5章あなたへの誓い

 何通目かの返事のない手紙をレイブスに預けた後。

 ネリーはとぼとぼと廊下を歩いていた。

「あ、ネリー」

 顔を上げるとセルジュがいる。何故こうも鉢合わせてしまうのか。ネリーはぺこりと頭を下げると、視線を逸らしてその隣を通り過ぎようとした。

 今、名前を呼んでほしいのは、この声ではない。それを思うだけで、辛かった。

「ネリー、待って!」

 だが、それを察してくれぬセルジュは、なおもネリーを引き留めた。隣を通り過ぎる寸前に腕を掴まれ、足を止めざるを得なくなる。

「……何ですか?」

 放っておいてほしい時に限って、この男は話しかけてくるような気がする。多少、言葉が冷たくなったためか、一瞬セルジュはたじろぐように視線を彷徨わせたが、何故かネリーの手を取って握った。

「ネリー、僕と一緒にここを出ないか?」

「は……?」

 一体、何を言い出すのかとネリーは呆気にとられ、ぽかんと口を開ける。

 僕と一緒に、ここを出よう――?

 ネリーがその言葉の意味を飲み込む前に、セルジュはまくし立てるように続けた。

「君は、公爵と愛し合って結婚したわけじゃ、ないんだろう?」

「え、ええ……」

「なら、公爵の事はもう、エリーゼに任せてしまえば良いじゃないか」

「セルジュ様、何を……」

 彼の剣幕が恐ろしくなり、ネリーは彼に掴まれた手を引き抜こうとした。しかし、しっかり握りしめられたその手は、びくともしない。

「は、放してください」

 手を引っ張りながら訴えてみるが、セルジュは首を振る。

「逃げないで、僕の話を聞いてほしい。……本当は、こんな風に言うつもりじゃなかったんだけど」

 戸惑うネリーの前で、セルジュは片膝をついた。そして、真剣な眼差しでこちらを見上げてくる。

「公爵と別れて、僕と結婚してほしいんだ、ネリー」

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