あなたのうでのぬくもりと おまけ
隣に愛しい女が眠っている。
それが、こんなにも幸せな事だったとは。
そう、エイルは思いながら、どこかあどけなさの残る寝顔のかずさを見つめる。
一足早く起きたエイルは、ズボンだけ履いた状態で、ベッドの縁に腰掛け、飽くこともなくかずさの眠るのを見ていた。
まるで気持ちを疑われたから、というような流れだったことには、一抹の後悔はあったものの、エイルは抱えきれないほどの幸福を感じていた。
だが、昨夜の「もう好きではないのか」という言葉はさすがに効いた。
エイルはかずさを出来うる限り大事にしているつもりだった。確かに接触は避けていた、ような気はするが、それはかずさが問題なのではない。エイル個人の問題だった。
もう、不安になどさせはしない。
エイルは未だ眠るかずさの頭を撫でた。
「そうだ……。」
ふと思い立ったエイルは立ち上がり、机の小さな引き出しの中から小箱を取り出す。そしてそれの蓋を開け、中に収まっていた物を手に取った。
きらりと輝くそれは、銀製のネックレス。
その細い鎖に通されているのは、同じく銀で作られた羽根と、その上に乗る、夜の闇のような透明の黒をした石。
エイルはそれを、かずさが起きないように、そろりとそれを首に留めた。
それを見て満足げに微笑む。ネックレスの黒が彼女のなめらかな肌によく映えている。
本当はこれを持ってかずさに会いに行くつもりだった。だが、エイルの行動よりも早く、彼女が訪れた為、なんとなく、渡しそびれたのだった。
「……高校卒業、おめでとう。」
眠るかずさには聞こえないと知りつつ、エイルは囁く。面と向かって渡すのは気恥ずかしいのだ。
でも、喜んでくれると嬉しい。
エイルはかずさの驚く顔が早く見たいと思いつつ、だが、彼女を起こしてしまわないように、彼女の頬に指を滑らせた。
このネックレスは彼女の高校卒業を祝したもの。
だが、もう一つ。このネックレスに込められた意味に彼女が気がつくのはいつだろうか、エイルは思った。
魔法界には、人間界でいう結婚指輪のような習慣がない。結婚の申し込みに必要なのは、精々愛の言葉くらいだ。だが、古い風習を辿れば、こういった例がないこともなく、たまにそういった事をしている夫婦もあるという。
男が自身の身体に関する色を使った装飾品を贈る。
それが求婚と同意義である、というもので、王家では今も慣習的にしているらしい。
黒と銀。
彼女がその意味に気が付くのはいつだろう。
気が付かなくてもいい、エイルは小さく笑う。
自分の色を自分の女に身に付ける。
それだけで、エイルにとっては十分なのだから。