初稿置き場

カテゴリ「玉座の憧憬 本編4ページ目)

小説・男女恋愛
#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 6


 目の前には、大勢の人々がいた。
 笑顔でこちらを見ている彼らは、新たな国の次期指導者が現れたのを、キラキラとした目で見ている。
 セレンは、父と、それから母とに見守られ、受け継いだばかりの王太子の冠を頭に、胸を張ってその場に立っていた。
『立派な姿ね。それでこそ、陛下の子』
 やわらかな母の声が聞こえる。
 王の子として、堂々と完璧に振る舞うセレンにかけられる言葉に、安堵と嬉しさが募る。
 よかった。このまま父上の跡を継いで王になれば――、きっとたくさん褒めてくれる。
 しかし、父はそこに見知らぬ少年を連れてきた。
 セレンのことなど視界にも入れず、彼を「自分の――王の子」だと宣誓する姿を、遠くから呆然と見つめる。
 足元が崩れ落ちたような感覚。
 ただただ真っ暗な闇の中へ堕ちていく。
 ――嫡子アレイストを、王太子と定める。
 それを()()()聞いた時の虚無感が、セレンの胸を襲った。そして、
『なんて……、期待外れな』
 冷たい、地を這うような母の声が聞こえて――

2025/07/26 00:00:00

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 5


 麓の町へ辿り着いた頃には、空はすっかり赤くなっていた。
 急遽襲われ、行程が遅れてしまっている。本来、この次にある街で宿泊予定だったのだが、どうにか一行が泊まれるだけの宿が空いていた。
 金持ちの平民向け、といった風情の場所で、セレンの目には些か貧相に見える部分や成金趣味のように感じるところもあったが、掃除は行き届いており、対応も丁寧なものだ。
 急な来訪である以上、文句があるわけではなかった。
「――姫様、聞きましたよ?」
 セレンに充てがわれた部屋へ現れたミイスは、どこか不満げな顔をしていた。
「何をだ……?」
 もう既に賊の中へ飛び出して行ったことについては、こんこんと説教をされた後だ。
 何かまだ怒らせることをしていただろうか、と首を傾げる。
「護衛のお申し出、お断りになったって。何故ですか?」
「ああ……」
 出発前に傭兵のようなことをやっているという男と交わした会話についてだった。
「何故、って。あんな急に現れた男をすぐに信用できるのか?」
「でも、姫様を助けてくださいましたわ」
「それは……、そうだが」
 セレンが命を救われたこともまた事実であるため、強く反論ができない。
 私が考えすぎなのだろうか。
 だが、あの男の現れたタイミングは、些か上手く出来過ぎではないかと思ってしまう。
「――とりあえず、駄目なものは駄目だ。ここまでは来てもらったが、明日にでも謝礼を渡して……。それで、終わりだ」
 彼女を説得できる言葉が浮かばず、突き放すように背を向けた。背中にじとりと視線を感じるが、それを無視して黙り込む。
 そして、暫く沈黙が続いた後、ミイスが溜息をついた。
「……仕方ないですね、もう! 姫様も頑固でらっしゃるんだから」
 どうやら折れてくれたらしいと察して、セレンはそろりと振り返った。
「どうしてそこまであの男のことを?」
 何か事情でもあるのだろうか、と尋ねると、ミイスは一瞬ぽかんとしたあと、ビシッとセレンを指差した。
「姫様が危険なことなさるからでしょう! もう!!」
 彼がいれば、止めてくれるかと思ったのにと、ミイスはぷりぷり怒っている。
「お断りになるんだったら、危ないことなさらないでくださいね?」
「…………善処する」
 善処? とミイスが睨んできたのは、言うまでもない。

2025/07/22 00:00:00

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 4


「よーし、ざっとこんなもんだな」
 剣を納め、手をパンパンと払った茶髪の男は、セレンの法を向いて、ニカッと笑った。
「……助太刀、感謝する」
「いやいや、礼には及ばないよ」
 そう言って朗らかに微笑む男に、セレンは眉根を寄せる。
 正直、とても怪しい。
 セレンは危ういところを助けられたのは事実だし、彼が乱入してからというものの、余程腕が立つのかあっという間に戦況をひっくり返してしまった。怪我人こそいるものの、セレンたちは賊から難を逃れることができた。
 ありがたいと思っているのは事実だったが、腕の立つ旅人がそう偶然に通りがかるものだろうか。
「それで、貴方は一体――」
 セレンが男に問いかけよとした時、彼はセレンの更に背後を見て、手を上げた。
「遅かったじゃないか! もう終わったぞ」
 セレンが振り返ると、こちらへ歩いてくる淡い金髪の男が見えた。彼は微かに眉根を寄せて、茶髪の男を睨む。
「貴方が勝手に突っ込んで行ったんでしょう! それに、あっちには弓兵がいたんですよ!」
 そういえば、いつからか弓矢が飛んで来なくなっていた。口振りから察するに、この金髪の青年が倒してくれたのだろう。
 セレンは彼にも頭を下げる。
「危ないところを助けられた。感謝する。それで、貴方がたは何者だ?」
 セレンの問いに答えたのは、茶髪の男だった。
「俺ら、傭兵みたいなことやってんの。ここにはたまたま通りがかったんだけど、物騒な音が聞こえて来てみれば、身分の高そうな人が襲われてるし、これは助けなければ――、ってね」
 片目を瞑る男に、セレンはつい胡乱げな視線を送る。
 なんとも調子のよい男だ。
「それで、お嬢さん? あんたらはこれからどこへ行くんだ?」
「……何故、そんなことを聞く」
 警戒心を滲ませて問い返すと、彼は飄々とした様子を崩さずに肩を竦めた。
「なに。ここで会ったのも何かの縁だろう? 怪我人もいることだし、道中の用心号にいかがかな、と思ってさ」
 申し出は悪い話ではなかった。
 だが、どこか疑念が拭えずにセレンはそれを断ろうと口を開く。
 しかしそれよりも早く言葉を発したのは、金髪の男だった。
「――私は嫌です」
「えぇっ!? いいじゃんかよ。こんな美人が困ってんだぞ?」
 茶髪の男はセレンに視線を向けながらそんなことを言う。だが、金髪の男は首を横に降った。
「行くなら、どうぞお一人で」
 そう言い放つと、彼は踵を返してすたすたとその場を去っていった。
「おーおー、そうかい。なら一人でも行くもんね」
 べー、と舌を出す男に、セレンの方が驚いてしまう。
「お、追いかけなくいいのか……?」
「いいのいいの。こういうのしょっちゅうだし」
 二人がどういう関係なの以下よく分からず、セレンは金髪の男が去っていった方向と、茶髪の男を見比べる。
「それで、俺を雇う気はある?」
 セレンは小首を傾げる男に、口を引き結んだ。
 そして、迷った末に口を開く。
「断る」
「そんなぁ……」
 悲しい顔をする男に、セレンは仕方なく続ける。
「――が、礼くらいはしよう。とりあえず、次の町まではついて来てくれ」
「お! さっすが、お嬢さん! そうこなくっちゃな」
 嬉しそうに拳を握る男に、セレンはまた呆れたように肩を竦めたのだった。

2025/07/19 00:00:00

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 3


 ウィレミニアの王都を出発してから数日、セレンは山中を馬車で移動していた。
 アキュイラまでの道のりは、旅慣れない侍女も含めた長旅となるため、一月近い余裕をもって行程を組んでいる。
 王宮を出て日が浅い今は、まだ都の方が近い位置にいる。
 馬車に揺られるセレンの対面には、自身の乳姉妹であり現在は侍女を務めているミイスがいた。彼女は気心の知れた相手で、何の気兼ねもない。
 行程の長さには辟易するものの、穏やかな馬車旅となる――。そのはずだった。
 だが、セレンはどこか落ち着かない心持ちのままだ。隣に立てかけていた剣を持って、柄に触れたり、どうしても言い知れぬ焦燥感が募る。
 ミイスからは心配げな視線が向けられていることにも気付いていたが、どうしてもゆったりと構えることができないでいた。
 本当に、このまま王都を去っても良いのだろうか――。
 もう王宮を出てから幾日も経つというのに、そんな疑問は薄れるどころか日に日に強まっている。
 アレイストには「アキュイラでやれる事がある」などと強がりを口にしたが、どんどんと迷いが出てきている。
 任地への旅が進み、王都から遠い地で領主をするという現実が刻一刻と迫り、ますます焦りが湧く。
 セレンは、この十年余りの期間を、母の最期の願いを叶えるべく生きてきた。
 王になる。
 セレンにあるのはそれだけだった。
 それが今は、まるで負け犬のように都に背を向けている。
 こんな姿を見た母上は、一体何と仰るだろうか――。
「ミイス……」
「はい、姫様」
 にっこりと微笑んで応える彼女の栗色の瞳を見て、少しだけ気分が落ち着いた。
「母上は……、私にいつも……王になるよう仰っていただろう?」
「ええ。妃殿下は姫様にとてもご期待なさっていらっしゃいましたからね」
 それがどうした、というようにミイスが首を傾げて、肩口で切りそろえられた瞳と同じ色の髪がさらりと揺れた。
 セレンは言葉に詰まって、きゅっと唇を引き結んだ。
 期待。そう、私は期待されていた。なのに。
 セレンは、胸の内に渦巻く判然としない思いを、迷いながら口に出そうとする。
「母上は、今の私を――」
 だが、それ以上が言葉になることはなかった。
「――きゃあっ!」
 突然、大きな衝撃と共に、馬車が急停止する。ミイスの悲鳴にハッとして、セレンは座席から投げ出される彼女の身体を受け止める。
「何事だ!」
 床に転がった剣を拾い上げながら、外に向かって声を上げる。
「賊です! 殿下は中に――」
 御者の声が聞こえ、微かに剣劇の音もする。
「いや、私も出る!」
 セレンは、ミイスに怪我がないかだけ確かめて、握り締めた剣と共に扉に手をかけた。
「いけません、姫様!」
 背後からはミイスの制止しようとする声が聞こえたが、それは無視して外へと躍り出る。抜刀して、鞘を放る。
 ザッと周囲に視線を走らせる。
 状況は、思わしいものではなかった。
 御者は腕を射抜かれ、周囲を固めていた護衛も、倍はいそうな敵と相対している。
 その時、飛んできた矢をセレンは剣で叩き落し、チッと舌打ちした。
「射手までいるのか……」
 これはかなりまずいかもしれない。
 どうやって状況を打開すべきなのか考えながらも、襲いかかってきた刺客に応戦する。
 振り下ろされた剣を受け流し、相手の足を斬る。
 致命傷を与えられたわけではないが、どうっと地面に倒れたのを見て、セレンは男に背を向けて走り出そうとした。
 あれはもう動けないだろう。ならば、それに構っているよりは、一人でも多く敵を倒さねば――。
 そんな焦りがあったのだと思う。
 走り出したセレンは、何か嫌なものを感じて思わず振り返った。
「っ――!」
 そこには先程倒したはずの男がいて、振りかぶった剣身に光が反射する。
 まずい……!!
 セレンは己の判断の甘さを呪った。しっかり仕留めてから移動をするべきだったのだ。
 だが、後悔してももう遅い。
 気付くのが遅れたせいで、避けることも、剣で受けるのも間に合いそうになかったからだ。
 わたしは、こんなところで……?
 振り下ろされる剣が、妙に遅く感じた。
 これが「走馬灯」というものなのだろうか。なんてことを思った時だった。
 キンッ、と高い音がして、迫っていた凶刃が跳ね飛ばされる。
「あっ……」
 どこからともなく飛んできたナイフに弾かれたのだと気付く。
 そして次の瞬間には、セレンと刺客との間に、別の人影が割って入った。
 その人物は腰に佩いていた長剣を抜くと、あっという間に刺客を倒してしまう。
 そして、セレンの方に振り返る。
「敵に背を向けるなんて不用心だぞ、お嬢さん」
 茶髪を項で雑に纏めた旅装の男は、そう言って緑色の印象的な目をニヤリと細めて笑った。

2025/06/14 00:00:00

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 2


「――くそっ」
 セレンは無意識に悪態をついて、テーブルに拳を叩きつけた。
 アキュリア領主の地位を拝命してから数日。
 すっかり物の無くなった自室で下命を受けた日のことを思い出し、いまだに冷めやらぬ怒りがふつふつと沸いていた。
「何故、私がアキュイラなどに……!」
 明朝になれば、セレンはここウィレミニア王国の都を発ち任地に赴かなければならない。
 国の辺境にあるアキュリアまでは、馬車で二週間程がかかる。おいそれと行き来の出来ぬ地だった。
 そうまでして父上は私をここから追い出したいのだろうか――。
 セレンはぎゅっと拳を握り締める。
 玉座に座る父の隣に立っていた、異母弟の姿が思い出される。王との血縁を疑うべくもないほど、濃青の瞳も、その容貌もよく似た、どこか儚さのある姿が思い浮かぶ。
 隣国の公女であった母親と同じ色の黒髪くらいしか、父と違っている場所がないのではないかと思えるほど、彼らはよく似ていた。
 母にばかり似たセレンには、それが羨ましくて仕方がない。
 父王の寵妃だった母シエラがこの世を去ったのは、セレンが九つの頃だった。
 それまでのセレンは、まるで王の「唯一の子」であるかのように、遇され尊重される嫡子だった。
 だが母が亡くなると、周囲の状況は一変した。
 セレンは王太子位から引きずり降ろされ、そして、一つ年下の弟が公国から召喚されると、彼がその代わりとなった。
 正妃である隣国の公女は、アレイストを孕むと同時に故国へ宿下がりしたきりだった。自分の他に寵妃がいるという状況に耐えられなかったのだと聞いている。
 彼女は今も公国にいるが、たとえこの場におらずとも、「公女」という肩書きは絶大だった。
 正妃を、それもより強い後ろ盾を持つ王子が、次期国王としてセレンよりも注目されるのは自明だ。
 それでも、セレンは特に玉瑕があって廃太子の憂き目に遭ったわけではない。能力も目に見えて劣るわけでもなく、中には長子であるセレンのままでも良かったのでは、という声もあった。
 つまり現状として、セレンティーネという王女の立ち位置は、非常に繊細な問題を孕んでいた。
 その問題を払拭し、アレイスト即位の邪魔になりかねないセレンを排除する。
 そういう点では、セレンのアキュイラ赴任はこの上ない手だ。
 彼の地は国境に接している。そのため、王の信任深い者にしか任せることはできない土地だ。しかしその隣国とは長らく友好関係にあるため、有事が起こるとは考えづらく、まさにセレンを飼い殺すのに相応しい立地だった。
 このまま、王都から遠い地で自身の存在など忘れ去られていってしまうのではないか――。
 そんな恐ろしさが胸に湧き起こる。
 だが、そうなってしまえば母が死の間際まで望んだことを叶えられなくなってしまう。
 ――お前は王になるのよ、セレンティーネ。
 彼女が死して十年以上の月日が流れた今も、その声は消えることがない。
 このままでは、母の願いを叶えられない。
「…………ならば、いっそ」
 セレンの思考がドス黒いものに沈んでいこうとした時だった。
「姉上」
 控えめな叩扉の音と共に、青年の声が聞こえてハッとする。
 ――私は今、何を。
 セレンは真っ青になって、口元を押さえた。
 今、私は無理やりにでも王位を奪い取ってしまおうか、と思わなかったか。たとえ、()()()()を使ってでも。
 浮かびかけた恐ろしい考えを振り払うように頭を振る。
 そうしていると、返答がないことを訝しんだのか、もう一度「姉上?」と声が聞こえた。
 自身のことをそんな風に呼ぶのは一人しかいない。
「アレイストか……?」
 セレンは戸惑いながらも、異母弟の名を呼んだ。
「はい。今、お時間はよろしいでしょうか?」
 何の用だろう。セレンは不思議に思いながらも、入室の許可を出す。
 自分たちは取り立てて仲の良い姉弟ではない。いがみ合っている――とも言わないが、互いに難しい立場であり、どことなく交流を避けてきていた。
 もちろん、顔を合わす機会はあるし、言葉を交わしたこともある。だが、個人的なやり取りは殆どなかったのだ。
 そんな彼がわざわざ訪ねてきた。
 訝しまずにはいられない状況だった。
「失礼いたします」
 扉を開け、柔和な笑みと共に現れた彼は、左足を軽く引きずりながら杖をついて入室してくる。
 その姿にハッとして、セレンは慌てて扉を押さえてやった。
「どうしたんだ? 何か用があったのなら、呼んでくれれば……」
 彼は幼少期――、まだ公国で母と暮らしていた頃、何か事故に遭ったのだそうだ。それによって左足に麻痺が残っている。
 そんな弟を歩かせたのが申し訳なくなり、セレンがそう言うと、アレイストは目を丸くして首を振る。
「まさか。姉上を呼びつけるなんて出来ませんよ」
 それから、殺風景になった部屋を見渡して、苦笑を浮かべた。
「それに、ご出立前でお忙しいでしょう。最後の挨拶に、とは思いましたが、それでお手を煩わせるわけには」
「…………そう、だな」
 苦笑を浮かべると、途端に沈黙が落ちた。それを破ったのはアレイストの意外な問いだった。
「姉上、下命を断ろうとは思わなかったのですか?」
「それは……」
 こちらの様子を探るような、何とも言えない視線を向けてくる彼の目に、少し不満のようなものが感じられる。
 だが、セレンは不思議だった。
 どうして、そんなことを言うのだろう。
 彼の立場を考えれば、セレンがいなくなることは歓迎しこそすれ、不満を覚える理由はない。
 清々する――。そう言われる方が納得できるくらいだ。
「……王命に逆らうことなんて、出来るはずがないだろう? それに、あちらでやれる事もあるはずだ」
 返答を迷った末に口にした言葉は、多少は強がってみせた側面もある。だが、自分で言ってみて気付いた。
 そうだ。アキュイラを立派に治められれば、いずれ父上もその手腕を認めてくださるかもしれない。
 言い聞かせるような気持ちが、ないわけではなった。
 それでも、これから向かう新たな地で出来ること、すべきことが、必ずあるはずだと考える方が、よほど現実的に思えた。
「アレイスト。私がいない間も、陛下をしっかりお支えしてくれ」
 立ち竦む彼の肩を叩く。しかし、何故か返答がなかった。それを不思議に思い、セレンは俯きがちのアレイストの顔を覗き込んだ。
「っ……?」
 彼と目が合って思わず息を飲む。
 一瞬――ほんの一瞬だけ、酷く冷たい視線に射抜かれような気がした。
「アレイスト……?」
 しかし顔をあげた彼の顔は、特に普段と変わって見えない。
 見間違いか――?
「お任せ下さい、姉上」
 そう言ってアレイストは微笑んだが、セレンはどこか冷たいものを感じずにはいられなかった。

2025/05/23 00:00:00

#玉座の憧憬
#玉座の憧憬_本編 1


 謁見の間に重苦しい沈黙が続く。
 一段高い所にいる王とその息子、それから部屋の脇にずらりと並ぶ高官たち。
 その中で騎士服を身に纏った女が一人、膝をついて国王に頭を垂れていた。
 美しい銀髪は肩から零れ落ち、床に広がっている。俯いた怜悧な美貌と相まって、一枚の荘厳な絵のようにさえ見えた。
「――セレンティーネ」
 王が威厳のある声で女の名を呼ぶ。
「お前をアキュイラの領主に任ずる。国防の要たる彼の地を治め、国のために一層その身を賭して尽くすように」
 厳かな宣言にセレンティーネ――セレンは、ぎゅっと拳を握り締めた。
 ――やはり、父上は私を疎んじておられるのか。
 玉座に座る王を、セレンはアメジストのような鮮やかな紫色をした目だけ動かして睨むように見上げた。
 その隣には、自身とは似ても似つかぬ容貌をした――、だが父王とはよくよく似た顔の異母弟が立っている。
 どこか不安げな様子でこちらを見る様が、腹立たしくて仕方がない。
 あそこは、私の居場所だったはずなのに。
 だが、王命に逆らうことなどできるはずもなく、セレンは更に深く頭を垂れた。
「謹んで、拝命いたします――」
 だが、内心に荒れ狂う怒りの嵐は抑えきれずに、ギリッと唇を噛み締めた。

2025/05/22 00:00:00

作品一覧
改稿版更新中
玉座の憧憬 本編:小説・男女恋愛
初稿更新終了
ツンデレ王子様の結婚事情:漫画(字コンテ)・BL
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