5章あなたへの誓い

 新聞記事を読んだ日から数日。

 未だにロアンからの便りはなく、ネリーは次第に不安を隠しきれなくなっていた。

 彼の安否さえ分からず、そんな中で「自分は嫌われたのかも」などと自分本位なことばかり考えていたことが、恥ずかしく、許し難く、自分を責めずにはいられなかった。

 こちらは冬になりました。この手紙は届いているのでしょうか。消息だけでも知りたい――。

 そんな、彼の元に届いているのかも分からない手紙を、もう何通も出している。

 ただ漫然と待つなどということは出来そうもなく、何かしていなければ不安でどうにかなりそうだった。

 相変わらずセルジュと思われる人物からの贈り物は、時期的に花ではなくなったものの続いているようだが、今はそれどころではない。侍女たちに処理を一任して以降、どうなっているのかも知らなかった。知るつもりもなかったが。

 ある意味で、その「贈り物」に心惑わされなくなったネリーだったが、精神はずっと荒れ模様だ。心を落ち着けようと、刺繍をしてみたり本を読んでみたりとしてみたが、どれも身に入らず、最悪の想像をしそうになっては、頭を振ってそれを追い出す。それの繰り返しだった。

 いっそ、エリーゼの側にいれば、彼女の嫌味で気を紛らわせられるかと思ったが、こういう時に限って大人しい。

 ネリーは一ページも頭に入っていない本を閉じた。少し手付きが荒くなり、それはバタンと大きな音を立てる。

 その音に眉をひそめたエリーゼは、またかという表情で肩を竦め、溜息をつく。

「やだわ、御姉様。始終イライラされて……。みっともなくてよ」

 優雅に茶を飲む彼女に、ネリーは苛立ちを覚えた。

「貴女は、心配ではないのですか」

「心配……?」

 エリーゼのきょとんとした顔に、さらにカッとなる。

「ロアンの事です!」

 つい声を荒らげると、彼女は一瞬驚いたような顔をした後、呆れるような嘲るような顔で笑う。

「……そういう時も、心乱さずお待ちするのが役目でなくて?」

 ネリーは言葉に詰まり、彼女をただ見つめ返すしかできない。

 ロアンに恋をしている、と言ったエリーゼ。

 彼女が言うのなら、そうなのかもしれないとネリーは思った。だがそれでも彼女が何故、こうも余裕を醸し待っていられるのか不思議でならない。

「でも……」

「あの方を愛しているならば、……信じて待てるはずですわ」

「『愛して』……」

 たしかに、ネリーはロアンと愛しあって結婚したわけではなかった。エリーゼが言うような意味では、彼を愛しているわけではないだろう。

 それでもネリーは、ロアンのことがとても大切になっていた。

 実際に会話できた時間は短くとも、もう半年になる手紙のやりとりの中で、それだけは自信をもって言える。

 それだけでは、駄目なのだろうか。

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