5章あなたへの誓い
1
昨夜泣いてしまったせいか、朝起きても化粧で隠し切れない程、目元が赤くなっていた。
どうして「早く帰ってきて」などと書いてしまったのだろう。
レイブスに出してきてもらおうと服に忍ばせた、昨晩書いたばかりの手紙を思い出して後悔にかられる。だが、言わずにはいられなかった。
彼が帰ってきても、彼はエリーゼとの生活を望むかもしれないのに。
それでも、彼が戻ってきてさえくれれば、すべてを解決してくれるのではないかという、期待を捨てられずにいた。
花束は今朝も届いていて、追い打ちをかけるようにネリーの気持ちを沈ませる。もうどうしたらよいのか分からず、今日は気が付くと受け取ってしまっていた。
部屋に飾られているそれのことを考えると、気が重くて仕方がない。
「あ……、セルジュ様……」
こんな気分の時に最も会いたくなかった人物と会ってしまい、ネリーは自分の不運さに悲しくなる。しかし、彼の存在に気付いた時には、既にかなり近くにいて引き返すことも出来なかった。何もないことを願ってすれ違う他ない。
「その目は……、どうしたの?」
どうして、そっとしておいてくれないんだろう。
セルジュの指摘に、ネリーは唇を噛みしめる。
「なんでもありません」
「そんなことないはずだ。――辛いんでしょう?」
「……セルジュ様」
あなたに何が分かるの。
つい、そんな言葉が浮かんだ。分かったような口をきく彼に、苛立ちを覚える。
だがそれに気付かないセルジュは、言葉を続けた。
「はじめにも言ったでしょう? 僕は君が心配で来たんだ、って」
彼がノールヴィリニアに来てすぐの時に交わした会話を思い出す。無意識に、あの時に掴まれた手を握り締めた。
「本気、だったんですか」
「信じてなかったの?」
ひどいなぁ、とセルジュは笑う。
「エリーゼが君を追っていったと聞いて。君がまた、酷い目にあってるんじゃないか、って心配したんだよ」
何故、今になってそんなことを言うんだろう、と思わず笑いが込み上げてきた。
いつだってエリーゼの隣で、おろおろするだけだった貴方が、何故――?
「ネリー、僕は……」
「そう思うのなら」
ネリーはセルジュの言葉を遮るように、口を開いた。
もう、何も聞きたくない。
「そう思ってくださるなら、早くエリーゼを連れて、王都にお戻りください」
ネリーは一礼し、彼に背を向けると、返答を聞く前にその場を立ち去った。