7章王都での邂逅

 ロアンがルフュー家へ辿り着いた時、馬車が入って行くところだった。

 家紋のついたその姿を見るに、折よく家人が戻ってきた時に居合わせたようだ。

 その馬車が停まり、中から輝く金髪の女性が降りてくる。おそらくネリーの妹であるエリーゼだろう。

 彼女はロアンと目が合うと、少し首を傾げた後、ハッとしたように目を輝かせた。

「お兄様ではありませんか! ご機嫌うるわしゅうございますわ」

 お兄様、という呼び名に面を食らいつつ、美しい所作で腰を折る少女を、ロアンは見下ろす。

「お父上はどちらに」

「ああ……。あちらですわ」

 エリーゼは不敵な笑みを浮かべ、後ろを指さした。そこには彼女と同じ金髪の男が立っている。しかし、そちらに近付こうとした時、エリーゼがサッと前に出て行く手を遮った。

「お兄様。ネリーお姉さまのことでいらっしゃったのではなくて?」

「そう、だが……」

「やはりそうでしたのね。……でしたら、少しご容赦くださいませんこと?」

「何故?」

「もう、お姉さまが決着をおつけになったから」

 エリーゼは至極真面目な顔で、ロアンを見上げる。

「決着?」

「そうですわ。なので、これ以上は無粋かと思いますの。それに……」

 エリーゼはそこで一度言葉を切り、今度は憐れむような目で自身の父親であるはずの男を見た。

「あれは、どうしようもない愚か者ですの。お兄様が手を下されるまでもないわ」

 美しい少女から飛び出す、辛辣な言葉にロアンは目を瞠る。

 ネリーから聞いていた彼女の様子と、今目の前にいるこの少女とは、随分印象が違った。

 わがままで天真爛漫な自信家――。それがネリーの綴ったエリーゼだ。しかし、今の彼女は皮肉屋で、どこか斜に構えたような雰囲気を感じる。

 ネリーの境遇を生んだ家が抱える歪み。彼女もまた、その歪みから無関係ではいられなかったのかもしれないと、ロアンは思った。

「知っていますか、お兄様? お父様は、口ではお姉さまが実子なのか疑っていますけど、本心ではお姉さまを娘だと確信していますのよ、絶対。だって、お父様のお母様――お祖母様とお姉さまって、若い頃がそっくりなんだもの。昔、肖像画をこっそり見ましたの」

 エリーゼは少し茶目っ気のある顔で笑うと、一転、大人びた顔で遠くを見据える。

「お父様って、お祖母様に随分厳しくされたらしいんですの。その反動で、よく似たお姉さまを支配したがるんだわ。……愚か者、でしょう? それを止めなかったわたくしも、同罪ですけれど」

 ロアンは言葉を挟むことが出来ず、ただ彼女の独白を聞いていた。

「お兄様。どうか、お姉さまに優しくしてくださいませね。わたくしたちが、出来なかった分も」

 エリーゼの言葉は、ロアンの胸に重く響いた。

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