幕間

「いやー、酷い目にあったな……」


 苦笑しながら斜面を這い上がってきたのは、地面を転がり落ちた同級生の一人。


「まったく……。気をつけろよ、二人とも」


 人を呼びに走った彼は、呆れた顔で手を差し出す。


「助かったよ、ルーク」


 もう一人の落下した彼も這い上がり、三人は和やかに無事を喜んでいる。


 今日は散々だった。

 大した成果もあげられず、能天気なやつらに囲まれて。

 そんな中で、蹴り飛ばした石に、たまたま足を取られた馬鹿が転んだのを――、いい気味だと思わなかったと言えば嘘になる。

 転がり落ちるとは思わなかったけど。


「ん……? 待てレン。お前、やっぱり足を怪我してるだろ」

「あー……、バレちゃった?」

「バレちゃった、じゃない……」


 怪我、という言葉に少しだけ罪悪感が湧いたが、僕は悪くないと内心で首を振る。


「足、貸して」

「ファル?」


 だがそのほんの少しの罪悪感も、目の前の光景を見せられた時には、すぐに吹き飛んでいた。

 怪我をした少年の足元に、その怪我を指摘した少年が跪く。

 彼が足首に手をかざすと、ぽうっと光がともった。


「あ、痛いの消えてく」

「ちゃんとあとで医者に見せろよ」


 少年が立ち上がり、怪我をした少年は患部の調子を確かめるように足をぷらぷらさせている。

 捻ったのであろう足は、すっかり治っているらしかった。


 治癒魔法……!? 詠唱も、魔法陣も無しに!!


「…………っ」

「あ、ニクス。待たせてごめんな。そろそろ帰ろう」

「……いいんだ。二人が無事でよかったよ」


 胸の中にドス黒いものが溜まってゆく。

 それを悟られないように、笑顔の仮面をかぶった。


 何故、神は恵まれた者にばかり才を与える?

 何故、兄姉にあるものが僕には無い?

 何故、何故、何故――?


 少年は爪が掌を破るほどに、拳を強く握りしめていた。

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