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玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
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ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
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玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
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玉座の憧憬 ロウェル×アレイストIF:小説・BL・R18・本編読了後推奨
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#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 13
「……はぁ」
ルベルトは小さく溜息をつきながら、寝室の扉を開けた。
部屋の中央に据え付けられたベッドの上で丸くなったまま、すよすよと眠るユリスの姿を見て安堵の息を漏らす。
「よかった。まだ寝てたか」
彼の傍に腰を下ろして、頬を撫でる。
発情期のはじまりから数日が経ち、ユリスも多少落ち着いてきたのか、よく眠るようになった。
そろそろ症状も治まってゆくのだろう。この数日で見せていた素直に可愛らしく甘えてくれる姿を、しばらく見れないのかと思うと、少し残念な気もしていた。
早く、ユリスを堂々と「私のオメガだ」と言いたい。
けれど、そのためにはするべきことが沢山あって、ユリス本人の説得もその一つだ。
今回の「旅行」は、その説得をじっくり二人きりでするためのものでもあった。
ユリスの発情期の間隔は、滅多に休みを取らない彼が決まって三、四ヶ月に一度数日間休暇を取ることを考えれば、予測は容易だった。
計画では、しっかりと話し合いをした後に、発情期に入る予定だったのだが、多少の誤差は付き物なので仕方がない。
理性を取り戻した後、何を言われるのか少しばかり怖くはあるが。
だが――。ルベルトは先程、城からやってきた使者の言葉を思い出して、また溜息をついた。
「ユリス、起きれるか?」
耳元で囁くと、ルベルトの残していったシャツに顔を埋めていたユリスが、ゆっくりと目蓋を押し上げた。
「……ルベルト、さま?」
舌っ足らずに呼ぶ声がかわいくて、もう少し寝かせておいてやりたくなる。
だが、そうできるのなら、そもそも起こしなどするはずもない。
「ユリス、悪いな」
「……? っ……」
寝ぼけ眼のユリスに苦笑しながら、持っていた小瓶の中身を口に含んで、彼に口移しで飲ませる。
こくん、と喉が鳴ったのを確認しながらも、ルベルトは唇を離し難くてキスを続ける。
とろけた表情で口付けを受け入れていたユリスだったが、次第に視点が定まって目を見開くと、ドンッとルベルトの胸を押した。
「っあ、な、なに……」
ユリスは急に明瞭になった思考の中で、口元を手で拭った。
一体、何を飲まされた?
急にはっきりした頭と、身体の奥に残っていた熱の引く感覚から察するに――
「よ、抑制剤……?」
ルベルトは困ったように笑って頷いた。
「ああ。一番弱い、発情期を軽くする薬だ」
「なんで、急に」
この数日のことを、ユリスはよく覚えていなかった。それでも、意識のある時間の殆どをルベルトと過ごしていたことは覚えている。
身体中にその痕が残っているのだから、発情期が見せた夢ということはないはずだ。
なのにどうして? やはり、オメガの相手など嫌になったのか――。
薬を摂取したとはいえ、まだ発情期の身体は感情の抑制が効きづらい。じわりと涙が浮かんで、慌ててそれを拭った。
「ユリス。実はついさっき、城から使者が来てな」
涙を拭った手をルベルトが包み込む。そして、腕を引かれてぎゅっと抱き締められ、目尻にキスをされる。
「使者……?」
「そう。急ぎ戻らねばならなくなった。だから薬を飲ませた。勝手をしてすまない……」
「そう…ですか……」
そういう理由なら納得だ。発情したままの身体で帰ることなどできない。
だが、一体どんな用件だと言うのだろう。
ルベルトのことだ、大抵の事態には対応できるように手を回していただろうに。なにせ、ユリスの受け持つ三週間分の仕事をユリス自身に気付かれぬまま、上手く回るように差配した男だ。それが、一週間程で切り上げて帰還せざるを得なくなった。
どことなく、嫌な予感がする。
「あの、どんな用件だったのですか」
聞きたくない、と本心では思っていたが、いずれ分かることだ。ユリスはおずおずと顔を上げてルベルトを見た。
ルベルトは、片手で顔を覆って溜息をつくと、言葉を選ぶように口を開いた。
「私の婚約者候補の件について、覚えているか?」
「……ええ。その……発情誘発剤の件で、一旦白紙に戻りました、よね」
ルベルトが頷いて同意する。
ユリスたちが番となってしまった契機でもある、発情誘発剤の事件以降、ルベルトと数人いた婚約者候補との定期面会は休止となっていた。
状況から考えて、ルベルトの婚約者選びが難航していることと無関係とは言い切れなかったからだ。
その結果、この「旅行」に赴く数日前、婚約者候補は全員一度候補から外され、改めて適齢期の女やオメガから再選定されることとなった。
「候補が決定したのですか?」
「いや、それはまだだ。ただ……、その候補に他国の人間が名乗りを上げてきた」
ユリスは目を見開く。
「ちょっと前、オメガの国王が誕生した、という話をしたよな? 覚えてるか?」
「は、はい。『オメガ保護法』の参考に、と法制度を調べた国ですよね」
「そう、その国だ。それで、その国の後継なんだが、元々は別のアルファだったんだ。だが彼は素行が悪く、問題を起こした末に廃嫡されて、今の国王が跡目を継いだそうだ」
ルベルトは眉間を揉んで続けた。
「その、問題を起こしたアルファの元婚約者が、今来ているらしい」
「つまり……」
「王妃教育を受けた、由緒正しき家柄のオメガ子息が、私の婚約者候補に名乗りを上げている」
きゅっと喉が詰まった気がした。
それは、今選定中の候補者達より余程適任なのではないだろうか。
ユリスは、何か言おうとして失敗する。
良いことじゃないか。自分は彼の番であり続けるつもりはない。ならば、別の妃を迎えるのは自然なことだ。
「……ルベルト様」
「『良かった』なんて言うなよ?」
先手を打つように、ルベルトが言った。
「でも」
「私たちの関係云々を置いておくとしても、だ。相手の思惑が読めない。なんでも、国に無断でこちらに来たらしいんだ。本人いわく、『廃嫡された王子の婚約者だったため国には居づらく、婚約者時代に培った能力を発揮させてくれる場所を求めて来た』とのことだが……。それがどこまで本当だか、こちらには確かめようがないんだぞ? 下手に受け入れれば、国の中枢に間者を招くことになる」
「それは……そうですが」
「あと、いい機会だから言っておくんだが」
「……?」
「私はお前以外と番になるつもりはない。一度交わした契約を無効にする気はないからな。それとも……お前は私を、発情期に苦しむ番を放置するような、責任感も何も持ち合わせない鬼畜にするつもりか?」
冗談交じりに問われて、ユリスは口を噤んだ。
責任、という言葉が重い。
彼はこれ以上ないほど、番となったユリスを尊重してくれている。あの日以降も、これまで通り仕事が出来ているのも、薬で封じ込めても奥から湧き上がる劣情を一人でやり過ごさずに済んだもの、彼のおかげだ。
でも、「責任」なんて言葉で縛り付けるのは嫌だった。彼にはもっと相応しい人がいるのだから。
「それでも、私は……」
ルベルトはそれ以上の言葉を言わせないようにするかのように、ユリスの頬にキスを落とした。
「本当はこの件について、ここでじっくり話し合いたかったんだ。私に譲る気はないが……、それはお前もだろう?」
「う……」
「でも今は戻らないと。相手の身分的に、雑に扱うこともできないし」
「……そうですね」
「けどな、ユリス。私の意思は固いぞ。それだけは覚えておいてくれ。私の妃になること、前向きに検討してくると嬉しい」
「っ……」
耳元で囁かれる優しい声に、頬が熱くなる。
このまま頷いて、受け入れられたらどんなに良かっただろう。
そんなことを思いながら、小さな声で「覚えておきます」と、呟いた。