初稿置き場
作品一覧
改稿版更新中
玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
初稿更新終了
ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
玉座の憧憬 アレイスト×セレンIF:小説・男女恋愛・バッドエンド・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 アレイスト×セレンIF:小説・男女恋愛・バッドエンド・R18・本編読了後推奨
玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
初稿更新中
改稿版完結
#玉座の憧憬_本編 30
山小屋を後にしたセレンとロウェルは、どうにか誰にも見つからぬまま、ロムーリャ公国に接する街まで到着していた。
とはいっても、この時のセレンは彼がどこへ向かうつもりなのかも知らず、知りたいとすら思わず、ただ手を引かれるままに歩いていただけだ。
「セレン、ここで人と合流する。その後、国を出る。いいか?」
旅人を装い、汚れた外套で頭まで隠したまま、二人は繁華街を進んでいた。足を止めないまま発せられた問いに、セレンは緩慢に顔を上げ、すぐに俯いた。
「どうでもいい」
「……わかった」
ロウェルの微かに落胆するような声も、どこか遠く聞こえる。
本当に、もう全てがどうでもよかった。
仮に今ここでロウェルが手を離し、自身を置いていったとしても、そのまま立ち止まり続けるであろうほどに。
考えることは山のようにあるはずだった。
ここはどこ? これからどこへ行こうとしている? ロウェルは自分をどうするつもり? どうして助けた? どうして――、アレイストではなくわたしの手を取ったの。
だが、どの問いももやもやと形を成す前に、霧散して消えていく。頭の動きが鈍い。世界も遠い。
本当に、全てがどうでもいいものに思えた。
その時、身体にトンと軽い衝撃を覚えて、歩調が乱れた。
視線を向ける。子供だ。
「ごめんなさい!」
そう言って少年は走り去っていくが、今のセレンはそんな軽い衝突すら受け流せる状態ではなかった。
足に力が入らず、ふらりと後ろへ倒れそうになる。
ロウェルが手を引いてくれなければ、そのまま転倒していただろう。
だが、それも良くなかった。
後ろへ倒れかかっていた身体が急に引っ張られる。その動きで、頭を隠していたフードがはらりと落ちて、銀色の髪が舞う。
「あ……」
平民には珍しいという輝くような銀糸の髪に、通行人たちが振り返り、そして――
「――いたぞ!」
追手の目も引いてしまった。
「セレン、走るぞ」
ロウェルが手を強く握り、走りはじめる。セレンは足がもつれて転びそうになりながらも、どうにか彼についていった。殆ど「引きずられている」という方が正しかったかもしれないが。
騒ぎが大きくなって、追手の数も増える。ロウェルも彼らを撒こうとしているようだったが、どうにも上手くいかず、最終的には、路地裏に追い詰められていた。
相手は三人。ロウェルは、セレンを自身の背後に押しやると、短剣を抜いた。
ロウェルの背中を見ているのが、妙に初めて彼と出会った時の情景と重なった。
ロウェルと追手の三人は、何やら問答をしていたが、セレンの耳には入ってこない。
ただ、何か、酷い耳鳴りのような、目眩のようなものがしていた。
キンッと高い金属音がして、セレンは顔を上げる。
目の焦点が次第に合ってくる。
戦っている。三人も、相手に。碌な武器も無しに。
ロウェルはどうにか、一人は昏倒させたらしい。だが、まだ多勢に無勢だ。息も上がっている。
しかしそれでも、ロウェルは一歩も引かなかった。
何度か打ち合いが続き、一人が倒れる。だがもう一人――、その男が剣を構えた。
セレンは息を飲む。
頭にかかっていた靄が晴れていく。
それと同時に、ロウェルの脇腹を刃が通ってゆくのが見えた。
赤い血が飛ぶのが、嫌になるほど鮮やかに見える。
「――――ロウェル!!」
悲鳴のようなセレンの叫びが響いた。
その声が予想外だったのか、追手の男まで虚を突かれたようにこちらを見た。
その一瞬の隙をロウェルは見逃さず、男の鳩尾に拳を叩き込んで気絶させた。
「……セレン」
失神した男を地面へ放ったロウェルは、呆然とこちらを見る。腹からはまだ血が流れていた。
セレンはロウェルに駆け寄って、彼の身体を抱き締めた。
「どした? 血に驚いたか?」
「そ、んなんじゃない……!」
セレンはハッとして、外套を脱ぎ、その下の謁見時に着ていたままだった上着も脱いだ。何故かボタンが一つなくなっていたが、今はそれどころじゃない。
そして、その更に下に着ているシャツのボタンに手をかけたところで、ロウェルが目に見えて狼狽する。
「ちょ、ちょちょ、待て待て待て! 何をする気だ!」
「何って、止血しないと」
比較的清潔な布が今これしかないのだから仕方がない。
答えながらボタンを外そうとするが、ロウェルががしりとその手を掴んで止めた。
「掠り傷! そこまでする必要ない!」
「どこが『掠り傷』!? まだ血が出てるのに!」
「もう止まるって!」
「だとしても! それに、下着は着てるから問題ない」
「問題あ――」
「――はい、そこまで」
パンと手を叩く音と共に割って入った声に、セレンはビクッと飛び上がった。
声のした方向を見ると、いつの間にかそこに男が立っていた。
その男を睨みつけ誰何しようとするセレンを制したのは、ロウェルだった。
「遅かったな」
「無茶言わないでくださいよ。突然連絡が来たかと思えば、『誰にも悟られず、国境を越えさせろ』だなんて」
どうやら二人は知り合いらしいと察するが、つい不安になってセレンはロウェルの腕をつんと引いた。
「えっと、こいつだよ。合流するって言ってた相手。俺の協力者で、名前はレオ。それで、えーっと……。やっぱり、一度会っただけじゃ覚えてないか?」
ロウェルの言葉に首を捻りつつ、じっと男――レオを観察する。淡い金髪をした、端正な顔立ちをしている。
たしかに、何か既視感がある。あれはどこで――
「――あ」
「思い出していただけたようで光栄です、殿下」
そう言って頭を下げた彼は、たしかにあの日――ロウェルと初めて出会った日に彼と一緒にいた金髪の男だった。
「では行きましょうか、お二人とも。ロムーリャ公国へ」
そうして、セレンはロウェルと共に公国へ向かったのだった。