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漫画(字コンテ)・BL・R18
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 12


「っ、ふ……」
 ルベルトの手がユリスの全身を撫でる。
 心地よい温度の湯に浸かったまま、後ろから抱き竦められて、肩口を食まれ、指は胸の尖りを弄る。
 ユリスの細い腰をすべった指先は、腹筋を辿り、更にその下へ。
「あっ! ル、ルベルト様、そこは……!」
 ユリスの勃ち上がった屹立を、しなやかな指がつっとなぞった。
「この前は、こちらを可愛がってやれなかったからな」
 そう言いながら、ルベルトの舌はユリスの項を辿る。
「ひ……っ」
 番持ちの証であるその跡に触れられると、異様に感じてしまう。もう傷口自体は塞がっているのに、あの時の甘やかな痛みを思い出して、身体が期待に疼く。
 そうしている間にも、ルベルトの手はユリスの陰茎をなぞり、浅ましくもそれに喜んでいるのが、水面越しにも見えた。
「あっ、ん……、っう――」
 漏れ出る喘ぎを抑えようと口を閉じたいのに、ルベルトはそれを許そうとしないかのように手の動きを早めた。
「や……、ルベルトさまぁ!」
「お前の感じてる声、もっと聞きたい。駄目か……?」
「――っ!!」
 ずるい。そんなことを言うなんて。
 叶えてあげたくなってしまう……。
「――、ぁ、んっ……! んあっ、ああっ……!」
 声を我慢することをやめれば、いっそう快感が強くなった気がした。
 背中にルベルトの体温を感じながら喉を反らせば、上からキスが降ってきた。
「んっ、んぅぁ……ふ……ぅ……」
 舌を吸われ、頭がぼぅっとする。
 無意識に快感から逃げようとする腰を、ルベルトの手が抑え込む。腹に添えられるその手に、ユリスはいっそう、身体の奥が痺れるのを感じた。
「あっ、あぁん……っ、あ、ああぁ……」
 後ろにも欲しい。熱い、大きいので中を満たして、めちゃくちゃに揺さぶられたい。
 後孔に擦り付けるように腰を揺らすと、ルベルトのそれを熱く昂っているのを感じた。
「っ、は――」
 ユリスは息を吸って、ルベルトを見上げた。
「いれて……」
 ルベルトが目を見開いて、こちらを見た。
「も、いれて、ルベルトさま……」
「そんなかわいい顔でおねだりされたら、叶えてあげる他ないな……」
 苦笑したルベルトは一度手を止めると、ユリスを風呂の縁に手をつかせて、腰を高く上げさせた。
「あっ、は、恥ずかし……」
 全身にルベルトの視線を感じて、自分はなんてことを言ったのかと、一瞬我に返る。
「そんなことない。綺麗だ」
「っ……」
 囁かれる睦言に体温が上昇する。崩れ落ちそうになる身体をルベルトが後ろから片手で支えられた。
 そして、彼のもう一方の手が後孔の縁をなぞる。
「あっ……!」
 すりすりと周囲をくすぐっていた指は、すぐに中へと侵入してくる。
「っ、ふ……っ」
 びくんと背中が跳ねる。たった一度の情交で、ユリスの弱点を正確に見抜いた指は、そこばかり執拗に攻め立ててくる。
「あ、ああんっ、あっ、あ……!」
 女のように濡れる後ろは、じゅぷじゅぷといやらしい音を立てながら、ルベルトの指を飲み込んでいる。
 風呂の縁に必死でしがみつきながら、ユリスは背後を仰ぎ見た。
「もう、いれて……! はやくぅ……っ」
「ユリ――」
「やさしくなんて、しないで……!!」
 そう叫ぶと共に、涙が零れ落ちた。
「――……ユリス、こっちを向いて」
 後孔から指が抜けて、腕を引っ張られる。そして、壁に押さえつけられるように抱きかかえられると、ぽっかりと空いていたところに、ルベルトが挿入ってきた。
「あっ!! あああぁぁっ!!」
 強烈な快感に、目の前には星が飛んだ。回したルベルトの背中に爪を立てて、必死に彼にしがみつく。
「あっ、ああんっ! ひぅ、ぁん……っ」
 腰を掴まれて、奥を何度も強く貫かれる。その度に、軽く達しては、前からは白濁が溢れ落ちていた。足先が床につかない。ルベルトの身体へ完全に体重を預けて、ユリスはただ喘ぐ。
 気持ちよくて、嬉しくて、愛おしくて――。堪え難いほど、哀しかった。
 こんな、まるで本当に「愛されている」かのように、強く抱き締めないで。
 愛しい人の肌の熱さを、力強い腕を、内側から満たされる欲を知ってしまって、俺はもう戻れなくなってしまうから。
「る……るべると、さま……っ」
 ばちゅんと肌がぶつかる音がする。
「……ユリス、好きだよ」
「っ!? ぁ、あっ――!!」
 ユリスはぎゅうっとルベルトに抱きついて、達してしまった。中もきつく締まって、彼の形を強く意識する。
 今、この人は俺のものだ。……でも。
 閨での戯れを本気の言葉なのだと、無邪気に思えれば良かったのに。
「……でんかも、イって」
 そっと囁くと、一瞬ルベルトが息を飲んだ気がした。
 そして、先ほどより些か乱暴な抽挿が再開される。
「っ、う……!」
 そして、中に熱い精が吐き出されるまで、彼は一言も言葉を発することはなかった。

2026/02/01 14:34:51

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 11


 そんなこんなで馬車旅が続き、二人は滞在先の離宮に辿り着いた。
 ユリスにとっては初めて訪れる場所だが、ルベルトには幼少期に何度か訪れたことのある馴染みの場所らしい。
 その離宮は、使用人の数も最低限で、更に離れのような宮まである。そちらは常駐の使用人すらいないらしく、二人の関係を徹底的に隠すつもりであることには、安堵した。
 荷物を運び入れ、作業をしていた使用人たちも出て行くと、本当に二人きりになってしまった。
 本館と繋がるのは一本の廊下のみで、そこの出入り口まで食事が運ばれるそうだが、それ以上に人が入ってくることは基本的にないという。
 かつて、身分の低い愛妾を持った王が、彼女と二人で過ごすために作られた決まりらしい。
 少々出来過ぎでは、と思うほどユリスにとって都合がよかった。
 夕食を終え、部屋でちびちびと茶を飲んでいると、後ろに気配を感じた。しかし、振り返るより早く、ぎゅっと肩に腕が回される。
「でんっ……」
「ルベルト」
 名前で呼べ、と暗に言われ、ユリスは仕方なく言い直す。
「……ルベルト様」
「ん」
 嬉しそうに頷いた彼は、ユリスの顎に手を添えて、後ろを向かせると、唇を寄せてくる。
「あっ……」
「拒まないでくれ」
 懇願するような声に、きゅうっと胎が疼いた気がした。
 そして、そのまま抗い切れずにキスをする。
 ちゅっ、ちゅと啄むように口付けられ、肌を舌がなぞった。
「ぁ……」
 吐息の合間に、舌が侵入する。
 だめだ、と頭の片隅では思ったが、それ以上の抵抗ができない。
 甘くて、脳が痺れる。身体の奥が、この男を求めていた。
 じわりと後ろが濡れて、身体の力が抜ける。
 心臓がどくりと大きな音を立てて、肌がざわめいた。
 これは――
「っ、ルベルト、様……、おれ……」
「ん?」
 ユリスは、彼の服をぎゅっと掴んで、ぽつりと言った。
「発情期、きちゃった……」
 抑制剤を飲まなければ。
 ああ、でも……、「俺のアルファ」が目の前にいるのに。
 うるんだ目で見上げると、ルベルトが微かに唸った。
「ユリス」
 自分の名前が、信じられないほど甘く聞こえた。
 いつもはもっと緩やかに熱が高まってゆくのに。これは、抑制剤を飲んでいないせいなのか、それとも番が目の前にいるからなのか。
「抱いて、いいか」
「…………っ」
 ユリスは小さく頷いた。
 その誘うような声に、欲を漲らせる目に、抗う術など持っているはずもなかったのだ。
「おいで」
 ルベルトの声に誘われるまま、ふらつく足で立ち上がれば、すぐにルベルトに抱え上げられた。
 そう身長も変わらないはずなのに、軽々と抱き上げられて羞恥に顔が赤らむ。
「あっ、ま……まって、くださ――」
「もう待たない」
 首筋にキスをされて、息を飲む。
 触れた場所が熱い。服越しに感じる体温ももどかしい。
 早く素肌でこの男を感じたい。
 でも、もう一度肌を重ねてしまえば、自分は――。
 葛藤する内心と裏腹に、ユリスはぎゅっとルベルトの首に腕を回す。
 ぴったりと抱きつけば、ルベルトが嬉しそうに笑みを漏らした。
「ルベルトさま……」
「まずは、風呂に入ろうか」
 欲の孕んだ囁きに、ユリスは何も答えることができなかった。

2026/02/01 14:33:38

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 10


 ルベルトの言った「旅行」というのは、なんのことはない。ただの視察で、ユリスにも彼の側近として付いて来てほしい、というだけの話――だと、聞かされていた。
 それが――
「俺と貴方だけっで、どういうことですか……!?」
 蓋を開けてみると、その「視察」というのは三日ではなく三週間。その上、行き帰りに帯同する護衛を除けば、殆ど二人きりで過ごす予定らしい。
「いやぁ、お前にバレないかとひやひやした甲斐があったな!」
 悪びれもせず笑うルベルトに、怒りが湧く。
「それに、三週間なんて聞いてません! そんな長期だなんて……」
 三日なら、と思ってい彼に付き添うことを了承したが、三週間となると、確実に発情期と重なってしまう。だが、そのことをはっきり言うことが躊躇われて口籠ると、ルベルトがぐっと近付いて、耳元で囁く。
「発情期に入ることを気にしてるんだろう?」
「……っ」
「だから、三週間にしたんだ。それに、『三日」とでも言っておかないと、お前は了承してくれなかったろ?」
「あっ、貴方という人は……! お――私は、貴方の番にはならない、と言って……」
「だが今は、私の番だ。違うか?」
「っ――」
 ユリスは上がりそうになる体温を無視しながら、どうにか今からでも引き返せやしないかと、頭を巡らせる。
「ですがっ、公式には違うでしょう! 男二人……アルファの男二人きりで三週間も過ごすなんて、どう思われるか!」
「ああ、そこは抜かりないぞ。『突然、発情誘発剤なんてものをかけられて傷心の王太子殿下は、暫く女もオメガもいないところで過ごしたい。ゆえに、最も心を許している側近のみ連れて、しばらく王都をお離れになった』――という噂が広まってる頃だから」
「っ!? ~~こ、このっ、腹黒――っ!!」
「褒めてくれてありがとう」
「褒めてない!!」
 いっそう近付いてくるルベルトの胸を押し返そうとするが、抵抗も空しく、ユリスは彼に手を取られて、優しく指にキスをされた。
「誰が何と言おうと、お前は私の大事な番だよ」
「っ――」
 嬉しい。嬉しくて堪らないその言葉が、自身をそれほど傷付ける言葉になるなんて、ユリスははじめて思い知ったのだった。

2026/02/01 14:31:28

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 9


 ルベルトと番になってから、一週間余り。
 ユリスの身の回りは、奇妙なほど落ち着いていた。
「――ほら。この間、殿下が薬を……」
「おいたわしいこと……」
 もちろん、王太子が発情誘発剤をかけられたことは大問題になっており、ユリスにも彼を憐れむ人々の声が届いている。
 だが、そんな噂話に興じる彼らも……、
「あら、ローエンベルク卿」
 声をかけられたユリスは、足を止めて振り返った。たしか彼女は、ルベルトの婚約者候補の母だったはず、と思い返しながら笑みを浮かべる。
「お久し振りでございます、夫人」
 いかがなさいましたか、と視線で問うと、彼女は頬に手を当てて、小首を傾げた。
「いえね。殿下のご状況が分からない、と娘が酷く心配しているものだから。殿下はご息災でいらっしゃるのかしら?」
「ええ。お身体の方はご健康そのものです。ただ、今回の事件は婚約者候補様との面通りの前に起きましたので……。次はご令嬢方に危害が加えられるのでは、とご心配なさっておいでなのです」
 だから、面会が叶わないのだと伝えると、彼女は痛く感激した様子で、うんうんと何度も頷いた。
「まぁ、そうでしたのね……。そういうことなら。ローエンベルク卿も、くれぐれも殿下をよくお支え下さいましね」
 それでは、と去っていく女を、ユリスは一礼して見送った後、再び歩き出す。
 ――このように、ユリスがオメガであることも、ルベルトの番になってしまったことも、周囲には知られぬまま、日々が過ぎている。
 ルベルトも……言っては何だが不気味に沈黙したままで、本当に何事もなかったかのようだった。
(とはいえ。そろそろ、だろうな……)
 ルベルトとも短くない付き合いだ。彼がそろそろ何かしらの行動を仕掛けてくる頃合いだと、ユリスは推測していた。
 その上、「そろそろ」と言うならば、もう一つ。
(後……、一ヶ月もしない内に、発情期が来る。どうやったら殿下を躱せるだろう……)
 ぐるぐると思考を巡らせている内に、ユリスはルベルトの執務室へと辿り着いた。
「失礼いたしま――」
「ユリス、来たか!」
 挨拶も言い終わらない内に、ルベルトの声が響いて、ユリスは目を丸くする。
 部屋に入ると、彼は満面の笑みを浮かべながら、つかつかとこちらに歩いてきて、こう言った。
「旅行に行こう、ユリス!」
「……はあ?」

2026/02/01 14:30:03

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 8


 幸い、アルファの発情に誘発されただけのそれは、一晩経つとすっかりなくなっていた。
 だが――、いや、だからこそというべきか、発情の熱でうやむやになっていた、身体の痛みを自覚してしまう。初めて男を受け入れた後ろの違和感。それから、項のひりつくような痛みだ。
「……おはようございます」
 ルベルトと顔を合わせたくない。
 彼と出逢ってから、はじめてそんなことを思ったが、発情が収まった以上、出仕しないわけにもいかない。先延ばしにすればするだけ、一層行きたくないと思ってしまうのは目にみえていたからだ。
「ユリス!」
 ルベルトの執務室に入ると、彼が立ち上がって早足で駆け寄ってきた。
「よかった。その……、身体はなんともないか?」
「……はい」
 彼の視線を避けるように俯いて、自分の机へ向かおうとする。だが、ルベルトはそれを阻むように前へ立ち塞がってくる。
「ユリス、こっちを向いてくれ。私は……」
「っ!」
 頬に手を伸ばされて、ユリスは思わずそれを払いのけた。
 パシッと音が二人きりの部屋に、妙に大きく響いた気がする。
 ユリスは驚いて目を見開くルベルトを見ていられずに、また視線を逸らした。
「昨日、言いましたよね。私は『アルファの男』。貴方の番になる気はない、と」
「ユリス……、だが」
「昨日のことは事故です。……お互い、正気じゃなかった。違いますか」
「――しかし、私は、お前に……っ」
「責任を感じているなら、……もう、放っておいてください」
「っ……」
 ユリスは今度こそルベルトの隣をすり抜けて、席についた。ルベルトも仕方なさげではあったが、椅子に戻っていく。
(……でも、いつまでこれで躱せるだろうか)
 番間の妊娠率は非常に高い。中に何度も……、溢れるほどに出されたのも覚えている。通常なら、既に妊娠していても不思議はないくらいなのだ。
 ルベルトも、それは当然知っているはずだし、子がいると考えている可能性も高い。
 妊娠がはっきりするであろう数ヶ月以内には、再度何かしら話があるはずだ。それは避けられない。
(ああ、でもその前に()()がある)
 ユリスは軽く頭痛を覚えて、眉間を揉んだ。
 それを心配げに見つめるルベルトの視線には気付かない振りをしながら、仕事に意識を向ける。
 彼と、ただのアルファとオメガとして出逢えていたなら――。
 そんなありもしない、想像をしながら。

2026/02/01 14:29:11

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 7


 ――お父様とはお会いになられない方が良いでしょうね。
 ユリスは屋敷の離れに移動した後、ベッドに寝転がって目を閉じながら、先程の妹と交わした会話を思い返していた。
 何故父に会わない方が良いのか。それは、分かる。
 彼女と同じようにアルファの父も、ユリスの変化に気付くはずだからだ。そして、その「相手」を特定するのも容易だろう。
 母について言及されなかったのは、彼女がユリスを視界にも入れたくないとばかりに避けていることを、アンジェリアも承知しているからだ。
 だが、そんなこと可能なのだろうか。
 殆ど顔を合わせることのない父とはいえ、仕事上で接する機会はある。
(……相談できる相手がいない。それこそ、ルベルト様くらいしか――)
 だが、ユリスはぷるぷると首を横に振った。
「駄目だ。殿下にだけは頼れない」
 もし相談などすれば、自分がオメガとして欠陥品であることも知られてしまう。
 それは、嫌だ……。
 また、眦に涙が浮かんで、それが零れてしまう前に腕で目を覆った。
 オメガの自分をずっと否定してきたのに、本当の意味で彼と番になれたらと思っている自分に気付く。
「なんて、浅ましいんだ」
 ユリスはきつく唇を噛んで、どうにか涙を堪えると、疼きはじめた下肢に気付かない振りをして、布団を頭からかぶって目を閉じた。

2026/02/01 14:27:41

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 6


 ユリスは暗い気分のまま、馬車を降りた。
 これから何日続くか分からない発情を一人で乗り越えなければいけない。薬で収まっている今のうちに、できる準備をしておかねば。
 だが、こういう時に限って間の悪いもので、玄関扉を開けたユリスは、そのまま固まってしまった。
「……アンジェリア」
 名前を呼ばれた彼女――六つ年下の妹アンジェリアは、微かに眉をひそめた。
「随分とお早いお帰りですのね、お兄様」
「うん……。その、体調が…悪くなって。帰らせてもらった」
「そうですの」
 ユリスは深く追及される前に、彼女の横を通り過ぎようとした。しかし――
「お待ちなさいませ」
 振り返ると、彼女はしかめっ面をしながら、ユリスに近付いてくる。
「な、なに……」
「じっとなさい」
 アンジェリアは、すんとユリスの首元で鼻をならす。そして、ますます眉間に皺を寄せた。
「お兄様……、どこの馬の骨と番って参りましたの」
「!」
 ハッとして一歩後ずさるが、何も答えられなかった。
 そうだ。彼女はアルファ。血縁者は血が近ければ近いほど発情の誘発を受けることはないが、当然、ユリスの発するフェロモンの違いには気付く。
「お兄様」
「それは、その……」
 はくはくと口を開閉させるが、何も言葉が出てこない。
 アンジェリアは目を眇めて、ユリスの様子を探るように見つめると、小さく溜息をついた。
「まあ、いいです。答えたくなければ。興味もありませんし。ですが――」
 彼女は一呼吸おいて、じっとユリスを見上げながら言った。
「お父様とはお会いになられない方が良いでしょうね。何故かは、分かりますわね」
「……うん」
「なら結構」
 それだけ言うと、アンジェリアは身を翻して去って行った。
 ユリスはその背中をただ見送るしかできなかった。

2026/02/01 14:26:45

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 5


 ユリスが意識を失ったのは、そう長い時間ではなかった。
 目が覚めると、身体が清められ、おざなりにシャツとズボンだけ着せられた状態で、ソファに寝かされていた。ルベルトはというと、互いの精液やユリスの愛液で汚れた床を拭いているところだった。
 重だるい身体を引きずるように身を起こすと、ソファの軋む音に気付いたのか、ルベルトが顔を上げた。
「っ、ユリス。身体は大丈夫か?」
「……ええ」
 恥ずかしさといたたまれなさで、彼の顔が見られない。
 本当はまだまだ身体は痛いし、誘発された発情で、身体の芯がじくじくと甘く疼いている。
 だが、それをこの男に告げる気はなかった。
「申し訳ありませんが、今日はもう帰ってもよろしいでしょうか。後、しばらく出仕できないかもしれません」
「え、どうして……」
「……まだ、発情が続いてるので」
 呆然としているルベルトを避けるように、ふらつく身体で立ち上がる。
(緊急用の抑制剤を飲めば、帰るまでくらいは……)
 だが、それを阻むようにルベルトがユリスの手首を掴んだ。
「待て。それなら帰すわけにはいかないだろ」
「…………何故」
 肌に触れるルベルトの指を、身体が喜んでいるのが分かる。だが、ユリスはそれを無視してルベルトを睨んだ。
「な、何故って……。私に『番』の発情を放置しろと?」
 番、という言葉に、子宮が疼いた気がした。
 だが同時に、それがユリスに冷静さを戻してくれる。
 俺は、この人の番にはなれない。
 だからこそ、ユリスはルベルトを馬鹿にするように、冷笑を浮かべた。
「ハッ、『番』? だからなんですか。私は『アルファの男』です。貴方だって、つい先刻までそう信じていたでしょう」
「それは――」
「『アルファの男』は、貴方の番になんかなれません」
 ユリスはルベルトの手を振り払うと、自身の机の引き出しから、液体の入った小瓶を取り出して呷る。
「ユリス、何を……!」
「抑制剤ですよ。なんですか、ここからの道中、ありとあらゆる人間を誘ってまわれとでも?」
「っ――」
 即効性の抑制剤は、身体の熱を多少和らげてくれた。
「……これは事故ですよ、殿下。幸い、時間が経てば番契約は自然消滅しますし、妃がオメガでも問題ないでしょう」
「自然消滅、って……。発情期を三、四回、私無しで乗り切る必要があるのにか……」
「今までだって、独りでしたから。……では、失礼します」
「あっ、ユリス!」
 自身を呼ぶ声を無視して、扉を閉めると、ふらつく身体を叱咤して早足で帰路を辿る。
 普段の帰宅時間よりかなり早いせいか、毎日ユリスを送り迎えしている御者は驚いた顔をしたが、まだ顔が赤らんでいるからなのか、「体調が悪い」と言えばそれ以上に追及してくることもなかった。
 馬車に乗り込み、ユリスはようやくほっと息をつく。
 気が抜けたからなのか、じわりと涙が浮かんで、それを袖で拭った。
「『番』、に……、なってしまった……」
 項を指で辿ると、噛み跡がちりちりと痛んで、その存在を主張してくる。
 ずっと、心のどこかで臨んでいたことだった。
 だが実際、「その時」が訪れてしまった今は、ただただ恐ろしかった。
 これまでの日常が変わってしまう。
 ルベルトは――、「これまで通り」でいてくれるのだろうか。
 自分だって、何も変わらないでいられるはずはない。
 番を得たオメガは、肉体――主にフェロモンに変化が起こる。
 ……きっと、隠し通せはしない。
 ユリスはぎゅっと目を瞑って瞑目した。
「――ああ、そうか。『人を誘って回る』なんて、できないのか」
 番持ちのオメガが発するフェロモンは、番のアルファにしか効かなくなるのだから。
 それでも、ユリスは「このまま」でいたかった。
 変化が怖い。どうせ、「王太子の番」としては不適格なのに。
 関係を続ければいずれ分かることだ。
 そうなった時――、捨てられた時、自分はどう生きていけばいい。
 愛した人も、その隣にいたくて掴んだ立場も、全て消えてなくなった後、どうやって。

2025/09/09 00:00:00

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 4


「あっ、あっ! やあっ……!」
 痛い、痛い、いたい――。
 強く噛まれた項も、初めて開かれた身体も。
 だが、肉体は愛しい男の熱を浅ましくも締め付けて、全身で喜んでいる。
「ユリス……」
 項を擽る吐息に身体が震える。
「も、やだ、ルベルトさま……! ひうっ!」
 噛み跡を舌が這い、それ以上の拒絶を塞ぐように唇を奪われる。
「んっ! んんぅ……、ぁぅ…………」
 気持ちいい、嬉しい、もっと。
 そんな心の声に従順な身体は、ますます熱く、甘くとけていってしまう。
「ユリス、きもちいい?」
「あ……」
 頷きかけて、一欠片だけ残った理性で首を振った。
「……はは、うそつきだな」
「あっ!!」
 ぐんっと奥を突かれて、ユリスの陰茎から蜜が滴り落ちる。
 足ががくがくと震えて、身体を支えていられない。ルベルトがそれを支えて、もう一度キスをしながら、一度屹立を抜いた。
「っん……」
 やだ、抜かないで。
 唇を塞がれていなければ、そう口走ってしまっていただろう。
 だが、ぽっかりと開いた寂しさに、理性が負けてしまう前に、ルベルトがユリスを仰向けに寝かせて、足を開かせる。
「……そう、物欲しそうな顔をしないでくれ」
「っ!?」
 そんな顔してないと反論する前に、後孔に屹立が添えられて――、
「あっ、あぁ……!!」
 また、内部に侵入される。
 欠乏が埋められて、声を抑えられない。ルベルトも限界が近いのか、淫らな水音をさせながら夢中で腰を振っていた。
「あっ、んん、あ、ルベルトさま……」
 名前を呼べば、ぎゅっときつく抱きしめられて、中で彼が果てたのが分かった。
「っ、んんっ……!」
 自身も間を置かずに達してしまう。
「ユリス……」
 深い絶頂に、意識がふわふわとして、次第に沈んでゆく。
「やっと……、手に入れた…………」
 囁かれた言葉の真意を尋ねる間もなく、ユリスは意識を手放した。

2025/08/28 00:00:00

#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)
#愛する貴方と「番」を解消する方法(仮題)_字コンテ 3


 ユリスは、この国で歴代宰相を務める家系の嫡子として産まれた。
 祖母が降嫁した王女である貴き名家出身の母と、権力欲が些か強く人を駒としてしか見ていないものの有能な父。
 貴族家としてはありがちな、アルファ同士の夫婦だった。
 貴族――特に、王族に近ければ近いほど、アルファ性の子供が産まれる確率は高い。ユリスの家系も産まれる子供の殆どがアルファであり、ベータすら長らく傍系にしか産まれていないほどだった。
 だが――。
 産まれたユリスの性別を確認した母は、真っ青になって卒倒したという。
 ユリスは――、オメガだった。
 オメガの社会進出が進むと共に、表面上オメガへの差別は撤廃された。
 だが、人々の根底にはまだまだ差別意識は残り続けている。
 おそらく、「嫡子」でなければ、今のユリスはいなかった。
 貴族家に産まれたオメガの行く末は、通常大きく二つだ。
 汚点として「死産」させられるか、もう一つ。
 他家へ嫁がせる道具として、ある意味では大切に養育されるか、だ。
 オメガはアルファの妊娠率が高いと言われている。そのため、アルファがほしい家の嫁として一定の需要があるからだ。
 だが、そういった背景があっても、ユリスがもし第二子以降の生まれであったならば、生かされてはいなかっただろう。
 ユリスは両親にとって、結婚五年目にしてようやくできた「待望の子供」だったからだ。
 今後、「もう一人」ができる保証はどこにもなかった。
 そのためユリスは自身の性別を秘匿されたまま、「嫡子」として育てられた。
 そもそも子の三性を無闇に明かすことはない。高位貴族の出身というだけで、アルファだと見なされる。そうでなかったとしてもベータ――。ましてや、項保護の首輪を付けていないユリスが、「オメガ」だなどと勘繰られるようなことはなかった。
 とはいえ、父はおそらく代わりの子供ができれば、すぐにでもユリスを「処分」する心積もりだったはずだ。
 そうならなかったのは――、
 ユリスは物思いから浮上して、執務机のかじりつくルベルトを視線だけで見つめた。
 五歳になった頃に参加させられた、王太子殿下と同世代の子供たちが交流を持つ園遊会で、ユリスが彼の「お気に入り」になったからだった。
 二つ年上の彼は、ユリスが参加した会ではユリスの傍を決して離れず、まるで全てのものから守ろうとでもするかのように、傍に居続けた。
 そうでなければ、その少し後に妊娠が発覚した妹が産まれると共に、ユリスの扱いは百八十度変わっていたはずだ。
「さて、ユリス。少し出てくる」
「――お見合い、でしたか」
「そ。母上も結婚結婚うるさくて」
「……王妃殿下もご心配なさっているのでしょう。二十五にもなって婚約者も決まってないのは」
「候補ならいるから! 今日もその内の一人と会うんだし……」
「所詮『候補』でしょうに」
「ぬぐっ」
 彼は王族として、血を残す義務がある。最悪の場合は傍系を養子に取るという手もあるにはあるが、頑健で優秀なアルファの王太子がいるのだから、わざわざ面倒な手続きを踏む必要などあるはずもない。
「……何故、結婚なさらないんです」
「それはそのー、あれだ。『婚約者に逃げられた胸の傷が――』」
 彼が幼少期に結んでいた婚約の相手のことだ。そのオメガ女性は自身の家に仕えていたベータ男性と駆け落ち同然に家を出たらしい。ルベルトは「愛する婚約者がその方が幸せなら」と身を引いた――ことになっている。
 心優しき王太子殿下の逸話の一つになっているが、実際は違う。
「俺に建前が通じるとでも?」
 胡乱な目で問い返すと、ルベルトはぺろっと舌を出して、肩を竦めた。
「やっぱ、見逃してくんない?」
 彼は別に婚約者を「愛して」などいなかった。もちろん、人としての好意はあったようだし、あのまま結婚していたとて、特段不仲な夫婦になったわけではないだろう。
 だが、ルベルトは「愛していた」ことにする方が、都合が良いと判断した。
 愛する人を涙ながらに手放す王子。
 相手の女側へも、「王子が許している」以上、不必要な程の糾弾は起こらない。
 優しい人だ、と思う。
 だが、その後何年にも渡ってそれを理由に、結婚から逃げ回っているのを見るに、それすら計算だったのではと思う時があった。
「――言いたくないなら、別に無理には聞きませんが」
「あ、そんな深刻な理由じゃないさ。ただ……諦めきれなくて」
「? 何を?」
「えっ!? あー? その、リリアーヌ(元婚約者)みたいに、『真に愛する人』と結ばれたいな~、なんて! そ、それよりそろそろ遅れるから、行ってくる!!」
「あ……」
 はぐらかされた。
 直感的にそう思った。
「……彼が、誰とどうなろうが、関係ないだろ」
 自分に言い聞かせるように呟く。
 今の自分は「アルファ」だ。
 それに、抑制剤を常用し、フェロモンの発生を抑え、「オメガとしての自分」を殺し続けてきた今、今更「オメガとしての役割」を果たせるのかどうかさえ分からない。
 強い抑制剤は当然人体に影響を及ぼす。
 それを幼少期から服用してきたユリスは、おそらく――。
 そっと、ユリスは肚のあたりに手を置いた。
「いや、分かっていたことじゃないか……」
 長い間共にいて、ルベルトを好きにならずにいられるはずがなかった。
 魅力的なアルファに、オメガの本能が惹きつけられているだけ。そう思おうとしても、無理だった。
 何より、自分たちの関係は「アルファ同士の友人」以上のものにはなれない。
 彼がいずれ妃として迎えるであろう女やオメガたちと会いに行く後ろ姿に、どれほど胸が引き裂かれそうになったとしても――。
 その時、唐突に執務室の扉が空いた。
 驚いてそちらを見る、が、そこにいるのが誰かすら確認する間もなく、膝から力が抜けた。
「え……」
 へた、と床に手をついて、ドクンドクンと音を立てる心臓を抑えながら、どうにか顔を上げた。
「ルベルト、様……?」
 何故、先程出ていったばかりの彼がいるのだろう。
 ルベルトは、赤い顔で荒く息をつきながら、切れ切れに言葉を発する。
「ユリス、すまないが人を――、発情誘発剤をかけられた」
「っ!!」
 それは、強制的にアルファやオメガを発情させる薬だ。アルファを誘惑したいオメガが時折使って問題を起こした、と聞くこともある。
 まさかそれを王族に、と信じ難い気持ちだったが、今はそれに驚いている場合ではない。
(立たなきゃ……、「アルファ」ならば今すぐに)
 ルベルトは会う予定だった令嬢の元には行かず、すぐに引き返してきたのだろう。
 彼の判断は間違っていない。アルファやベータであれば、彼の現状に冷静に対処できるはずだからだ。
 ユリスが、「オメガ」でさえなければ――。
「ユリ、ス……?」
「あっ……」
 彼の目に射抜かれただけで、じわりと後ろが濡れた。
 オメガの発情はアルファやベータを誘うが、アルファの発情もまた、オメガの発情を誘発してしまう。
「――」
 ルベルトはゆらりと立ち上がると、扉の鍵をかけた。
「な、なにを……」
 そして、彼はユリスの傍まで歩いてくると、膝をついて頤を持ち上げ――、唇を塞いだ。
「んぅっ!?」
 舌が絡め取られ、じゅっと音を立てて吸われる。
「あっ……っ」
 もう、駄目だった。
 最後の一欠片だけ残っていた理性が、溶けて消えてゆく。
「ル、ベルト、さま……」
 抗えるはずもない。オメガの本能、何より、ユリスはずっとずっとこの男が欲しかったのだから――。

2025/08/24 00:00:00

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