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玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
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ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
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#玉座の憧憬_本編 3
ウィレミニアの王都を出発してから数日、セレンは山中を馬車で移動していた。
アキュイラまでの道のりは、旅慣れない侍女も含めた長旅となるため、一月近い余裕をもって行程を組んでいる。
王宮を出て日が浅い今は、まだ都の方が近い位置にいる。
馬車に揺られるセレンの対面には、自身の乳姉妹であり現在は侍女を務めているミイスがいた。彼女は気心の知れた相手で、何の気兼ねもない。
行程の長さには辟易するものの、穏やかな馬車旅となる――。そのはずだった。
だが、セレンはどこか落ち着かない心持ちのままだ。隣に立てかけていた剣を持って、柄に触れたり、どうしても言い知れぬ焦燥感が募る。
ミイスからは心配げな視線が向けられていることにも気付いていたが、どうしてもゆったりと構えることができないでいた。
本当に、このまま王都を去っても良いのだろうか――。
もう王宮を出てから幾日も経つというのに、そんな疑問は薄れるどころか日に日に強まっている。
アレイストには「アキュイラでやれる事がある」などと強がりを口にしたが、どんどんと迷いが出てきている。
任地への旅が進み、王都から遠い地で領主をするという現実が刻一刻と迫り、ますます焦りが湧く。
セレンは、この十年余りの期間を、母の最期の願いを叶えるべく生きてきた。
王になる。
セレンにあるのはそれだけだった。
それが今は、まるで負け犬のように都に背を向けている。
こんな姿を見た母上は、一体何と仰るだろうか――。
「ミイス……」
「はい、姫様」
にっこりと微笑んで応える彼女の栗色の瞳を見て、少しだけ気分が落ち着いた。
「母上は……、私にいつも……王になるよう仰っていただろう?」
「ええ。妃殿下は姫様にとてもご期待なさっていらっしゃいましたからね」
それがどうした、というようにミイスが首を傾げて、肩口で切りそろえられた瞳と同じ色の髪がさらりと揺れた。
セレンは言葉に詰まって、きゅっと唇を引き結んだ。
期待。そう、私は期待されていた。なのに。
セレンは、胸の内に渦巻く判然としない思いを、迷いながら口に出そうとする。
「母上は、今の私を――」
だが、それ以上が言葉になることはなかった。
「――きゃあっ!」
突然、大きな衝撃と共に、馬車が急停止する。ミイスの悲鳴にハッとして、セレンは座席から投げ出される彼女の身体を受け止める。
「何事だ!」
床に転がった剣を拾い上げながら、外に向かって声を上げる。
「賊です! 殿下は中に――」
御者の声が聞こえ、微かに剣劇の音もする。
「いや、私も出る!」
セレンは、ミイスに怪我がないかだけ確かめて、握り締めた剣と共に扉に手をかけた。
「いけません、姫様!」
背後からはミイスの制止しようとする声が聞こえたが、それは無視して外へと躍り出る。抜刀して、鞘を放る。
ザッと周囲に視線を走らせる。
状況は、思わしいものではなかった。
御者は腕を射抜かれ、周囲を固めていた護衛も、倍はいそうな敵と相対している。
その時、飛んできた矢をセレンは剣で叩き落し、チッと舌打ちした。
「射手までいるのか……」
これはかなりまずいかもしれない。
どうやって状況を打開すべきなのか考えながらも、襲いかかってきた刺客に応戦する。
振り下ろされた剣を受け流し、相手の足を斬る。
致命傷を与えられたわけではないが、どうっと地面に倒れたのを見て、セレンは男に背を向けて走り出そうとした。
あれはもう動けないだろう。ならば、それに構っているよりは、一人でも多く敵を倒さねば――。
そんな焦りがあったのだと思う。
走り出したセレンは、何か嫌なものを感じて思わず振り返った。
「っ――!」
そこには先程倒したはずの男がいて、振りかぶった剣身に光が反射する。
まずい……!!
セレンは己の判断の甘さを呪った。しっかり仕留めてから移動をするべきだったのだ。
だが、後悔してももう遅い。
気付くのが遅れたせいで、避けることも、剣で受けるのも間に合いそうになかったからだ。
わたしは、こんなところで……?
振り下ろされる剣が、妙に遅く感じた。
これが「走馬灯」というものなのだろうか。なんてことを思った時だった。
キンッ、と高い音がして、迫っていた凶刃が跳ね飛ばされる。
「あっ……」
どこからともなく飛んできたナイフに弾かれたのだと気付く。
そして次の瞬間には、セレンと刺客との間に、別の人影が割って入った。
その人物は腰に佩いていた長剣を抜くと、あっという間に刺客を倒してしまう。
そして、セレンの方に振り返る。
「敵に背を向けるなんて不用心だぞ、お嬢さん」
茶髪を項で雑に纏めた旅装の男は、そう言って緑色の印象的な目をニヤリと細めて笑った。