七話幼蝶は希望を掬い上げ4

「っ、てぇ……」

 斜面をゴロゴロと転がり落ち、身体中が痛い。

 レンは起き上がりつつ手足の様子を確かめ、幸いにも骨折などはしていないらしいことを確かめる。少し最初に捻った足に痛みはあるようだが、大怪我ではない。

「そうだ、ファルは!?」

 慌てて辺りを見渡せば、彼はすぐ傍に倒れていた。

「ファル!」

 俯せのまま動かないファルにぞっとする。

「……っ、レン……?」

「ファル……、よかった……」

 しかしすぐに反応があり、レンはほっとして身体の強ばりが解けた。

「――おーい! 二人とも、無事か!?」

 お互い大きな怪我が無さそうなのを確認していると、頭上からルークの声が聞こえた。

「ああ! なんとか!」

「わかった! 人を呼んでくるから、待ってろ!」

 ルークはニクスと何事か話すと、その場から走ってゆく。

 彼が立っていたのは崖に近いような斜面の上だ。自力で上がるのは大変そうなため、彼の言葉に従って大人しく待つほかなさそうだった。

「ファル……、なんであんな危ないこと」

 急斜面を転がり落ちて、二人とも五体満足で済んだのは運が良かったからだ。

 倒れ込んだファルを見たときは生きた心地がしなかった。だからどうしても、彼の無謀な行動に怒りが湧いていた。

「……咄嗟だった。仕方ないだろ」

「だからって!」

「なら、お前なら見て見ぬ振りできるのか!?」

「それは……」

 レンは押し黙る。

 ファルが落ちそうになっていたら、おそらく自分も同じことをしただろうから。

「――……その、ごめん。俺のこと助けようとしてたのは分かってるんだ……。でもさ」

「二人とも無事。それでいいだろ。僕も支え切れなかった」

 助けようとして結局一緒に落ちてしまったことが、少々バツが悪いのか、ファルは口を尖らせ拗ねたように言う。

「……そうだな」

 お互い格好の悪いところを見せた。

 そういうことだろうと、レンも肩を竦めて苦笑した。

「俺も、転んだのは元より転んだ先が斜面なんて、運がないよなぁ」

「たしかに……――、いや、そうでもないかも」

「ん?」

「それ」

 ファルが指差したのは、レンが座り込んでいる場所のすぐ近くの地面だった。

「え、――あ!」

 丁度、地面についた手の指先の部分に大ぶりの石がある。

 それはただの石ではなく、どこから転がり出たのか魔石だった。

 レンはそれを拾い上げ、それをしげしげと観察する。

「色もいいし……、大きさも。なのに欠けもないな……」

 ファルがニヤリと口端を上げる。

「使えそうだな?」

「ああ!」

 レンもニヤッと笑みを返して、二人で拳を突き合わせる。

 それから助けが来るまでの間、この魔石をどう組み込むか議論に花を咲かせ、息せききって戻ってきたルークを呆れさせたのだった。

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