5章あなたへの誓い

 昨夜泣いてしまったせいか、朝起きても化粧で隠し切れない程、目元が赤くなっていた。

 どうして「早く帰ってきて」などと書いてしまったのだろう。

 レイブスに出してきてもらおうと服に忍ばせた、昨晩書いたばかりの手紙を思い出して後悔にかられる。だが、言わずにはいられなかった。

 彼が帰ってきても、彼はエリーゼとの生活を望むかもしれないのに。

 それでも、彼が戻ってきてさえくれれば、すべてを解決してくれるのではないかという、期待を捨てられずにいた。

 花束は今朝も届いていて、追い打ちをかけるようにネリーの気持ちを沈ませる。もうどうしたらよいのか分からず、今日は気が付くと受け取ってしまっていた。

 部屋に飾られているそれのことを考えると、気が重くて仕方がない。

「あ……、セルジュ様……」

 こんな気分の時に最も会いたくなかった人物と会ってしまい、ネリーは自分の不運さに悲しくなる。しかし、彼の存在に気付いた時には、既にかなり近くにいて引き返すことも出来なかった。何もないことを願ってすれ違う他ない。

「その目は……、どうしたの?」

 どうして、そっとしておいてくれないんだろう。

 セルジュの指摘に、ネリーは唇を噛みしめる。

「なんでもありません」

「そんなことないはずだ。――辛いんでしょう?」

「……セルジュ様」

 あなたに何が分かるの。

 つい、そんな言葉が浮かんだ。分かったような口をきく彼に、苛立ちを覚える。

 だがそれに気付かないセルジュは、言葉を続けた。

「はじめにも言ったでしょう? 僕は君が心配で来たんだ、って」

 彼がノールヴィリニアに来てすぐの時に交わした会話を思い出す。無意識に、あの時に掴まれた手を握り締めた。

「本気、だったんですか」

「信じてなかったの?」

 ひどいなぁ、とセルジュは笑う。

「エリーゼが君を追っていったと聞いて。君がまた、酷い目にあってるんじゃないか、って心配したんだよ」

 何故、今になってそんなことを言うんだろう、と思わず笑いが込み上げてきた。

 いつだってエリーゼの隣で、おろおろするだけだった貴方が、何故――?

「ネリー、僕は……」

「そう思うのなら」

 ネリーはセルジュの言葉を遮るように、口を開いた。

 もう、何も聞きたくない。

「そう思ってくださるなら、早くエリーゼを連れて、王都にお戻りください」

 ネリーは一礼し、彼に背を向けると、返答を聞く前にその場を立ち去った。

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