souvenir et amour

 初めて弱音をこぼした。

 後継者教育があまりに辛くて、悲しくて。

 親に言っても、無視されるか罵倒されるか。教師に言っても、聞き飽きた世辞を挙げ連ねられるだけ。

 でも彼なら、幼い頃から共にいた婚約者なら違うのではないか……。

 そんな一縷の望みをかけて――、押し込めてきた本当の気持ちの、ほんの少しを話した。

 だが彼は――

「そんな、困るよ。ベルが爵位を継いでくれなきゃ、おれは――」

 そこでふつりと何かが途切れた気がした。

 ああ、彼も同じだったのか。

 そんな風に思ったことを覚えている。

 彼も、私の地位を狙う沢山のうちの一人だったのか、と。

 そのあと、何と返したのかはもう覚えていない。

 けれどきっと、ベレスティアという少女は、あの日に死んだのだと思う。

 淡い恋心と共に、粉々になって。

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