「ぁ……、ん…………」

 何度も何度も角度を変えてのキスが続く。

 次第に頭がぼんやりして、抵抗をしていたはずの手は、彼の服を握りしめていた。

「は…ぁ……」

 どのくらいそうしていたのか、ようやく解放された頃には、足に力が入らなくなっていた。ニクスはツェントに縋りくような格好で息を整える。

「ニクス」

 ぴくりと身体が跳ねた。

「俺は君に惹かれている」

「っ――」

 真っ直ぐな、逃れようもないほどにシンプルな言葉に胸が苦しくなる。

「君もそうなんじゃないかと俺は思っている。……違うか?」

 どうしてそんなにも、愚直に気持ちをぶつけられるのだろう。様々な、形容しがたい気持ちが浮かんで、上手く言葉にならない。

 ニクスはぎゅっと目を瞑って、ツェントの胸に頭をこつんとぶつけた。

「……そう、だよ。僕はきっと、あんたをはじめて見た、その時から……。……でも――」

「なら何も問題ない」

 ツェントの手がニクスのきつく握りしめられていたその手に重ねられる。

「俺も――、そして君も。お互いに惹かれている。なら、何も問題はない」

「そんな簡単な問題じゃ……」

「簡単なことだよ」

 ニクスはのろのろと顔を上げた。

「過去は関係ない。今こうして俺たちはここにいる。それ以上に重要なことなんてない。そうだろう?」

「……あんたは、」

 ニクスは困ったように笑った。

 泣きたいような、けれど心の奥に凝っていたものが、解けていく気がする。

「――……許して、くれるかな。幸せに…なっても」

 目を閉じれば、かつて迷惑をかけた彼らの顔が浮かんだ。

 今はもうどこで何をしているのか、知る術もない。けれど――

「ツェント」

 彼らは困難があっても、前を向く人たちだった。いつまでも誰かを恨んで不幸を願うような、そんな人たちじゃない。

「僕も、あんたを――、慕わしく思ってるよ」

 ニクスはツェントの首に腕を回して、その体温を感じる。


 明日は僕も、海と、ツェントを詩に書こう。

 波の音と彼の眼差しが感じられるような。

 そんな詩を。

あとがき

これにて、ニクスの物語は終了です!

お読みくださり、ありがとうございました〜!


……過去一、甘かったんじゃないかな。

というか、今後含めてもけっこう上位に甘いな、たぶん。


まあ、それはさておき。

来週も別の人物のお話になります!

一章終了時点でお知らせしました通り、男女恋愛になるので、苦手な方は1ヵ月……くらい、お待ちくださいね。

次の挿話が終わりましたら、本編に戻ります!


2023.08.09

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