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玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
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ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
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#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 3
ユリスは、この国で歴代宰相を務める家系の嫡子として産まれた。
祖母が降嫁した王女である貴き名家出身の母と、権力欲が些か強く人を駒としてしか見ていないものの有能な父。
貴族家としてはありがちな、アルファ同士の夫婦だった。
貴族――特に、王族に近ければ近いほど、アルファ性の子供が産まれる確率は高い。ユリスの家系も産まれる子供の殆どがアルファであり、ベータすら長らく傍系にしか産まれていないほどだった。
だが――。
産まれたユリスの性別を確認した母は、真っ青になって卒倒したという。
ユリスは――、オメガだった。
オメガの社会進出が進むと共に、表面上オメガへの差別は撤廃された。
だが、人々の根底にはまだまだ差別意識は残り続けている。
おそらく、「嫡子」でなければ、今のユリスはいなかった。
貴族家に産まれたオメガの行く末は、通常大きく二つだ。
汚点として「死産」させられるか、もう一つ。
他家へ嫁がせる道具として、ある意味では大切に養育されるか、だ。
オメガはアルファの妊娠率が高いと言われている。そのため、アルファがほしい家の嫁として一定の需要があるからだ。
だが、そういった背景があっても、ユリスがもし第二子以降の生まれであったならば、生かされてはいなかっただろう。
ユリスは両親にとって、結婚五年目にしてようやくできた「待望の子供」だったからだ。
今後、「もう一人」ができる保証はどこにもなかった。
そのためユリスは自身の性別を秘匿されたまま、「嫡子」として育てられた。
そもそも子の三性を無闇に明かすことはない。高位貴族の出身というだけで、アルファだと見なされる。そうでなかったとしてもベータ――。ましてや、項保護の首輪を付けていないユリスが、「オメガ」だなどと勘繰られるようなことはなかった。
とはいえ、父はおそらく代わりの子供ができれば、すぐにでもユリスを「処分」する心積もりだったはずだ。
そうならなかったのは――、
ユリスは物思いから浮上して、執務机のかじりつくルベルトを視線だけで見つめた。
五歳になった頃に参加させられた、王太子殿下と同世代の子供たちが交流を持つ園遊会で、ユリスが彼の「お気に入り」になったからだった。
二つ年上の彼は、ユリスが参加した会ではユリスの傍を決して離れず、まるで全てのものから守ろうとでもするかのように、傍に居続けた。
そうでなければ、その少し後に妊娠が発覚した妹が産まれると共に、ユリスの扱いは百八十度変わっていたはずだ。
「さて、ユリス。少し出てくる」
「――お見合い、でしたか」
「そ。母上も結婚結婚うるさくて」
「……王妃殿下もご心配なさっているのでしょう。二十五にもなって婚約者も決まってないのは」
「候補ならいるから! 今日もその内の一人と会うんだし……」
「所詮『候補』でしょうに」
「ぬぐっ」
彼は王族として、血を残す義務がある。最悪の場合は傍系を養子に取るという手もあるにはあるが、頑健で優秀なアルファの王太子がいるのだから、わざわざ面倒な手続きを踏む必要などあるはずもない。
「……何故、結婚なさらないんです」
「それはそのー、あれだ。『婚約者に逃げられた胸の傷が――』」
彼が幼少期に結んでいた婚約の相手のことだ。そのオメガ女性は自身の家に仕えていたベータ男性と駆け落ち同然に家を出たらしい。ルベルトは「愛する婚約者がその方が幸せなら」と身を引いた――ことになっている。
心優しき王太子殿下の逸話の一つになっているが、実際は違う。
「俺に建前が通じるとでも?」
胡乱な目で問い返すと、ルベルトはぺろっと舌を出して、肩を竦めた。
「やっぱ、見逃してくんない?」
彼は別に婚約者を「愛して」などいなかった。もちろん、人としての好意はあったようだし、あのまま結婚していたとて、特段不仲な夫婦になったわけではないだろう。
だが、ルベルトは「愛していた」ことにする方が、都合が良いと判断した。
愛する人を涙ながらに手放す王子。
相手の女側へも、「王子が許している」以上、不必要な程の糾弾は起こらない。
優しい人だ、と思う。
だが、その後何年にも渡ってそれを理由に、結婚から逃げ回っているのを見るに、それすら計算だったのではと思う時があった。
「――言いたくないなら、別に無理には聞きませんが」
「あ、そんな深刻な理由じゃないさ。ただ……諦めきれなくて」
「? 何を?」
「えっ!? あー? その、リリアーヌみたいに、『真に愛する人』と結ばれたいな~、なんて! そ、それよりそろそろ遅れるから、行ってくる!!」
「あ……」
はぐらかされた。
直感的にそう思った。
「……彼が、誰とどうなろうが、関係ないだろ」
自分に言い聞かせるように呟く。
今の自分は「アルファ」だ。
それに、抑制剤を常用し、フェロモンの発生を抑え、「オメガとしての自分」を殺し続けてきた今、今更「オメガとしての役割」を果たせるのかどうかさえ分からない。
強い抑制剤は当然人体に影響を及ぼす。
それを幼少期から服用してきたユリスは、おそらく――。
そっと、ユリスは肚のあたりに手を置いた。
「いや、分かっていたことじゃないか……」
長い間共にいて、ルベルトを好きにならずにいられるはずがなかった。
魅力的なアルファに、オメガの本能が惹きつけられているだけ。そう思おうとしても、無理だった。
何より、自分たちの関係は「アルファ同士の友人」以上のものにはなれない。
彼がいずれ妃として迎えるであろう女やオメガたちと会いに行く後ろ姿に、どれほど胸が引き裂かれそうになったとしても――。
その時、唐突に執務室の扉が空いた。
驚いてそちらを見る、が、そこにいるのが誰かすら確認する間もなく、膝から力が抜けた。
「え……」
へた、と床に手をついて、ドクンドクンと音を立てる心臓を抑えながら、どうにか顔を上げた。
「ルベルト、様……?」
何故、先程出ていったばかりの彼がいるのだろう。
ルベルトは、赤い顔で荒く息をつきながら、切れ切れに言葉を発する。
「ユリス、すまないが人を――、発情誘発剤をかけられた」
「っ!!」
それは、強制的にアルファやオメガを発情させる薬だ。アルファを誘惑したいオメガが時折使って問題を起こした、と聞くこともある。
まさかそれを王族に、と信じ難い気持ちだったが、今はそれに驚いている場合ではない。
(立たなきゃ……、「アルファ」ならば今すぐに)
ルベルトは会う予定だった令嬢の元には行かず、すぐに引き返してきたのだろう。
彼の判断は間違っていない。アルファやベータであれば、彼の現状に冷静に対処できるはずだからだ。
ユリスが、「オメガ」でさえなければ――。
「ユリ、ス……?」
「あっ……」
彼の目に射抜かれただけで、じわりと後ろが濡れた。
オメガの発情はアルファやベータを誘うが、アルファの発情もまた、オメガの発情を誘発してしまう。
「――」
ルベルトはゆらりと立ち上がると、扉の鍵をかけた。
「な、なにを……」
そして、彼はユリスの傍まで歩いてくると、膝をついて頤を持ち上げ――、唇を塞いだ。
「んぅっ!?」
舌が絡め取られ、じゅっと音を立てて吸われる。
「あっ……っ」
もう、駄目だった。
最後の一欠片だけ残っていた理性が、溶けて消えてゆく。
「ル、ベルト、さま……」
抗えるはずもない。オメガの本能、何より、ユリスはずっとずっとこの男が欲しかったのだから――。