地獄へ堕とし給うとも

 ラミアがナイフを振り上げる。

 彼女は俺を殺そうとしているのだろうか。

 ……なら、それもいいかもしれない。

 今の状況を作った一因は、自分にもある。そのことをルテスも理解していた。だから、彼女に殺されるなら、それも構わない。

 そう、思った。

 だがルテスは、その刃が別の場所に向かっているのに気付き、彼女の腕を掴む。

「あっ……」

 手首を締め上げられ、ラミアは彼女自身の首元へと吸い込まれようとしていた、そのナイフを取り落とした。

 カラン、と乾いた音が響く。

 ルテスはラミアの手首をきつく握りしめたまま、振り絞るように言う。

「なぜ……、なぜ、死のうとした……!?」

 ラミアは俯いたまま答えない。

「なぜ、俺を……俺を置いて…………」

 理不尽な怒りで頭が沸騰する。だが、それでも何も言わない彼女に、更に怒りが募った。

「…………そんなに死にたいなら、全て俺にくれよ」

 ラミアの腕を引き、彼女の耳元で囁く。

 怒りは度を過ぎると、全てが冷え切るほどに冷たくなるのだな。

 そんなことを頭の片隅で思った――。




「っ……、は――」

 ルテスは荒く息をついた。

 固い床の上にラミアを引き倒し、性急に貫いた彼女の身体は酷く狭い。拒まれているのだと理解していても、もう後には引き返せなかった。

 彼女の身体が強張っていて、強い痛みを感じているのだと分かる。だが、その表情は微かに歪んでいるだけで、喜びはもちろんだが、それ以外の感情も見つけることはできなかった。

 ただ、全てに絶望したような――、そんな虚ろな目をしている。

「――嫌がらないんだな」

「…………、」

 ラミアは唇を引き結んだまま、ふいと顔を逸らした。

「――っ!」

 それが、無性に腹が立った。

 ルテスはラミアの顔を乱暴に掴むと、それを自分の方へ向けさせる。

 それでも目は合わない。

 しかしルテスにはもう、そんなことはどうでもいいとさえ感じる。

 ただ――。

「っ……」

 ルテスはラミアの唇を、喰らいつくように奪った。

「っ、ぅ……」

 彼女の微かな吐息さえも飲み込むように、何度も何度も口付ける。決してこちらに応えようとしないその口唇を割り、彼女の口内に舌を滑り込ませた。

 彼女の舌を、唇を、食んで吸い上げて――全てを嬲っていく。

 何故こんなことを、という理性の声が一瞬聞こえた気がしたが、それも彼女の唾液の甘さに消えていった。

「っ……」

 ラミアの唇が腫れ上がるほど口付けた後、ルテスはようやく彼女のそれを解放する。離れる際に舌を伝う糸が何とも甘美で、下腹が更に重くなった。

 それを中で感じ取ったのだろう。苦し気な顔をするばかりだったラミアが、ほんの少し目を見開いた。

「は……」

 ルテスは口端を歪める。そして、彼女の身体に埋めるだけだった己自身を少し動かした。

「っ!」

 ラミアの背が跳ねる。また、ゆるゆるとした抽挿に従って、ぐちゅりぐちゅりと淫靡な音が響きはじめていた。

 彼女の身体が、痛み以外を感じはじめている。

 ルテスはその事実にどうしようもない興奮を感じながら、ラミアの足に触れた。その足を持ち上げて、大きく開かせる。その膝頭が彼女の胸につくほど、その身体を折り曲げると、腰を引いて―― 一気に叩きつけた。

「あっ!?」

 初めて、ラミアが大きな声をあげた。

「っ、ふ……、んん、っぁ……」

 必死に声を抑えているようだが、次第にその力も弱まってくるのが分かる。その姿に酷い支配欲を覚えながら、ルテスは夢中になって腰を彼女の奥へ穿つ。

 何度も繰り返す内に、ラミアの反応が強い部分が明らかになってゆく。そこを擦り上げるようにしてやれば、締まりは強くなって、もう彼女も声を抑えることは出来なくなっていった。

「あ、ああ、んっ、あん――、は、ああぁ――――」

 ラミアが狂ったように喘ぎ、ルテスの背に爪を立てる。もうその頃には、ただ快楽を貪るように舌を絡ませあい、腰の動きは激しくなっていた。

 上も下も、互いの体液でぐちゃぐちゃになっている。

 それでも互いに着衣のまま――。それがこの行為の歪さを表しているように滑稽だ。

「ラミア……、ラミア――」

 口付けの合間に彼女の名前を呼ぶ。だが、それに答える声はなく、ただ喘ぎ声だけが響いていた。

 それが、ルテスの中に燻る酷い執着心を煽っていく。

 ルテスは一度身を起こして、ラミアの身体を見下ろした。

「っ……?」

 ラミアの目は相変わらず虚ろだ。

 しかし、今は――今だけは、快楽という夢の中に、それを与えているルテスだけを見てくれている。

 床に飛び散る赤い血は、その権利を持ちえたのが自分だけだという愉悦を感じさせた。

「ああ……、ラミア――」

 このまま、彼女の全てを独占したい。

「お前は……俺のものだ」

 そのためならば、正気になど戻してやるものか。そんなことをするくらいなら――

 ルテスは床に落ちていたナイフに手を伸ばす。

 そして、もう一度ラミアに口付けをしながら――、その刃を彼女の首元で一閃させた。

「――っ!!」

 ラミアの目が見開かれ――、中は締まった。

「っ……」

 それに絞り取られるように、ラミアの中を汚す。

 だがそれでも、欲望を出し切るには至らなかったらしい。まだ硬いそれをゆるりと動かしつつ、ラミアの首に唇を寄せる。

 溢れる赤い血をちゅっと啜れば、酷く甘い。

 ああ、なんて――。

「っ、あ……ん、あ……っ…………」

 ラミアの反応が緩慢になってゆく。

 ルテスは血で真っ赤に染まった自身の口を拭う間も惜しむように、そのままラミアの唇を貪った。そして、その反応が完全に消えたころ、すっと唇を離す。

「……ラミア」

 何も映さなくなった瞳を、唇で閉ざしてやる。

 だがもう、彼女から反応が返ってくることはない。

 それを分かっていても、どうしても彼女の身体を離してやる気にはなれなかった。

「…………っ」

 完全に力の抜けた足を持ち上げる。そして、また彼女の中に腰を打ち付けた。まだそこにはぬくもりが残っている。それを最後の一欠片まで探すように抽挿を続け――、再び精を放つ。

「――っ、ふっ……、ふは、ははっ……、ははは……」

 ルテスは身を震わせて嗤う。

 嗤って、嗤って――、頬に涙が伝った。

「ああ、わかってるよ。独りにはしない」

 ぽつりと独り言ちたあと、血溜まりに落ちたナイフを手に取った。

「っ」

 そして、ラミアと同じ場所を切り裂く。

 痛みは――、不思議と感じなかった。

 ルテスは持っていたナイフを放り捨てて、いまだに深く繋がったままのラミアの骸をきつく抱きしめる。

 抱きしめて、潰れかねないほどに強く抱きしめて、ルテスは目を閉じた。

 彼女の身体からぬくもりが消えていく。――自分の身体からも。

 それでも、これはきっと幸いなのだ。

 悪夢のようなこの世から解放されるのだから。二人一緒に……。

あとがき(という名の補足)

 はい、ということでね。ルテスラミアの無理心中死体姦バッドエンドIFでした〜。

 ええ、ええ。忠告はめちゃくちゃしたと思うので、読んで後悔したという苦情は受け付けません。よしなに。


 さて、このIFの通りに話進んでた場合なんですが……、


 国、滅びます(笑)


 日照りをどうにか出来る人員がいなくなっちゃうのでね……。

 正確に言うと、ユチル一人いればどうにかはなるんですが、彼女に勇気を与える役目なのがラミアとルテスの二人なので、やっぱり国……、いやもしかすると世界ごと滅びます。

 とんでもないな……。


 まあ、そんなわけで。

 ルテスの闇が思ってたより深いな、と私自身も驚く話でした!

 ちなみに、無理やりかつ死体姦なんてやらかすのは、うちの子かなりの人数いるけど、今のところこやつぐらいなのでは……。

 あー、いや、微妙なのが一人いるか。

 今連載中の『約束は白き森の果て』(仮題)のフェデリオは怪しい。

 ただ彼も「呪いにかかっている間に限り」という注釈がつくので……、


 …………やっぱ、ルテスは思ってたよりやべぇ奴だな。

 本編では、私の技術不足でそのへんが出し切れなかったのが悔やまれるな〜。まあ、冷静に考えると、仕事も全部辞めて、三年も片思いの女を探し回ってる時点でやべぇはやべぇか……。

 今更だったかもしれないな。


 まあ、なんにせよ、お楽しみいただけてたら幸いです!

 では!

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