しろい
「はぁ?!
久しぶりにかつての仲間たちと顔を合わせたかずさは、唖然とする四人の、いや、
声を荒げたのは
かずさだけただ一人、未だに魔法界の者達と交流を続けているというのは知っていた四人だったが、さすがに結婚にまでもつれ込むとは思っていなかったらしく、紫乃も事前に聞いていたために、この場でこそ驚いていないが、打ち明けたときには随分驚かれた。
「とりあえず、座ったら? 朱里ちゃん?」
目立ってるよ、と紫乃が促して、ようやく朱里は席に座りなおした。
「いやでも、朱里の気持ちも分かるよ。」
「まさか、結婚まであっちの人としちゃうなんてねぇ……。」
翠と玲奈もそれぞれ感想を述べる。
大学院に進学した紫乃以外が、社会人として働くようになり、三年程。二五歳となったかずさたちにも、確かにそろそろ結婚の話があっても良い頃だ。
実際、翠は大学時代の彼氏と結婚し、実のところもう美野姓ではなく、一人目がお腹にいるらしい。朱里は保育士の仕事が楽しいらしく、今のところ浮いた話は聞かなかったが、女優となった玲奈には学生時代からの、紫乃にも同じく院生の彼氏が存在していた。
が、もちろん、全員
「それじゃあ、生活の基盤、あっちに移しちゃうの?」
玲奈が尋ねる。他三人も、そう言えば、というようにかずさの顔を注視する。
「いや……、まだ、プロポーズ? されただけだし……。」
もごもごと、まだ何も決まってないのだ、というと、女子四人はそれよりも「プロポーズ」という言葉に惹かれたらしく、色めきたった。
「あー、疲れた。」
かずさはそう言うと、自宅のベッドに倒れ込んだ。
もちろん、旧友との語らいは楽しいのだが、今日は特に結婚の話題を、根掘り葉掘り聞かれ、さすがに疲れるというものだ。
とくに、プロポーズの場面はと言えば、何と言っていいか分からず、どうにか話題を逸らし、友人たちの追求からは何とか逃れた。
今度会った時、お祝い渡すね、といって別れた友人達。彼女らの事は大好きだが、さすがに言えることと言えないことがある。プロポーズについは完全に後者だ。
恥ずかしくて。
かずさは、ベッドに突っ伏したまま、微睡み始めていた。今日は日曜日。明日にはまた仕事に行かねばならない。
「あぁ、エイルに会いたいな……。」
分かりづらい彼の愛情に浸りたくなったのだ。
あれは一週間ほど前の事だ。
人間界で言うところの土曜日。その週は、というか、ほぼ毎週なのだが、かずさはエイルに会うため、金曜日の夜から日曜日の夜にかけて、魔法界へと行くようになっていた。
その土曜日の朝、早朝の事。
まだ起きるには早すぎる時間に目が覚めたかずさは、ふと思い立って、さっと身繕いすると、城の外へと出た。
小高い丘に登ると、朝靄が街を満たしていて、山の端から顔を出した朝日で、白く輝いていた。同じく、まだ白っぽい空がきれいで、柵に寄りかかったまま、ぼんやりと朝日が昇るさまを見ていた。
その時、背後でジャリという音が聞こえた。かずさが振り返ると、思った通りエイルがいた。
「こんな所にいたのか。」
「探した? なんて……」
冗談交じりにかずさがそう言うと、エイルにぎゅっと抱きしめられた。
「探した……。起きたらいなかったからな。」
かずさはエイルが未だに魔法を不得手としているのを思い出した。
そういやこの人、
エイルは割と簡単な探し物の魔法もできない。
「ごめん。でも、綺麗じゃない?」
そして、目の前の景色を指差す。
「ああ……。」
白に朝日の黄が混じり、美しく輝いている。
「かずさ。」
エイルに不意に名を呼ばれ振り返る。だが、エイルはかずさの方を見ることも無く、真っ直ぐ前方を見つめている。
「どうしたの?」
かずさは話を促すが、エイルは話をつづけることなく、じっと黙っている。しかし、腕の力が心なしか強くなったのは、かずさの気のせいだろうか。
「かずさ……、その。」
珍しく歯切れの悪いエイルに、かずさは不審げに目を向けた。
だが、焦らせてはきっとまただんまりになるだろうから、とかずさは何も言わずにエイルの言葉を待つ。
「そろそろ……、こんな色のドレス。着てほしいんだけど。………俺の隣で。」
「え……?」
何を言ってるんだこの人は、とかずさは聞き返す。
意味を解していない事を察したのだろう、エイルはふてくされた様にふん、と言うと、くるりと踵を返し、かずさを置いてとっとと丘を下っていく。
「え、あ、ちょっと?!」
かずさはエイルを追いかけようと身体を反転しかけて、すんでのところで思いとどまった。そして、もう一度その景色を見た。
朝靄と朝日で、白っぽい、景色。
白、白……? 白?!
まさか、それって……。
「ちょっと待って、エイル! それって……!」
かずさの色である「青」。
その色の石がはまった、いわゆるエンゲージリングを、投げつけられるように、かずさが受け取ったのは、それから少し後の事。