5章あなたへの誓い
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何の、冗談かと思った。
「け、っこん……?」
だが、ネリーの前に跪くセルジュの目には、揶揄うような色は一切なく、真剣なものしか感じられない。
「君が『北の悪魔』と結婚すると知った時、とても後悔したんだ。どうしてもっと早く、君に気持ちを伝えなかったのか、って。ここに来て、もっと後悔した……。だって、公爵はここにはいなくて、君はずっと寂しそうだった……」
セルジュはネリーの手を握り直し、それを額に当てた。
「だから君に毎日花を贈った。僕の気持ちはもう、伝わっているんだろう?」
ネリーは何も言葉を返すことが出来ない。
彼の言う通り、気付いていないわけではなかった。
毎日届く贈り物。
ネリーを心配してここまで来たという彼。
「僕は、君を愛してる。ずっと、昔から」
見ない振りをしてきた言葉を、セルジュははっきりと告げた。
「それに僕は――、公爵とは違う。君を一人にして、不安にさせたりなんかしない」
その言葉に、ネリーは思わず反応してしまった。
ロアンとの繋がりが絶たれ、もうずっと不安だった。
それを思うと、その誓いはひどく魅力的に聞こえる。
でも――。
「わたしは……――」
その時、俄かに屋敷の中が騒がしくなった。
奥様と呼ぶ誰かの声が、色々な方向から聞こえる。ネリーはセルジュの手を振り解き、周囲を見渡した。
そして現れた、青い顔のレイブスと目が合う。
「レイブス……?」
彼は一見冷静に見えた。
だがよく見ればその手は震え、彼が必死に平静を保とうとしているのだと分かる。ネリーはレイブスに駆け寄り、支えるようにその背に手を置いた。彼は一度だけ深く息を吐き、ネリーに向きなおる。
そして、確かな情報ではない、と前置きした上で言った。
「旦那様が、戦死なさったとの報道が発表されました――」