」
「ああ、そうだよ。……それでさ、レン」
「ん?」
不思議そうに首を傾げるレンの方へ向いて言った。
「もしよければ、なんだけど。一緒に……来ない?」
「え?」
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 19
研究所を出て、寮までの帰り道を辿る。
ファルは、隣でじっと黙ったままのレンの横顔に目だけで視線を向けた。
鞄の肩紐をきつく掴み、俯き加減で歩を進める彼が何を考えているのか、全く分からない。
普段あっけらかんとして素直な人柄だからこそ、その何も読み取れない表情が、酷く心を落ち着かなくさせる。
ファルはレンから視線を外し、彼とエルジュの会話を反芻する。
所長からの伝言を聞いた時の強張った表情を見れば、レンが「研究者になること」へ迷いを感じているのは明らかだった。
ファルはきゅっと唇を噛んだ後、意を決して口を開いた。
「なあ、レン」
「……ん、あっ? なに?」
思考の海から急浮上したような表情に、ファルは気付かない振りをして、なんでもないように聞こえるよう軽い調子で続けた。
「夏季休暇、まだ暫く続くだろ? 今年はアカデミーも最終学年だし、近々帰省してこようと思うんだ」
「あー、たしかファルのご両親って、今王都を離れて郊外に住んでるんだっけ」
「ああ、そうだよ。……それでさ、レン」
「ん?」
不思議そうに首を傾げるレンの方へ向いて言った。
「もしよければ、なんだけど。一緒に……来ない?」
「え?」
2026/03/14 12:58:47
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 18
記念墓地の慰霊訪問が終了し、一行は一度研究所へと戻った。
だが、後は今後の――提出物などの諸注意を聞いた後は、体験入所が終了。解散となる流れだ。
レンは帰る準備をしながらも、小さく溜息をついた。
みな既にちらほらと帰途へつき、現在部屋にはレンとファル、それからエルジュしかいなかった。
「レン、そろそろ施錠しますので」
「あ、すみません!」
エルジュの言葉に慌てて鞄を背負い、ファルと共に扉を潜る。
最後に退室したエルジュが鍵をかける音を聞きながら、彼に一言感謝を伝えようと足を止める。
「――レン」
だが振り向いたエルジュが口を開く方が早く、レンはぽけと口を開いたまま目を瞬かせた。
「所長からの伝言です。『この数日で君の熱意はよく伝わった。もし君がここを受けるのならば、我々は歓迎する準備を整えている』とのことです」
それは事実上、内定が約束されたも同然の言葉だった。
きっと少し前までのレンならば、飛び上がって喜んだはずだ。
だが、何故か心はもやもやとして晴れないまま、小さく頷いた。
「……はい」
よろしくお願いします、と言えばいいはずなのに。それで、長い間抱いてきた夢が叶うのに。
だが、どうしてもそれ以上の言葉が出て来ない。
そんなレンにエルジュは、少し目を細めた。
「それと……、ここからは私個人から、ですが――」
レンは俯いていた顔を上げる。目が合って、エルジュが続ける。
「研究者を続けていれば、今回のようなことは発生します。もし抱えきれない……というならば無理をする必要はない、と考えます」
「…………はい」
「ですが、レン。私は貴方が良き研究者になれるとも感じていますよ」
エルジュが淡く微笑んだのに、レンは瞠目する。
レンが何も答えられずにいると、エルジュが続ける。
「さあ、後は自分で答えを出すことです。――また会いましょう、レン」
レンは困惑を覚えたまま、去っていくエルジュの背中を見送るしかできなかった。
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 18
記念墓地の慰霊訪問が終了し、一行は一度研究所へと戻った。
だが、後は今後の――提出物などの諸注意を聞いた後は、体験入所が終了。解散となる流れだ。
レンは帰る準備をしながらも、小さく溜息をついた。
みな既にちらほらと帰途へつき、現在部屋にはレンとファル、それからエルジュしかいなかった。
「レン、そろそろ施錠しますので」
「あ、すみません!」
エルジュの言葉に慌てて鞄を背負い、ファルと共に扉を潜る。
最後に退室したエルジュが鍵をかける音を聞きながら、彼に一言感謝を伝えようと足を止める。
「――レン」
だが振り向いたエルジュが口を開く方が早く、レンはぽけと口を開いたまま目を瞬かせた。
「所長からの伝言です。『この数日で君の熱意はよく伝わった。もし君がここを受けるのならば、我々は歓迎する準備を整えている』とのことです」
それは事実上、内定が約束されたも同然の言葉だった。
きっと少し前までのレンならば、飛び上がって喜んだはずだ。
だが、何故か心はもやもやとして晴れないまま、小さく頷いた。
「……はい」
よろしくお願いします、と言えばいいはずなのに。それで、長い間抱いてきた夢が叶うのに。
だが、どうしてもそれ以上の言葉が出て来ない。
そんなレンにエルジュは、少し目を細めた。
「それと……、ここからは私個人から、ですが――」
レンは俯いていた顔を上げる。目が合って、エルジュが続ける。
「研究者を続けていれば、今回のようなことは発生します。もし抱えきれない……というならば無理をする必要はない、と考えます」
「…………はい」
「ですが、レン。私は貴方が良き研究者になれるとも感じていますよ」
エルジュが淡く微笑んだのに、レンは瞠目する。
レンが何も答えられずにいると、エルジュが続ける。
「さあ、後は自分で答えを出すことです。――また会いましょう、レン」
レンは困惑を覚えたまま、去っていくエルジュの背中を見送るしかできなかった。
2026/03/14 11:56:14
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 17
記念墓地まで辿り着いた一行は、ここの管理人から話を聞き、その後記念碑が並ぶエリアへと足を踏み入れていた。
ファルはゆっくりと石碑の間を歩きながら、小さく息をついた。
いつもは祖父母の名前が刻まれた場所まで一直線に向かうため、違う道を通るのは少し景色が新鮮に映る。
また、いつ訪れてもあまり人気のないこの場所に、何人もの人影が見えるのも不思議な気分だった。
ファルはレン以外の体験入所者が物珍しげに石碑の間を散策するのを、少しばかり羨ましいような悲しいような気持ちで見つめる。
アカデミーの通常課程中に授業の一環で一度は訪れているはずだが、「普通」の国民にとっては、あまり来ることのない場所だ。
そういう生い立ちを持てたことが、ほんの少しだけ羨ましかった。
その時、そっと傍に気配を感じて振り返る。
「……エルジュさん」
「ファル、体調はどうです。きちんと眠れていますか?」
思わぬ質問に首を傾げながらも頷く。
「え? ええ、はい」
「なら良かったです。繭の解剖にはショックを受ける人もいます。貴方も顔色が良いとは言い難かったので」
たしかに今回のようなことがなければ、そうそう解剖――それも羽化に失敗した被験者の肉体を見ることはない。人によってはトラウマになることもあるのだろう。
特に一見には解剖の様子にショックを受け、途中離脱したように見えただろうから、心配ももっともだった。
「大丈夫です。そういう意味では、もう気にしていません」
「そうですか」
「あ、でも……」
所員でもない人間が聞いてもいいことなのかと言い淀むファルに、エルジュは続きを促すように小首を傾げた。
「あの時亡くなった繭は……、その後どうなったんですか?」
あの様子を見て、まさか「そのまま打ち捨てられている」とは思わないが、それ以外にどうなるのか見当もつかず、おそるおそる訊ねる。
だがエルジュは、そんな事かとでも言うように軽く目を瞠って、記念墓地の奥へ視線を向けた。
「通常はご家族の元へお返ししますが……。身寄りのない場合は、事前にご本人と話し合いをします。今回の場合ですと、一定期間引き取り手が現れないことを確認した後、あそこの合祀墓へと埋葬される手筈です」
ファルもエルジュの視線を追って、花で溢れたその墓を見る。
元々、この国までの亡命中に命を落とすなどして、遺体もしくは骨となって辿り着いた蝶の民を埋葬する場所だったと聞いている。
今はそういった人々も一緒にいるのだと聞いて、寂しくなくていいのかもしれないな、と思う。
「……ちゃんと、人として扱ってくれるんですね」
「当たり前でしょう。そもそも、こちらの手が及ばず死なせてしまった方でもあるんです。せめて最期くらいは最大限丁重に扱わなければ……」
「そうですよね」
当然、という顔で言うエルジュに、どこかほっと力が抜けた。
レンも彼らと肩を並べていくのだと思えば、それがとても嬉しい。
ファルはふと視線を巡らせて、レンの姿を探す。
「あ……」
彼はいつも訪れるファルの祖父母の名前を前に、じっと立ち竦んでいた。
「……エルジュさん」
エルジュが目を瞬かせる。
「レンは……、研究者になりますよね……?」
エルジュがレンの姿を捉え、目を眇めた。
「……それは彼次第でしょう」
彼の返答は曖昧だった。
それは、入所への面接や試験について言っているのか、それともレンの心の内についてを言っているのか――。
もしもレンの目標が変わってしまったのなら、ファルはきっとそれでも彼の選択を尊重するだろう。
けれど――、もし、自身の過去やそれを吐露したことが、夢を叶えることを躊躇わせているのだとすれば……。
それは耐え難いほどやり切れない。
ファルはきゅっと拳を握って、レンの沈んだ横顔を見つめるのだった。
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 17
記念墓地まで辿り着いた一行は、ここの管理人から話を聞き、その後記念碑が並ぶエリアへと足を踏み入れていた。
ファルはゆっくりと石碑の間を歩きながら、小さく息をついた。
いつもは祖父母の名前が刻まれた場所まで一直線に向かうため、違う道を通るのは少し景色が新鮮に映る。
また、いつ訪れてもあまり人気のないこの場所に、何人もの人影が見えるのも不思議な気分だった。
ファルはレン以外の体験入所者が物珍しげに石碑の間を散策するのを、少しばかり羨ましいような悲しいような気持ちで見つめる。
アカデミーの通常課程中に授業の一環で一度は訪れているはずだが、「普通」の国民にとっては、あまり来ることのない場所だ。
そういう生い立ちを持てたことが、ほんの少しだけ羨ましかった。
その時、そっと傍に気配を感じて振り返る。
「……エルジュさん」
「ファル、体調はどうです。きちんと眠れていますか?」
思わぬ質問に首を傾げながらも頷く。
「え? ええ、はい」
「なら良かったです。繭の解剖にはショックを受ける人もいます。貴方も顔色が良いとは言い難かったので」
たしかに今回のようなことがなければ、そうそう解剖――それも羽化に失敗した被験者の肉体を見ることはない。人によってはトラウマになることもあるのだろう。
特に一見には解剖の様子にショックを受け、途中離脱したように見えただろうから、心配ももっともだった。
「大丈夫です。そういう意味では、もう気にしていません」
「そうですか」
「あ、でも……」
所員でもない人間が聞いてもいいことなのかと言い淀むファルに、エルジュは続きを促すように小首を傾げた。
「あの時亡くなった繭は……、その後どうなったんですか?」
あの様子を見て、まさか「そのまま打ち捨てられている」とは思わないが、それ以外にどうなるのか見当もつかず、おそるおそる訊ねる。
だがエルジュは、そんな事かとでも言うように軽く目を瞠って、記念墓地の奥へ視線を向けた。
「通常はご家族の元へお返ししますが……。身寄りのない場合は、事前にご本人と話し合いをします。今回の場合ですと、一定期間引き取り手が現れないことを確認した後、あそこの合祀墓へと埋葬される手筈です」
ファルもエルジュの視線を追って、花で溢れたその墓を見る。
元々、この国までの亡命中に命を落とすなどして、遺体もしくは骨となって辿り着いた蝶の民を埋葬する場所だったと聞いている。
今はそういった人々も一緒にいるのだと聞いて、寂しくなくていいのかもしれないな、と思う。
「……ちゃんと、人として扱ってくれるんですね」
「当たり前でしょう。そもそも、こちらの手が及ばず死なせてしまった方でもあるんです。せめて最期くらいは最大限丁重に扱わなければ……」
「そうですよね」
当然、という顔で言うエルジュに、どこかほっと力が抜けた。
レンも彼らと肩を並べていくのだと思えば、それがとても嬉しい。
ファルはふと視線を巡らせて、レンの姿を探す。
「あ……」
彼はいつも訪れるファルの祖父母の名前を前に、じっと立ち竦んでいた。
「……エルジュさん」
エルジュが目を瞬かせる。
「レンは……、研究者になりますよね……?」
エルジュがレンの姿を捉え、目を眇めた。
「……それは彼次第でしょう」
彼の返答は曖昧だった。
それは、入所への面接や試験について言っているのか、それともレンの心の内についてを言っているのか――。
もしもレンの目標が変わってしまったのなら、ファルはきっとそれでも彼の選択を尊重するだろう。
けれど――、もし、自身の過去やそれを吐露したことが、夢を叶えることを躊躇わせているのだとすれば……。
それは耐え難いほどやり切れない。
ファルはきゅっと拳を握って、レンの沈んだ横顔を見つめるのだった。
2026/03/13 13:37:49
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 16
いつもはレンと二人で歩く記念墓地までの道を、今日は大所帯で辿る。
ファルは吹き抜ける冷たさの混じる風に目を細めた。
先導する研究所の所長だという男の後をついて歩きながらも、彼の声は耳を素通りしてゆく。
蝶の民研究所の体験入所――最終日。
研究所の所員たちと共に、ファル、レン、そして残りの体験入所者三人は、王都の外れにある記念墓地に訪れていた。
研究者という道を選ぶのなら、決して避けては通れない、非道な研究の犠牲となった人々についての話。それらを訥々と語る所長の言葉を聞き流しながら、空を見上げる。
実際その「非道な研究」が行われていた現場にいた過去を持つファルとしては、彼の言葉はやはりどこか現実感に欠けている。
実際に経験したことではないから当然といえば当然だろう。
それに今のファルには、それ以上に気にかかることがあった。
隣へチラと視線を向ける。
普段ならば真剣な顔で、それらの言葉を聞いているであろうレンのことだ。
だが彼もどこか上の空な様子で、だが同時に深く思い悩むような表情もしている。
「……、」
ファルはそんな彼に声をかけようか迷って、やはり口を閉じた。
こうして口を噤むのも、レンが思い詰めた表情をしているのも今にはじまったことではない。
死亡した繭の解剖を見た日――いや、ファルが過去を語ったあの時から、もうずっとその表情が晴れないのだ。
やっぱり僕のせいだろうか――。
ファルはそんな罪悪感にチクチクと蝕まれている。
今彼が何を考えているのかは、何度も聞こうとして聞けず、正確なところは分からない。
だが、その表情が曇るきっかけとなったのは、間違いなくファルが過去を吐露してしまったせいだろう。
はじめは、「ファルを体験入所に誘ってしまった」とでも後悔しているのかと思っていた。だが、彼の誘いを受けたのも、解剖に立ち会うと決断したのもファル自身だ。レンを責めるつもりもないし、彼がもし謝罪でもしてこようものなら、そう伝えるつもりだった。
だが、沈んだ様子を見せるようになって一日が経ち、二日が経ち――、もしかするとレンが思い悩むのは違う点なのかもしれないと思うようになった。
それが「何」なのかまでは分からなかったが。
自分はレンの存在に、とても救われている。
繭の臭いを契機に蘇った記憶は、決して愉快なものではない。それでも、そのことについて一種の区切りが付けられているのは、あの日、あの時に、彼が傍でじっと話を聞いてくれたからだ。
そんなレンが悩みを抱えているのならば、自分も支えたいと思うのは当然だった。
だが不用意に訊ねてしまえば、「悩んでいる」ということすら隠されてしまうのではないかと怖くて聞けずにいる。
「――レン、行こう。置いていかれそうだ」
自然と遅くなっていた歩調のせいで、前方を進む一行と、少しばかり距離ができていた。
ファルが声をかけると、レンがハッとしたように顔を上げる。
「あ、そうだな。ごめん」
早足で歩きはじめた彼の背中を、ファルは見つめるしかできないでいた。
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 16
いつもはレンと二人で歩く記念墓地までの道を、今日は大所帯で辿る。
ファルは吹き抜ける冷たさの混じる風に目を細めた。
先導する研究所の所長だという男の後をついて歩きながらも、彼の声は耳を素通りしてゆく。
蝶の民研究所の体験入所――最終日。
研究所の所員たちと共に、ファル、レン、そして残りの体験入所者三人は、王都の外れにある記念墓地に訪れていた。
研究者という道を選ぶのなら、決して避けては通れない、非道な研究の犠牲となった人々についての話。それらを訥々と語る所長の言葉を聞き流しながら、空を見上げる。
実際その「非道な研究」が行われていた現場にいた過去を持つファルとしては、彼の言葉はやはりどこか現実感に欠けている。
実際に経験したことではないから当然といえば当然だろう。
それに今のファルには、それ以上に気にかかることがあった。
隣へチラと視線を向ける。
普段ならば真剣な顔で、それらの言葉を聞いているであろうレンのことだ。
だが彼もどこか上の空な様子で、だが同時に深く思い悩むような表情もしている。
「……、」
ファルはそんな彼に声をかけようか迷って、やはり口を閉じた。
こうして口を噤むのも、レンが思い詰めた表情をしているのも今にはじまったことではない。
死亡した繭の解剖を見た日――いや、ファルが過去を語ったあの時から、もうずっとその表情が晴れないのだ。
やっぱり僕のせいだろうか――。
ファルはそんな罪悪感にチクチクと蝕まれている。
今彼が何を考えているのかは、何度も聞こうとして聞けず、正確なところは分からない。
だが、その表情が曇るきっかけとなったのは、間違いなくファルが過去を吐露してしまったせいだろう。
はじめは、「ファルを体験入所に誘ってしまった」とでも後悔しているのかと思っていた。だが、彼の誘いを受けたのも、解剖に立ち会うと決断したのもファル自身だ。レンを責めるつもりもないし、彼がもし謝罪でもしてこようものなら、そう伝えるつもりだった。
だが、沈んだ様子を見せるようになって一日が経ち、二日が経ち――、もしかするとレンが思い悩むのは違う点なのかもしれないと思うようになった。
それが「何」なのかまでは分からなかったが。
自分はレンの存在に、とても救われている。
繭の臭いを契機に蘇った記憶は、決して愉快なものではない。それでも、そのことについて一種の区切りが付けられているのは、あの日、あの時に、彼が傍でじっと話を聞いてくれたからだ。
そんなレンが悩みを抱えているのならば、自分も支えたいと思うのは当然だった。
だが不用意に訊ねてしまえば、「悩んでいる」ということすら隠されてしまうのではないかと怖くて聞けずにいる。
「――レン、行こう。置いていかれそうだ」
自然と遅くなっていた歩調のせいで、前方を進む一行と、少しばかり距離ができていた。
ファルが声をかけると、レンがハッとしたように顔を上げる。
「あ、そうだな。ごめん」
早足で歩きはじめた彼の背中を、ファルは見つめるしかできないでいた。
2026/03/11 12:04:57
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 15
深夜。
碌に眠れぬまま目を覚ましたレンは、すやすやと寝息を立てるファルを横目に、部屋をそっと抜け出した。
あまりにも眠れないため、水でも飲もう――と思ったはずだったが、足は食堂の方ではなく外へと向かう。
通常課程の頃とは違い、門限も出入りの制限もあってないような上級課程の寮は、まだ人の気配がする。
建物の外まで出て上を見上げれば、一つ二つ、まだ明かりのついている部屋が見えた。
今のレンのように眠れない人がいるのか、それとも逆に寝落ちしてしまったまま、消灯していないだけだろうか。
そんなことを考えながら、寮の周囲をゆっくりと歩く。
今日は本当に色々なことがあった。
死にかけた繭を救い、解剖を見て――、
「っ……」
耳にファルの叫びが木霊する。
レンは無意識に足を止め、俯いて唇を噛んだ。
あの後、一通り吐き出せたからか随分すっきりした様子のファルと共に、所員への挨拶だけをしてすぐ帰宅した。
彼らは自分たちが解剖にショックを受けたのだろうと考えてか、あまり気にしないようにと声をかけてくれた。
たしかに、覚悟が足りていなかったとレンは感じている。
だがそれは、所員たちが懸念した点についてではない。
……エルジュだけは何か思うところがあったのか、そういった声かけをすることはなかったが。
レンは小さく溜息をつき、暗い空をぼんやりと見上げる。
番号で呼ばれる実験体。非人道的な行為が常態的に行われる環境で生きていたファル。その心に刻まれた傷は、レンが想像しているよりも、ずっとずっと深い。
そして、同じような傷を抱える人々は、ファル以外にもこの国に沢山生きて、生活をしている。
ファルと共に定期的に訪れるようになった、他国で犠牲となった蝶の民を弔う記念墓地の光景を思い出す。
あそこに刻まれる名前は、今もなお増えているのだ。
蝶の民の研究者になるということは、彼らと、今生きる人々の思いを受け止め、共に未来へ繋いでいくということ。
その、覚悟がなかった――。
レンには彼らの気持ちを真に理解できる日は来ない。ましてや、自分は「蝶の民」ですらない。
俺が軽々しく踏み込んでいい世界なのだろうか……。
憧れだけではままならない。
その現実がレンを深く思い悩ませていた。
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 15
深夜。
碌に眠れぬまま目を覚ましたレンは、すやすやと寝息を立てるファルを横目に、部屋をそっと抜け出した。
あまりにも眠れないため、水でも飲もう――と思ったはずだったが、足は食堂の方ではなく外へと向かう。
通常課程の頃とは違い、門限も出入りの制限もあってないような上級課程の寮は、まだ人の気配がする。
建物の外まで出て上を見上げれば、一つ二つ、まだ明かりのついている部屋が見えた。
今のレンのように眠れない人がいるのか、それとも逆に寝落ちしてしまったまま、消灯していないだけだろうか。
そんなことを考えながら、寮の周囲をゆっくりと歩く。
今日は本当に色々なことがあった。
死にかけた繭を救い、解剖を見て――、
「っ……」
耳にファルの叫びが木霊する。
レンは無意識に足を止め、俯いて唇を噛んだ。
あの後、一通り吐き出せたからか随分すっきりした様子のファルと共に、所員への挨拶だけをしてすぐ帰宅した。
彼らは自分たちが解剖にショックを受けたのだろうと考えてか、あまり気にしないようにと声をかけてくれた。
たしかに、覚悟が足りていなかったとレンは感じている。
だがそれは、所員たちが懸念した点についてではない。
……エルジュだけは何か思うところがあったのか、そういった声かけをすることはなかったが。
レンは小さく溜息をつき、暗い空をぼんやりと見上げる。
番号で呼ばれる実験体。非人道的な行為が常態的に行われる環境で生きていたファル。その心に刻まれた傷は、レンが想像しているよりも、ずっとずっと深い。
そして、同じような傷を抱える人々は、ファル以外にもこの国に沢山生きて、生活をしている。
ファルと共に定期的に訪れるようになった、他国で犠牲となった蝶の民を弔う記念墓地の光景を思い出す。
あそこに刻まれる名前は、今もなお増えているのだ。
蝶の民の研究者になるということは、彼らと、今生きる人々の思いを受け止め、共に未来へ繋いでいくということ。
その、覚悟がなかった――。
レンには彼らの気持ちを真に理解できる日は来ない。ましてや、自分は「蝶の民」ですらない。
俺が軽々しく踏み込んでいい世界なのだろうか……。
憧れだけではままならない。
その現実がレンを深く思い悩ませていた。
2026/03/04 12:07:51
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 14
建物の外に出たレンは、座れる場所を探して視線を巡らせた。
丁度、裏手の方にベンチを発見して、ファルを座らせると自分も隣に座る。
黙って俯いたままのファルの背を、空いた手でそっと撫でる。
そうしていると、少しずつ握り締める力が緩んでくるのが分かった。
「……大丈夫か?」
そっと声をかけると、ようやく彼の顔がゆっくりと上げられて、こちらを向く。先程の虚ろな目で派なくなっていることにほっとしながら、レンは背を撫で続けた。
ファルはレンの言葉には答えず、すっと遠くの空を見る。
「――同じ、牢にいたおじさんだった」
唐突に話しはじめたファルの言葉を、レンは黙ったまま頷いて続きを促す。
「名前は知らない。あそこじゃ、番号で呼ばれるのが普通で……八十六って呼ばれてた人だった」
「……うん」
「優しい人でさ。僕も、大好きだった。でもある日、帰ってこなくなった」
ファルは坦々と続ける。
「一週間経って、二週間経って……。きっと殺されてしまったんだ、って諦めた。急に人が消えるのも、普通のことだったから」
言葉を切ったファルは、上げていた顔を伏せて続けた。
「その日、連れていかれた部屋で……、あの臭いがしたんだ」
レンは、背を撫でる手を思わず止めてしまった。
「そこには筋肉と骨が露出した『何か』があった。かろうじて大人の人間なのはわかったけど、表皮は全部溶けてて、誰かなんて分かったもんじゃない。――分からない方が、よかった……っ」
握られた手に、再度力が籠る。
レンはかける言葉が見つからないまま、ファルの叫びを聞くしかなかった。
「あの『肉塊』を、奴らは八十六番って呼んだんだ……!!」
指の骨が砕けるんじゃないか、と思うほど強い力で手が握り締められる。
痛かった。けれど、ファルの心を襲っているであろう痛みに比べれば、どれほどのものだろうかとも思う。
「……ファル」
背に回した手で彼の肩を引き寄せ抱きしめる。
「ごめんな」
軽い気持ちで彼の傷を抉るような場所に誘ってしまったことへの謝罪だった。
自身の肩に彼の頭を引き寄せて、そのまま髪を撫でる。
今できることが、これくらいしか思い浮かばなかったからだ。
ファルは空いた手をレンの背に回して、ぎゅっと縋りつくように服を掴んだ。
そして、ぽつりと言う。
「レンが謝ることじゃないだろ……」
「……そーだな」
それでも握り締められた手も、抱擁も、解かれることはなかった。
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 14
建物の外に出たレンは、座れる場所を探して視線を巡らせた。
丁度、裏手の方にベンチを発見して、ファルを座らせると自分も隣に座る。
黙って俯いたままのファルの背を、空いた手でそっと撫でる。
そうしていると、少しずつ握り締める力が緩んでくるのが分かった。
「……大丈夫か?」
そっと声をかけると、ようやく彼の顔がゆっくりと上げられて、こちらを向く。先程の虚ろな目で派なくなっていることにほっとしながら、レンは背を撫で続けた。
ファルはレンの言葉には答えず、すっと遠くの空を見る。
「――同じ、牢にいたおじさんだった」
唐突に話しはじめたファルの言葉を、レンは黙ったまま頷いて続きを促す。
「名前は知らない。あそこじゃ、番号で呼ばれるのが普通で……八十六って呼ばれてた人だった」
「……うん」
「優しい人でさ。僕も、大好きだった。でもある日、帰ってこなくなった」
ファルは坦々と続ける。
「一週間経って、二週間経って……。きっと殺されてしまったんだ、って諦めた。急に人が消えるのも、普通のことだったから」
言葉を切ったファルは、上げていた顔を伏せて続けた。
「その日、連れていかれた部屋で……、あの臭いがしたんだ」
レンは、背を撫でる手を思わず止めてしまった。
「そこには筋肉と骨が露出した『何か』があった。かろうじて大人の人間なのはわかったけど、表皮は全部溶けてて、誰かなんて分かったもんじゃない。――分からない方が、よかった……っ」
握られた手に、再度力が籠る。
レンはかける言葉が見つからないまま、ファルの叫びを聞くしかなかった。
「あの『肉塊』を、奴らは八十六番って呼んだんだ……!!」
指の骨が砕けるんじゃないか、と思うほど強い力で手が握り締められる。
痛かった。けれど、ファルの心を襲っているであろう痛みに比べれば、どれほどのものだろうかとも思う。
「……ファル」
背に回した手で彼の肩を引き寄せ抱きしめる。
「ごめんな」
軽い気持ちで彼の傷を抉るような場所に誘ってしまったことへの謝罪だった。
自身の肩に彼の頭を引き寄せて、そのまま髪を撫でる。
今できることが、これくらいしか思い浮かばなかったからだ。
ファルは空いた手をレンの背に回して、ぎゅっと縋りつくように服を掴んだ。
そして、ぽつりと言う。
「レンが謝ることじゃないだろ……」
「……そーだな」
それでも握り締められた手も、抱擁も、解かれることはなかった。
2026/02/03 00:10:59
#夢見る少年と未羽化の蝶
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 13
レンたちは研究所の奥へ奥へと向かうエルジュの後をひたすら追っていた。
初日の案内では訪れなかった区画で、薬品のような何かの臭いがする。
渡されたマスクと髪を覆う帽子とを身に付け、そこに白衣を纏ったエルジュについて、ようやく解剖室へと辿り着く。
「戻りました」
そう声をかけて入室したエルジュに続き、レンはそろりと中へ足を踏み入れる。
「っ……」
マスク越しにも感じた臭気に息を飲む。腐臭にような、それでいて微かに甘みのある――嗅いだことのない臭いだった。
「これ……」
「羽化に失敗した繭の、中身の臭いです」
エルジュが囁き声で説明をする。彼に、こちらへと促されて、部屋の中央へと足を向けた。
そこには人ひとりが乗りそうな台と、それを囲むように三人の所員がいた。
「……? 他のみんなは……」
レンの疑問に所員の一人が首を振った。どうやら、立ち合いをせずに帰ったようだ。
だが、台に乗せられた人物を見た時、レンは彼らの選択が正しい、と思ってしまった。
「――っ!」
思わず口元を手で覆って、飛び出しかけた悲鳴を飲み込んだ。
頭と、胴体は、確かに人のそれだ。そこだけ見れば眠っているだけのようにも見える。
しかし、その手足は――、途中で溶けて消えてしまったかのように無くなっている。右腕は肘まであるが、その先は筋肉と骨が剥き出しで、手首から先がない。左腕は肩の付け根から存在せず、右足は膝まであるものの、中の骨や肉が未形成なのか、重力に従って半液状のように広がっている。左足は足首から先が無かった。
「繭の中では、生命維持器官以外が溶ます。そして、再び肉体が形成される際は、脳や内臓といった場所から再構築されるんです」
「ああ、だから手足が……」
人間の肉体にとって重要な器官から再構成され、その後に四肢が形成される。だから、その過程で死んでしまった蝶の民は、このような状態になるのだろう。
「――では、はじめましょうか」
所員の一人が口を開き、黙祷をはじめる。レンもそれに続いて、目を閉じた。
暫しの沈黙が過ぎレンが目を開くと、台の傍にいた人々もぱらぱらと動きはじめていた。
手術で使うようなメスと鉗子、それからハサミのようなものが主な道具のようだ。
レンは邪魔をしないように一歩離れて、解剖の様子を見守る。
体表の状態などの記録を取った後は、メスが胸部や頭蓋を通り、中身が露出していく。所員はそれらを観察し、何かの長さを測ったり、細々と何かを書き付けていた。
レンはもちろん、通常の人間の解剖も見たことはないので、どこが違っていて、どこが同じなのかもよく分からない。だが、ふと疑問を覚えて隣でついていてくれるエルジュに、声を潜めて問いかけた。
「あの……、骨とかってどうなってるんです?」
ただの小さな薄い刃物でしかないメスが頭蓋骨を割き、小さなハサミが肋骨を切断する様子は、素人目にも異様だ。
切れ味がすごくいい魔導具? いや、というよりも――
「なんか、すごく柔らかそうに見える、というか」
レンがそう言うと、エルジュが頷いて答える。
「その通りです。羽化前の肉体は、平常時より脆く壊れやすい。骨も羽化寸前まで、殆ど強度がないんですよ」
「へぇ……」
蝶の民はあらためて不思議な生態をしているな、と思う。
彼らの羽化を「生まれなおし」などとも表現することはあるが、母体の胎内で行われる肉体の形成とは、まるで違うもののようだ。
その時、鉗子の一本が所員の手から滑り落ち、カシャンッと耳障りな音を立てて床にぶつかった。
「っ!?」
その音と同時に、後ろから手を掴まれて、レンはビクッと肩を跳ねさせた。
「いっ、……ファル?」
強い力で掴まれ、小さく呻きながら背後を振り返る。
俯いた彼の顔を覗き込む。
「ファル……?」
顔色が先程よりも悪い。瞳孔が開いていて、焦点が合っていなかった。
なのに、手を掴む力だけは強く、まるで……助けを求めているようだと感じてしまう。
レンはきゅっと唇を噛むと、顔を上げた。
「すみません。俺たち、少し外の空気を吸ってきます」
ファルの手を引いて、部屋を出る。
どうしてここにファルを連れてきてしまったんだろう。
そんな後悔をしながら。
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 13
レンたちは研究所の奥へ奥へと向かうエルジュの後をひたすら追っていた。
初日の案内では訪れなかった区画で、薬品のような何かの臭いがする。
渡されたマスクと髪を覆う帽子とを身に付け、そこに白衣を纏ったエルジュについて、ようやく解剖室へと辿り着く。
「戻りました」
そう声をかけて入室したエルジュに続き、レンはそろりと中へ足を踏み入れる。
「っ……」
マスク越しにも感じた臭気に息を飲む。腐臭にような、それでいて微かに甘みのある――嗅いだことのない臭いだった。
「これ……」
「羽化に失敗した繭の、中身の臭いです」
エルジュが囁き声で説明をする。彼に、こちらへと促されて、部屋の中央へと足を向けた。
そこには人ひとりが乗りそうな台と、それを囲むように三人の所員がいた。
「……? 他のみんなは……」
レンの疑問に所員の一人が首を振った。どうやら、立ち合いをせずに帰ったようだ。
だが、台に乗せられた人物を見た時、レンは彼らの選択が正しい、と思ってしまった。
「――っ!」
思わず口元を手で覆って、飛び出しかけた悲鳴を飲み込んだ。
頭と、胴体は、確かに人のそれだ。そこだけ見れば眠っているだけのようにも見える。
しかし、その手足は――、途中で溶けて消えてしまったかのように無くなっている。右腕は肘まであるが、その先は筋肉と骨が剥き出しで、手首から先がない。左腕は肩の付け根から存在せず、右足は膝まであるものの、中の骨や肉が未形成なのか、重力に従って半液状のように広がっている。左足は足首から先が無かった。
「繭の中では、生命維持器官以外が溶ます。そして、再び肉体が形成される際は、脳や内臓といった場所から再構築されるんです」
「ああ、だから手足が……」
人間の肉体にとって重要な器官から再構成され、その後に四肢が形成される。だから、その過程で死んでしまった蝶の民は、このような状態になるのだろう。
「――では、はじめましょうか」
所員の一人が口を開き、黙祷をはじめる。レンもそれに続いて、目を閉じた。
暫しの沈黙が過ぎレンが目を開くと、台の傍にいた人々もぱらぱらと動きはじめていた。
手術で使うようなメスと鉗子、それからハサミのようなものが主な道具のようだ。
レンは邪魔をしないように一歩離れて、解剖の様子を見守る。
体表の状態などの記録を取った後は、メスが胸部や頭蓋を通り、中身が露出していく。所員はそれらを観察し、何かの長さを測ったり、細々と何かを書き付けていた。
レンはもちろん、通常の人間の解剖も見たことはないので、どこが違っていて、どこが同じなのかもよく分からない。だが、ふと疑問を覚えて隣でついていてくれるエルジュに、声を潜めて問いかけた。
「あの……、骨とかってどうなってるんです?」
ただの小さな薄い刃物でしかないメスが頭蓋骨を割き、小さなハサミが肋骨を切断する様子は、素人目にも異様だ。
切れ味がすごくいい魔導具? いや、というよりも――
「なんか、すごく柔らかそうに見える、というか」
レンがそう言うと、エルジュが頷いて答える。
「その通りです。羽化前の肉体は、平常時より脆く壊れやすい。骨も羽化寸前まで、殆ど強度がないんですよ」
「へぇ……」
蝶の民はあらためて不思議な生態をしているな、と思う。
彼らの羽化を「生まれなおし」などとも表現することはあるが、母体の胎内で行われる肉体の形成とは、まるで違うもののようだ。
その時、鉗子の一本が所員の手から滑り落ち、カシャンッと耳障りな音を立てて床にぶつかった。
「っ!?」
その音と同時に、後ろから手を掴まれて、レンはビクッと肩を跳ねさせた。
「いっ、……ファル?」
強い力で掴まれ、小さく呻きながら背後を振り返る。
俯いた彼の顔を覗き込む。
「ファル……?」
顔色が先程よりも悪い。瞳孔が開いていて、焦点が合っていなかった。
なのに、手を掴む力だけは強く、まるで……助けを求めているようだと感じてしまう。
レンはきゅっと唇を噛むと、顔を上げた。
「すみません。俺たち、少し外の空気を吸ってきます」
ファルの手を引いて、部屋を出る。
どうしてここにファルを連れてきてしまったんだろう。
そんな後悔をしながら。
2026/02/03 00:09:37
作品一覧
改稿版更新中
初稿更新終了
初稿更新中
改稿版完結
#夢見る少年と未羽化の蝶_二章 22
「あれが僕の家……」
森から出たレンたちは、長閑な田舎道を進む。
視線の先に小さな家が見えてきて、それを指差したファルが呆れ顔で溜息をついた。
玄関先には二人の人物がいて、どうやら片方は何やら怒られている。
「あー……。あれ、うちの両親。父さん、またなんかやったのか……?」
「また?」
「たぶん、僕らが来る日に釣りでも行って、『帰ってくるのが遅い』って怒られてるだけだよ」
ファルの口振りから、これがよくある他愛のない口喧嘩なのだと悟る。近付くごとに声がはっきりと聞こえてきたが、ファルの言った通りの内容で、女性の方から一方的に小言を言われているようだった。
「ん、あれ……?」
もう一方の男性の姿を見て、レンは首を傾げる。
そうしているうちにも二人はこちらの存在に気が付いたようだった。
「ああ、おかえり。二人ともよく来たね」
ファルの父が振り返って微笑んだその顔に、レンは思わず「あ」と声を上げた。
「さっきのおじさん!?」
「やっぱり君がレンくんだったか」
「え、何? 知り合い?」
不思議そうな顔をするファルとその母親に、レンは彼と顔を見合わせてくすくすと笑った。