5章あなたへの誓い

 ロアンはネリーからの手紙を読み終わると、丁寧に封筒へと戻す。

 だが、心の中は彼女からの手紙のことでいっぱいで、最後の一文を思い返して、知らず知らずに笑みを浮かべていた。

「……私も、同じ気持ちだ。ネリー」

 彼女と直接言葉を交わしたい。早く、ノールヴィリニアへ――いや、ネリーの元に帰りたい。

 残念ながら、まだすぐの帰還は叶いそうになく、それが余計に郷愁の念を増幅させる。

 だが、今のロアンはそれ以上に帰りたいと願う理由があった。

 ここ暫くのネリーからの手紙を読むごとに、その気持ちは強くなるばかりだ。

 何か、隠し事をされているような――。

 彼女は上手く隠しているつもりのようだが、どこか不安感を覚えていた。

 ロアンは、彼女からの手紙と同時に届いた、まだ開封していないレイブスからの手紙にも目を留める。

 定期的に領地や屋敷についての報告を送らせているもので、彼からの封書自体は珍しくない。だが、いつもより送られてくる間隔が短いような気がした。

 ロアンは首を傾げながら、その封を破って中に目を通す。

 はじめは、いつも通りの報告書だった。

 しかし、それが終わったあとの内容に目を通すごとに、ロアンは顔を強張らせていく。

「ネリーの妹と、その婚約者が来ている……?」

 それを読み終わり、ようやく理解した。

「彼女の様子がおかしかったのは、このせいか……」

 ただのお客人だから報告しなかったと彼は書いていたが、おそらくはネリーから口止めされていたのだろう。彼女もこちらを心配させまいと、黙っていたに違いない。

 隠し事の正体に気付くと同時に、ロアンはレイブスの手紙をぐしゃりと握りつぶしていた。

 どうして言ってくれなかったのか、と怒りが込み上げる。

 彼女の配慮であろうことくらい容易に想像できたし、事実としてロアンに出来ることは何もない。それは分かっていても、言ってほしかった。

「ネリー……」

 ロアンは、早く彼女に返事を出そうと、ペンを取る。しかし――

「閣下!!」

 天幕がばさりと音を立てて開き、部下の一人が駆け込んできた。

 彼の緊迫した表情を見れば、手紙など書いていられない状況になってしまったことを悟らずにはいられない。

 いかなければ。

「……っ」

 ロアンは、掴みかけていたペンを手放した。

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