エピローグ

 ノールヴィリニアに、また短い夏が来る。

 冷たい雪が消えて緑が芽吹く頃、ネリーはせっせとペンを走らせていた。

「何を書いているんだ、ネリー?」

「あ、まだ駄目ですよ」

 腕でさっと紙を隠すと、ロアンはちょっとだけ不服そうな顔をしたが、大人しく引き下がる。

 隣でぼんやりしはじめた彼がこちらを見ていないことを確認し、ネリーはそれを最後まで書き上げた。

「――できた」

 ネリーに軽くもたれかかるように座っていたロアンが身を起こす。そんな彼の顔を覗き込んで、先ほど出来たばかりの手紙を差し出した。

「はい、ロアン」

「……私宛だったのか?」

 ネリーは驚く彼を見て、ふふと頬を緩めた。

「あなた以外にはいませんよ」

 手紙を受け取ったロアンは、その場でそれを読みはじめる。

「お返事、待ってますね」

 彼がそれを読んでいる間、今度はネリーがその肩にもたれて目を閉じた。

 今もネリーの部屋には、愛する夫からの手紙が増え続けている。

 なんて幸せなことだろうと思った。

 そしてそれはこれからも、きっと変わることはないのだ。

fin.

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