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玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
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#玉座の憧憬_本編 2
「――くそっ」
セレンは無意識に悪態をついて、テーブルに拳を叩きつけた。
アキュリア領主の地位を拝命してから数日。
すっかり物の無くなった自室で下命を受けた日のことを思い出し、いまだに冷めやらぬ怒りがふつふつと沸いていた。
「何故、私がアキュイラなどに……!」
明朝になれば、セレンはここウィレミニア王国の都を発ち任地に赴かなければならない。
国の辺境にあるアキュリアまでは、馬車で二週間程がかかる。おいそれと行き来の出来ぬ地だった。
そうまでして父上は私をここから追い出したいのだろうか――。
セレンはぎゅっと拳を握り締める。
玉座に座る父の隣に立っていた、異母弟の姿が思い出される。王との血縁を疑うべくもないほど、濃青の瞳も、その容貌もよく似た、どこか儚さのある姿が思い浮かぶ。
隣国の公女であった母親と同じ色の黒髪くらいしか、父と違っている場所がないのではないかと思えるほど、彼らはよく似ていた。
母にばかり似たセレンには、それが羨ましくて仕方がない。
父王の寵妃だった母シエラがこの世を去ったのは、セレンが九つの頃だった。
それまでのセレンは、まるで王の「唯一の子」であるかのように、遇され尊重される嫡子だった。
だが母が亡くなると、周囲の状況は一変した。
セレンは王太子位から引きずり降ろされ、そして、一つ年下の弟が公国から召喚されると、彼がその代わりとなった。
正妃である隣国の公女は、アレイストを孕むと同時に故国へ宿下がりしたきりだった。自分の他に寵妃がいるという状況に耐えられなかったのだと聞いている。
彼女は今も公国にいるが、たとえこの場におらずとも、「公女」という肩書きは絶大だった。
正妃を、それもより強い後ろ盾を持つ王子が、次期国王としてセレンよりも注目されるのは自明だ。
それでも、セレンは特に玉瑕があって廃太子の憂き目に遭ったわけではない。能力も目に見えて劣るわけでもなく、中には長子であるセレンのままでも良かったのでは、という声もあった。
つまり現状として、セレンティーネという王女の立ち位置は、非常に繊細な問題を孕んでいた。
その問題を払拭し、アレイスト即位の邪魔になりかねないセレンを排除する。
そういう点では、セレンのアキュイラ赴任はこの上ない手だ。
彼の地は国境に接している。そのため、王の信任深い者にしか任せることはできない土地だ。しかしその隣国とは長らく友好関係にあるため、有事が起こるとは考えづらく、まさにセレンを飼い殺すのに相応しい立地だった。
このまま、王都から遠い地で自身の存在など忘れ去られていってしまうのではないか――。
そんな恐ろしさが胸に湧き起こる。
だが、そうなってしまえば母が死の間際まで望んだことを叶えられなくなってしまう。
――お前は王になるのよ、セレンティーネ。
彼女が死して十年以上の月日が流れた今も、その声は消えることがない。
このままでは、母の願いを叶えられない。
「…………ならば、いっそ」
セレンの思考がドス黒いものに沈んでいこうとした時だった。
「姉上」
控えめな叩扉の音と共に、青年の声が聞こえてハッとする。
――私は今、何を。
セレンは真っ青になって、口元を押さえた。
今、私は無理やりにでも王位を奪い取ってしまおうか、と思わなかったか。たとえ、どんな手を使ってでも。
浮かびかけた恐ろしい考えを振り払うように頭を振る。
そうしていると、返答がないことを訝しんだのか、もう一度「姉上?」と声が聞こえた。
自身のことをそんな風に呼ぶのは一人しかいない。
「アレイストか……?」
セレンは戸惑いながらも、異母弟の名を呼んだ。
「はい。今、お時間はよろしいでしょうか?」
何の用だろう。セレンは不思議に思いながらも、入室の許可を出す。
自分たちは取り立てて仲の良い姉弟ではない。いがみ合っている――とも言わないが、互いに難しい立場であり、どことなく交流を避けてきていた。
もちろん、顔を合わす機会はあるし、言葉を交わしたこともある。だが、個人的なやり取りは殆どなかったのだ。
そんな彼がわざわざ訪ねてきた。
訝しまずにはいられない状況だった。
「失礼いたします」
扉を開け、柔和な笑みと共に現れた彼は、左足を軽く引きずりながら杖をついて入室してくる。
その姿にハッとして、セレンは慌てて扉を押さえてやった。
「どうしたんだ? 何か用があったのなら、呼んでくれれば……」
彼は幼少期――、まだ公国で母と暮らしていた頃、何か事故に遭ったのだそうだ。それによって左足に麻痺が残っている。
そんな弟を歩かせたのが申し訳なくなり、セレンがそう言うと、アレイストは目を丸くして首を振る。
「まさか。姉上を呼びつけるなんて出来ませんよ」
それから、殺風景になった部屋を見渡して、苦笑を浮かべた。
「それに、ご出立前でお忙しいでしょう。最後の挨拶に、とは思いましたが、それでお手を煩わせるわけには」
「…………そう、だな」
苦笑を浮かべると、途端に沈黙が落ちた。それを破ったのはアレイストの意外な問いだった。
「姉上、下命を断ろうとは思わなかったのですか?」
「それは……」
こちらの様子を探るような、何とも言えない視線を向けてくる彼の目に、少し不満のようなものが感じられる。
だが、セレンは不思議だった。
どうして、そんなことを言うのだろう。
彼の立場を考えれば、セレンがいなくなることは歓迎しこそすれ、不満を覚える理由はない。
清々する――。そう言われる方が納得できるくらいだ。
「……王命に逆らうことなんて、出来るはずがないだろう? それに、あちらでやれる事もあるはずだ」
返答を迷った末に口にした言葉は、多少は強がってみせた側面もある。だが、自分で言ってみて気付いた。
そうだ。アキュイラを立派に治められれば、いずれ父上もその手腕を認めてくださるかもしれない。
言い聞かせるような気持ちが、ないわけではなった。
それでも、これから向かう新たな地で出来ること、すべきことが、必ずあるはずだと考える方が、よほど現実的に思えた。
「アレイスト。私がいない間も、陛下をしっかりお支えしてくれ」
立ち竦む彼の肩を叩く。しかし、何故か返答がなかった。それを不思議に思い、セレンは俯きがちのアレイストの顔を覗き込んだ。
「っ……?」
彼と目が合って思わず息を飲む。
一瞬――ほんの一瞬だけ、酷く冷たい視線に射抜かれような気がした。
「アレイスト……?」
しかし顔をあげた彼の顔は、特に普段と変わって見えない。
見間違いか――?
「お任せ下さい、姉上」
そう言ってアレイストは微笑んだが、セレンはどこか冷たいものを感じずにはいられなかった。