5章あなたへの誓い

「あ、レイブス……、ロアンからは、何か……?」

 もう何度目になるか分からない質問を、ネリーは問いかける。しかしその答えは今日も同じで、彼はふるりと首を振った。

「そう……」

 これまで、頻繁に届いていた手紙が突然途切れ、もうどれほどになるか。

 前に彼からの手紙が届いた時分には、雪が降る気配すら見えなかったというのに、今では外の見渡す限りが白で覆われている。

 ノールヴィリニアで過ごす冬を、それをロアンに報告する日を、あの時はあんなにも楽しみにしていたのに。今は何を見ても心が動くことはなかった。

「あら、御姉様。また今日も待ちぼうけなさってるのね」

「エリーゼ……」

「ふふ。飽きられてしまったのかしら……。可哀想な御姉様」

 最早、言い返す気力もなく、ネリーは押し黙る。

 早く帰ってきて、という我儘を言ってしまったから、愛想を尽かされてしまったのではないか。それは、ネリーの脳裏にも何度となくよぎっていた。

「きっと、お忙しくされているだけですよ」

 レイブスの慰めの言葉も、頭では理解している。

 ネリーとのやり取りに飽きたからといって、こんなに極端な行動へ出る人だとは思えない。それでも、彼の中で優先度が下がってしまったのでは、嫌われたのでは、とネリーの思考は暗い方へ暗い方へと向かった。

「いやだわ、御姉様ったら。ただでさえ地味なのに、これ以上ジメジメしないでくださいませ」

 ネリーはエリーゼの物言いに、きゅっと唇をひき結んで俯いた。顔をしかめた彼女は、やれやれという様子で肩を竦める。

 以前は何とも思わなかったエリーゼの辛辣なものいいに、すぐに泣きそうになってしまうほど、心が不安定になっていた。

 その時、レイブスが別に何かを持っていることに気付く。

 新聞らしきそれに、「戦」の文字を見つけ、ネリーは思わずそれを掴んだ。

 それを差し出され、一面を開く。

「あ――」

「奥様?」

 ネリーは目を見開いて、固まる。

 そこには、「戦争激化」の文字が大きく書かれていた。

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