ひとりきり
あと何度、こうして日が沈み、また昇っていくのを見ることが出来るのだろう。
見る、とは言っても、頭上の小さな小窓から漏れる光でしか判断できないのだけれど。
リアーナは捕らえられてから二度目の夜が来るのを見ていた。日が陰りだし、もうそう遠くない時間に、日は沈んでしまうだろう。
リアーナはこの二日の間、まったく抵抗をしなかった。
手荒に扱われても文句を言わなかった。
食事が一度忘れられたがそれにも文句を言わなかった。
もしかしたら、王女様が泣いて命乞いをする様を見たかったのかもしれないが、リアーナにとっては食事を与えられなかったところで、餓死するだけのこと。このまま生き永らえても、断頭台で首を落とされるだけ。違いがある様には思えなかったからだ。
もし、凌辱しようとする悪漢がいたところで、同じだっただろう。反応の薄いリアーナに興味が出なかったのか、そういうことをしようとする者はいなかったが。
だからだろうか、大人しすぎる姫に同情心が湧いたのか、それともからかいか、気まぐれか、看守の役をしていた男は、時折外の様子をリアーナに聞かせた。
『お姫さんぐらい見逃しても、って言ってる奴はそこそこいるんだがな。上が処刑の一点張りで、聞かねぇんだ。悪いな。』
その中で、そんなこと言っていた。
「上」とは、男ははっきりとは口にしなかったが、おそらく、リアーナの良く知る男だ。
いつ、こうなってしまったのだろう。
リアーナは壁に背を預け、空を、鈍色の天井を仰いだ。
「リアーナ。」
そう彼が呼ぶ声は、幼いリアーナにとって、最も安心できる声だった。
幼き日、城に彼の父と共に参内していた彼は、立場上、リアーナが兄や父からどう扱われようと、表立って庇う事こそ出来なかったが、リアーナが泣いている時には必ず傍で慰めてくれた。
リアーナが一人泣いたのは、ただ一度。彼が彼の父に伴って遠い地へ行ってしまった時だけだった。
それ以降、リアーナは泣くことを止め、諦めることを覚えた。
久しぶりに会った彼は何一つ、勿論姿は別として、変わっていなかった。
私が恋した彼のまま……。
でも、もう。
リアーナは目をギュッと瞑り、身体を丸めた。
あの日以来どんなに辛くても、一人では、独りでは、泣かなかったのに。
「……シアン。」
ポツリと零れた言葉、どうか、あの人には届かないで。
届いたなら、きっと、優しいあの人は苦しむから。