01
赤いドレスと白い花

「……っ」

 シエナ・ヴィオリアは、思わずもれそうになった声を両手で押さえ込んだ。

 広い庭の片隅、その植え込みの影にしゃがんで、向こう側にいる二人にこちらの存在が見つかってしまわないようにと、ひたすら祈る。

「――ロリーナ、俺と結婚してほしい」

 そう言って男は女に白い花を差し出した。

「……喜んで、お受けします。ウィル」

 嬉しそうな声でそう返す声は、シエナのものとよく似ている。

 ロリーナ・ヴィオリア。

 シエナの双子の姉。

 顔形のよく似た、でも性格は正反対の明るく、優しく、朗らかな女性だ。

 赤いドレスがよく似合うロリーナは、男が白い花を髪に差し込むのを笑顔で受け入れる。

「ウィルフレッド様……」

 思わずもれた声は、幸いにして二人には届かなかったらしい。

 彼らは微笑みあい、幸せの絶頂にいる。

 だから、それを壊してはいけない。邪魔してはいけない。

 祝福しなければ。

 愛する姉が愛しあう人と結ばれるのだから。

 たとえその相手ウィルフレッドを、自身が愛していようとも。

 おめでとう、ロリーナ。

 そう言って笑うために、今だけは流れる涙に気付かない振りをした。

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