あなたが遠い
ちらちらと視界の端を火が揺れる。
ミエルはシーツに包まりながら、その炎とその傍らで黙々と書き物をしている男の背中を見る。
「
暫くはじーっとその姿を見つめていたミエルだったが、いつまで経っても切りのつかなさげな冬夜に溜息交じりに提案する。
あまり夜更かしをするのは良くない。勿論、自分が寂しいのもあるが、冬夜が倒れでもしたら、という方が恐い。
「ミエル、先寝てていいって。いつも言ってるだろ?」
「そう言って、全然寝ないから心配してるのよ。」
ミエルはむうっと頬を膨らませ、布団を抜け出し、冬夜の傍に歩いていく。
冬夜の肩口に机の上を見る。が、何を書いているのかさっぱり分からなかった。
「……冬夜。」
ミエルはぎゅぅっと冬夜の背に抱きつく。そうしていると、いつものように冬夜は小さな溜息を吐いて、ミエルには見慣れない上部を押すと黒炭が出てくるという、あちらの世界のペンを置き、ミエルの背を撫でた。
「分かった。寝るよ。な?」
ミエルはそれでもぎゅっと抱きついたまま、冬夜の膝に座った。
いつもは、よろしい、と言わんばかりの顔でベッドへと引っ張っていくミエルの、常にない行動に冬夜は目を見開く。
「どうした?」
冬夜の胸にぎゅっと掴まったまま動かないミエルを抱きしめ、宥めるように頭を撫でる。
本当にどうしたのだろう……。
「とうや……。とうやは、どこも、行かない、よね。」
「うん? 出来る限りは傍にいるだろ?」
現在、地球で大学に在学中の冬夜は、空いた時間があれば出来うる限り、ミエルの傍にいるようにしていた。
ミエルもこくりと頷く。だが、離れようとしないまま、冬夜の服を握り締めている。
ミエルは怖かった。
自分の知らぬ文字を操り、見慣れぬ道具を使う冬夜。自分とは違う世界の人なのだと、嫌でも意識させられた。もし冬夜が、もう来たくない、そう言ったのなら、ミエルは彼を止める術を持たない。時折、ふと不安になるのだ。
「こんなに近くにいるのに。たまに、すごく、すごく遠い所にいるみたいで。」
怖い。
そう零すミエルに冬夜は、肩を竦める。
「俺は来る。ここに。……ミエル、お前が来るな、って言わない限りな。」
「私、そんな事!」
ミエルが声を荒げ顔を上げる。
ようやく顔の見えたミエルに冬夜はほっとして、彼女の頭を撫で、その頬に口付けた。
「知ってる。……さ、寝よう。」
冬夜がふっと笑うと、ミエルは少し気分を持ち直したのか、さっとベッドに戻り、冬夜が来るのを待った。
冬夜は机に上の燭台を持ってベッドの傍の小卓に置いた。
冬夜はミエルの髪を掻き揚げて、その顔を愛おしげに見た後、その燭台の火を吹き消した。