2章貴女への誓い
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ロアンは手紙を読み終えると、ふっと口元を緩めた。
戦地へ向かう野営の中、ようやく一人の時間を持つことができ、いそいそと妻からの手紙を開封したのは、ついさっきのこと。その手紙を読む瞬間を、自身でも驚くほど楽しみにしていたのだ。
中に書かれていたのは、幾重もの感謝と、こちらの無事を祈る言葉。
ただそれだけだったが、彼女のやわらかで丁寧な筆跡を見ていると、心が落ち着くような気がした。
これまでの出征と、何かが違う。
殆ど会ったばかりの、少女としか思えなかった「妻」が、帰りを待ってくれているというだけで、これほど心持ちが変わるのかと不思議だった。
出掛けに見た彼女の姿を思い出す。
人馴れしていない小動物を思わせるあの少女は、それでも勇ましく「ノールヴィリニアを守る」と言ってくれた。自身の守りたいものを、同じように「守る」と言ってくれた彼女を思えば、自然と笑みが零れる。
「ネリー」
いつも控えめに紡がれる、彼女の声を聴きたいと思った。
「必ず無事に帰る。そう、ここに誓おう」
ロアンは、手紙に記された彼女の名前に口付けた。
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