エピローグ
2
ノールヴィリニアに、また短い夏が来る。
冷たい雪が消えて緑が芽吹く頃、ネリーはせっせとペンを走らせていた。
「何を書いているんだ、ネリー?」
「あ、まだ駄目ですよ」
腕でさっと紙を隠すと、ロアンはちょっとだけ不服そうな顔をしたが、大人しく引き下がる。
隣でぼんやりしはじめた彼がこちらを見ていないことを確認し、ネリーはそれを最後まで書き上げた。
「――できた」
ネリーに軽くもたれかかるように座っていたロアンが身を起こす。そんな彼の顔を覗き込んで、先ほど出来たばかりの手紙を差し出した。
「はい、ロアン」
「……私宛だったのか?」
ネリーは驚く彼を見て、ふふと頬を緩めた。
「あなた以外にはいませんよ」
手紙を受け取ったロアンは、その場でそれを読みはじめる。
「お返事、待ってますね」
彼がそれを読んでいる間、今度はネリーがその肩にもたれて目を閉じた。
今もネリーの部屋には、愛する夫からの手紙が増え続けている。
なんて幸せなことだろうと思った。
そしてそれはこれからも、きっと変わることはないのだ。
fin.
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